全員覚悟ガンギマリなエロゲーの邪教徒モブに転生してしまった件   作:へぶん99

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一四〇話 瓜を破る

 

 風を操作してポークを殺すことは、容易いとまでは言わないが可能である。

 しかし、メタシムの住人を人質に取られた状態で完遂できるかと問われれば否だ。ポークは生き残るために、敵を殲滅するために、容赦なく最善手を打ってきた。

 

(まさか、ポークが盾にしているのはマリエッタの幼馴染のアルフィー? そんな惨いこと、あっていいはずがない……!)

 

 セレスティアは一度ポークから距離を離す。地面に倒れ独り言を呟くマリエッタの首根っこを掴み、背後の安全な場所に放り投げた。

 マリエッタの目に映らないところでアルフィーごと貫いてしまえば良いのではないか。そんな余計な思考が脳裏を過ぎると同時、少女の首根っこを掴んでいた手に霜が付着しているのに気づく。目を凝らしてみると、白く小さな氷の結晶がマリエッタの周辺を舞っていた。

 

「これは、氷の魔法……?」

 

 氷の結晶に指で触れると、マリエッタの頭部が微かに反応した。「あぅ」と小さな呻き声を漏らして、再び俯いて涎を垂れ流し始める。偶然かと思って、もう一つの氷の結晶を掬ってみると、氷の結晶への刺激に呼応するようにマリエッタの身体が動いた。

 

「…………」

 

 ――どういう原理かは分からないが、周辺に浮遊する氷の結晶がマリエッタの感覚器官のようになっているらしい。アルフィーを守ろうとしたか、ポークを殺そうとしたのか……いずれにせよ、心が破壊される寸前に振り撒いたのだろう。

 とするなら、マリエッタの見えないところでアルフィーを殺すという作戦は使えなくなった。これ以上マリエッタが壊れてしまえば、敵味方関係なく破壊を撒き散らす不死の厄災と化す恐れがある。

 ならば、アレ(・・)を使うしかないのか。セレスティアは首筋に垂れた一筋の汗を風の魔法で拭うと、ポークに向き直った。

 

「ポーク・テッドロータス。わたくしはどうやら貴女のことを見誤っていたようです」

「うん?」

「マリエッタを同類(・・)に引きずり下ろすために、あのようなことをしたのでしょう。哀れな女(ひと)……」

「この期に及んで戦いをやめようとか言っちゃう甘さを指摘してやっただけだよ。実際、その甘さに付け込まれて頭ぶっ壊れるようなら世話ないね」

「ポークは邪教の中でも話が通じやすそうだと一時期勘違いしていましたが、やはり違ったようです。教祖が邪悪なら、手下も同類の悪。もうどんな言葉も届かない――死を以て救済とするしかない哀れな存在のようです」

 

 セレスティアの髪がざわつく。艶やかな銀髪を蝕む錆のような部分がじわりと広がって、彼女の髪をより黒く染め上げる。彼女の周囲を廻る空気は重く澱み、黒い帯を引いた疾風が渦巻き始めた。

 その闘争心と殺意を剥き出しにしたセレスティアを見てポークは度肝を抜かれる。彼女の姿は洗脳状態のセレスティアとそっくりだった。

 

「驚きましたか? 喜びなさい。あの頃(・・・)のわたくしが戻ってきたのですよ」

 

 

☆

 

 

 幻夜聖祭直後、洗脳の解けたセレスティアが皆と話す機会があった。

 セレスティアは仲間達に告げる。自分には正教徒を殺した記憶が残っている。闇に堕ちた者は金輪際魔法使いとして力を振るうべきではない、と。同時に、メタシム奪還作戦を機に幹部の座を資格ある者に譲り、退くべきなのではないかと告げた。

 

 そんなセレスティアの言葉にサレンが即答する。

 君以外に誰が務まる? と。

 

「セレスティアよ、四年前の戦いを忘れたか? あの時から我々の心はひとつ……奴らを駆逐するまで一心同体と誓い合ったはずだ」

 

 ――四年前、創光暦一三一五年。

 ケネス正教とアーロス寺院教団が三度目の大衝突を起こし、大規模戦闘により国土の一部が焦土と化した。正教幹部の被害はなく、邪教幹部二名の討滅に成功した。

 だが、正教サイドも完全勝利というわけにはいかず、ポーク・テッドロータスの魔法の残滓により正教兵士数千人がゾンビと化した。

 

 当時はポークの魔法の詳細が掴めておらず、正教幹部達はどこまでを線引きして人間とゾンビを殺せば良いのか分からなかった。結果的に無傷の兵士達をゾンビと戦わせ、毒を感染させてしまい、被害を拡大させた。

