主人公は難易度『Extra Ultra HARD』のような人生に失敗して、連続殺人犯となって死んだ。

この世界がいい加減なのは、神様がいい加減だからに違いない。
転生する時も『親ガチャ』は、またサビて故障していた。

だから転生しても難易度はやっぱりクソゲー仕様のままだった。

とある魂が黒猫に救われる話。

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転生タグをつけてみたものの、相変わらずジャンルがわからない。

暑いですね。


第1話

 

 恭介はうんざりしていた。

 

 産まれた時からずっとろくでない人生だった。両親の顔すらしらない俺はうさんくさい保護施設で育ち、ゴミクズみたいな毎日を繰り返していた。

 

 中学生で初めて警察にやっかいになり、少年院と保護施設を行ったり来たりしていた。自分がどうすれば良かったかなんて、振り返ってもわからない。気が付けば周りは不良仲間で、恩を受けたヤクザに利用されるだけ、人権もないような底辺になっていた。犯罪を強制され、しくじれば今度は刑務所行きだ。

 

 同じ施設で育った女は背も低くガリガリで頭のネジが緩い。また誰かの子を身籠り、そして泣きながら堕胎した。

 

 彼女は俺とは違ってとても優しい。猫が大好きでいつも小分けしたカリカリを持ち歩いていた。野良ネコ問題で近所のおばちゃんともめることもあった。恭介が注意しても性格は直らなかった。

 

 今日も彼女と朝からもめてボロいアパートを出た。そしてイライラして余裕がなかったせいか、職場のトラブルに短絡的な態度をとった。気の乗らない仕事を拒否するには、スキンヘッド先輩をぶん殴るしかなかった。断る事など許されないから組織を逃げ出すように走って現場を去った。戻ればリンチだ。

 

 何もかも上手くいかない一日はいつものことだが、その日はさらにひどくて最悪だった。

 

 組織から逃げ出した恭介は、生まれ育った憂鬱な貧民窟の裏道を歩いていた。

 

 その日は太陽がいつもより大きく、中天にギラギラと輝いていた。コンクリートが溶けるんじゃないかというほど熱せられて空気が揺らめいている。

 

 その場所で『こういうのでいいんだよおじさん』と出くわした。

 

『こういうのでいいんだよおじさん』は自分が正しいと信じて疑わない。人に価値観を押し付けてくるタイプだ。恭介のことを子供頃から説教してくるので苦手だった。

 

 いつもの様に適当にやり過ごすことが出来ずに口論になった。口論は暴力を生み、暴力は殺人へと発展した。

 

 恭介はたくさんの暴行事件を起こしていたが、ナイフで人の胸を突き刺したのは初めてだった。やたら暑くってセミがうるさいほど鳴いていた。

 

 ボロボロの塀の上では黒い野良ネコが警戒してしっぽを膨らませながら2人を見ていた。

 

 恭介は人を殺してしまったことを少しも後悔していなかった。『こういうのでいいんだよおじさん』のことが嫌いだったし。今日も最悪の一日でどうせ後で組織にひどい目に合わされるし、何よりも暑かったからだ。

 

 刺したナイフを抜くと血がドロドロと鈍くこぼれ落ちた。ドラマやアニメみたいに血しぶきが上がる事はなかった。まるでバイクからオイルが漏れだしているのようだった。

 

 殺してしまったものはしょうがないと諦め、ナイフを持ったまま恭介はその場から立ち去った。貧民窟の路地裏なので事件はよく起きる。その内、誰かが通報するだろう。もう恭介には関係なかった。

 

 恭介は殺人犯になったが気にしなかった。ついでなので近所で犬を放し飼いにしているジジィのところへ行った。なんど注意してもけっしてリードをつけないクソジジイだ。今日もリードつけず、タンクトップに短パン姿で犬と遊んでいた。

 

 恭介はジジイの胸も刺して殺した。犬が咆えて襲ってきたからやむなく蹴とばす。これで2人目だ。どちらも死んでくれて清々する。悪いことをした気にはなれなかった。

 

 それから歩いて借りているアパートまで帰ってきた。近所のおばさんの家に上がりこんで殺した。『同じ施設で育った女』が野良ネコに餌をやることにいつもやかましく文句を言った。猫に餌を与えるぐらいの自由がどんなに頭のゆるい彼女にもあるはずだ。ずっとそう思っていたからだ。これで彼女が野良ネコに餌をあげても穏やかな日が続くだろうと思った。3人を殺した。

 

 刺さったナイフが抜けなくなったので、おばちゃんの家の台所で包丁を抜き取った。鋭い刺身包丁を選んだ。

 

 それから組織に戻った。大仰に言うなら世の中を掃除しておこうと思った。クズばかりが集まって犯罪を繰り返している。社会に害があるだけでない方がいい。今日断った仕事だって、無理矢理借金にした親の肩代わりに、娘を風俗に沈める仕事だった。

