天地で鍛冶を行うクランのお話。

最初は鍛冶ではないお話。

このお話は「小説家になろう」にて好評連載中の、海道左近さんが手掛ける<Infinite Dendrogram>の二次創作です。

 原作にはないジョブや設定も多々ありますが、どうかご容赦お願いします。

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鍛冶するクランのお話を書いてみたかったのです。

この話は鍛冶をしませんが。


金堀男とムカデと爆発

 天地で上がる煙の種類は大きく三つに分かれるのだという。

 

 一つは飯の釜の煙。

 

 天地で生きる国の民たちが己の生活の糧を得るために炊く米の釜から立ち上る、天地で最も好ましい煙がそれである。

 

 二つ目は戦の煙。

 

 戦の狼煙に村の家、そして焼け死んだティアンから立ち上る、天地で最も多い煙である。

 

 そして三つ目。

 

 それは争いの為に生み出される、武器の鍛冶場から立ち上る、修羅の国たる天地を支える煙である。

 

 その煙は只では上がらない。

 

 鉄を打つ者達の為に、素材を集める者達の協力があってこそ上がる煙でもあるのだ。

 

 そんな煙を上げる為、炭鉱に潜り命を懸けて金属を持ち帰る。

 

 そんな男のとある一幕。

 

 

 □天地 真向山 坑道

 

 ツルハシの音が響き粉塵が舞う坑道の中、男が二人、言葉を交わしている。

 

 「思ったよりは当たりであったな」

 「いや全く、坑道堀りなんぞという汚れ仕事に駆り出され、掘り手も一人と聞いたときはお上を疑ったが、まあやれてはおるな」

 

 二人とも坑道には似つかわしくない華美な和装をそれぞれ茶と青の外套で覆い、質の良い魔法発動用の杖を持ち、その口元をガスマスクのような面皰で覆っているが、そのいずれも舞っているはずの土埃が付いているわけでも泥で汚れているわけでもなかった。

 

 よく見れば青の外套の男の周囲の粉塵は彼を取り巻く弱い風の流れに乗って彼を避け、茶の外套の男の方は彼を取り巻くオーラのような物に弾かれて乗った土埃が彼に取り付くことなく落ちている。

 

 そのような現象を起こせる彼らは、それぞれ風と土の属性を専門とした【術師】のジョブを納めた天地のティアン。

 

 それもとある有力な家からお家の為の金属採掘の助けに派遣された腕のある者達だった。

 

 「さりとて我らを呼ぶほどかとも思うがな、あの掘り手ならば埋もれようと息が詰まろうと関係あるまい? マスターなのであろう?」

 「あやつが死のうと戻ってくる故構わぬが、一人で置いておいて資材やら余計に見つけた鉱脈やらを隠されても困るしの、監視よ監視」

 

 茶の外套の術師が壁に杖を向け、杖から放たれたオーラが掘り返された単なる土穴を伝うと、見る見るうちに姿を変えて整った土壁を持つ坑道となり、もう一人が頭上に挙げた杖からは緩く渦巻く風が発生し、粉塵の混じった風が外へと流れ、新鮮な空気が取り込まれていく。

 

 低いジョブレベルの者達では、そんな魔法を一人で使いながら言葉を交わす余裕などなかっただろうが、彼らはそれぞれの仕事をこなしながら雑談を始められるほどに余裕があった。

 

 「まあ、お上の言う事ならば仕方がないが。出来る限りこのような雑事は行いたくはないものだな」

 「全くその通りであるな」

 

 己の腕に自信がある二人にとってこの坑道の仕事は取るに足らない仕事であって、そんな仕事に駆り出されているという事は不満であったし、そんな仕事に就いている穴掘りなど彼らにとっては取るに足りないものでしかなかった。

 

 そんな彼らの目線の先に、坑道を淡々と掘り進む一団の姿があった。

 

 万が一引火性のガスが噴出したときに備えて、熱も炎も持たない光属性の魔法による輝きを放つランタンの光の下、彼らは複数人でありながらまるで一つの生き物のように動いている。