 大混乱の中、感染者と非感染者を見境なく殺すことで場を収束させようとサレンは決断し、幹部達はそれを実行した。当時も幹部であったセレスティアは、かつての仲間を一人一人葬った。

 

 彼らは殺される前にこう言った。

 泰平の世のため後のことはよろしくお願いします。辛い役目を負わせてしまって申し訳ない。憎き敵に裁きが下ることをあの世で期待しております。ようやく仲間の元へ行けます。自分の番が来ただけです。必ずこの魔法の絡繰を解き明かし、アーロス共を打ち負かしてください。

 

 各々、自らの手で正気の仲間を殺したことを覚えている。最前線の仲間を感染者・非感染者関係なく殺戮するというのは、当時の判断材料からすれば最善の選択ではあったが、幹部達の心に深い影を落とす結果となった。

 

「特定の誰かが悪いのではない。苛烈な殺し合いを巻き起こすこの世界の構造が悪いのだ。むしろ、君達は最も辛い役目を天から授かり、誰にもその役目を引き渡さなかった。皆の心が強く気高いことはこの場の誰もが知っている」

 

 正教幹部達の顔色に苦いものが込み上げる。

 あの悲劇を忘れてはいない。セレスティアもそう思う。だが、今回は自分のミスがきっかけで最悪の事態を引き起こした。あの時とは何もかも違うではないか。

 そんなセレスティアの顔色を見てエヌブランが言う。

 

「セレスティアの性格じゃ気にするなって言っても無理な話なのは分かりきってるけどね、あの時、きみを一人で行かせたアタシらにも責任はあるんだよ」

「…………」

 

 エヌブランの指摘に更に黙り込む。彼女の言う通り、何を言われても納得できないのだろう。深い自責の念が心に根を張っている。

 そんな折、建物の影からオクリーとヨアンヌが姿を現す。どうやら物陰で盗み聞きしていたらしい。

 

「セレスティアがああなったのは俺が原因だよ。正教徒殺しの数で言ったら、言うまでもない……。というか、現状の混乱の原因は大抵俺のせいだ」

 

 ヨアンヌはオクリーの袖を引いて、背中に隠れて小さくなっている。

 いくらでも二人の過ちを指摘することはできた。だが、セレスティアはそうしなかった。他の正教幹部も同じ気持ちだった。

 

「誰のせいだ、何のせいだと掘り返していくと、収集がつかなくなる。だから、人を恨むな。構造を恨め」

 

 それほど自分は賢くなれない。セレスティアはそう思った。

 

 

☆

 

 

 黒い靄のような澱みがセレスティアの足元から奔ってくる。これまでの透き通るような冷たい風の感覚はなく、ひたすらに息苦しく重々しい雰囲気がにじり寄ってきた。

 洗脳状態のセレスティアが風の魔法を振るった時のような感覚。アーロスの闇の意思が滲んだような、全く別物の魔法の雰囲気を感じ取る。

 

「ふ〜ん。洗脳された時の記憶と経験はバッチリ残ってる感じだ」

「その通りです。わたくしは一度大きな間違いを犯しました。だからこそ二度と間違えないよう、護るべきもの達のために力を振るうのです」

「キミも綺麗事を言うのか。優しさに付け込まれて、マリエッタみたいに壊されちゃうよ?」

 

 ポークの煽りを意に介さず、セレスティアは邪悪な笑みを強める。

 この闇の形態は、殺意と悪意の表出を伴いながら常軌を逸した力を引き出す。過度な使用は精神に悪影響を及ぼすことから、サレン・デピュティに「一日六〇秒を上限として使用を許可する」との言伝を授かっている。

 

 セレスティアの黒い靄はポークの背後に回り込んでいた。足首から射出した棘で靄を振り払おうとするが、空気と一体化しているためすり抜けていく。

 

 ポークは洗脳状態のセレスティアの魔法を見たことがある。邪教幹部七人の前で披露会が催されたため、しかと覚えていた。

 この黒い靄には強烈な凝固作用があるのだ。いや、以前から空気を『固める』指向性の能力は有していたが、黒い靄はそれが顕著である。

 粘土を詰めた土管の中に人間を埋めるみたく強烈な力が働いて、黒い靄の中にいる者は身動きが全く取れなくなるのだ。黒い靄の中で完全に固定されると、密閉空間の圧迫で肋骨が固定され、肺が膨張せず呼吸できなくなり、大抵死に至る。ポークはしばらく呼吸しなくても平気だが、如何せん拘束力が強すぎる。マリエッタの氷結と同等かそれ以上にやばい。

