if シリーズ ナナリーの令嬢修業 平行物語   作:露草ツグミ

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『氷菓子は甘く溶けて』後編

 

 

 公爵家の図書室にはたくさんの書棚が立ち並んでいた。書棚にはドーランはもとより、大陸中の国々の歴史や地理、経済や文化に関する本がそろっている。

 魔法に関する本は言うまでもなく、学問や芸術に関する本まである。まるで学校の図書室のようだ。

 

 図書室には白い手袋が用意されており、手袋をはめてから書物に触るようアルウェスに指示される。汚れ防止と、本によっては魔力に反応して怪我をすることもあるからだという。

 それらは魔本と呼ばれ、魔術書の仲間ではあるのだが、一般的には流通していない。魔法学校の図書室では閉架書庫に所蔵されていると聞いたことがある。

 

 アルウェスは騎士団の手袋をして本を読んでいた。私が着ているハーレの制服には残念ながら手袋までは付いていない。

 ハーレの制服は正確には防具だ。騎士団の制服もただの制服ではないのだろう。ハーレよりも過酷な仕事なのだから。

 

 腕を上げてひらひらした袖を眺める。どんな魔法も効かない無効化衣装。この制服の機能は反則に近いと思う。

 お肉の生成の研究が最優先だけれど、将来的にハーレのギグネスタイ・ネロのような魔術具を研究するのもいいかも、などと私は頭の片隅で思った。

 

 図書室の中を隅々まで見て回り、参考になりそうな本を探した。読みたい本が何冊か見つかったが、古くて貴重な本を借りるのは精神衛生上よろしくない。すると、複製した本をアルウェスが持っているというのでそちらを借りることにした。

 

 アルウェスは、図書室の本は必ず複製してから読んでいたそうだ。かなり労力がかかるのではないかと思うが、使用人にも手伝ってもらったからそれほどでもなかったと彼は笑った。

 

 子供の頃は本を燃やさないか不安で、大人になってからもその習慣が抜けなくて、今でもちょっとした魔力の暴走で紙を燃やす危険があるからこれでいいと語った。

 

 

 アルウェスの私室は時の番人や殿下たちと過去から戻ってきたときに一度入ったことがある。壁一面に本棚が並んでいたのが印象に残っている。あのときは色々ありすぎて本どころではなかったけれど。

 

 過去に戻り魔物を捕え、怒涛のように現代に帰ってきた。寝台で寝ていたアルウェスの真上に皆で落っこちて、真っ黒に変色したアルウェスの髪と瞳を見て戦慄したのを忘れてはいない。

 

「あれ? こんな部屋だったっけ? 本棚がもっとあったような……」

 

 案内された部屋は私の記憶にある部屋と違っていた。窓と寝台以外は本棚で埋め尽くされていた印象があったが、この部屋はそうではない。

 窓際には重厚な木製の机があり、仕事や勉強用のスペースになっている。入り口側には彫りが美しい長椅子やテーブルが置かれていて、この部屋だけで私の実家の居間に匹敵する広さだ。

 

「君が過去から戻ってきたときに飛び込んできたのは僕の寝室だよ」

 

 アルウェスが奥にある扉を指差した。どうやらその扉の先が寝室らしい。子供の部屋(年齢的にはもう子供ではないが)なのに何部屋にも分かれているなんて、さすが貴族は違う。

 

「──入る?」

 

 銀縁眼鏡の奥から、じっ……とアルウェスの朱赤(あか)い瞳が私を見つめる。感情のこもらない、鋭い眼差しはどこか怒っているようにも感じられる。

 

「入ってもいいの?」

 

「いいけど──男の寝室に入る意味わかる?」

 

 何を確認したいのかよくわからない。本があるから部屋に来るか、と言ったくせに、本当は入ってほしくないみたいだ。

 

「嫌ならいいわよ」

 

「僕は嫌じゃないけど?」

 

 アルウェスが寝室の扉を開け、私は中を覗き込む。一歩、二歩と寝室に入り、室内を見回した。

 

「本ばっかり……」

 

「誰かさんに負けないために必死で勉強してるから」

 

「へえ?」

 

 コイツにも負けたくない相手なんているのか。いつも涼しい顔で当然のように首位をかっさらっていった奴が。始祖級の魔法使いで宮廷魔術師長、騎士団の隊長もしている。ドーランの魔法使いの頂点にいるようなものなのに。

 

 いつか……じゃない、近いうちにも、いやお肉の生成で私はアルウェスに勝つんだ。軽く拳を握って本棚に向き直る。

 

 私の背後で静かに扉が閉まった。足音が近づいてきて、背中にアルウェスの気配を感じたときには後ろから大きな身体に抱きすくめられていた。

 ふわっとお日様の匂いが鼻腔をくすぐり、力強い腕が私を包み込む。騎士服の厚みのある布地の奥から温かなぬくもりが伝わってくる。

 