 

 硬い岩盤に当たれば、瞬時に列を並べた者達が全く同じタイミングでツルハシを振りかぶって硬い土壁に一撃を見舞い、見舞ったことで緩んだその壁をその次にはスコップを持つ者達が土をどかすように堀り進み、発生した土砂や岩盤の破片はスコップの集団とぶつかることもなく前へと現れたアイテムボックスを手にした者達が一糸乱れぬ動きで中に収めて下がっていく。

 

 仮に彼らと同じ数だけの人足たちを揃えたとしても、同じ速さで掘り進むことは出来なかっただろう。

 

 皆一様に同じ蜈蚣の意匠を彫り込まれた鎧兜という、明らかに作業には適さない筈の装いであるのに動きには一切の疲れが見えず、きつい作業特有の荒い吐息もなく、合図や掛け声どころか愚痴も不満の一つも言わないままに連携をとっている。

 

 そんな彼らには口はない。

 もっと言えば目も鼻も耳もない顔にランタンの光と目の前の土壁を映すのっぺらぼうの金属人形であった。

 

 「まあ穴掘りの手腕は認めてやろう、戦働きができるとは思わんが」

 「ほほ、穴掘り屋にそれは無理であろうよ、まあせいぜい良い鉱脈を見つけてくれれば良い」

 「まあ雇われなのだ、便利使いしてやらねばな、これらも……奴も」

 

 人形とは対照的な口数の男二人の目線の向こう。

 金属人形たちがせっせと作業を進めるその後ろで、一人の男が一枚の地図を広げていた。

 

 

 □坑道内 【大抗夫】ゲンダユウ

 

 時折顔へ飛んで来る土塊を払いながら、地上で描いた、地上の座標としての己の目指す場所の地図と、これまで掘り進んで来た道を己が手で書き記した地図の二枚を見比べ、時折筆で道を足していく。

 

 そうして進む道を決めると、【大抗夫】のジョブスキルで、掘り進む角度を測り、ズレがあれば人形達の向きを直して掘り進ませまた地図を睨むという行動をその男は繰り返していた。

   

 地図を持つその男の腕は太く、ランタンの光の下でそれを覗きこむ顔は、石からでも削ったようにごつごつして大きく、地図を映す黒い目や、への字に結んだ厚い唇の付いた口、荒い息を発する団子鼻のいずれも大きい。

 そんな各パーツの大きさに反して背丈は小さいので、まるでおとぎ話のドワーフを思い起こさせるような見た目だった。

 

 そんな男の手の甲には金属と蜈蚣の紋章、この世界に突如現れた異邦人であるマスターの証が輝いている。

 

 男の名はゲンダユウ。

 己がクランメンバーが受けてきた依頼によって、天地のとある場所、鉄処たる真向山にて採掘作業に勤しんでいる男であった。

 

 「便利に使ってやるとな? 聞こえておらんと思ってふざけおって……!」

 

 ツルハシの音に混ざって、ゲンダユウの方から小さく老人のような声が発された。

 しかし、ゲンダユウの口は地図を見ている時と同じく、への字に結ばれたまま動いていない。

 

 では誰の声なのか。

 

 「無駄口ばかり、少しは人形どものように黙って手を動かさんか!」

 

 それは彼の頭の上にある武将のような兜、それも牙を剥く大蜈蚣が兜を七巻きしてからその顔を正面へと向ける飾りが掘られたその蜈蚣の口が不意に開いて、先の言葉を言葉を発したのだった。

 

 「力はあるとはいえ、己が主人が依頼した仕事の協力者にこの態度。 それは穴掘りも命じられようものじゃわいな」

 

 蜈蚣の言葉は小さいままだったが、その言葉に込められた怒気は言葉ごとに燃え上がる火のように強く大きくなっていく。

 

 そんな恨み言と己が頭の上で声を発する兜がいるのに、ゲンダユウは地図から目を離すことなく作業に没頭している。

 