 

 実際、その『固定化』は強力な手札として対集団戦に重宝した。結果的に正教幹部に使われることはなかったが、あのスティーラ・ベルモンドでも拘束突破に時間を要していたことから、対魔法使い戦でも優位に働くとされた。攻撃面での使用はもちろん、頑強な防御壁としての使用も可能であったため、当時の彼女は邪教幹部内でも上位の実力を有していた。

 

 ――その能力が自分に向けられている。ポークはその事実に冷や汗を垂らした。仲間で良かった、などと披露会の最中に思った自分があまりにも滑稽である。そりゃ、もう一度敵方に回ると考える方が深読みしすぎであるが――そもそもアーロスの洗脳を解けた理由がまだ分かっていないのも混乱を加速させた。

 

 それに、洗脳が解けてからは黒い靄を使えないものだと早合点していた。当時の彼女自身が「洗脳を経て新たに身につけた力です」と言ったほどなのだから、洗脳解消と共に消えるものと勘違いしても仕方ないだろう。

 正気に戻ってきた際、意志の力で黒い靄の力を持ってきたのかもしれない――なんて意味のない推論を考えて、ポークはアルフィーを盾にしながら距離を離していく。黒い靄はしつこく纒わりついてきた。

 

(――けど、最初から使ってこなかったってことは、何かしらのデメリットや制限があるはずだ! 一先ずは回避を優先するっ!!)

 

 『擘柳(はくりゅう)“天(あま)つ風(かぜ)”』のように“魔法能力を利用して新たな機構を形作る”発想を模倣し、ポークは棘を操り投石器のような機構を生み出す。足元に作り出した棘の投石器を足掛かりに、己の身体を遥か遠方へ跳ね飛ばした。

 風を切って空を駆け抜け、新たに生み出した棘の翼で空を飛ぶ。しかし、短絡的に空中へ逃げ出したのは悪手だった。空はセレスティアの領域――黒い靄はポークを追跡し、その背中を捉えにかかっている。

 

「そのゾンビを盾にしたところで無駄なことです! 死に晒しなさい!!」

 

 空中でアルフィーを盾にしようと振り向くポーク。空を自在に浮遊するシスターが黒い靄を疾風に乗せ、遂にポークを完全に包み込んだ。鎌鼬が翼をもぎ取り、高空での自由を奪い去った。

 ポークは咄嗟に太腿の肉を千切って地面へ落とそうとしたが、落下した肉片は速度をゆっくりと緩め、周辺の物質ごと時間を止められてしまったかのように、空中でその動きを静止させた。

 

「……!?」

 

 傷口から滲む血も滴ることはない。黒い靄が世界を固定していた。

 いつの間にか、指先はおろか全身身動きひとつ取れなくなっていた。

 

「ぐおおッ……! こ、んなモノぉぉ……!!」

 

 ポークもいよいよ周辺の空気ごと固められたと気づいて慌てふためく。首筋に血管を浮かび上がらせながら渾身の力で藻掻くが、全く動かない。

 コンクリートで固められたみたいに隙間がない、と表現すれば良いのだろうか。四肢を稼働させるための振りかぶり(・・・・・)や反動をつけるための余剰が全く存在しないのだ。

 

 セレスティアの術中に嵌ったポークは、息苦しさと苛立ちのあまり顔を真っ赤にしながら呻いた。

 ポークの身体のあちこちから、筋組織がぶちぶちと断裂する音が響き渡る。果たしてその異音は空気の圧迫による圧壊が引き起こす音か、魔法使いの尋常ならざる出力(パワー)が要因の自壊の音なのか。

 

 歯を食い縛りながら数瞬だけ逡巡したポークは、全身のあらゆる部位から棘を射出して抵抗を始めた。

 だが、棘が割って入る余剰の空間は封殺されている。それでも無理矢理棘を生み出そうとしたから、棘の強度に圧迫されたポークの表皮が裂けて、瞬く間に彼女の全身が朱に染まった。

 

「諦めなさい!! そして、メタシムの住民を地獄から解放しなさいッ!!」

 

 石臼を挽くような音を立てながら、ポークの肉体が黒い靄に圧縮されて縮んでいく。反撃を一切許さぬ黒い靄の『箱』が小さくなる度、ポークは全身から激しく出血した。

 射出する棘の力と黒い靄の力を釣り合わせようとポークは抵抗する。奥歯を噛み砕きながら魔法を駆使し続ける。しかし、大気圧の力すら操るセレスティアには敵わない。

 遥か高空での処刑。黒い靄は青い空を刳り貫いたように四角の形状へ変化しており、その内側に閉じ込められたポークが脱出できそうな気配は微塵もない。大勢は決したかのように思えた。

