奈落の勇者   作:キムハン

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魔力の仕組み

 あれから1か月、毎日薪割りを続けている。おかげでたった1か月でかなり筋肉がついた。

 薪割りだけじゃなく木の伐採などもやらしてくれるようになった。ちなみに木がたくさん密集したら森と言うらしい。世の中知らない事だらけだ。

 

 しかし、最近アベルはおかしな事を言う様になってきた。体の中の力を感じろとか《魔力》がどうとか。

 全く実感が湧かないが、最近薪割りを続けていても、あまり疲れなくなってきたのは筋肉ではなく、その《魔力》のおかげなのだろうか?

 

ゴホッゴホッと咳が聞こえた。

 

『アレン。』

 

 そんな事を考えながら薪割りを続けていると、アベルに呼び出された。

 

『はい!なんですか?』

 

 教えられた敬語もバッチリだ。俺は早走りでアベルの元へ近寄る。

 

『お前に狩りを教えてやる。荷物まとめて付いてこい。』

 

――――30分後――――

 

 小屋の裏の森に入ってかなり深いところまで来た。慣れない山道で少し疲れがきている。

 

『呼吸を乱すな。薪割りを思い出せ。気を張って《魔力》を身体から離すな。』

『はぁ、はぁ、さっきから魔力ってなんなんですか。全然、イメージ、はぁ、出来ないんですけど。』

 

 アベルは話ながらスイスイと山道を進んでいく。薪割りの時も思ってたが、あんなにヒョロヒョロの爺のどこにそんな体力があるんだ。。。

 

『狩った獲物は街に売りに行ってる生活費の一つだ。そのためにもお前にはこれから手伝ってもらうぞ。』

 

街と聞いて一つ気になる事がある。どの街なんだろう。

 

『はぁ、俺のいた街ですか?』

 

『あそこはもう行かん。』

 

 そう言い残し、アベルはどんどん先に行ってしまった。なんとか追いつこうとこっちもペースを上げるが、どんどん疲労が溜まっていく。

 

 我慢ならず革水筒を取り出し、水をガブガブ飲む。登りながら飲んでいるとアベルに肩を掴まれ、下にガッと引っ張られた。危うく水をこぼすところだった。

 

『あれ見ろ。あの木の下だ』

 

 そう言うと彼は指を指した。指の先を見てみると、そこには4本足の獣がいた。鼻をふがふがと動かしている。食べ物でも探してるんだろうか。

 

『なんですか、あれ』

『猪だ。』

 

 ここは斜面になっており、こちらが上を取り、猪とやらが斜面の下にいる状態である。

 見つけたのは良いが、弓矢みたいな物は持っていないし、罠も仕掛けてるわけではなさそうだ。一体どうやって捕まえるつもりなのだろう

 

 

『さっき魔力がよく分からないと言ったな。』

 

アベルは急に立ち上がった。

 

『魔力はこの世界に満ち満ちている力の塊。それを身体に纏う事が出来れば、身体能力を大幅に上げることが出来る。』

 

そしてアベルは自分の腰に掛けていた剣に手を添える。

 

『アレン。見て覚えろ。魔力を纏い、身体でも頭でも理解した者だけが扱える技術。それが』

 

彼を中心に落ち葉が舞い始める。肌がビリビリとする。猪もそれを感じたのか、こっちに気付いた様だ。逃げようとこちらに尻を向けたその瞬間。

 

身体から血を吹き出し猪は倒れた。俺は唖然とした。これを俺は見た事がある。いや、体験した事がある。

 

『これが《魔術陣形》。魔力を使った戦い方だ。』

 

そう。アベルが俺に使用した。あの技だ。

 

猪を解体し、内臓などの不必要な部分は捨てる。枝を合わせて作った木の棒に猪の両足を括りつけて、2人で運ぶ。

 

『さっき説明した。魔力を纏う方法だが、お前はすでに出来ている。』

 

山を下山しているとアベルは語り出した。

 

『毎日薪割りをしているが、それが魔力を纏う訓練になっているんだ。まだ無意識で使えているだけだろうが、意識して使える様になればお前にさっきの技を教えてやる。』

 

『なんでわざわざ俺にそんな事を』

 

薪割りをさせられていた理由はただの薪作りだけではなかったという事だが、しかしなぜ、アベルが俺に魔力とやらの使い方を教える必要があるのだろうか。

 

『この世界で生きるには、必要な事だ。』

 

彼はただそれだけで、それ以上は何も話さなかった。

 

