灰になるまで 作:ギガマツタケ
スマートブレイン本社の管理部門は、いつも静かだった。
白い壁。
冷たい照明。
規則正しく並んだデスク。
無駄のない通路。
感情の入り込む余地がないほど、整えられた空間。
榊原真咲は、その空間に馴染んでいた。
黒のスーツ。
白いシャツ。
胸元の社員証。
手元の管理端末。
二十九歳。
若い社員ではあったが、その仕事ぶりは年齢に見合わないほど優秀だった。
記録。
監視。
報告。
運用。
管理。
真咲は、それらを感情ではなく手順として処理する。
机の上には、未処理の報告書が三件あった。
使徒再生失敗後の灰化確認記録が一件。
灰化残滓の回収記録が一件。
在野オルフェノクの行動監視報告が一件。
真咲は、順に目を通した。
一件目。
使徒再生失敗後の灰化確認記録。
現場処理班は「全量回収」と記載している。
だが、添付された現場写真に映る灰の広がりと、報告された回収量が合わない。
真咲は眉一つ動かさず、端末に注記を入れた。
回収量不足。
現場写真との照合不可。
処理班へ再確認。
私的保管、または外部流出の可能性あり。
二件目。
在野個体による接触事案。
対象者は死亡。
使徒再生は不成立。
しかし、報告書の時刻が不自然だった。
対象者の灰化確認時刻よりも前に、処理完了報告が送信されている。
真咲は、淡々と入力した。
時系列不一致。
誤記、または虚偽報告。
報告者を個別聴取。
隣席の若い社員が、ちらりとこちらを見た。
「榊原さん、また見つけたんですか」
「時刻が合いません」
「普通、そこまで見ます?」
「見ます」
真咲は画面から目を離さずに答えた。
「報告書は、書かれている内容だけを読むものではありません。書かれていない部分を確認するためのものです」
「……勉強になります」
若い社員は苦笑し、自分の席へ戻った。
真咲は三件目の資料を開こうとした。
その時、端末が短く鳴った。
社長室からの呼び出しだった。
真咲は、画面に表示された通知を一秒だけ見つめる。
それから未処理の報告書に保留処理を入れ、椅子から立ち上がった。
慌てる必要はない。
だが、遅れる理由もない。
社員証を整え、管理端末を手に取る。
そして真咲は、社長室へ向かった。
*
扉の前で足を止める。
呼吸を一つ。
ノックした。
「榊原です」
「どうぞ」
扉が開いた。
社長室は、管理部門よりもさらに静かだった。
磨かれた床。
余計な物のない机。
大きな窓。
その向こうに広がる、灰色の街。
村上社長は、机の奥に座っていた。
真咲は一礼する。
「失礼します」
「榊原さん。急に呼び出して申し訳ありません」
「問題ありません。ご用件を伺います」
村上は穏やかに微笑んだ。
「相変わらず、無駄がありませんね」
「業務中ですので」
「結構」
村上は、机の上に置かれた薄いファイルへ手を伸ばした。
「あなたに、新しい管理案件を任せたいと思っています」
「管理案件、ですか」
「ええ。ただし、通常の在野個体監視とは少し異なります」
村上はファイルを開いた。
そこには、七人分の資料が収められていた。
写真。
氏名。
職業。
推定能力。
覚醒経緯。
危険度。
使徒再生傾向。
社会浸透適性。
真咲は一番上の資料に目を落とした。
黒川愛衣。
十九歳。
大学生。
パンサーオルフェノク。
「彼女達は、全員が自然覚醒個体です」
村上の声が続いた。
「使徒再生によって生まれたコピーではありません。人間として一度死亡し、その後、オルフェノクとして覚醒した者達です」
真咲はページをめくった。
篠原琴音。
二十歳。
大学生。
クリケットオルフェノク。
白石小春。
二十二歳。
個人経営の雑貨店店主。
シープオルフェノク。
霧崎奈々。
二十四歳。
ラウンジ勤務。
