翳し望むはウマ娘   作:色龍一刻

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姉の精神年齢の高さはデフォルト装備。
妹のガチ重感情もデフォルト装備。

ヒシミラクルが可愛すぎて頬を突きまくってます。kawaii.



2・逃げられない/逃さない

 

 

中学3度目の春である。

秋からのここ数ヶ月、妹に追い立てられて走り始めた結果、体育の成績がめっちゃ上がった。良くも悪くも無い平均よりちょっと上の記録を計上していた生徒がジリジリ成績を上げ、遂にクラス二位である。これには私もニッコリ。妹もニッコリ。なお妹は晩年一位である。やはり努力の秀才は違うぜ。

受験という苦難から目を背け続けていた私であるが、もう3年の春となると強制的に意識する羽目となる。しかし、担任との簡易面談で去年の体育の成績が取り上げられ、これを維持するならばそこそこ楽にスポーツ系の高校に行けるぞと言われ拍子抜けした。

以下スキップでの帰宅である。神仏或いは天使である妹には沢山お礼をしなければ。恩はしっかり返すのが姉である。

 

「お姉ちゃん、中央、トレセン学園って知ってるよね。」

 

前言撤回、妹は姉を苦難へと叩き落とそうとしていた。

突きつけられた入学願書。色々と書くべき場所は埋められて、残るは私のサインだけ。

 

「鬼! 悪魔! 競走狂! トレセン行くなら勝手に行ったらどうよ! 私まで巻き込む意味あります!?」

 

「頑張ろうお姉ちゃん、トレセンならトップレベルの"走り"が見放題かつ間近で見られるよ。」

 

「そういえそうじゃん! 楽園か?」

 

手のひらくるりん。前言撤回。妹は聖者だった。考えてみればトレセン学園も一枚岩ではない、ガッツリ競走するアスリート部門の他に、トレーナーの補佐や専門的な事務、蹄鉄や勝負服の研究、製作、改良などの教育を行うサポート部門も存在する。上手くいけば就職活動でも困らない学歴だ。やはり妹は最高だった。

 

 

「え、勿論私達は走るよ。当たり前でしょう?」

 

「......取り下げ、できますか。」

 

「......約束忘れられるの、流石にショックなんだけど。」

 

いやムリムリムリムリ、無理だって。

だって才能に寄りかかってただの人となったダメウマ娘だよ?

一回だって妹に勝てない、そんな私が_______

 

 

「あんな約束、守れるわけないじゃん。」

 

 

言葉に出ていた。スターゲイザーの表情は変わらない。寧ろ、ほっと息をついたようだった。

 

 

「良かった。覚えててくれたんだ。私がティアラ3冠、お姉ちゃんがクラシック3冠。」

 

「....忘れるわけ無いでしょ。あの時からゲイザーは強くなっていったんだから。」

 

まだスターゲイザーが本当に弱くて、まだスターシーカーが本当に強かった頃の口約束。

虐められていた妹を守って、不届き者を懲らしめて、それでも止まらない涙に困って、そっと吐いた、嘘の約束。

 

同時に3冠制覇。別に無敗でなくともいい。最高峰の夢を、同時期にと。

 

馬鹿げている。馬鹿げているんだよこんな夢。

なのに、なぜ、そんなにも目を輝かせている?

 

 

「本気?」

 

「本気。」

 

「本気なのか。」

 

「うん。私はティアラを取るよ。だから、お姉ちゃんも。」

 

「私は、無理だと思うけど。いやあなたのことは心配してない。問題は私の方だ。」

 

「可笑しいと思ったんだ。」

 

「へ。」

 

「いくら天才と呼ばれたお姉ちゃんでも、あんな杜撰な練習だけでクラス一位は取れないでしょ。」

 

「........。」

 

「お母さん気づいていたよ。倉庫にしまってある数十冊のトレーニング本、理論書が移し替えられているって。お姉ちゃんの部屋の本棚の裏、3倍に増えてるって。」

 

「プライバシーッ!!!」

 

たまらず叫ぶ私。

くすくすと笑う悪魔な妹、あとそこで半笑いで覗いているママンッ.....!