 それもその筈、頭の蜈蚣は彼の無二の相棒である【金甲尖兵 オオムカデ】というエンブリオであった。

 

 金属を捧げることで己の手足のごとく動く人形を作りだし、それらを操るエンブリオであり、また金属をコストにする関係上、その入手のために金属のありかを感知する《金の匂い》というスキルも所持している為、今回のような掘削作業は彼の得意分野である。

 

 しかし、得意だからと言って下に見ていいように使われる事に不満がないかと言えばそのようなことはない。

 

 むしろオオムカデはプライドが高く、己がマスターの命令以外は気に食わなければ頑として聞かない頑固者であった。

 

 そのオオムカデが、不満を口にしながらも怒りを抑えて仕事をしているのは、偏にマスターがこの仕事を受けると決めており、その際に術師の彼らの言う事に反論だの何だのしないようにマスターから言い含められているからというその二点からでしかなかった。

 

 「マスターもマスターですぞ、雇われとはいえあのような奴らに良いように言われるままとは」

 「お前も不満が多いなぁオオムカデ、まあいいじゃないか」

 

 オオムカデの言葉が己に向いたその時になって、ようやくゲンダユウは固く結んでいた口を開く。

 厳つい見た目に反して、その口調は柔らかかった。

 

 地図を持っていたその手を兜に重ね、撫でつつゲンダユウは苦笑する。

 気難しい所もあるがオオムカデはマスターである己を立ててくれる。

 その己を軽んじる者が許せない、という気持ちは実にありがたかった。

 

 「あの二人に盾突いても良いことはないし仕事は断れん、依頼主に切られるのは今後の採取に支障が出るし、依頼を受けた笑助の顔に泥を塗る事にもなる」

 「それは分かっておりまするが……」

 「それになオオムカデ、分かってるだろう?」

 

 手をオオムカデから手を放し、顔を前に向ける。

 

 「俺は人のお願いは断りたくないのさ」

 「……知っておりますよ、故に儂が生まれたのですから……」

 

 リアルのゲンダユウは、人に頼まれたことを断れない人物だった。

 友人達からは授業の代筆やら、バイトのヘルプやらを頼まれては応え、頼まれては答えを繰り返し、気づけば己の手に余るほどのお願いが彼の下に舞い込んだ。

 

 しかし、ゲンダユウも一人の人間、応えられる数に限度はある。

 

 しかして、願う方も勝手なもので、願いに応えないと辛辣な視線やら、あからさまに落胆した態度と言葉を寄こすため、ゲンダユウとしては断るわけにはいかなかった。

 

 ただ手が足りない。

 

 そんな願いを持っていたゲンダユウから「己の人手を増やす」ことの出来るオオムカデが生まれたのはある意味当然の事だったのだろう。

 

 (しかし、不満は間違いなくありましょうに)

 

 オオムカデは憂いていた。

 

 自身の所属する鍛冶クラン。

 そのクランで使用する莫大な量の金属素材を集めてこなくてはならなくなった少し前の出来事を思い返しながら。

 

 ◇◇◇

 

 □ 少し前 天地 とある領 黒森 

 

 天地のどこか、とある家の所有する森。

 樹木が生い茂るその森の中心は、その一帯のみ木々の無い開けた場所となっており、樹の代わりに粗末な天地の家屋がぽつんと一棟建っている。

 

 その家こそは、ゲンダユウが所属している鍛冶クランの根城だった。

 

 その家のとある一室、穴の開いたボロい屋根からの日光が古い畳から舞うホコリを照らし、壁紙の剥がれた壁や穴の開いた障子と擦り切れた畳には黒い蛾がそれぞれ何十匹も羽を広げて張り付いている、そんな粗末な場所に二人のマスターが向かい合っていた。

 

 一人は蜈蚣兜を頭に乗せて、畳に短い脚を組んで座るゲンダユウ。

 

 もう一人は、部屋の壁に負けないほど薄汚れたボロボロの手ぬぐいで額を拭っている、紺の着物の男だった。

 

