ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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でもねたまには

 

 

 

 試験一日目をもうすぐ終わりを迎え、夕食の時間がやってきた。

 全校生徒が一堂に食することを想定しているためか、食堂には広々とした空間が広がっており、それを見下ろせる2階席も用意されていた。資料の内容がR正しければ確か500人程度を収容できるとのこと

 

「こりゃ合流は難しいか……?」

 

 グループのメンバーである綾小路たちとは別れ、俺は橋本君と2人で目当ての人物を探していた。

 2階席から下の階の生徒をざっと見渡して呟く橋本君だが、俺は集団の奥からこちらを見ている生徒の姿に気が付いた。

 

「あ、いたいた」

 

「ん……どこだ?」

 

「ほら。あの右斜め前の柱の下。神室さんも隣に居る」

 

「……ホントだ。お前よく見つけたな」

 

 そう。俺たちが探している人物は、Aクラス女子の指揮を行っている有栖だ。男女完全に分かれての試験のため互いに協力するのは難しいかもしれないが、情報共有はしておいたほうがいい。

 

「有栖は目立つ見た目してるからね」

 

 とはいっても、この人数の中からしらみつぶしに探して見つけるのはかなり大変だ。俺がすぐに有栖を見つけられたのは、この辺りに居るだろうという予測が当たったからにすぎない。

 既に席は取ってあるため、手すりに寄りかかりながらこちらへ手招きする。

 

 移動に手間取ったのか、少し時間を経た後に有栖と神室さんはテーブルまでやってきた。

 

「お疲れ様です2人とも。席取りありがとうございます」

 

「お疲れ。一年生優先で入れたからすぐ取れて助かったよ」

 

 俺の隣に有栖が、体面に座る橋本君の隣には神室さんが座る。遊びに行くときは大体こんな感じの配置だ。鬼頭君がいる時は有栖の隣に神室さんが来て、橋本君の隣に鬼頭君が座る形となる。

 

「鬼頭君はいらっしゃらないのですか?」

 

「鬼頭の奴は葛城の所です。今頃作戦会議で忙しいでしょうから」

 

 有栖の疑問に目線を奥に向けながら答える橋本君。目線の先にはAクラスの生徒が固まって食事をとっているところが見えた。

 

「とすると、そちらのグループ決めは一筋縄ではいかなかったようですね」

 

 有栖は隣に座る俺を見て、納得したように呟いた。一方で神室さんは怪訝そうな顔を俺に向けている。

 それもそうだろう。当初の予定では俺はここにいないことになっていたからな。

 

「うん。綾小路の奴がかき乱しやがってさ。()()()()がなくなった分楽しそうにしてる」

 

「それはそれは」

 

 呆れ交じりのため息を吐く俺をみて、有栖は微笑ましそうに口元を抑えていた。……こいつ、他人事だと思って随分楽しそうだな。

 もう綾小路に手を抜いて試験を行うメリットはないだろう。目立たないようにこそすると思うが、堀北さんと共にAクラスに上がるために全力を尽くすことが予想される。余裕のある動きをしている龍園君も気がかりだし、お腹が痛くなってくる。

 

「で、そっちはどういう状況なの?」

 

 急かすように神室さんが聞いて来る。食事の時間は1時間しか用意されないんだ。無駄話は極力控えないとね。

 男子を取り巻く状況を一通り説明する。話を進めるたびに眉間に皺が寄る神室さんがちょっと面白かった。

 

「……想像以上に面倒なことになってそうね。こっちと違って」

 

「グループのメンバーに学さんと生徒会長の対決。それに()()()()()()()()()()ですか」

 

 小グループを作り終えた後に上級生と合流。大グループの結成を行った。2年生が1年生を指名し、同時に3年生が2年生を指名するというルールだったのだが、この際に一抜けした南雲先輩に俺たちが指名されたのだ。

 

「順番はじゃんけんで決めたけど、明らかに何かしら細工してる感じだったし。そっちにも気を配らなきゃいけなさそうだ」

 

「目を付けられるようになった心当たりは?」

 

「……ある。正直めっちゃある」

 

 体育祭のリレーで南雲先輩を追い抜いて優勝した綾小路が居る上、俺は学さんからライバルだと公言されている。目を付けられない訳がない。

 