――――――――I年経過――――――――――

 

 あれから月日が経ち、魔力をかなりコントロールできる様になってきた。

 

 それに、アベルから剣も貰えた。カタナと言うらしいが、かなり独特な形をしている。しまいには刃渡が15センチほどしかなく、剣というよりナイフに近い。使いにくいが、武器の中で一番汎用性が高いらしい。

 

 この剣を使って獲物の1匹でも狩りたいが、まだ俺は獲物1匹仕留めた事はない。俺が近づいて獲物を狩ろうとしても、アベルがすぐに遠くから仕留めてしまう。

 

 しかし、少しずつ成長しているのも確かだ。

 

 魔力の感覚を掴み、今では魔力を身体に纏うだけじゃなく、魔力を感知できるようになってきた。と言っても相手はアベルしかいないんだが。

 

 それで分かったことは、アベルは普段から魔力を纏っている。だから、何をしていても全然疲れた表情を見せない。あんなに身体が細くてもかなりの力が出せるのは魔力のおかげという事だ。

 

 実際俺自身の体力やパワーはかなり上がっている。薪割りなんてどれくらいやろうが疲れないし、山道だってかなりスイスイ登れるようになってきた。

 

 しかし、それでも魔術陣形という物は未だに習得出来ずにいる。どうやら魔術陣形には攻撃と防御の二つが基礎になっているらしく、まずはどちらかを習得するのが一般的だと言う。

 

 アベルが言うには身体では理解できているが、頭では理解出来ていないと言う事だった。

 

 そもそも肉体を強化する力を頭で理解とはどう言う事なんだ。頭でも理解しているつもりなのだが、何が駄目なのだろう。

 

 そんなある日、見知らぬ人間が小屋を訪ねてきた。ここ一年間で初めての事だ。俺たちは狩った獣の皮や角などを街に売りに行くこともあり、人との交流はあるにはあるが、あちらから訪ねてくるのは初めてだ。

 

 俺が薪割りしている中、アベルと街の人間が小屋で何か話をしているようだった。

 

 話が終わると街の人間は帰っていった。どうやら金を置いていったらしい。なんのお金だろう。

 

『なんのお金ですか?』

『あぁ、明日出かけるぞ。付き合え、日を跨ぐ事になるから準備はそのつもりで用意しろ。』

『はぁ分かりました』

 

 またまたロクな説明も無しに連れ出そうとしている。まあ正直慣れてきた。いくらでも付き合ってやるさ。

 

――――――――――――――――――――

 

 翌日、早朝に出発し、小屋の周りの広い草原を抜け、見渡す限りの砂漠を永遠と歩かされている。

 砂漠は街に下りる時によく使うが、どうやらこの大陸には砂漠があちこちにあるらしい。

 一日中歩き続けて、夜になり、砂漠のど真ん中で野宿する事になった。

 

『あの、そろそろ教えてくれませんか?』

 

 ゴホッゴホッと咳をしているアベルがスープを作りながら、目だけはこちらを向けてきた。

 

『一体これから何しに行くんですか?』

 

 すると、やっと彼は話す気になったらしい。

 

『アレン。お前は魔王を知ってるか。』

 

 魔王?なんだそら、聞いた事ない。全く分からないような顔をしているとアベルはそのまま続けた。

 

『これは多分紛争地帯で生まれない限り大体のやつは知ってる事だが、この世界には魔王が居たんだ。その魔王は10年前勇者に倒されて、今はもう居ない。』

 

 俺が少し興味深さそうに聞いていると、アベルはそのまま話し続けた。

 

『魔王がいるだけで魔物は活発化し、世界各地で魔物の被害が出る。だが、今では魔王が居なくなった事で、魔物の被害もかなり少なくなってきた。しかし、魔物自体はまだいるんだ。少なくはなったが、居なくなったわけじゃない。』

 

 うーんとつまり、今回のこの遠征はその少ないけどまだ居るには居る魔物が街の人間に被害をもたらしているって事か?