モスオルフェノク。
水瀬千尋。
二十六歳。
看護師。
リーチオルフェノク。
羽鳥麗華。
三十二歳。
美容系企業経営者。
ピーコックオルフェノク。
そして最後に、榊原真咲。
二十九歳。
スマートブレイン社員。
ホーネットオルフェノク。
自分の名も、資料の中にあった。
真咲は表情を変えずに言った。
「私も、管理対象に含まれるのですね」
「当然です。あなたもオルフェノクですから」
村上は、柔らかく笑った。
だが、その笑みに温度はなかった。
「ただし、あなたには管理する側に立っていただきます」
「理由を伺っても?」
「あなたは実務能力が高い。記録、報告、残滓管理、監視、運用。どれを取っても優秀です。加えて、オルフェノクとしての能力も高い」
村上は資料を閉じる。
「単なる事務処理能力だけで選んだわけではありません」
「承知しました」
「そして何より、感情に流されにくい」
「感情が不要という意味でしょうか」
「いいえ。感情を持ちながら、それを業務判断に混ぜないという意味です」
真咲は何も答えなかった。
村上は続ける。
「彼女達は有用です。人間社会への浸透力が高く、使徒再生への適性もある。ですが、放置すれば必ず問題になります」
「問題、ですか」
「黒川愛衣は衝動的です。篠原琴音は自己判断が強い。白石小春は灰化残滓への執着がある。霧崎奈々は自己保存意識が薄い。水瀬千尋は善意で境界線を越える。羽鳥麗華は社会的影響力が大きすぎる」
真咲は、資料に並ぶ六人の性質を頭の中で分類した。
快楽。
理性。
狂気。
退廃。
救済。
栄華。
どれも、有用だ。
そして、どれも危険だ。
「ラッキークローバーとは異なる組織、という理解でよろしいですか」
「ええ。彼らは象徴性の強い上位個体です。今回のチームは、人間社会への浸透と使徒再生の実働を目的とした、特殊活動群です」
「名称は」
「NOCTURNE」
村上は静かに言った。
「夜想曲。夜に紛れて動く彼女達には、合っているでしょう」
「管理権限はどこまで認められますか」
真咲は即座に確認した。
「対象者選定の承認権。行動記録の閲覧権。灰化残滓の回収・処理権限。違反時の監視強化および運用制限の提案権。必要に応じて、実力行使による制止も認めます」
「報告系統は」
「私へ直接」
「専用施設は」
「本社地下特別フロアを貸与します。表向きは会員制ラウンジとして処理してあります。彼女達を集めるには都合が良い」
「すでに本人達への通達は」
「済んでいます。社員を通じて、地下フロアに集めています」
真咲はわずかに目を細めた。
「つまり、私は今から顔合わせへ向かえばよいと」
「その通りです」
村上は椅子にもたれた。
「本日付で、榊原真咲さん。あなたをNOCTURNE管理責任者に任命します」
沈黙が一瞬落ちた。
真咲は、資料を閉じる。
拒否する理由はない。
社長命令である。
そして、危険な個体を放置する理由もない。
「承知しました」
真咲は一礼した。
「では、管理対象として扱います」
「期待しています」
村上はそう言った。
真咲は社長室を出た。
*
廊下へ戻ると、空気がわずかに変わって感じられた。
自分の業務が変わったからではない。
管理すべきものの種類が、変わったからだ。
エレベーターに乗る。
地下フロアのボタンを押す。
扉が閉まる。
数字が一つずつ下がっていく。
真咲は手元の資料を開いた。
交通事故死。
過労死。
火災。
刺殺。
転落死。
嫉妬による殺害。
死因は違う。
だが、全員が一度死んでいる。
そして、生き残った。
黒川愛衣。
篠原琴音。
白石小春。
霧崎奈々。
水瀬千尋。
羽鳥麗華。
最後に、自分の名前。
榊原真咲。
中学生時代。
階段。
突き落とされた身体。
冷たい床。
上から見下ろす顔。