 

 しかし、セレスティアが黒の力を解放できる限界時間が刻一刻と迫っていた。

 

(ちいっ! あと一〇秒もないっ!! 早く倒さないと正気が――)

 

 六〇秒を超えて力を駆使すると、悍ましいほどの悪意が心の底から湧き上がる。その悪意は精神と肉体を支配し、積極的に仲間を傷つけたり破壊を撒き散らしたりする。やりたくない行動を優先して取ってしまうのだ。

 一度悪意の操り人形となったら、もう止められない。以前はクレスや仲間達がいたから正気を取り戻せたが、今はそうもいかないだろう。

 

 実の所、黒の力を解放したセレスティアこそ追い詰められていた。

 

 激しく抵抗するポークを一〇秒以内に詰め切らなくてはならない。至難の業だ。黒い靄の『箱』は徐々に小さく押し潰されていくが、内部のポークが一層激しく抗ってくる。

 もはや深紅となった『箱』の中から、肉が潰れ骨が砕け、それでもなお生きようとする女の金切り声が響いていた。

 

 ――六〇秒に至るまで、残り三秒。

 

 目前の『箱』の大きさは縮み続け、握り拳大のサイズまでになった。これまでのペースからいって、間一髪コンマ一秒で間に合う。

 アルフィーの死体を囮に取られた状態から一時はどうなることかと思ったが、起死回生の一手でどうにか打開できそうだ。マリエッタの無念はここで晴らす。

 

「――はああああぁぁぁぁああああああああああああああああっっ!!」

 

 残り一秒。両手のひらで押さえつけるようにして、ポークの入った箱型の空間を押し拉ぐ。敵が限界を迎えたのか、中身の詰まった果実が潰れるような、ぐじゅる、という音がした。

 手応えが軽くなり、黒い『箱』がみるみるうちに小さくなる。

 

 ――勝った。

 そう思った瞬間、視界の端で何かが蠢いた。

 

 僅かに気を取られる。

 直後、それは蛇の如くセレスティアに襲いかかった。

 

「――!?」

 

 襲いかかってきた謎の物体――否、遠隔操作されたポークの棘がセレスティアの胸部を貫き、取り返しのつかない一秒の停滞を齎した。

 

 六〇秒が経過する。

 

「しまっ……」

 

 意思の残滓で圧殺してやる。そう思ったのも束の間、心の中に底冷えした風が流れ込んだ。

 

(――――あ)

 

 拒絶しがたい嘔気がせり上がってくるみたいに、人の心を容易にへし折るモノがセレスティアの芯を貫く。

 その怪物の名前は、底知れぬ人間の悪意。

 かつてのセレスティアを支配していた悪の力が再び姿を現した。

 

(まずいッッ!!)

 

 セレスティアは全てに優先して、黒の力と心とを切り離す。一瞬だけ気を失ってしまって、己の両腕を抱きしめて自分自身が正気であることを咄嗟に確かめた。

 しかし、それが致命的な隙となった。

 

 ――黒い『箱』の中にいたポークは?

 

「うっ――」

 

 顔を上げる。

 視界がぶれて、左側が欠損した。同時、側頭部に衝撃が走る。

 動揺のため風が操作できず、地面へ一直線に吹き飛ぶ。

 地面に叩きつけられ、幾度もバウンドする。ようやく勢いが収まったかと思うと、ポークの棘が突きつけられた。

 

「動くな」

「……!」

 

 不可視の『擘柳(はくりゅう)“天(あま)つ風(かぜ)”』を展開しようとしたが、絶望的な光景を目にして手が止まる。

 ポークが廃人同然のマリエッタやアルフィー含めたメタシムの住人を棘で吊し上げ、一分の隙もない盾としていた。

 

 セレスティアは攻撃を躊躇った。喃語のような言葉を呟くマリエッタはもちろん、メタシムの住人をぎちぎちに詰められて盾にされている。攻撃すればマリエッタかメタシムの人々に当たる。それに、マリエッタの前でメタシムの住人を殺したくはないという感情も相まって、動きを止めざるを得なかった。

 唇を結んで打開策を模索するが、悪意の残滓により思考が纏まらない。

 

「さっきはよくもやってくれたな、クソ野郎が!!」

 