「ちょっ……アルウェス!」

 

 さらに腕の力は強くなる。背中にアルウェスの厚い胸板が感じられる。逞しくて長い腕は私の体をがっしりと包み込んで逃げられそうにない。

 

「ナナリー……男の誘いに易々(やすやす)と乗っちゃ駄目だよ」

 

「何を言って……!」

 

「君は……甘いね」

 

 アルウェスの熱い吐息が私の耳をかすめる。肌が粟立ち、悪寒に似た、でも恐怖や不快とは違うぞわぞわした感覚が背筋を走る。

 急激に早まる鼓動の音が耳の奥で大きく聞こえている。柔らかく、湿ったものが耳に触れた。それはアルウェスの唇で、アルウェスが言葉を発するたびに吐息が耳を刺激する。身体がゾクゾクして腰のあたりが震えてくる。

 

 私の顔は耳まで赤くなっているだろう。なんでこんなことになっているの? さっきまで魔法の研究の話をしていたのに。こんな気配は微塵も感じられなかった。

 

「嫌ならちゃんと抵抗して?」

 

 抵抗……そうだ、何でされるがままになっているのか……。

 私は腰に下げた女神の棍棒(デア・ラブドス)に手を伸ばし、大きく息を吸った。空気とともに喉の奥に彼の匂いが入ってきて、引き上がった肩が止まる。アルウェスの腕を引き剥がそうとしていた手にも力が入らない。女神の棍棒に手をかけたまま、動くことができなかった。

 

「食べられちゃうよ? ……僕に」

 

 言うや否や、私の耳をアルウェスが食んだ。

 

「ひぁっ……! あぁっ……」

 

 全身がぶるりと震える。耳に触れる舌や唇に感覚が支配されてしまったようだ。自分の体を抱き締めて、ビクッビクッと痙攣するように震えている。

 

 アルウェスは手袋を乱暴に脱ぎ捨てると、私の首元の髪を払って唇を押し当てた。唇が触れるたびに声をあげたくなるような衝動に襲われる。皮膚が唾液で濡れ、また柔らかな唇に食まれる。

 お腹に回された腕にギュッと力がこめられた。抜け出そうともがいて、身をよじると大きな手に顎を掴まれる。アルウェスの指が私の頬を滑り、ゆっくりと唇をなぞった。

 人差し指で執拗に私の下唇を揉む。爪の先が歯に触れて、閉じた歯をこじ開けようと引っ掻きはじめた。

 指先で私の唇を(もてあそ)びながら、頭に、耳に、首筋に、アルウェスの口付けが繰り返し落とされていく。無意識に逃げ出そうとする身体をがっちりと腕で捕らえて、私の耳たぶを()んだ。

 

「っん……あぁぁ……!」

 

 吐息とともに恥ずかしいほど甘ったるい声が漏れる。その隙に指の侵入を許してしまった。アルウェスの指が歯列をなぞり、舌の上を滑る。

 

「あ……ぁが……」

 

 指を噛むことはできないと思った。傷をつけないように歯で指を挟むと、それ以上指が動くことはなかった。

 舌の上にアルウェスの指を感じながら、口の中に唾液が溜まっていく。息が苦しい。どうにかしてこの指を追い出さなければ。

 

 腕力ではアルウェスに敵わない。魔法を躊躇ってはいられないと決断した刹那、チュッと音を立ててアルウェスが首筋に吸い付いた。奇妙な感覚と共にちくりと刺激が走った。咄嗟に声と唾液を飲み込んで、その拍子にちゅうと指をしゃぶってしまった。

 

 声にならない悲鳴をあげて私はパッと口を大きく開けた。するりと指が抜けていく。濡れた指先が顎先を伝い、喉元をなぞり、制服の襟の合わせを引っ張る。

 

 アルウェスの熱くて荒い吐息に何度も耳を撫でられて、ゾクゾクと震えが止まらない。「……っはぁ……あぁ……」熱い吐息が私の口からこぼれ落ちて、頬が赤く上気してくる。

 

 涙が滲む視界の端で艷やかな金髪が揺れている。こんなことをされたのに怒ることができない。怒りや嫌悪感を感じていたら、この手を振り払えるのに。 

 

 突然、背中にひんやりと冷たいものが触れた。アルウェスは体を強張らせて、私を抱き締めていた腕から力が緩んだ。

 

「ハァ……」

 

 深い溜め息が私の口からこぼれ落ちて、アルウェスがこつんと私の肩に額を載せた。

 

「ごめん……」

 

 身体を締め付けるものがなくなり、私は大きく息を吐き出した。目を瞑って深呼吸を繰り返す。呼吸が楽になっても動悸は鎮まらなかった。

 

 私の身体にゆるく回されているアルウェスの腕。さっきは必死に振りほどこうとしたけれど、この温もりに包まれるのは嫌ではないのだと気づかされる。 

 

「……嫌だった?」

 

 そんなこと訊かないでほしい。

 何と答えればいいのか。まだ頭の中は混乱しているのに。突然豹変したアルウェスに驚いて──どうしたらいいのかわからなかった。

 強くて、優しくて、とにかく熱い。ゾクゾクとする慣れない感覚に身体が作り変えられそうで怖かった。

 あれが欲情に駆られた行為だということは私にもわかる。アルウェスが──私に? 