 着物を纏う肉体はふくよかで、丸い顔に笑みを絶やさないためにどこか温かみを感じる雰囲気のある この男。

 

 名前は笑助と言い、鍛冶クランで打った成果品を外の商家や大名家に売る役目を持った、クランの金銭担当のマスターであった。

 

 「素材が足らんじゃと?」

 「すまんなぁ……いつものお家から依頼が来たんやけど今のままやと武器が作れへんねん」

 

 顔だけは笑ったままこめかみを抑えて笑助は言う。

 

 このクランの拠点はとある大名家より、その大名家の戦用の武器を作る事を条件に住む許可をもらった土地である。

 故に、その依頼は他の者より優先されるし、納期に遅れは許されない。

 

 だから素材を集めてきて欲しい、と笑助はゲンダユウ達に頼んでいた。

 

 しかしそんな笑助にオオムカデが食って掛かる。

 

 「鉄やら何やらこの間山程持って帰ってやったであろうに、それから半月も経たんうちにこれか? あやつ無駄遣いが過ぎるのではないか!?」

 

 オオムカデの怒声に、笑助の額から一筋の汗が垂れて、畳の上へと落ちた。

 

 つい二週間ほど前、ゲンダユウとオオムカデはこのクランの為に多量の金属素材を採取し、このアジトへと持ち帰った。

 

 その量は普通のクランであれば優に二月は採取をせずに生産活動が出来る程だったのだが、この度クランに顔を出したゲンダユウとオオムカデはその金属素材が底をつきかけていると、笑助に伝えられたのである。

 

 これに激怒したオオムカデが今、笑助を怒鳴っているというのが今の状況だった。

 

 ゲンダユウが所属するクランはメンバー数4人という超小規模クランであるため、普通ならばそれ程の素材消費はありえない。

 

 しかし、このクランに関しては別だった。

 

 オオムカデの言うあやつ、鍛冶クランメンバーのなかで武器鍛冶担当のマスターは規格外の生産能力を持つエンブリオを所有しており、その力は一大名家が中規模の戦に使用する雑兵用の量産武器を僅か一日で作ってしまえるほどであるのだが、それと引き換えに、通常よりも多くの金属素材が要求されるという欠点がある。

 

 しかもそのマスターには、金属素材を己の趣味に投入するという悪癖があるため、このように素材の枯渇を招く事が良くあったのである。

 

 加えて残り一人のマスターはとある理由から拠点の中に引きこもることが多く、結果その金属資材を工面できるのがゲンダユウくらいしかいない事もあって、金属の採集はほぼすべてゲンダユウが賄わなくてはならないのであった。

 

 「お主も商人ならば資材の買い付け程度できるじゃろうが! わしらは使い走りではないぞ!」

 「そうゆーても、予算的に辛いもんがあるんよ……何せこの森辺鄙なとこにあるさかい輸送費とかバカにならんし、最近野党も近くで出おると聞いとるから、護衛にも金使わなアカンし……」

 「買えぬというなら、奴を何とかせんか! いくら集めたとて奴の無駄遣いを止めんと同じじゃろうが!」

 「あいつ居らんとクランの生産が回らんし、いくらか好きに使ってええからクランの仕事優先してくれるように頼んだ手前、やめろとも言えんし、第一あいつが聞くとは思えんしな」

 「ぬぬぬ!! 貴様ぁ!」

 

 兜の蜈蚣が牙を剥きだして笑助を睨むと同時に、その牙が突然折れて畳へと刺さった。

 

 「かぁっ!!」

 

 その牙はオオムカデの掛け声と共にグニャリと歪むと、突然膨張して瞬時に人型へと姿を変え笑助に迫る。

 

 汗を拭きつつのらりくらりと言い訳を並べる笑助に怒りが募る一方のオオムカデはついに、己のスキルで人形を生成し、目の前のふざけた者への怒りを晴らすべく突撃を敢行したのである。

 

 しかし。

 