真咲は、そこで資料を閉じた。
感傷は不要だった。
ただ、記録は必要だった。
あの日、目を覚ました時もそうだった。
泣くより先に、叫ぶより先に、真咲は状況を確認した。
誰がいたのか。
誰が突き飛ばしたのか。
誰が見ていたのか。
誰が黙っていたのか。
順番に記憶した。
その時から、真咲にとって過去は感情ではなく、記録だった。
扉が開く。
地下特別フロア。
そこは、本社の上層とは明らかに空気が違った。
照明は落とされ、壁は黒に近い色で統一されている。
床には艶のある石材。
奥には、ラウンジを思わせる広い空間が見える。
人間社会の上品な夜を模した場所。
だが、ここに集まっているのは人間ではない。
真咲は扉の前で一度足を止めた。
それから、ラウンジの扉を開いた。
*
最初に聞こえたのは、軽い笑い声だった。
「え、マジで地下にこんな場所あんの? スマートブレインって意外とやるじゃん」
ソファに深く腰かけていた女が、スマホ片手にこちらを見る。
明るい茶髪。
派手な服。
健康的で、無遠慮な美しさ。
黒川愛衣。
資料の写真よりも、ずっと騒がしい。
「あ、管理の人? よろしくー」
愛衣は軽く手を振った。
その向かいの席で、黒髪の女が静かに本を閉じた。
白いブラウス。
紺のカーディガン。
眼鏡の奥の目は冷たい。
篠原琴音。
「篠原琴音です」
彼女は立ち上がらず、姿勢だけを正した。
「指揮系統と権限範囲については、後ほど確認させてください」
「必要な資料は共有します」
真咲が答えると、琴音は小さく頷いた。
納得したというより、評価を保留した顔だった。
少し離れたテーブルには、淡い色の服を着た女が座っていた。
膝の上に小さな布袋。
その横に、いくつかの小瓶。
白石小春。
柔らかく微笑んでいる。
「白石小春です。よろしくお願いします」
声も穏やかだった。
しかし真咲の視線は、すぐに小瓶へ向いた。
「その瓶の中身は」
小春は、少しだけ首を傾げた。
「綺麗なものです」
「中身を確認します」
「今ですか?」
「今です」
小春は困ったように笑い、小瓶を両手で包んだ。
「灰って、最後に残る形なので」
穏やかな声だった。
だが真咲は、その価値観を危険項目として分類した。
ラウンジの奥、照明が一段暗い席には、紫がかった暗髪の女がいた。
細い指でライターを弄んでいる。
煙草には火がついていない。
霧崎奈々。
彼女は、こちらを見ても立ち上がらなかった。
「霧崎奈々」
それだけ言って、薄く笑う。
「まあ、適当に」
「適当では困ります」
「困るんだ」
「困ります」
「大変だね、管理者さん」
奈々はそう言って、またライターを転がした。
その近くで、白と薄青の服を着た女が、真咲の顔をじっと見ていた。
優しい目だった。
だが、ただ見ているだけではない。
呼吸。
姿勢。
顔色。
疲労。
そういったものを自然に読んでいる。
水瀬千尋。
「水瀬千尋です」
千尋は柔らかく微笑んだ。
「榊原さん、少しお疲れではありませんか?」
「問題ありません」
「顔色、少し悪いですよ」
「支障はありません」
「睡眠は?」
真咲は、そこで初めて千尋を見た。
「業務に必要な範囲で取っています」
「食事は?」
「問題ありません」
「ちゃんと休めています?」
その声は、本当に心配しているように聞こえた。
だからこそ、真咲は危険だと思った。
千尋の善意は、距離を越えてくる。
「必要があれば申告します」
真咲は即答した。
最後に、窓際に立つ女がいた。
上質な服。
艶のある髪。
控えめなのに高価だと分かるアクセサリー。
場の誰よりも自然に、視線の中心に立っている。
羽鳥麗華。
彼女は真咲を見ると、優雅に微笑んだ。
「羽鳥麗華です」
「榊原真咲です」
「ええ。聞いています。今日から私達を管理される方だとか」
