正直ここらへんはお遊びみたいな感じなので。
宿儺
「はい?俺すか?」
「うん」
覚中に特級術師という称が付いてから数週間。
彼女は教室に虎杖を呼びに来ていた。
「とりあえずついてきて」
あれからめっきり笑ったりすることはなくなった彼女だが、態度が変わったりということはなく。むしろなにか吹っ切れたように周りと素で接していた。
そして、虎杖を連れて到着したのは。
「夜蛾先生、入ります」
「おう」
「は、入りますッ!」
「おう」
夜蛾のところであった。そこにあるのは、今まで彼が作っていたようなファンシーな物ではなく人の形を取った、それでいて多少…いや、かなり異形の一体の呪骸。顔は一面に二つあり腕が四本生えている。
「…?なんすか、これ?」
「宿儺用の呪骸。宿儺と代われる?」
「えーと…ちょっと説明がほしいっす」
当然の疑問を浮かべる虎杖に、覚中は説明をする。
「一個思ったんだよね。現段階だと悠仁君の死刑は取り消されてない。その理由はまだ両面宿儺を取り込んでいるからで、両面宿儺が危険だから。まあ口上は、だけど…それなら、宿儺をこっちに移せばいいかと思って」
「…そんな事できるわけがなかろう」
カパ、と虎杖の頬が開いて口と目が現れ、喋った。
が、それに対して覚中は少し考え、できるんだよねコレが、と答えた。
「私の術式の関係上ね。意識を奪ったり奪った意識を与えたりする術式だけど、それを悠仁君からこの呪骸へ移せば呪力をほとんど持たない両面宿儺の出来上がり。私が移せるのは意識だけだからね、呪力やら術式やらは引き継がれない」
そこまで聞いて、んぐっ、とちょっと聞いたことのない声が聞こえてきた。それを聞いて、小さく息を吐き、覚中は続ける。
「…とするのが一番安全っちゃあ安全なんだけど、まあ個人的にはその戦力を完全にふいにするのは忍びない。ってことで色々調べてみたら、割と本気で頑張れば術式やら何やらは引き継げそうなんだよね」
曰く。
詳しい仕組みは複雑すぎるため色々省略して簡潔に言えば術式は指が実物一本あれば問題なし、呪力は一度最大まで呪力量を引き上げればあとは自分から供給ができるはず、とのこと。
そこで提案、と覚中は宿儺に向けて交渉をかける。
「呪詛師を除く術師に対して危害を加えない…というか、高専関係の術師に協力する。もっと言えば、呪術規定に則る代わりに呪力と術式を
「……フン…小僧、代われ」
「…妙なことすんなよ」
「するか戯け」
咎めるような口調の虎杖を宿儺が一言で一蹴して虎杖が目を閉じると、顔や腕に独特の模様が現れる。
「で、どうする?」
尋ねられた宿儺は紅い目を開き、睨むように答える。
「縛りの内容を明確化しろ。元のレベルとは俺の全盛期か?」
「そ、指の呪力量から逆算はできるからね」
「一度そこまで戻せばまた弱体化するようなことはないんだな?」
「自分から縛らない限りね」
「…その呪骸、既に呪力が若干籠もっている。移し替えられた後操り人形のようにはならないのだろうな?」
「流石に宿儺の力に耐えられるような操り糸は存在しないよ。まあ一術師として協力してもらう形になるね」
覚中がそう言うと、宿儺は頭に手を当ててハァ、とため息を吐く。
「手を出せ、縛りを結んでやる」
「…偉そうだね?こっちとしては全然戻さなくてもいいんだけど。羂索の件が片付いて任務の量も前ほど多くないし」
「グッ…この…!」
苦虫を百匹噛み潰したような顔をした宿儺を見て覚中は少し肩をすくめ、冗談、と付け足し縛りを結ぶ。
出された手に触れて術式を行使、先ずは虎杖の体から宿儺の意識だけを完全に奪い去る。表面化している意識は宿儺のもので、虎杖の意識は深く沈んでいるためこれは楽な方だ。
そしてその意識を呪骸へと移す。
本来意識を持たないものに対して意識を移植するとかいう意味のわからないことをしているが、元の術式の解釈を広げられた彼女にとってはそれすらも朝飯前。