 

 恭介の殴ったスキンヘッドの先輩が仲間を集めて取り囲んだ。恭介は無我夢中で包丁で戦った。3人ほど刺すことに成功した。あとは逃げて去っていった。

 それから事務所に乗り込んで、いつまでも恩着せがましいヤクザの親分の胸に刺身包丁を突き刺した。その後は子分に銃で撃たれ、。ドスで後ろから刺されて恭介は倒れこんだ。

 

 全部で何人殺したか数えられなかった。少しは世界が綺麗になったかな?と思ったところで意識が途絶えた。

 

※ ※ ※

 

 恭介は目が覚めると大きな河の前にいた。河原には石ころがたくさん転がっていて、小さい子供たちが石を積んで遊んでいた。子供たちを見ると恭介はなんだか懐かしい気分になった。

 

「どこだここは?」と独り言をつぶやいた。

 

「ここは此岸。川の向こうが彼岸」

「君は?」

「さぁ?君を案内するものだ。その舟に乗りな」

 

 恭介の隣にはいつのまにか童がいた。10歳ぐらいだろうか。おかっぱ頭で古いボロボロの着物を着ていた。生意気な口調だ。

 

「俺は死んだのか?」

「そうだ」

「これからどうなる」

「さぁ?」

 

 恭介は川に浮いている木の舟に乗った。2人乗りの小さな手漕ぎボートだ。あたりは薄暗い。空は夕焼けみたいに奇妙に赤かった。殺風景な場所だ。河幅は広く、水はとうとうと流れている。建物も電線も道路もなかった。木々もないし、鳥も虫もいなかった。

 

 恭介は童に言われるまま舟を漕いだ。舟は川下に流されながらも彼岸へとたどり着いた。

 

「あっちだ」

 

 童が指さす方向には赤い古風な門が建っていた。どこかの有名な寺のように立派な門である。

 

「あそこに何があるんだ?」

 

 恭介は童に問い返したが、もうどこにも童はいなかった。

 

 他に何もない場所なので建物へ向かって歩く。いいなりになるのは癪たが、他に何もないのだ。

 

 きっと自分は地獄に落ちるのだと思った。あるいはここが地獄なのだろうか。

 

 鉄の扉の重たい門を開けた。中には蕎麦屋みたいな小さな建物があった。暖簾はかかっていない。ガラガラと引き戸を開けた。

 

 中は4つのテーブルがあって、それぞれ4つの丸イスがあった。奥には厨房はみえないし、メニューも貼っていなかった。

 

 山積みの本や資料を机の上に積みあげて、作業をしている男がいた。立派な大男だった

 

「好きなところに座りなさい」と大男はいった。妙な帽子をかぶっている。

「ここはどこだ?」と聞いた。

 

 大男は何も言わなかった。豊かなひげを蓄えている。恭介にもう一度座るように手で合図をした。

 

「ここはあの世だ。わたしはわかりやすく言うと閻魔大王だ。別にそんな大層なものでもないがね」

「俺は地獄に落ちるのか?」

「お前が望むなら」

「俺が望む?」

「そうだ。お前は生きているうちに何をした?」

「俺はたくさんの悪いことをした。最後はたくさんの人を殺した。そして殺された」

「それでお前は地獄が希望か?」

「俺が希望したら天国へいけるのか?」

「もちろんだ」

「罰せられないのか?」

「罰せられたいなら地獄を希望すればいい」

「なら天国にする」

「よかろう。ゆえに、お前の罪は許された」

 

 建物は霞のように消えてしまった。

 

 鉛のような暗い雲はなくなって、空は青く輝いていた。ふわふわとした白い雲の上に立っていた。

 そこが天国だとすぐに分かった。まったく退屈で何もないところだった。

 

「まったくずうずうしいわね」

 

 恭介の隣には、10歳ぐらいの少女が立っていた。白いドレスを着ていて、おまけに背中には小さな羽が生えていた。天使なのは見ればわかるが、金髪の長い髪にの上には、輪っかがついていない。この金髪ツインテール、さてはツンデレに違いない。

 

「天使か?」

「はぁ?あんたバカじゃないの?天使なら頭に輪っかがついているでしょ。そんなことも知らないのかしら?」

「じゃあ、なんなんだよ」

「なんでもいいわよ。で、連続殺人犯がなんで天国希望しているのよ?あんたには反省とか罪悪感とかないわけ?」

「あんまりなかったな」

 

 天使らしき少女は溜息をついた。

 

「まぁ別にいいわよ。ここに好きなだけいなさい。ここはそういう場所だから、飽きたら声をかけて頂戴」

「あきた」

「はっ?」

「だって、ここ何もねぇじゃん」

「当たり前でしょ。天国なんだから」

「ずいぶんとひどい場所だな」

「知らないわよ、そんなこと。ほらさっさと引きなさいよ」

 