「そういえば、現生徒会長は彼に対抗心を抱いているのでしたね。なら目を付けられてしかるべきでしょう」

 

「認めてくれるのは凄い嬉しいけどねぇ……」

 

 因みに言いふらしているのは学さんではなく、彼に密かに想いを抱いている橘さんだったりする。まあ学さんが生徒会長を引退した後空手部に所属したことは有名な話だし、今更隠そうとしても手遅れだ。

 と、いうことで。南雲先輩は学さんに認められている俺と綾小路がどんな人物なのか、この合宿を通して知りたいのだろう。

 

「となると、個人的には生徒会長が持ち掛けた勝負というのが気になりますね。具体的にはどのような内容なんですか?」

 

「自分が所属する大グループの順位が高い方が勝ちだって。そんなんで良いのかよって感じだけど」

 

「……ほう。その他には?」

 

 興味深そうに聞いて来る有栖だったが、本当にそれ以外何もないのだ。

 

「龍園君みたいな作戦とか、他の生徒を巻き込むことを禁止するって約束してたし。南雲先輩もやり方こそ非道だけど約束は破らないってことで有名だから。そこまで気にする必要もないと思うよ」

 

 きな臭さは多少感じるが、こちらに被害が来ることもないだろうし、学さんだったら大丈夫だろう。

 俺はAクラスのリーダーとして責務を全うするだけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「学さんと仲の良い生徒が誰か知っていますか?」

 

「えっ、学さんと?」

 

「はい」

 

 急にどうしたのだろうか。別に答えて損するわけじゃ無いしいいけどさ。

 

「女子生徒でってことだよね……うーん。正直学さん以外とはからっきしだからなぁ……橘さんとか知ってる? 元生徒会書記の」

 

「知っています。あのお団子の方ですよね」

 

「覚え方……まあそうだね。空手部の見学にもちょくちょく来てるよ。学さん目当てだと思うけど」

 

 最近は堀北さん……妹の方とも交流が盛んのようで、個人的には結構喜ばしい。

 

「私と同じグループでしたね。交流の機会も増えそうです」

 

 最初は堀北さんのブラコンが出ないか心配だったけど、彼女には綾小路というパートナーがいるため問題なしだ。少し前に学さんの好きな料理の作り方を教えた、と堀北さんから聞いたし、学さんが落とされるのも時間の問題に感じる。当人の家族を味方にしたらもう余裕よ。

 

「うん。よろしくね」

 

家族ぐるみの付き合いがあるにも関わらず、10年近く振られ続けた男がいるって? 

 なーにー!? やっちまったなぁ!? ……という冗談は置いておいて、今が幸せならそれでいいのだ。

 

「生徒会長と学さんの勝負……意図的に組まれた小グループ……なるほど。そういうことですか」

 

「そういえばそっちはどうだったの? 見たところ問題はなさそうだけど」

 

 何やら顎に手を当てて考え込んでいる有栖。だが時間がないので考えごとは部屋でやってもらわないと。

 

「特に問題ありません。首尾よく進みましたよ」

 

「へぇー。そういうのって女子の方が荒れそうなイメージだけど」

 

「各クラス確固たる司令塔が存在しますからね。強いて言うならBクラスが少し荒れていたくらいでしょうか」

 

 ……一瞬聞き間違えかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。

 

「Bクラスがですか? それマジで言ってます?」

 

 事の成り行きを見守っていた橋本君も同様の感想を抱いたのか、目を見開いて聞き返した。

 

「ええ。私たちも男子と同じく各クラスでまとめたグループを作成したのですが、混合グループに行きたがらない生徒が騒ぎ出したんです」

 

「意外だな。一番無いと思ってたんだけど」

 

 そんな言葉が口からこぼれ出る。この前遊びに行ったときはそんな雰囲気感じなかったけどな。神崎君は一之瀬さんとめっちゃ仲いいし。

 

「逆にDとCが揉めなかったのが意外です。その状況なら、女子たちはAクラス包囲網は作らなかったってことですもんね」

 