 「ハイストーップ」

 

 気の抜けたゲンダユウの声がかかったその瞬間、人形は笑助に殴り掛かろうと腕を振り上げたその体勢のまま動きを止めていた。

 

 「マスター……」

 「ごめんなぁ笑助、こいつなんかイライラしてるみたいでな」

 

 口元に笑顔を湛えて、ゲンダユウは立ち上がる。

 

 魂が抜けたように動かないそれの腰へゲンダユウが無造作に蹴りを放つと、人形はあっさり畳へと倒れ、埃を舞い上げた。 

 

 そうして倒れた人形を強く踏みつけながら、笑助の方へとゲンダユウは近づいてゆく。 

 

 「掘削だったらいつも通り行ってくるから心配はいらないぞ、お前は素材を楽しみに待っててくれればいいからな」

 「ちょっとマス……」

 「黙っとけ」

 

 己の主が仕事を認めてしまったことで、もはや何も動くことが出来ないオオムカデに口を出す事すら禁止して、ゲンダユウは笑助の方へと歩みをさらに進める。

 

 ゲンダユウが一歩進むごとに笑助の額から汗が一滴ずつ流れていく。

 

 「笑助の事だから、掘削仕事の依頼はすでに受けてるんだろ?」

 「……そうや、これやな」

 

 目前まで顔を近づけたゲンダユウに恐る恐る差し出された依頼書を受け取ると、笑助に背を向けて部屋を後にする。

 

 部屋の障子が閉められ、ゲンダユウの姿が消えたその時、笑助の笑みは消えた。

 

 最後、依頼書を受け取ったゲンダユウの口元は朗らかに笑っていたが…… 

 

 「目、笑っとらんかったな……」

 

 笑助はそう呟くと、また額の汗をぬぐったのだった。

 

 ◇◇◇

 

 □ 坑道内 【大抗夫】ゲンダユウ

 

 (あれほどはっきりと態度に出しておきながら、まあいいも何もありませんぞマスター)

 

 クランでの一幕を頭の中に描き、オオムカデは思う。

 

 お人よしなのはまだ良いが不満があるのならば言うべきで、良いようにされるのではなく自分のように抗ってみるのもまた手なのにと思うが、当のマスター自身あの感じなのだ。

 

 今のところはどうしようもないと、思考に区切りをつけ、オオムカデは人形たちの制御に戻り、最初見当をつけた鉱脈のすぐ近くまで一行は到達しつつあった。

 

 しかし。

 

 「おい、どうした穴掘り? 手が止まっておるぞ?」 

 

 それに最初に気づいたのは土の術師だった。

 

 ツルハシを持ち上げたまま、あるいはアイテムボックスを構えたまま。

 先ほどまで一切手が止まることが無かった人形たちの動きが今は完全に停止していた。 

 

 「これは……」

 

 オオムカデが呻き、ゲンダユウに語り掛ける。

 

 「マスター、反応が妙でございまするぞ」

 

 オオムカデが人形の動きを止めたのは、彼のスキル《金の匂い》の反応に違和感があったからである。

 近づいてみて分かったが、通常の金脈の反応とは別の、オオムカデが知らない金属の匂いが混ざっていたのである。

 

 これでも多数の採掘をしてきた身、大概の金属を見てきたし、その匂いもわかるのだが、この金属は似た匂いの物すら覚えがない。

 

 それに単なる金属にしては何か匂いが強いような気がしてオオムカデは人形たちをを止めたのである。

 

 「ふむ……旦那方、少しお話が」

 「何だ? ここまで来ておいて働かぬなどとは言うまいな?」

 「いえ、まあそれが……」 

 

 そんなオオムカデの話を聞いたゲンダユウは彼らに迂回の提案を申し出た。

 ルートを変える為時間はかかるだろうが、妙な匂いを避けることを一番としたのである

 

 「戯け者が! 匂い程度で穴掘りを止める上に、道を変えると申すか!」

 「しかし、変なモンスターでも引き当てたら……」

 「ふん、怖気づくとは流石穴掘り、我らの力を知らんと見える、我らが相手できぬ物がこの先に居るとでも?」

 

