禁書二次小説
旧約操車場戦後、本当に一方通行が鈴科百合子ちゃんとして上条さんのお隣の席に来ちゃった話です
一方通行=鈴科百合子派なんですけど一応性転換タグつけてます
とあるIFで百合子が舞い降りたと聞いて出戻ってきた勢なので新約以降と何か齟齬あったらすみません

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百合子ちゃんが演算できない幾つかの幻想的事象について

 

じゃ、手続きは済ませておいたから。

 

学園都市第一位の処遇は、そんな素っ気ない事後報告で本人に伝えられた。

何か言いたげな目をしれっとスルーして、冥土返しはあっさりと病室を後にする。

凄惨な“実験”があまりにも唐突なイレギュラーの介入で頓挫した、息の詰まるような長い夜、その翌朝の話だ。

 

「……は?」

 

目覚めた一方通行は病院の硬いベッドから身を起こすなり、脇に整然と揃えられた書類の束と着替え一式にひどく脱力した声をこぼす。

少し顔を歪めて、珍しい感覚を味わうように細い指先を輪郭に伝わせた。

生まれて初めて浴びた痛撃の余韻はまだ身体のあちこちにずきりと残っている。

湿布の上からでも、熱を持った頬がわずかに腫れ上がっているのが分かった。

意味が分からない、一方通行はぐるぐると持て余した思考の最適な伝導先に迷っている。

 

操車場で無能力者相手に呆気ない惨敗を喫した、認めたくないがそれは覚えていた。

その頭脳をもってしても理解が及ばない右手が叩き込んできたのは、初めての激痛であったり、敗北の屈辱であったり、まあ、色々と最悪な諸々だ。

気を失った後のことは覚えていないが、目覚めたら病院で冥土返しにやれやれと見下ろされていた辺りで大体の察しはついた。

理解は出来るがそれに付随する感情は追いつかない。

事実整理に追われて多分もう思考がパンクしてしまっているのだろう。

 

ぎしぎし軋む薄い身体を捩り、書類の一つを乱雑に手に取った。

計画は中止、以降の対応は現在協議中。そんなような事がつらつらと記される紙面を一方通行の視線は無感情に滑っていく。

はいはい、と流れる文章を見送っていた動きが不意の一文で停止した。

 

「転校および転寮措置…だァ……?」

 

思わず眉間に皺が寄り、ついでに怪訝が薄い唇から零れ落ちる。

大概の事は面倒くさい、で捨て置くのだが、そわりと背中を伝う不快な予感に一方通行の表情はますます険しくなった。

ふと病室のドアが開き、そういえば、とカエル顔が再び顔を覗かせた。

 

「伝え忘れていたが君の転校先、今度はちゃんと女子生徒として本名で学生登録されてるらしい。上の思惑はどうあれ、昨日の今日で目立つのは得策じゃないだろうねぇ。まぁ君なら上手くやるだろうが一応忠告だけはしとくよ」

「はァ、ご丁寧にどォも」

 

舌打ち混じりの返答で諫言を送り返す。

しばしの沈黙があって。

独り残された病室、ある種の諦念を飲み込んだ一方通行はおもむろに立ち上がると、ベッドサイドに畳まれた服を手に取った。

真新しく包装されたそれのデザインを認めて、その表情は今日いちばんに酷く歪む。

学園都市上層部の思惑など心の底からどうでもいい、何をしようと自分の知った事ではない、が。

 

「とりあえずコイツは嫌がらせとして受け取るがなァ、クソが……」

 

吐き捨てるように毒づいた一方通行の手に握られていたのは、楚々として爽やかな白とネイビーのセーラー服だった。

 

 

────

 

 

そもそも鈴科百合子という少女に男装の趣味はなかったし、親の言いつけで学園都市に預けられて以降ずっと男のフリをしてた…なんてメローな背景もない。

 

圧倒的な力を孕んだ第一位の冠を戴くようになってから、ただ何となく漠然と柔い部分に触れられたくない拒絶が彼女を学園都市最強の一方通行たらしめていた。

性別不詳の危険なバケモノ、そう扱われているうちは暴かれることはない。

見なくてもいいし、向き合わなくてもいい。

そういうある種の安心もあったような気もする、と彼女はぼんやり思案する。

ワンチャン狙って寄って集る不良だとか、発育不全の身体を明らかに下心で弄り回す研究者なんかは、特に。

だからあの瞬間の、昨夜彼女の頬にぶつけられたそれは久々に思い出す彼女自身が押し込めていた生の感情の触り心地でもあった。

 

(言うなれば……そォ、あの夜、あの三下に“わからされた”感じ)

 

心の中で吐き捨てて、一方通行もとい鈴科百合子は憎らしいほど澄んだ真夏の青空に視線を投げる。

おろしたてのセーラー服に似合わずその表情は乾き、すんと凪いでいた。

よくもまァやりやがって下さいましたね、ぶつけたい心情は思いの外山積しているのだけど、結局あの無能力者の事を自分はまだ何も知らない。

次会ったら即死じゃすまねェ、うららかな日常とは遠く離れた胸の奥にぎらぎらと一途で鋭利な想いを秘めるばかりだ、それはさしずめ恋する乙女のように。

 