「その通りです」
「管理される側になるのは、久しぶりです」
「慣れていただきます」
麗華は、少し楽しそうに笑った。
「頼もしいこと」
真咲は、ラウンジ中央へ進んだ。
六人の視線が集まる。
軽い視線。
冷たい視線。
柔らかな視線。
濁った視線。
気遣う視線。
値踏みする視線。
どれも、普通の人間のものではなかった。
真咲は端末を起動した。
「榊原真咲です。本日付で、NOCTURNEの管理責任者を命じられました」
愛衣が、ソファで足を組み替える。
「ノクターンって、なんかカッコよくない?」
「名称に関する感想は不要です」
「うわ、堅い」
琴音が眼鏡の位置を直した。
「管理責任者ということは、私達の行動にはすべて承認が必要になる、という理解でよろしいですか」
「全てではありません。ですが、使徒再生対象の選定、実行、残滓処理、情報発信、外部接触については報告義務を設けます」
麗華が微笑む。
「情報発信、ですか」
「羽鳥さんについては、特に重点管理項目です」
「私だけ?」
「社会的影響力が大きいためです」
「あら。褒め言葉として受け取っておきます」
真咲は画面を操作し、最初の規定を表示した。
「初期運用規定を通達します」
ラウンジの空気が、わずかに締まった。
「一つ。使徒再生対象の無断選定を禁止します」
「えー」
愛衣がすぐに声を上げた。
「その場のノリとかあるじゃん」
「ありません」
「あるって。相手見た瞬間、いけるって分かる時あるし」
「その判断を無断で実行することを禁止します」
「めんどくさ」
琴音が冷たく言う。
「当然の規定でしょう。あなたのような衝動型個体には特に必要です」
「あ? 何それ。ケンカ売ってる?」
「事実を言っています」
「売ってんじゃん」
「二人とも」
真咲の声は大きくなかった。
しかし、二人の会話は止まった。
「二つ。灰化残滓の私的保管、加工、譲渡を禁止します」
小春の手が、小瓶の上で止まった。
「全部ですか?」
「全部です」
「少しだけでも?」
「禁止です」
「綺麗なものでも?」
「灰化残滓は管理対象物です」
小春は、少し寂しそうに目を伏せた。
「そうですか」
その声には、反省ではなく、未練があった。
真咲は記録した。
白石小春。
灰化残滓への執着強。
継続監視。
「三つ。SNS、写真、動画、顧客情報、医療情報、店舗情報など、人間社会に残る痕跡はすべて報告対象とします」
麗華は笑みを深めた。
「事業活動への干渉は、どの程度まで?」
「スマートブレインに不利益を及ぼす可能性がある範囲まで」
「広いですね」
「必要な広さです」
「交渉の余地は?」
「案件ごとに審査します」
「なるほど。話が通じないわけではなさそう」
奈々が、奥の席で低く笑った。
「みんな真面目だね」
「霧崎さん」
「なに?」
「任務放棄、連絡無視、所在不明も罰則対象です」
「私、まだ何もしてないけど」
「する可能性があります」
「ひどい言われよう」
「資料に基づく判断です」
奈々は肩をすくめた。
千尋が、少し心配そうに言った。
「罰則、というのは具体的には?」
「行動制限、監視強化、任務停止、必要に応じた実力行使です」
「怪我をした場合は、私が診ても?」
「状況によります」
「怪我人を放っておくのは、良くありません」
「治療名目で対象に過剰接触することも禁止します」
千尋は、少しだけ目を伏せた。
「……分かりました」
その返事は素直だった。
だが、完全な納得ではない。
真咲は、それも記録した。
規定の通達が終わると、ラウンジには奇妙な沈黙が落ちた。
愛衣は退屈そうにスマホを触っている。
琴音は規定文を読み込んでいる。
小春は小瓶を抱えている。
奈々はライターを指の間で回している。