 

「本当に弱かった私を強くしてくれた第一人者は?」

 

「母s「シーちゃんよね~。」

 

茶々入れようとした声が遮られる。

 

「私に3冠を提示したのは誰?」

 

「シーちゃんよね~。」

 

有無も言えない。追い詰められた。

 

「私、ここまで強くなったよ? 色々我慢して、お母さんやお父さんに無理をさせて、ここまで頑張ったよ。夢の端を掴めそうなんだよ?」

 

「.....うん。」

 

そうだ。妹、スターゲイザーは努力の秀才だ。私がウマ娘に、走り意外を見出したウマ娘だ。人気者で、美人で、優秀な、自慢のウマ娘だ。

 

「その責任、取ってよね。」

 

憎たらしくて、羨ましくて、嫉妬して、諦めて、遠くから眺めて、吹っ切れて、いつしか忘れそうになって。

 

まさに因果応報と言うべきか。

姉としての責任。近くで見ていたからこそ、ゲイザーのしてきた努力が、そのまま約束の重さになっていて。

そんな尊いものを、破れるほどに()()()()()

 

「参りました。わかった。わかったから!! にじり寄ってくんnぎゃあああああああ!!!!!!」

 

ウマ娘の脚力二人分、それぞれアスリートの卵と元アスリートが突っ込んでくる。

それに押しつぶされたのは、同じくアスリートの卵と成った私こと__________スターシーカーである。

 

 

「目指せ3冠、だね!」

 

「目指せ3冠、かぁ......。」

 

 

 

さようなら、私の平穏。これからは地獄ダゾ。

 

 

 

 

「まず、お姉ちゃん、中央はクラス一位がゴロゴロいる魔境だからね。そのレベルについていく覚悟はあるよね?」

 

「......ハイ。」

 

「よろしい! 重要なのは安定して走ること。勝てなくてもいいの。入試での走行テストで見られるのは伸び代だよ。まあどの攻略本にもそう書かれるでしょ?」

 

「そうだね。自分の走りを把握し、本格化が来ても適応できる基盤造りをする、だよね。」

 

「そう。じゃあ確認、お姉ちゃんの脚質や適正距離を把握している限り教えて?」

 

なんとも簡単な質問だ。私はずっと妹の後ろを走っていたし、自分の集中力や全力走行が可能な距離もなんとなく意識するよう誘導されていたと思っている。

 

「中距離』、『差し』、『追込』、そして『ダート』かな。」

 

「『ダート』は置いておくとして、マイルは? 結構走れると踏んでるけど。」

 

「マイルは先行でならそこそこかな。マイラーともなると終盤加速がダンチだから後ろ脚質だと間に合わなかったり差しきれないこともあって。逆に長距離はスタミナ不足。まだ全力では走りきれないよ。」

 

「おおー、すごい。ちゃんと把握してる。」

 

「なんだその褒め方は。これでもレース観賞が趣味なの知ってるくせに。」

 

「いやお姉ちゃん"ウマ娘の走り"にしか興味ないじゃん。作戦とか一切気にしないで脚を凝視する変態さんでしょ?」

 

気まずい空気。ジト目の妹から目を逸らせば、お母さんが爆笑していた。

 

「おっしゃるとおりです....。」

 

 

 

 

「『逃げ』、『先行』、『マイル』、『中距離』、そして『ダート』。私の適性はこんな感じだね。改めてみると姉妹で綺麗に脚質が綺麗に別れたね。私は先行が特に得意だけどお姉ちゃんは?」

 

「んー、私はマークした人の後ろをついて行って、最後に差す.....って感じに走るから特には.....やっぱり差しかなぁ。」

 

「その走り方を毎度成立させてるのやばいよお姉ちゃん。」

 

「そう?」

 

「つまりほぼ、相手のペースに合わせてるってことでしょ? 慣れないペースや走行位置は余分に体力を削るし集中力も落ちやすい。相手が素直についていかせてくれる訳も無く。プレッシャーだってガンガン来る。芝や土だって飛んでくるんだよ? よくそんな走り方を....。」

 

「んー、まあ至近距離で"走り"を堪能できるし、ついていこうって思ってるわけじゃなく引き寄せられるというか落ち着くというか....うん、まあ、そんな感じです。」

 

「変態さんですね、お姉ちゃん。」

 

「客観的にぐうの音も出ない。」

 

「お母さん的には修正したかったのよ? でもスーちゃんがいいって言うし、我慢したの。」

 

「私はあの走りでも通用すると考えてます。体への負担が大きいけれど、本格化を迎えればまた状況が変わりますし、変則的な差しとして十分使えると思いますし。武器になりうる個性を今潰すには早いってね。名付けて『ストーカー』、語源的に"こっそり行く"だから、影の薄いお姉ちゃんにピッタリ!」

 

「その名前だけはやめてください社会的に如何なものかと思いますが!?」

 

「気にしないでいこうお姉ちゃん。さ、次は私の番。王道の先行。前方位置、または先頭集団をキープし、終盤に一気に突き放して逃げる形。まあ殆どは他の先行脚質の子と負い比べになるから理想形は稀だけどね。」