 

『今回は魔物を狩りに行くって事ですか?』

『話が早くて助かる。』

 

 そんな事なら別に隠す事でもないだろうに、全くこの人は。

 

『ところで、魔術陣形は習得出来そうか。』

『いや、全くです。』

 

 正直にそう言うと、アベルは少し怪しい笑みを浮かべた。

 

『それも理由の一つだ。』

 

アベルがそう言うと、俺は少し身震いした。

 

―――――――――――――――――

 

 翌日、目的地に到着。とは言っても、砂漠のど真ん中で景色は全く変わっていない。周りに魔物とやらどころか生き物すらいない。

 

「ほんとにここで合ってるんですか」

「あぁ」

 

 アベルは真剣な表情で屈んで地面の砂をサラサラと触っている。

 

「おい、ちょっとこの先走ってこい。」

「え?なn」

「いいから行け。」

 

そういってアベルは俺の後ろに回り、背中をドンッと押し、突き放した。

少し斜面になっており、俺はゴロゴロと落ちていった。

 

「ケホッケホッ、ペッペッ、ちょっと口の中入った。。。」

 

俺が砂まみれの体をはたいていると、地響きがする。

 

ゴゴゴゴゴゴゴと何かがこっちに近づいてきている。

 

 不思議な感覚があった。砂の下に巨大な何かが俺に向かって飛びあがってくるのを感じた。見えもしないのに何故か体が反応し、思いっきり地面を蹴り飛ばして横に跳ぼうとした。

 

 しかし、ビシャンと音がしたかと思うと、地面の砂が濡れて、泥のようになっていた。

 俺は足を取られ、泥の上に倒れてしまう。斜面の上を見ると、アベルが水筒を上げていた。

 

 まさか、アベルが。。。どうしてこんなことを。

 

「頭だ。頭で理解しろ。」

 

 その瞬間俺の視界は真っ暗になった。何が起こったのか理解しようとする間も無く、全身に何かが刺さっている感覚がしたかと思うと、その棘のような何かが、全身に食い込んできた。

 激痛で反射的に魔力を纏ったが、それでも全身の痛みは増すばかり、もう皮膚が破けるんじゃないかと思うほど、無数の棘は全身に食い込んでいる。それに反発するように力を入れようと深く息を吸い込むと、今まで吸った事のない劇臭が鼻に勢いよく入ってきた。この瞬間理解した。

 

ここは口の中だ、俺は食われている。

 

 パニックになった俺は魔力で肉体を強化するが、関係なく無数の歯が俺の体をすり潰すように動いた。

皮膚が破けそうな激痛に襲われる。その激痛で抵抗する意思が潰えた。ここで終わりか。。。

 

頭だ。頭で理解しろ。

 

諦めたその脳内にアベルの言葉が響く。

 

 俺は力任せに魔力を纏うのを辞める。頭でイメージする。壁や盾、俺の体を満遍なく包み込むようなベールを。。。

 

 カッと目を見開き、もう一度体に魔力を纏い、唱える。

 

「展開 魔術陣形」

「盾!!」

 

 すると、さっきまで食い込んでいた歯を押し戻し、空間が生まれた。そして、勢いよく引き戻される。いきなり視界が明るくなる。どうやら魔物が俺を吐き出したらしい。その魔物はミミズのような形で俺の何十倍も体がでかい。おそらくさっきまで俺がいた口には無数の歯が生えている。キモい。

 

 魔物は上を向いて俺を吐き出したため、宙に吐き出された。

 

 周りが遅く見える。。。俺は腰の剣に手を伸ばした。

 

 イメージする。剣の軌跡が飛ぶような、宙を裂き、あの魔物を両断するように、切り株に置いた薪のように、全身に魔力を纏い唱える。

 

「展開 魔術陣形」

「矛!!」

 

 そう叫び、剣を勢いよく振るった。軌跡が見えた。宙を裂き魔力が魔物に向かって勢いよく飛んで行った。

 

 バァンッとまるで岩を削ったような音がした。魔物には全くダメージが入ってないように見えた。

 

「ギィィィィィィ!!!」

 

 甲高い金切り声を上げて、宙に舞った俺をもう一度飲み込もうとしている。

 

まずい!

 

「よくやった!」

 

 叫び声の方に目を向けると、アベルは腰の剣に手を添えていた。彼を中心に砂埃が舞う。そして彼から、メラメラと燃え上がるような形の魔力が見えた。

 

「矛!!」

 

 アベルが叫ぶと、思いっきり剣を横に振るった。その瞬間、目の前の魔物は勢いよく血を吹き出し、倒れた。

 

 俺は砂の上に無様に落ち、砂だらけの顔を上げてまじまじと死骸を見る。よく見ると魔物の頭と胴体が二つに分かれていた。

 

 すごい、俺は傷一つ付けられなかったのに。。。

 

 アベルが斜面の上から滑るようにこちらに向かってきた。

 

「もう少し出てくるのが遅かったら、手を出すつもりだったが。。。」

 

 アベルは膝をついた俺の頭に手を被せてきた。

 