 しかし術師達はその提案を一蹴した。

 

 もとより不本意な穴掘りの補助など、一刻も早く終わらせたかった彼らにとって、迂回で余計な時間を食うなどもってのほかであったし、仮にゲンダユウ達の言う通り、モンスターが居たとして、自分たちならば如何様にでも出来る自信はあった。

 

 故に彼らは。

 

 「掘らぬというなら、我が少し手伝ってやろう……《隧道》!」

 

 己が魔法によって土と岩盤を動かし、先への道を作るという手段を取った。

 

 土の【術師】の杖先から放たれる波動が周囲を少し揺らすと、静止した人形たちが面している土の壁が見えない手でかき分けられるように左右へ開き穴が広がって行く。

 

 約30秒ほど穴の拡大が続くと、狙っていた鉱脈に着いたのか、広げた穴のそこここに鉱物の輝きが僅かに現れ出した。

 

 「ほほ、着いたようだの」

 「私の力ならば当然……む……?」

 

 しかし不意に、その穴の広がりが途絶えた。

 

 風の術師は土の術師が魔法を止めたのかと、彼の方に目をやったが、当の本人は目を丸くして首を傾げている。

 

 本当ならば、まだ術の効果は続くはずなのだ。

 

 「魔力が吸われた? なんじゃ……!? 」

 

 広げた穴のその上方から、大量の土を伴ってティアン二人分優に超える金属塊が落下してきた。

 その金属塊の表面には丸い宝石が青く輝き、それぞれが目玉のように術師達の方を向いていた。

 

 その青の宝石が強く輝くと、金属塊の表面が横一文字にひび割れ、まるでカエルのように大口を開けて咆哮した。

 

 「GOGOGO……GOAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」

 

 坑道中を震わすその声に術師達は一瞬すくみ、身を引く。

 

 明らかに只の金属ではない.

 その証拠にその金属には【エクスプロード・ダイオーア】という名前と通常のモンスターより多いHPの表示がされていた。

 

 「エクスプロード!?」

 

 カルディナの鉱山に出現すると言われるエクスプロード・ロック、その特徴は自爆能力。

 その名前から明らかにその亜種と思われるそのモンスターがそれを備えていないわけがない。

 

 それを証明するように【エクスプロード・ダイオーア】の青の宝石が赤に色を変えると、その全身すらも赤く輝き、離れた【術師】達にもわかるほどの熱を発し始めた。

 

 「《土固め》……!?」

 「《螺旋風》むぅ!?」

 

 地面から出現した腕がその五指を開いてモンスターを捉えようとするも、その身に触れる前に崩れ去り。

 風の術師から放たれた風が螺旋を描いてモンスターに迫るも、金属怪に近づくにつれて霧散する。

 

 「やはりこやつ魔力を吸うのか!?」

 

 その言葉の正しさを証明するように【エクスプロード・ダイオーア】の赤い輝きが一層強まり。発する熱も格段に上昇する。

 

 《魔力吸収》

 

 ジェムに使用される鉱石がモンスターと化した【エクスプロード・ダイオーア】が持つに至った魔法殺しのスキルであり、己が身体のENDも相まって、その自爆を阻めない要因となっているものである。

 

 吸収できる魔力量には限界があるが、上級職二人の魔法程度ではその吸収力を上回れず、自爆の威力を上げる結果となっていた。

 

 「ぬう……ならば《大土壁》!!」

 「《突風撃ち》!!」

 「おい!?貴様ら!!」

 

 先ほどの発言はどこへやら。

 

 【術師】が放った風の衝撃でゲンダユウ達を押し出したかと思うと、ゲンダユウ達をその場に残し、出現した堅牢な岩の壁が坑道を封鎖した。

 

 「主らが何とかせい、我らは退く!」

 「不死身なのだろう!我らに代わりは無いのでな!」

 