千尋は全員の顔色を見ている。
麗華は、この場をどう利用できるか考えている。
そして真咲は、全員を管理対象として見ていた。
有用。
危険。
不安定。
強力。
記録必要。
監視継続。
ふと、愛衣が顔を上げた。
「ねえ、榊原さん」
「何でしょう」
「結局、うちらって何する集まりなわけ?」
真咲は答えた。
「人間社会に紛れ、スマートブレインの方針に従って使徒再生を行う特殊活動チームです」
「ふーん。じゃ、獲物探していいってこと?」
「承認を得た対象に限ります」
「ほんと堅いね」
奈々がつぶやく。
「でも、分かりやすいじゃん。死んだ女達を集めて、また誰かを死なせるんでしょ」
その言葉に、空気が少しだけ変わった。
七人全員が、一度死んでいる。
その事実が、ラウンジの暗い照明の中で静かに浮かび上がった。
愛衣は、一瞬だけ目を瞬かせた。
そして、すぐに笑った。
「でもさ。一回死んでると、逆に気楽じゃない?」
琴音が眉を寄せる。
「理解できませんね」
「えー? だってもう一回死んでも、“またか〜”って感じじゃん」
「あなたは命を軽く見すぎです」
「実際軽かったし」
愛衣は悪気なく言った。
「車ってさ、マジで一瞬だったよ?」
ラウンジの空気が、さらに静かになる。
愛衣だけが、その沈黙に気づいていなかった。
琴音は表情を消した。
小春は小瓶を見た。
千尋は手を握った。
麗華は微笑みを崩さなかった。
真咲は、何も言わなかった。
奈々だけが、薄く笑っていた。
「やな集まり」
「名称はNOCTURNEです」
真咲は端末を閉じた。
「以後、そのように認識してください」
麗華が言った。
「夜想曲。悪くない名前ですね」
「名前が綺麗でも、中身はこれだよ?」
愛衣が笑う。
「十分でしょう」
琴音が冷たく返した。
「私達に、綺麗な中身など必要ありません」
「私は、綺麗なものは好きです」
小春が小さく言った。
「綺麗な灰とか」
「白石さん」
「はい」
「その発言も記録します」
「……はい」
千尋が静かに微笑む。
「みなさん、少し緊張されていますね」
「あなたも含めてです」
真咲が言うと、千尋は困ったように笑った。
「そうですね。私も、少し」
奈々は立ち上がり、ラウンジの暗い窓際へ歩いた。
「まあ、いいんじゃない。どうせ夜の集まりなんだし」
麗華はその背を見て、少しだけ目を細めた。
「上の夜と、下の夜。面白い組み合わせね」
「羽鳥さん」
真咲が呼ぶと、麗華は笑顔で振り向いた。
「はい?」
「社交的接触を行う際は、事前報告を」
「徹底しているのね」
「職務ですので」
麗華は真咲を見つめた。
少しだけ、その笑みの質が変わる。
「……あなたには、その言葉がよく似合うわ」
「褒め言葉として処理します」
「ええ。そうして」
その言葉が本心かどうか、真咲には判断できなかった。
だが、判断不能であれば、記録すればよい。
真咲は端末に最初の報告を入力した。
NOCTURNE初回顔合わせ完了。
対象七名、全員出席。
管理難度、極めて高。
単独行動時の逸脱リスクあり。
灰化残滓管理、情報管理、対象者選定について重点監視が必要。
運用価値あり。
継続管理。
入力を終える。
それで十分だった。
真咲にとって、人間関係とは記録可能な情報の集積でしかない。
少なくとも、この時点では。
この部屋に集められた七人は、全員が一度死んでいる。
そして今は、生きているように振る舞っている。
笑い、話し、規定に反発し、誰かを値踏みし、誰かを救おうとし、誰かを沈めようとしている。
だが、真咲は知っていた。
オルフェノクの命は、永遠ではない。
肉体は、いつか灰になる。
記録だけが残る。
真咲は端末を閉じた。
NOCTURNE。
夜想曲。
七人の女達の時間が、静かに動き始めた。