「よくやった。」

 

 アベルはそういいながら、頭を優しくポンポンとしてきた。

 

 俺は今まで感じた事のない気持ちに襲われ、どうしたらいいか分からなかった。。。

 

ーーーーーー1年後ーーーーーー

 

 チュンチュンと、小鳥のさえずりが聞こえる。暖かい日差しが窓から差し込み、そのまぶしさで目が覚めた。俺は急いで体を起こし、ベットから出る。すると、向かいのベットが膨らんでいた。どうやら、爺さんはまだ寝てるらしい。珍しいこともあるもんだ。

 

 俺は朝飯の用意を始めた。この季節は作物が豊富で飯はいつもより豪華になる。芋や根菜の皮を切り、適度な大きさに切っていく。順調に飯の支度を進めていく。

 

 しかし、アベルはまったく起きてこない。そろそろ飯だし、起こしに行くことにする。

 

 ベットを見るとまだ寝ている。俺は、ゆさゆさと体を揺らした。

 

「アベル。朝ですよ。起きてください。」

「・・・あぁ起きる。少し待ってくれ。」

 

掠れた声でそう言っているので、俺は朝飯の用意の続きをしようと戻ろうとすると。

 

「アレン。・・・ちょっとこっちへきてくれ。」

 

 アベルは寝起きだからだろうか、いつもより弱弱しい声でそういった。俺はベットの横の椅子に腰かけた。

 

「どうしたんですか?」

「あぁ、なんだ・・・少し話をしよう・・・」

『・・・え?まあ、はい、いいですけど・・・』

 

  彼は半目でゆっくり話し始めた。

 

「お前は、ここに来た時の事を覚えているか。』

『爺さんに殺されかけた時ですよね。』

 

 からかうようにそう答えると、彼は珍しく高笑いをした。

しかし、少し調子が悪いようで彼はゴホッゴホッとひどい咳をした。

 

「お前が俺の財布を盗んで、俺がお前の腹を貫いたんだったな。あの時は子供だと思わなかった。あの通りで血だらけの腹を手で押さえてたお前を見た時、心底ゾッとしたさ』

 

『・・・そうしなきゃ生きられなかった。』

 

 俺がそう答えると、彼は深く頷いて続けた。

『あぁ分かってるさ、お前は何も間違っちゃいない。悪いのはあの国だ。だが、あの時のお前はいい目をしていた。死を受け入れなかった。あんな国でもお前は必死に生きようとしていた。俺のエゴだが、あの国からお前を助けたかったのさ。」

 

アベルは俺の手を力無く握ってきた。しわしわのその手はとても冷たく感じた。

 

「・・・お前はどこか冷めてる部分があるな」

 

弱々しく、しかしそれでも、真剣な眼差しで俺に聞いてきた。

 

「そんなこと。。。」

「ハハハ、ゴホッ、お前はそう言うと思った。」

 

 彼は高笑いをして、苦しそうに咳をした。今日はなにやらよく笑う。

 

「アレン。自由に生きろ。お前にはその力がある。そして、守りたいものを作れ。そしたらもっといい人間になれるさ。」

 

 握っている手がどんどん弱くなってきていた。彼の眼差しは今にも消えてしまいそうだった。

 

「何言ってんだよ。。。」

 

 俺はアベルの手を強く握り返してやった。その冷え切った手を温めるように。強く、強く握った。

 彼は目をつぶり、少し笑みを浮かべた。

 

「・・・ハハハッ、良い、ものだな・・・アレン・・・」

 

 すると、彼の手から力を感じなくなった。俺が少し力を緩めると、俺の手からスルッと力なくダランと落ちた。

 

「・・・アベル?」

 

 アベルは何も言わなかった。その日も、次の日も、また次の日も彼が口を開くことはなかった。

 

 三日後、俺は小屋の裏に穴を掘り、アベルを入れ、そのまま火をつけた。

 

 俺は腰を落とし、膝を抱えながらその光景を、ただ見ていた。アベルの言葉が頭によぎる。

 

 守りたいものを作れ。。。

 

「わかんねーよ、そんなもん。」

 

 俺の心は再び空っぽになってしまった。そんな気がした。

 

 次の日、俺は荷物をまとめて小屋を出た。特に行く場所なんて無い。

 ただこの国を歩き回った。盗みはしなかったが、向こうから突っかかってきた人間は何人か殺した。

 

 俺は何も変わってはいなかった。

 

 気が付くとアベルが死んで1年が経っていた。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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