 吐き捨てた言葉を最後に【術師】達の声が遠ざかっていく。 

 魔法を吸われる関係上、彼らに子のモンスターを倒す術はなかったのだろうが、その場で囮を置いて逃げるその行動はあまりにも醜かった。

 

 「あ奴らぁぁぁぁ!!!!」

 

 赤光が白色に変貌し、周囲の壁すら黒色に焦げていく中、オオムカデの絶叫が響く。

 もはや【エクスプロード・ダイオーア】の爆発まで一刻の猶予もないその中で、ゲンダユウは沈黙したままアイテムボックスに手を伸ばし、転職のクリスタルを取り出す。

 

 「絶対に許さ……」

 

 

 

 

 「オオムカデ」

 

 

 オオムカデの絶叫が主の一声で途切れる。

 

 「どうせ逃げられん。それに、ここで爆発されれば今回の仕事も台無し、逃げているあの二人にも影響が出るだろう」

 「マスター……よろしいので……?」 

 「止めるぞ」

 

 その手に握るクリスタルを振るえる手で握りつぶし、散った破片が変化した輝く粒子がゲンダユウに吸いこまれ、彼のステータスの【大抗夫】が書き換わっていく。

 

 一連の操作を行うゲンダユウの目は、笑助に向けていたそれと同じだった。  

 

 「《七巻きの陣》!!《人柱の守り》!!」 

 

 オオムカデ、ゲンダユウ双方その言葉を発すると同時に【エクスプロード・ダイオーア】が臨界点を超えて辺りは光に包まれ。

 

 「百人百脚一つとなれりオオムカデ

 

 更にゲンダユウから発された必殺スキルの宣言と同時に爆発音が周囲一帯に響いた。

 

 

 □ 坑道内 【守護人柱】ゲンダユウ

 

 【エクスプロード・ダイオーア】の自爆、その影響で大量に舞った粉塵が収まって、周囲の状況が見られるほどに視界が回復したその時、その場には【エクスプロード・ダイオーア】の姿もゲンダユウと人形達の姿は消えていた。

 

 その代わり、それ以外の全てが元のように存在していた。

 

 坑道もその姿が消し飛ぶことも、崩落することもなく存在していたし、発見された鉱石たちもその輝きを粉塵で曇らせた以外は欠けも割れも見られず、光源で使用していたランタンですら、無事光源としての役割を今も問題なく続けていた。

 

 そんなランタンの光に照らされて光を返す、先ほどまでは存在しなかった一つの存在が居た。

 

 全身を金属性の外殻に包んだその体躯は、坑道を塞がんばかりに大きく長く、その胴体には五十対を超す脚が規則正しく並んでその地をしっかりと捉え、頭部の存在する先端では巨大な顎を備えた蜈蚣と人間の上半身がが混合したものが鎮座している。

 

 「助かりましたな……『ああ』」

 

 いわば金属のムカデ人間とも言えるその人外の口から、二つの言葉が滑り出る。

 

 「『だがオオムカデが協力してくれるならあの程度どうにでもなると信じてたぞ』……もったいなきお言葉ですぞマスター」

 

 それは先ほどまでゲンダユウとオオムカデという二つの存在、姿を消したそれらが必殺スキルにより混ざり合った姿であることの証明だった。

   

 ◇ 

 

 「《七巻きの陣》!!《人柱の守り》!!」

 

 【エクスプロード・ダイオーア】自爆直前に行っていたスキル宣言。

 

 その発言の瞬間に掘削作業に従事していた人形たちが一瞬でゲンダユウを取り囲み、それぞれの体から銀色のオーラを放って腕を広げ、さらにゲンダユウからも紫色のオーラが立ち上って周囲一帯に拡散した。

 

 【守護人柱】は守護者の特殊派生の上級職であり盾士系統や【命王】のような、人をかばう守護の力を得られるジョブだが、それらと違うのはその範囲。

 《人柱の守り》は己の周囲に発生する範囲ダメージの大半をを己へと向ける身代わりのようなスキル。

 