「……って!聞いてますか鈴科ちゃん!転校初日なんですからシャキッとしないとめっ、なのですよ!」

「はァい、せんせ」

 

思考を遮る甲高い声に気のない猫撫で声を返す。

ふと意識を引き戻してみれば、視界のそこそこ下の方でちょこまかとピンク色が跳ねていた。

どうみても幼女だがこれでもクラス担任を受け持つ教師らしい。

学園都市で今更容姿と中身のギャップに驚くようなこともないが、と幼女教師がぴよぴよ捲し立てる半ば過ぎを聞き流す。

 

「ウチのクラスの子達はみんな優しくて元気な子ばかりですからね!きっと鈴科ちゃんもすぐ仲良くなれるはずなのです!」

「あァ……そう……」

 

クラスのみんなに伝えてくるから呼んだら教室に入ってきてくれ、と。

嬉しそうに弾む声音を見送って、彼女の心は更に重く曇る。

面倒だ、逃げ出してやろうかと気持ちは大分傾いていたのだが、昨日の今日で……と釘を刺してきたカエル似の顔がよぎってギリギリで踏み止まった。

 

(どォ転んでも面倒。無様な敗けを晒した罰ゲームって事だァな、要するに)

 

細い手首にうっすら残った擦傷の痕をぼんやり見つめながら、今更ながら思い出したように学校の景色なぞ興味も無さげに見回してみる。

午前中の明るい風景とは打って変わって、その目に映る全部は無彩色に見えた。

何もかもが自分自身とは遠くて、居心地が悪くて。

そォだな、例えば……と、彼女は苦し紛れに空想を思い描く。

 

(この教室の中にもし昨夜の無能力者が腑抜けた顔して座ってたら……少しくらいは面白ェ、かもしれねェけど)

 

甲高い声に招かれるまま、彼女は気怠く教室のドアに手を掛けた。

眩しい教室に少し目が眩んで、次いで飛び込んでくる無数の人間の雑多な気配と喧騒に堪らず眉間に皺が寄る。

セーラー服の裾がひらりと翻り、ミニスカートが際どく揺れる。

百合の花を模るヘアピンに薄いバッグひとつ携えた華奢な容姿は白く淡く、その不思議と目を惹く佇まいは現れてほんの数秒で教室全ての注目の的だ。

そこに学園都市第一位を恐れる遠巻きの隔意や畏怖はない。

今この瞬間から、彼女はもうただの謎の美少女転校生なのだ。

 

「はい!今日から新しいクラスメイトになる、鈴科百合子ちゃんなのです!」

 

すんと凪いだ表情のままスタスタと教壇の横に佇む。

ざわつく教室、自分の名前が書かれた黒板、絵に描いたような転校生襲来のテンプレート風景に百合子はげんなりと目を細めた。

セーラー服の女子高生なんざ速攻で溶け込みそうなモンじゃねェの?という百合子の推測は見事に当てが外れたらしい。

貧乳大勝利、と下世話に囁く声が鬱陶しくて、彼女は思わず外界へ“反射”を向けて騒音をほぼ8割方シャットアウトした。

踏み台にちょこんと乗って教壇から顔を出す幼女教師があれこれと彼女のプロフィールを説明しているが、もはや真偽を確かめる気すら起きない。

すっかり興味の失せていた百合子だが、その矢先、遠く遮断した音に妙に既視感のある声音を聞いた。

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

教室の場に不釣り合いな情けない叫び声が防音壁の向こうから漏れ響き、がたん、と椅子を転がす勢いで一人の生徒が席を蹴って立ち上がる。

 

「なっ…お、おま……昨夜…いや、その違っ……よりによってこの展開が来やがるんですか本当に!?」

 

挙動不審を音にしたような騒がしい捲し立てに彼女はうっそりと伏せていた視線を持ち上げた。

眼前に広がるのは靄のかかったような、興味の湧かない無彩色無個性の世界に等しい教室……のはず。

しかしそこに突然降って湧いた聞き覚えのある声と、見覚えのある背格好に百合子──もとい一方通行はその美しいアルビノに一際映える真紅の瞳孔が開く感覚を脳髄でじんわり味わった。

 

「は……?」

 

思わず低い素の声が溢れる。

あわあわと混乱気味に立ち上がったのは、黒髪のツンツン頭と少し垂れ目がちな幸の薄そうな男子生徒だった。

傍目にはごく普通の一般男子高校生に映るのだが、彼女にはそれ以上の因縁がある。

 

あいつだ。

 

間違いない。夜の操車場で自分に初めての敗北をもたらした男その人だ。

何の義理もないだろうに第三位の実験用クローンを助け、百合子を叱りつけ、反射を破り、その拳をもって“計画”を御破算にした張本人。

確信が濃くなるほどに、百合子の頬にはずきりと鈍い痛みが戻ってくる。

まだ傷も癒えない鮮烈な夜の記憶が、感電のように全身を駆け巡って彼女の感情を呼び起こした。

明らかに百合子の容姿を見て唖然と驚愕している辺り、向こうも思い当たる節がありすぎるのだろう、他人の空似ではなさそうだ。

 