「グループにいる他クラスの生徒に揉めたか聞いたけど、特にそういう話は聞こえてこなかったわね。男子だけが勝手に進めた作戦じゃないかしら」

 

 橋本君の言葉に返す神室さん。やる気のない様子を見せているが、実際こうして動いてくれるのは凄くありがたい。

 

「綾小路らしいっちゃらしいな。女子には伝えず確実性を上げる立ち回りだ。Cクラスに関しては堀北さんが目を光らせてるからね。無人島、優待者、ペーパーシャッフルで結果を残してきた女傑の言うことには皆従うしかない」

 

 まだ男女で完璧な連携を取るのは不可能だと悟ったのだろう。堀北さんがリーダーに立ってからはかなりマシになったが、それでもまだまだといったところだ。

 

「Dクラスに関しては……どうだろうね。金田君が女子までまとめきれる器かといわれたら少し怪しいけど」

 

 実際のところ龍園君が復活しているのが大きな要因だが、それをホワイトルームの話をしないで説明するのが難しいためやめておく。

 

「今のところできそうな話はこれくらいですね。さて、そろそろ解散としましょうか。あまり話し込んでいると警戒されるかもしれませんし」

 

 ある程度人が捌けてきた影響か、こちらを盗み見るような視線が浮き彫りになってきた。その数は一対に留まらない。他クラスの代表者がこぞってこちらの動向を観察している。

 

「俺たちを潰すために包囲網を組んだくらいだからね」

 

「まったく。食事くらいゆっくり取らせてほしいものです。これから一週間。旭君と会えるのはこの1時間だけだというのに」

 

 寂しそうに視線を落としながら頬杖を突く有栖。……そうか。これからしばらくはずっとこの生活が続くのか。

 

「……なら、この一時間だけでもくっ付いていないとね」

 

 隣に座る有栖の脇の下を両手で持ち、そのまま股の間に座らせる。

 

「ひゃっ……何するんですか!」

 

 いつもなら嬉しそうに背中を預けてくれるのだが、1年生以外にも人がいるこの場においては流石に恥ずかしさが勝るようだ。

 小さく身をよじって抵抗を示す有栖の首筋に顔を埋める。

 

「ちょっと……! おいたが過ぎますよ!」

 

 嗅ぎなれたシャンプーの香りがして安心する。それに、サラサラの髪の毛が頬に当たって気持ちが良い。風呂に入ってから丸一日経とうとしているのにごわついていないのは日々のケアの賜物だろう。こんなに可愛いのに満足せずに美貌を追及してくれるなんて彼氏冥利に尽きるというもんだ。

 

「あ゛ー。何でこんな面倒なことになったんだよ……」

 

 クラスのリーダーという手前、気弱なことなんて絶対に言えない。そんなことを言ってしまったら、リーダーを任せてくれた葛城君や、俺を信じて付いて来てくれるクラスメイトに不安を与えてしまう。

 だが、有栖の前では虚栄を張らなくていい。有栖なら、何だかんだ言いつつも優しく受け止めてくれる。

 

「……あらあら。随分とお疲れのようですね」

 

 小さく笑ってそう呟いた有栖からは、もう抵抗を感じることは無かった。有栖は自身の腹に巻かれた俺の手を両手で包み、優しく握り込む。

 長い時間外にいたせいで冷え込んだ手が、じんわりとした温かさに包まれた。

 

「でもここでくっつくのは少し恥ずかしいですよ。場所を変えましょう」

 

「……うん」

 

 甲斐性のある男を目指すため、有栖にふさわしい男になるため日々余裕ぶっている俺だが、結局俺はこうやって彼女に頼ることになるのだ。

 杖を片手に持った有栖に手を引かれ食堂を後にする。

 そして誰も来ないであろう夜の教室の一角にやってくると、こちらに向けて両手を広げた有栖の胸元へと飛び込んだ。

 

「ふふっ。甘えん坊なところは小学生のときから変わっていませんね。これから丸一日会えないんですから。今のうちに寂しさを埋めておいてください」

 

 ……小さい頃から両親が出張で家を空けることが多かった俺は、その寂しさを有栖や芳さんに甘えることで埋めていた。当時と立場は変わっても、その関係が変わることは無かった。

 そして、ずっとこのまま変わることは無いんだろう。俺が毎日少しだけ見栄を張って、疲れたら結局有栖に甘えることになる。

 

「ごめん。……愛してる」

 

「私もですよ。試験、一緒に頑張りましょうね」

 

 男としては二流もいい所だろう。だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

「────おいおい。きな臭ぇ雰囲気を感じてきてみれば、別の意味でくっせぇ事してんなこいつら」

 

 ……は? 