 

「逃げも得意なの? あまり見たことないけど。」

 

「あー.....うん。スピード出し過ぎて実質逃げ、みたいな。先行脚質の子もいたんだけどついてこられずーとかで、自然となってることが多くて。」

 

「流石クラスのぶっちぎり一位。順位差以上の実力とはこのこと!」

 

「お姉ちゃん。」

 

「はい。」

 

 

 

 

「ん、じゃあそれぞれに合うメニューはこれでオッケー? お母さんも付き合ってくれてありがとう。頑張るね。」

 

「かわいい我が子の夢を支えるのも仕事の内よ。気にしないの。」

 

「うげー....絶対毎日がキツイやつ....。」

 

「まだまだ楽な方なんだし、いつものトレーニングの延長なんだからイケるでしょ? いつまでもウジウジしないでよお姉ちゃんでしょ?」

 

「結局は妹に負けた哀れな姉ですが何か。いたたたたたたいやほんとのことを言ってるだけじゃんそんなに怒らんでもいたたたたウソウソ頑張りますから尻尾引っ張らないでください毛が抜け『ブチッ』______あ。」

 

しばらくおまちください

 

 

しくしくしく。

 

「ごめんなさい。ちょっとテンション上がってて。」

 

しくしくしくゆるす。

 

「許すの早い。」

 

妹にお手入れされていた、蒼みがかった艷やかな黒毛を握りしめ、バツの悪そうな顔をしている妹に、泣き真似を解いて振り向く。

 

「姉らしいことしてこなかった罰みたいなもんだと思って、いっちょ頑張りますか。まあ挑戦できるのは今だけだろうしね。」

 

むんっとやる気を出したふりをしつつ、もう一度お母さん印のスケジュールとトレーニングメニューを確認する。間に合うか、いや間に合わせないと。せめて中央の平均値まで底上げを図り、"伸びしろ"を示さねば合格は難しい。今が春。一年を切った状況での開示は多分二人の作戦だろう。

流石、家族。私を精神的に追い詰めることだけは完璧だ。あーだるいけど....約束だもんな。やったるかー。

 

グッと体を大きく伸ばし、改めて、私は重い腰を持ち上げた。

 

 

 

ところで。

 

 

「.....私の毛。ずっと握りしめているけどどうしたの? ゴミ箱にでも捨てたら?」

 

「え!? えっと、えーと、そのー....」

 

「?」

 

「あ、ちょうどいい機会だしお母さんが預かるわ。尻尾の毛だし、何かのいい記念になるでしょう。」

 

「あー、昔アクセサリーとかお守りとか流行ったよね。元は古い文化なんだっけ? スーも興味あったんだ。珍しー。」

 

「......別に。先お風呂入ってるね。」

 

「.....? 尻尾の毛ぐらいで気にしなくていいよー。またすぐ生えてくるし。」

 

「(いやそういうことじゃないとはおもうのだけれど...こうもガサツだとスーちゃんも気の毒ね。)」

 

 

 

 

 

「はぁ........」

 

 

ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。

 

 

お風呂場。浴槽の底。

 

自己嫌悪と後悔の淵に沈んでブクブクと。

 

やってしまった。ああやってしまったと嘆くのはスターゲイザーである。

 

沢山()()言葉を使ってしまったし、尻尾だって痛めさせてしまった。

あれでは脅迫、強制だ。焦り過ぎだと反省する。

 

姉はいつだって、のほほんとしてるし、どこかふわふわしてるから、

引っ張ってあげないと動かないし、逆に言えば引っ張れば抵抗しつつもそのように動くことが殆どだ。

いわば今回も、そんな姉の優しさに付け込んだ強硬策だった。

 

あああああああああああ.....

 

 

振り返れば振り返るほど恥ずかしくなる。みじめになる。

なーにが、「その責任、取ってよね。」だよ。いつの頃の約束だよ。ちょっとした嘘だろ。なんでそんなもん蒸し返すんだよとかなんとかかんとか客観的な自分からの 責に背中を丸めつつ、それでも、と視界を上げる。

 

思い出すのは、一番最初に交わされた約束。

いつしか姉が弱くなって、私が強くなっていくその境界線。

 

 

 

 

『あー....今日も負けたわー、まさかかんじゃさんにも負けるとは.....まさかウマ娘さいじゃくこうほ!? むむむむむむそれはさすがにみとめられんな。妹を差し置いて(一緒に競走)最弱を名乗るとは言語道断(するまでのお預けだね)! ね、そうでしょ?』

 

『.......おねえちゃんはなんで、そんな笑ってられるの?』

 

