千空さんと凡人さん。番外編   作:燈葱

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ポヤポヤしてた夢子と、それまじかで見てた青年の話。多分あと一話書く予定。


その22。〜悩める青年・前半〜

 

 

 スヤスヤと眠る幼馴染の姿に、千空は何度目かわからないため息をついた。

 相変わらずベッドは白菜を模したぬいぐるみで埋め尽くされているし、茉莉もまた一番大きな白菜を抱きしめて寝息を立てている。寝床にこんなにものがあると寝にくいのではないかと疑問に思う千空であったが、それを取り除くのは悪手になるのは目に見えていた。何せそれは茉莉へと送られたプレゼントでもあり、アメリカで生活していた頃の安定剤。それを取り上げようものならばルーナを筆頭に杠やニッキーでさえ怒りを露わにするであろう。

 

「ったく──」

 

 面白くない。

 そう、正直にいってしまうとこの状況が千空には非常に面白くなかった。

 自分がいないアメリカでの生活でそれが支えになっていたのはルーナに聞き及んでいる。否、自慢されている。

 私がプレゼントした人形を抱きしめて毎日寝てたのよ! と鼻高々に伝えられた時は特に興味もなく、むしろこんな変な人形をわざわざ用意するとは趣味が悪いとまで思ったものだ。だがそれが自分をモチーフにされたものだと後日杠から伝えられ、それに囲まれてると寝床に帰ってくるのだと笑顔で伝えられた際には思わず頭を抱えた。

 白菜イコール自分とされていた事に軽くショックを受け、次にそれに囲まれて眠る茉莉の心境とは? 全くもって、理解できるわけがなかったのである。

 

「茉莉ちゃん、白菜抱えるとスヤスヤ眠るんだよ千空君! 多分、私たちじゃ頼りなかったのかも……」

「──そーかよ。てか、よくアイツテメーらの前で眠ったな」

「え、あ、その。……見にいっちゃった!」

「……杠テメェ」

「私だけじゃないよ!」

 

 ドンっ、胸を張る杠にそうじゃないと突っ込んだのは間違いではなかった。話を聞いてみれば女性陣のほとんどはその姿を見ていたし、南は写真に納めようとしていたと。金狼やマグマなんかも大人しく寝ている様を確認して安心していたともいっており、寝てるだけで安心される生活とはと頭を悩ませた千空である。

 

 まぁそんなことはさておき、問題はその白菜だ。自分を模しているのは諦めがつく。こんな髪型のせいだ、分からなくもない。だがそれとこれとは別で、それを抱えて眠る心情とは如何に。嫌われてはいないと察してはいたが、好かれている自信などなかった。だというのに自分を模したものを抱えて眠るとは、杠の解釈違いではないかと頭を悩ませること数日。

 試しに白菜を奪い取り俺がいるだろと冗談気味に告げてみれば、納得してしまう茉莉がいるわけで。

 本人は白菜イコール千空だとは気づいたのは今更のようであったが、つまりその反応から察するに茉莉はそれを千空の代わりにしていたといったようなものなのである。

 

 そんなこと、最近になって目覚めてしまった恋愛脳からすれば高品質のエネルギーにしかならなかった。

 

 それからというもの出かける際にポシェットに仕舞われる白菜やら、ベッドに増えていく白菜に文句が言えなくなったのはご愛嬌。

 

 ンなもんに頼らねェで本物のとこ来りゃいいだけじゃねぇか。

 

 そう告げないのは、必死に恋愛脳に傾く思考を留めておくためでもあった。一言そんなこと言ってしまえば、なし崩しに進めていこうとするに決まっている。優先順位はこれではないと千空は思考を整理し、状況にあった行動をとるのである。

 まぁ、家にいる時はその限りではないが。

 

「オラ、朝だ起きやがれ」

「ぅんん? あさ、おはよー、ござま」

 

 ゴシゴシと目を擦る茉莉の起床を確認し、別室で自身の身支度を整えていればガコンとひどい音が寝室から響いた。

 一体何があったとそちらを覗けば、そこには床に伏した茉莉の姿がそこにある。ただ問題としては、半裸であることとモゴモゴと蠢いていること。何があったと聞くまでもなく、着替え途中にバランスを崩したのだろうと察した千空であったが、目の前の光景に動きが止まってしまったのは事実だ。タスケテと弱々しい声が聞こえた事により思考を現実にまで引き戻したが、どうすればこうなるのか小一時間は問い詰めたくはなった。

 

「何してんだテメェは」

「おき、がえしよーと。手が、引っ掛かって」

「──はぁ」

 

 百歩譲って着替える事に異論はない。ただここは寝室だ、着替えなどない。なのになぜここで着替え始めたと問い詰めたところで、寝起きのポヤポヤ脳の茉莉には通じることはないだろう。

 一応俺は男なんだが、気にされてもいねぇのか? 

 今更ながらそう考えると虚しくもなる。

 その気持ちを呼び起こしてしまったからそう思ってしまうが、以前ならば茉莉の半裸を見たところでなんとも思わなかったはず。これだから恋愛脳はとため息を吐きたくなるのをグッと堪え、いまだに寝巻きに絡まっている茉莉の救出を果たした。

 

「ありがとー」

「──手芸部に脱衣しやすい寝巻き作ってもらえ」

「めいわく、では?」

「あ"ー、俺が伝えとくわ。茉莉、テメェはさっさと着替えろ。いいな?」

「ん」

 

 流石に目に毒だと視線を逸らし、頭を抱えて寝室を出る。そして茉莉の着替えを手に取り寝室へ投げ入れると、壁をつたって腰を下ろした。

 

 心底心臓に悪い。いくらなんでも警戒心がなさすぎる。元からこんなんだったかと記憶を思い起こしてみれば、確かに男として警戒されたことはない。むしろ大樹が目覚める時まで二人暮らしだったわけだし、今と似たような生活をしていた。が、あんなにあからさまな態度ではなかったはずだ。

 人前で、千空以外の人間の前ではあそこまで気を抜いてはいない事から誰よりも信頼はされているとは理解できるが、だからと言ってこれはあんまりではないか? 

 

「──しろ」

 

 染色のバリエーションがあまり多くない故に、衣服の色もありきたりなものが多い。が、女物は割と仕様もカラーも様々用意されている。だというのに飾り気のないその白が、網膜に焼き付いてしまったかのように離れない。

 

「だっから嫌なんだよ、ったく」

 

 恋愛脳は非合理的。

 互いに思いあっていればまだ違ったかもしれないが、今はまだその段階でもない。そんな時に見てはいけないものを見てしまえば、反応してしまうものもまたある。

 淡白であった自分にそんな欲がよく湧いてきたものだと諦めと羞恥を抱き、千空は膝を抱えるしかなかったのである。

 

「──せんくー、どしたの?」

「ほっとけ」

 

 だというのに茉莉は今日も今日とて、ポヤポヤとした顔を止めることはなく悩みの種は尽きない千空である。

 




リクエストいただいたものをコネコネしました。本編にこれは入れない方がいいかなと思って。
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