 ポークは怒りの表情でセレスティアの鳩尾に強烈な蹴りを入れる。爪先が深く入り、内臓が破裂。肺の中から全ての酸素が吐き出され、セレスティアは思わずその場に蹲った。咳き込む彼女の銀髪を掴み上げ、ポークは渾身の殴打を叩き込む。

 頬の肉が抉れ、地に伏せられてしまう。横になったセレスティアの細い腹を、ポークの長い脚が幾度となく甚振る。

 

 しばらく反撃もできなかったセレスティアは瞳に叛逆の光を宿しながら、口端から垂れた血を舌で舐めとった。蹴り疲れたポークは肩で息をしながら激しく喚く。

 

「何だよその目はっ! ハッ、無様だなセレスティアぁ!? このボクに反撃もできないなんてさぁ!!」

 

 足の裏でセレスティアの端正な顔を踏みつける。頬骨が砕け、眼球が破裂する。シスターの身体が横倒しになって地面を転がっていく。だが、ポークの棘に四肢を捉えられて、付近まで連れ戻される。

 

 そうしてしばらく一方的な攻撃が続いた後、少し気が晴れたようなポークが厭らしい笑みを浮かべて言った。

 

「あ、いいこと思いついちゃった。セレスティア、殺す前にいい思いさせてやるよ」

 

 ポークが指を鳴らすと、ぐったりとしたセレスティアにメタシムの住人達が群がり始める。

 

「な、何を――」

 

 言うより先に、棘に拘束された両脚が不自然かつ強制的に開かされていくのに気づく。

 ――まさか。セレスティアはこれから自分が何をされるのか察して絶望した。

 

「ボク、ゾンビとエッチするのが好きなんだけど――ゾンビと他の人がヤッてるところを見るのも好きなんだよね」

 

「――下衆が」

「ハハッ! いい表情(カオ)だよセレスティア! 唆るねぇ……」

 

 ゾンビ共がセレスティアの白い肌に触れる。表皮が捲れ上がった手で太腿や二の腕を摩る。股を閉じようと両脚に力を入れるが、四肢を拘束するポークの棘が数を増やしたことで身動きが取れなくなった。

 陶磁器のように美しく透き通った魅惑の肢体。女性にしては長身たる一六八センチの身体が死人共の中央に組み伏せられる。

 ポークの指示なのだろう、ゾンビ共は好き勝手にセレスティアの肉体を蹂躙した。乾燥し切った手や腐った唇が、女の胸を、乳房を、腰を、臍を、臀部を、脚を、内腿を、幾度となく弄ぶ。全身の肌に蟲が這いずり回っているような感覚が襲ってきて、強烈な寒気と共に鳥肌が立つ。

 そして、セレスティアの臍の下に死者の陰茎が当たった。冷たい剛直が当てられて、セレスティアの心が激情により破壊されそうになった。考えうる限り最悪の方法で尊厳を犯されようとしている。怒りと絶望と情けなさのあまり、セレスティアの喉奥から震えた声が漏れ、瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。

 

「き――きさま……ッッ!!! 自分が何をしているのか、分かっているのですかッ!!?」

「ン〜? ゾンビと粘膜接触したらみんな毒で死んじゃうから、ゾンビと最後(・・)までやれる人間なんてそういないだろうなぁって思ってるよ」

「ぐぅぅッ……!! ――マリエッタ!! マリエッタあぁ!! 起きなさいっ!! このままでは――わたくしは――貴女含めて全員殺さなきゃいけなくなりますっ!! だからどうか!! 正気をっ!!」

 

 ゾンビ共にセレスティアを弄ばせながら、ポークは息を整えている。その瞳はセレスティアの局部や表情へ向けられながらも、冷ややかな光を孕んでいる。事が終われば直ぐにでも殺すつもりらしい。

 セレスティアが少しでも抵抗の意志を見せようとしたところ、ポークはマリエッタの腕を引き千切ってセレスティアの方へと放り投げた。

 

「黙って受け入れろよ。前もそうしただろ?」

 

 マリエッタは腕を千切られても正気を取り戻さない。

 セレスティアは己の尊厳を捨ててでもマリエッタの復活に賭けるが、時間をかければかけるほど、この悍ましい光景がマリエッタの心に刻みつけられてしまい、状況が悪化していくと分かってしまった。

 ――起きろ、マリエッタ。これ以上は貴女が耐えられない。掠れた声で訴えかける。

 

 氷の結晶が砕ける。

 

 メタシムの住人の一物がセレスティアの瓜を破る寸前――

 

 同時刻に覚醒したとある神父(・・・・・)の光芒がマリエッタの精神に干渉した。

 

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