『ん?』

 

『ふざけないでっゴホッげほっッ、なんで何でもないふりするの....おねえちゃんは強いのに、強いのに!!』

 

 

 

 

"ウマ娘の双子は走らない。"

 

 

 

実しやかに囁かれる噂にもれず、私たちは体が弱かった。

しかし、姉は、そんなジンクス知ったことかと一位をかっさらう。

 

"流石あのウマ娘の子供たちだ。では妹さんのほうは.....ああ"。

 

 

私は違った。走ってもずっとドベ。

走っても勝てなくて、頑張っても勝てなくて、教えを請いても勝てなくて、勝てなくて、勝てなくて勝てなくて勝てなくて、私はついに体を壊した。

 

耳をふさいでも聞こえる失望の声。治らない体。心と体は強く影響する。まだ幼いければ更に影響幅が大きい。

いつしか私は病院で過ごすようになった。母にもショックが大きかったようで、少し精神的に病んだ期間があったようだ。その分父が仕事や家の問題の解決に尽力した。どうしても手の回らない家事全般をなぜか姉が受け持った。無理矢理二人を説得したようだ。その分、姉の秘密の練習時間は無くなった。

姉は着実に同世代に追い抜かされていった。いつしか姉にもあった体の弱さが明確に露見するようになった。

姉は勝てなくなった。

小さな穴の開いた鍋に、努力という大水を灌げなくなった器は、瞬く間にからとなった。

姉の天才性は、ただの努力によって成り立つ虚構だったのだ。

 

 

"ウマ娘の双子は走らない。"

 

その呪いは、一家を蝕んでいた。

 

 

 

『ふざけないでっゴホッげほっッ、なんで何でもないふりするの....おねえちゃんは強いのに、強いのに!!』

 

『......わかってるじゃん、私は強い。強いからこそ、今を受け入れている。』

 

『え?』

 

『家族をほっておいて、強くある? それほんとに強いといえるの? それただのバカじゃない? ぶっちゃけ今強くても仕方ないよね。みんなこれからぐーんと強くなっていくんだから。』

 

『......これから、グーンと、強くなる。』

 

『そう、スーちゃんもそれはいっしょ。私もそれはいっしょ。だから、弱くなってもかまわない。今弱くてもかまわない。負けおしみといわれてもいい。ただの未来への丸投げともいわれてもいい。私たちには未来がある。強くもなれる。強くなくとも元気に走り回れるようになる。体が痛まないようになれる。走りが楽しくなるようになれる。これはそういうことなんだよ。』

 

『......ほんとう?』

 

『うん、私はやくそくはやぶらないよ! やくそくね、スターゲイザーはまた走れるようになる! 一着をいっぱいとれるようになる! お母さんみたいに、かっこいいウマ娘になれる! これはそういう未来のはなし。今はまだ私が願う"もしも"でしかないけれど、なんせこの天才の妹だし? 叶えさせてくれるよね?』

 

『うん、うん! 私もやくそくする! やくそくね! 私はぜっっっったい、すごいウマ娘になるっ!』

 

 

『うん、そうだね______それが、私たちの願いなんだ。』

 

 

強くもあれた、同時に弱くもあれた姉は笑った。

 

 

『やっぱ実の妹の走りほどそそられるものはないしね!』

 

『へんたいはメッ。』

 

『えー.....。』

 

 

 

思い出して、口角が緩む。

お姉ちゃんは全然変わらない....いや変わった部分は大きいけれど、本質はそう変わっていない。

いつまでもかっこいいお姉ちゃんを、更に、もっと、ね。

 

 

「反省終わり! 頑張れ私、えい、えい、おー!!」

 

 

そういって、スターゲイザーは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 




・心の矢印
スターゲイザー → スターシーカー
駄目なお姉ちゃん
私がしっかりしないと
(夢をくれた人)
(かっこいいお姉ちゃん)
(私を守ってくれる人)
(約束守れよおらぁあん!?)


スターシーカー → スターゲイザー
立派な妹
羨ましい/誇らしい
(綺麗な走りをするなあ)
(ヤッベ興奮してきた実の妹だぞ落ち着け)
(妹は守るのが当たり前)
(ヒエッ、ユルシテユルシテ.....)









妹が虐められていた原因。ウマ娘の双子は走らない。

母親のモデル馬がBNW、1993世代なのですが、その娘達(姉クラシック路線予定、妹ティアラ路線予定)はどの世代と走らせるべきでしょうか?

  • 1997年世代 スズカドーベル
  • 1998年世代 黄金世代ファレノプシス
  • 1999年世代 覇王世代ハルウララ
  • その他
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