 周囲からダメージを集めるが故、坑道の崩落も鉱石への被害もほとんど引き受けることが出来る。

 

 しかし、その分ゲンダユウが負うダメージは増加し、まずゲンダユウは助からない筈だった。

 

 だが彼にはエンブリオたるオオムカデが憑いている。

 彼が発動した《七巻きの陣》は己が出現させた金属人形達をマスターの周囲に配置し陣を組ませ、マスターがその場から動かない事でマスターのENDを爆発的に引き上げるスキルである。

 

 しかしそれでも、現在の爆発力に耐えるにはまだ数値が足りない。

 

 だが、彼らにはもう一つ、必殺スキルという切り札が存在した。

 

 「百人百脚一つとなれりオオムカデ

 

 その宣言と同時にゲンダユウを取り巻いていた人形たちがドロドロに溶けて彼を覆っていく。

 それはゲンダユウの頭上のオオムカデの兜も同様であり、爆発がその身に届くころには人間大の金属球のような姿になっていた。

 

 そのような姿になってもなお効果を発揮する紫色のオーラに誘導された、爆破の衝撃と熱波に身を焼かれながらその姿は金属球からムカデ人間へと変じ、同時にゲンダユウのステータスの値が変化していく。

 

 そのHPは桁を三つは増やし、ENDに至っては、防御系の超級職をはるかに超える。

 

 それらによって、彼らは爆発を受け切ったのだった。

 

 ◇ 

 

 「《百足隊》はてさて、あ奴ら今度会った時どうしてやろうか『今度?』」

 

 己の外殻から一体また一体と金属人形を生み出しているオオムカデにゲンダユウは不思議そうな声を出す。

 

 「まさか許してやる気で『ここらで採れるもの何もかもかっ攫ったら旦那達のとこに直行して金むしり取るぞ』……へ?」

 

 思わず発された間抜けな声が、ゲンダユウと同じ口から漏れ出る。

 

 「『坑道潰すかもしれなかった敵にしっぽ撒いて逃げたんだ、プライドの高そうな旦那方はこれ主家に知られないように口止めの金ぐらい寄こすだろうよ』おお……なるほど『それに』」

 

 目を見開いたまま、人外の口の端がつり上がる。

 

 「『いやだと言っても取り立てる、どんな手を使おうが、最悪土の下に埋まってもらう事になったとしてもな』……いやはや」

 

 (愚かな奴らよ、マスターを舐めた結果がこれだ、我がマスターは黙って何も動かんことだけはせんぞ?)

 

 周囲に侍る物言わぬ人形たちが数をそろえていくのを見守りながら、融合ムカデの口角がつり上がり牙を露出した狂相となっていく。

 

 人助けの手を生みながら、その手を最終的に己の為に使う存在を生み出すマスターと、龍をも食らったとされる大蜈蚣の伝承がモチーフであり、後ろに引かないという俗信を持つムカデの形を持ったエンブリオ。

  

 きっと彼らはこの坑道の鉱石たちを取りつくし、術者達への復讐も果たし、そして。

 

 「『これであいつらも』満足するでしょうな、しないとは言わせませんがな」

 

 彼のギルドに十分な量の鉱石を齎すだろう。

 

 

 彼らのその言葉の終わりと同時に、新たにいくつのものツルハシや槌の音が坑道に響くのだった。

 




 
 【大抗夫】【守護人柱】ゲンダユウ

 鍛冶クランの金属素材集めを一手に引き受けるマスター。
 攻撃も自分に引き受ける。
 おとなしいように見えるだけで結構怖い。

 【金甲尖兵 オオムカデ】
 ゲンダユウに取り付くムカデのエンブリオ、金属人形達を作って操れる。
 兜に取り付くとああいうデザインになるだけで本体は幽霊みたいな姿。
 

 術師達
 この後まあまあな金額を持っていかれた上に、新たな坑道資源を彼らが持って行った事の言い訳まで押し付けられた人たち。

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