「上条ちゃんどうしたんです?もう、いくら鈴科ちゃんが可愛いからって揶揄うのはダメですよ!」

「あー……すみませーん……」

 

その後もあぁとかうぅとか、彼が何やら幼女教師相手に唸っていたが彼女の関心はとっくにそこには向いていなかった。

それはさしずめ、何一つとして心を動かさないはずの水面に突然小石を放り込んだような。

万が一のピンポイントをよりによって実現してくる彼の姿に百合子は僅かに俯き、薄い唇が歪むのを必死で押さえ込んだ。

うっかり気が緩んだら、それこそ昨夜の続きとばかりに第一位の顔でケラケラと笑い出してしまいそうだ。

 

「う〜ん、鈴科ちゃんの席は上条ちゃんの隣にするつもりだったんですが……なんだかイヤな予感がするのです、今回はいったん吹寄ちゃんの隣に」

 

顎先に小さな指を当て、マスコットじみた仕草で首を傾げる幼女教師を一瞥して、百合子はすたすた歩き出す。

 

「あ、鈴科ちゃ……」

 

別にいい、とばかりに言葉を遮り、それきり幼女の追い縋る声を無視して、百合子は自らに宛てがわれたらしい座席の前に立ち止まった。

斜め前で明らかに怪しそうな青髪の少年が何やら早口で呟きながら熱っぽくガッツポーズしていたがどうでもいい。

彼女の視線は、隣の席の例の男子生徒だけに向けられている。

 

「……初めまして」

「よ、よろしくぅ」

 

緊張でガチガチに固まった声で返す彼に、百合子は柔らかく色素の薄い唇がひどく甘い猫撫で声で微かに告げた。

名前の通り、淡いガラスの鈴を鳴らすような涼しい声の色。

 

「……かみ、じょォ、くン、ね」

 

真っ赤な舌の上で、透き通った言葉のキャンディを甘く確かめるような蠱惑だった。

クラスメイト達はハァー!と一様に両手で口を覆って裏声気味に眉根を下げている。

その中でたった一人、上条と呼ばれた隣の席の彼だけが蒼白な顔色でわなわなと百合子を見つめていた。

頭から爪先まで、特に顔貌は何かを確かめるように何度も、不躾なくらい必死な視線が彼女の身体を這い回るのが見て取るように判る。

椅子に腰掛けざま、百合子は足先で机の脚を軽く小突いた。

絶妙な加減で衝撃を操作して、音も重量も感じさせない静けさでこつり、と自分の机を上条の隣にぴたりとくっつける。

何食わぬ顔の動作を見咎める者はなく、背後の金髪サングラスの男子生徒が唯一訝しげに音の立たない不自然に眉を顰めていた。

 

上条の席は窓際だ。

言うなればこうして詰めてしまえば逃げ場がない。

パーソナルスペースを犯す程度の距離、上条の汗ばんだ肩がびくりと跳ねる気配がした。

面白いように焦るものだから、胸の奥がそわそわと躍る。

百合子は態とらしく机に肘をつき、退屈そうに頬杖をついた。

そのまま、伏目がちな目線だけをちらりと上条に向ける。

窺うような上条と途端に目が合った。

ふと瞼を細めると、彼は照れなのか不慣れなのか、僅かに赤らんだ頬をふいと背ける。

 

「あの、すずしな、さん…」

 

それでも背けたままではいられなかったのか、ややもして上条は意を決したような深刻な表情で百合子にぽつんと問うた。

ほとんど吐息混じりに、低く小さく、掌で内緒話の声を潜めるようにして彼が口を開く。

 

「えぇと……あのぉ、もしやまさかとは思いますが……昨日」

 

来た、と百合子は口の端を小さく引き上げた。

数秒のエアポケットのあと。

猫のように丸く曲げた、頬杖をつく指先の隙間から零れ落ちたのは、

 

「…………昼休み、屋上。聞いたンならナニするかは分かってるよなァ……三下くン?」

 

ぞっと背筋を這うような、あの夜と同じ侮蔑の声色。

煽るように問いかけて、百合子はにっこりと笑みを深めた。

儚げな印象からは意外なくらい快活な笑顔と、思考を凍てつかせる凶暴な口振りと。

五感を一致させない彼女の態度に上条はぎくりと瞠目したままぎこちなく笑う。

そんな姿がやけに愉快で、百合子は堪らずくす、と悪戯っぽく喉を鳴らした。

 

罰ゲームなんて吐き捨てたが前言撤回だ。

これだけは唯一、隣で頬を引き攣らせるコイツだけは、面白いプレゼントとして受け取ってやってもいいかもしれない。




読んでいただきありがとうございました
本当に一方通行ちゃんが鈴科百合子ちゃんになって本編に出てきたら楽しそうですね
もし良ければ評価や感想いただけると嬉しいです、よろしくお願いします!

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