 目の前には『親ガチャ』なるものがあった。俺は言われたままに『親ガチャ』を回そうとした、サビついているのか回すことができなかった。

 

「回らないんだが?」

「知らないわよ。ほら、いきなさいよ!」

 

 天使らしき少女は、男を背中から蹴飛ばして、雲の上から突き落とした。

 

※ ※ ※

 

 地上に1人の男の子が誕生した。両親もわからず施設の前に捨てられていた。

 

 男はその貧乏くさい施設で虐待を受けつつ育った。名前は明日斗(アスト)になった。

 

 中学の時には警察にやっかりになり、少年院と施設をいったりきたりした。

 

 気が付けば周りは不良だらけで、ある日ヤクザの世話になった。そこからは悪い仕事をした。麻薬を売り、暴力に参加し、人を恐喝し、廃品を回収しては河原に捨てた。

 

 うんざりする毎日だった。

 

 同じ施設で育った女がいて、おつむが少し弱かった。施設を出た後はグループホームに所属しながら花屋でひっそりと働いていた。

 

 花屋になった女は猫が大好きで、ノラ猫に餌をあげていた。「トラブルになるからあげるなよ」と言ったのに、餌をあげるのをやめることがなかった。

 

 女は小分けしたカリカリをいつも持ち歩いていて、一袋を明日斗にも渡した。明日斗はそれをポケットにしまって、気が向いた時に野良ネコに与えた。

 

 明日斗は給料が出ると花を買った。買った花は近所のおばさんに渡した。おばさんは心が病んでいて猫が大嫌いだった。だからいつも申し訳なかった。「ちょっと頭の緩い子だから許してやって欲しい」と一言添えた。

 

 彼女がノラ猫に餌をあげると、このおばちゃんはガミガミとうるさかったのだ。

 

※ ※ ※

 

 ある日。明日斗はトラブルに巻き込まれた。

 

 組織同士の抗争からスキンヘッドの先輩が拉致された。助け出したかったが相手も武装している。明日斗はヤクザの構成員ではない。その下っ端の下っ端だ。一人で戦う義理はない。相手のヤクザに殴られつつもなんとか現場から逃げ出すことに成功した。

 

 きっと逃げたことは後から責められるだろう。うんざりする未来が待っているのは確定だった。それもいつものことだ。

 

 ギラギラと暑い日だった。太陽が中天に居座ってゆらめいている。まるで地球をこんがりと焼こうとしているようにも思えた。

 

 明日斗は貧民窟の路地裏まで逃げてきた。足は捻挫しているし、殴られたせいで口の中は血の味がする。

 

「こういうのでいいんだよ」と呟くおじさんが前から歩いてきた。みんなはこのおじさんのことをと呼んでいた。

 

 真夏なのにロングコートを着ている。下は裸の変態紳士だ。なんでも昔は教師だったらしい。今は頭が完全におかしくなっていて、ぶつぶつ言いながら徘徊している。

 

 手には刺身包丁を持っていて血で濡れていた。

 

 明日斗はやっかいなやつに出くわしたと思った。逃げようと思ったが足が痛い。「こういうのでいいんだよ!」といいながら、包丁を振りかざして『こういうのでいいんだよおじさん』が襲ってきた。

 

 まったくもって今日もひどい一日だった。いいことなんて何もなかった。口論すらできず、必死に足掻いた末に明日斗は『こういうのでいいだよおじさん』か刺身包丁を奪い、『こういうのでいいんだよおじさん』の腹に突き刺した。

 

 おじさんはぶっ倒れる。

 

「ひでぇ話だ・・・なんなんだよいったい・・・」明日斗は息を切らしながらつぶやいた。

 

 ケータイ電話を使って、警察と救急車を呼んだ。殺してしまったかもしれないけれど、こっちだって正当防衛だろう。警察が信じてくれるかどうかは知らないが。

 

 ボロボロの塀の上には黒猫がいた。怯えているのかしっぽを大きく膨らませている。

 

 明日とはその場から逃げださず、『こういうのでいいんだよおじさん』の隣にしゃげみこんだ。

 

 黒猫は騒ぎが治まったので明日斗の足元にやってきた。ときどき明日斗がこっそりと餌をあげているからだ。

 

 ポケット中には今日の分のカリカリが入っていた。今朝も花屋の女が持たせてくれたのだ。明日斗は猫にカリカリを与えながら警察がくるのを待った。

 

 腹を包丁で刺されたまま『こういうのでいいんだよおじさん』はうめきながら、

 

「こういうのでいいんだよ・・・」と独り言を言っていた。

 

 暑い日で蝉がたくさん鳴いていた。黒猫は喉をゴロゴロ鳴らしている。

 

(了) 





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