 

「龍園君……?」

 

 懐中電灯で室内を照らしてこちらを挑発するのは、俺のストレスの一因である龍園君だった。

 

「もうちょっと待ってればおっぱじめそうな雰囲気だったな。先公にでも突き出してやればよかったぜ。なあ、綾小路?」

 

「……」

 

 龍園君は懐中電灯を横に向け、俺の親友の名前を唐突に話した。

 

「出てこいよ。居るのは分かってんだぜ」

 

「……すまん。2人とも」

 

 観念した様子で姿を見せたのは綾小路。申し訳なさを全面に出した表情をしている。心底愉快だと喉を鳴らす龍園とは全くの逆だった。

 

「……何で居んだよ」

 

 思わず語気が強くなる。だってしょうがないだろう。死ぬほど恥ずかしいじゃん。

 恐らく顔を真っ赤に染めている俺に対し、綾小路はしどろもどろになりながらも言葉を紡いだ。

 

「あの……ほら、ただの密会だとは思わないだろ……? えぇと、凹んでたのも演技だと思ったんだよ」

 

「……」

 

 ……確かに。俺と有栖が2人で席を外したとなれば、そう捉えてもおかしくはない。

 だけどさぁ! 何でわざわざついて来るかな! たまにはそっとしておいてくれよ!? 堀北さんとイチャイチャしとけよバーカ! 

 

「……なんだ。ほら、悩み事があるならオレにも言ってくれ。極力解決できるように協力するぞ? 見なかったことにするから」

 

 綾小路の不器用な優しさが逆に心に染みる。……死にたくなってきた。

 

「空手のアジアチャンピオンも女の胸で泣くんだな? こりゃぁいい学びを得たぜ。クラスの奴にも教えてやらねえとな?」

 

こいつ……! 

 

「ちょ、待て。落ち着け九条。いやマジで!」

 

「どいて清隆! そいつ殺せないっ!」

 

 清隆が必死に抑え込もうとするが、もう誰にも俺は止められない。

 二度と生意気な口きけないようにもう一度分からせてやるしかないんだ。だってこいつには人の心が無いから。

 

「さ、坂柳。……何とか言ってくれ!」

 

 過去一焦った表情で有栖に助けを求める綾小路。このときの綾小路は藁にも縋る気持ちだっただろう。

 

「……ここには誰も居ませんし、監視カメラだってありません。誰かが来る前に手短に済ませて差し上げなさい」

 

「坂柳!?」

 

 有栖も龍園君に対する苛立ちが勝ったようだ。そりゃそうだろう。俺たちの逢引を邪魔するなんて許されるわけがない。

そんなのほぼNTRと言っても過言じゃない。

 

「何を言っているんだお前は!? ……くそっ、いい加減にしろ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

 腹部に走る強烈な衝撃に、たちまち意識が遠のいていく。……どうやら綾小路の本気の腹パンを食らったようだ。

 

「龍園……覚えとけよっ……がっ」

 

 消えてゆく視界の中で最後に見えたのは、冷や汗をジャージの袖で拭う綾小路の姿だった。

 

 

 

 ────綾小路が気絶した俺を肩に抱えて部屋に戻ったせいで大騒ぎになったのだが……それはまた別のお話だ。

 

 

 

「起きなかったならそのまま置いて行っても良かったのに…」

 

「仕方ないさ。あんな所で寝てたら風邪ひくだろ?」

 

「…」

 

「おい!? どこに泣く要素があったんだ!?」

 

「うぅ…ごめんねぇ」

 

彼氏彼女(2人)そろって泣き虫かよ…」

 

 

 





どうしてこうなった…? 俺はただ九条と坂柳のイチャイチャを書きたかっただけなのに!

まあラブコメって銘打ってるから別にいいや()



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