楽々と呪骸の中に両面宿儺を移植する。と、フッ、と虎杖から独特の模様が消え、呪骸の四本腕がピクリ、と動く。
「とりあえず移植は完了。…あ、言い忘れてたけど呪力は悠仁君には宿ったままだからね。あくまで移植するのは意識、そこに術式と呪力を付加させる感じに近いから」
「う、うっす」
宿儺のいなくなった虎杖は即目を覚まし、そう返事をする。
「…さて、こっからが問題なんだけど…とりあえず宿儺、動ける?」
「…ぬ、感覚が狂うな……よし、慣れた」
はっや、と覚中が零すが、実際自由自在に腕を動かして試しで空を駆ける速度はほんとにこいつ今呪骸に入ったばっかりか?と疑うところである。
「ハイハイ止まれ止まれ」
と、動きを補足した覚中は一瞬術式を行使、宿儺の動きを止める。
本来、基本的には呪骸に覚中の術式は効かない。しかしそれは元より呪骸には意識が存在しないため。自分の術式で意識を移植したこの呪骸に関して言えば術式対象内に入る。
「んでこっからなんだけど…」
止まった宿儺の後ろに回り込み、背中に手を当てる。
「危害は加えないからじっとしてて」
身を捩らせようとした宿儺に声を飛ばしてグッ、と力を込め、丹田の位置から呪骸に呪力を注ぎ込んでいく。
普通呪力は丹田で練られ、全身へと廻る。その呪力の通る
丹田から胸へ、そして腕、足、頭、全身に呪力が巡っていく。
呪骸宿儺の核は心臓の位置に存在しており、作りは人間とそう大差ない。よって、感覚はそこまで変わらない。
「…これくらいか」
「これは…!」
感覚が戻ってきたのか嬉しそうに目をかっ広げる宿儺に対して覚中は次の工程を踏んでいく。ポケットから取り出すのは宿儺の指二本。
「宿儺、コレ飲んで」
「ぬ?呪骸でも物を取り込めるのか?」
「あくまで呪骸だから消化は出来ないけど、
説明を受けて宿儺はふん、と鼻を鳴らして指を取り、二本まとめて口に入れる。すると、たちまちその目が見開かれる。
「!ククっ…クハハハハ!!良い…!コレだ、この感覚だ!」
高笑いしつつ嬉しそうに叫ぶ宿儺。
「うまく行ったみたいだね」
「そこを退け、試しに術式を使う。心配せずとも人には当てん」
ククッ、と笑いながら上機嫌で言う宿儺にはいはい、と言いながら大窓を開ける。
「建物にも当てないでね、修繕費かかるから」
「その程度の操作、俺が出来ぬわけがなかろう」
そして大窓に向かって右腕を振りかぶり…
「『解』!『捌』!『■』『
斬撃を一発ずつ、そして炎の矢を一本空に向かって打ち上げた。
「素晴らしい…!完璧だ!クク、コレでこそ俺だ!!」
「宿儺うるせぇ」
「やかましい小僧」
テンションが上がりきっているのか上機嫌を通り越してなんかよくわからないテンションになっている宿儺。
そして、覚中の方を向き直す。
「まさか本当にこんなことをやってのけるとは…お前にはつくづく驚かされるぞ、覚中心音。俺がこの世で生きている限り、お前の全力を更に魅せてみろ」
「何それ…」
若干引きつつ言うと眉をひそめて宿儺が「俺が認めたのだぞ、素直に喜べ」と言う。
と、その時。
「お久しゅうございます、宿儺様」
カラカラ、と部屋の扉が開かれ、白髪の中性的な人が入ってきて跪いた。
「!裏梅」
「今回こういう手を取ったのも彼女…彼女?彼?との縛りからだよ。術師側に手を貸す代わりに両面宿儺の完全復活に協力しろ…ってね」
聞くにかの呪霊陣営にいた「白髪おかっぱのガキ」なる人はこの裏梅という人らしく。
どうやら宿儺との接触を図るために相手側にいたらしいのだが、渋谷事変の後で羂索が消失したのを確認して今回高専との接触を図ったらしい。
「私が呼び捨てで宿儺様を呼ぶわけがないだろうこの無礼者がァ!!」
「そこじゃないでしょ…」
ちなみに、すごい剣幕で裏梅にガクンガクンと揺さぶられながら、宿儺関連の人って大体どっかおかしくなんのか…?と思っていた。
人のこと言えないだろう。