 

「……嫌かどうかは……わからない。でも…………初めてのことで……怖かった……」

 

 涙が滲んだ瞳でアルウェスを見上げた。アルウェスが軽く瞠目し、長い指で優しく涙を拭ってくれる。

 

「怖がらせて……ごめんね」

 

「……うん」

 

「凍らせてもよかったのに」

 

「…………できなかったのよ」

 

 アルウェスの腕に力が籠って、きゅうっと抱き締められる。布越しに伝わる体温と、優しく触れ合う彼の胸は心地が良かった。

 

 

 *

 

 

 クリスタルの首飾りが冷たくなり、僕の頭も冴えていく。腕の中の彼女に何をしたのか自覚して愕然とする。

 

 ゆっくりと君との関係を進めていくつもりだったのに。己の自制心のなさに呆れてしまう。不埒な男だと罵倒されても何も文句は言えない。拘束するように抱きしめていた腕を緩めることはできても、ほっそりとした愛らしい身体を己の意思で引き剥がすことはできなかった。

 

 水色の髪に頬を滑らせて君の肩に額を預ける。何の弁解にもならない言葉を僕は吐き出す。君を傷つけても自分の欲望を優先させる僕を詰ってくれて構わない。

 

 どうしたって僕は君を離すことができないから。どうか君から振り払ってくれないだろうか。

 

 

「ねぇ、さっき冷たくなったの……クリスタルの首飾り?」

 

「そう。僕にかかった魔物の呪いが発動しそうになると魔具が反応するんだ」

 

 ナナリーは顎先に手を当てて考えこみ、何かに気づいたようにハッとする。

 

「もしかして、魔物の魔力の暴走で私を襲いたくなった……とか?」

 

「…………」

 

 「襲う」の意味が完全に違う。ここは僕の寝室で、君は僕の腕の中にいるのに。無意識に話を逸らそうとしているのか、それともいつものように突飛な思考で斜め上の結論に至ったのか。

 

 このまま誤解しておいてもらった方がいいのだろうか?

 

 僕自身、これが魔物の影響なのかわからない。ナナリーと二人きりになると己を制御するのが難しいのだけは確かだ。

 

 君は心配そうに僕を見上げる。その唇に吸い付きたい欲望が僕の中で蠢いている。僕がいつも君に対して悩ましい気持ちになっているなんて、きっと毛筋(けすじ)ほども気づいてはいないだろう。

 

「……魔物の呪いを解く方法は見つかっているの?」

 

「君のクリスタルの首飾りが一番効いてるよ」

 

「クリスタルの首飾りが?」

 

 僕は嘆息し、ようやくナナリーを抱きしめていた腕を解いた。心臓付近の肌に直接触れるよう身に付けている首飾りの鎖を外して服の下から取り出す。

 

 この首飾りはクリスタルと白金で作られた魔具だ。ナナリーの使い魔であるブラン・リュコスが絶対防御形態になったときのクリスタルから作られている。

 

「クリスタルが濁ってきてるのがわかる?」

 

 ナナリーがこくんと頷く。僕は指をパチンと鳴らして変身術を解いてみせた。髪の色は金から黒に変わったが、瞳の色に変化はない。禍々しいほどの漆黒に塗り変えられた髪は普通の黒髪になり、光が当たれば艶が出る。よく見れば明るい金色の髪も混じっていた。体内に潜む魔物の魔力が減っている証左だ。

 

「髪の色も明るくなってる?」

 

「うん。このクリスタルの魔具は魔物の呪いを抑制するだけじゃなくて、魔力も吸収してくれる」

 

「そうなの?」

 

「だから心配しないで。ありがとう、ナナリー。君のおかげだよ」

 

 ナナリーを守るために魔物の呪いを引き受けたつもりだった。自分でどうにかできると思っていた僕は自惚れていた。僕にできたのは呪いに飲み込まれないように抵抗するだけ。魔物の呪いを解くこともできず、暴走を抑えきれず、ナナリーの力に救われている。

 

 とうてい君には敵わない。それが悔しくもあり、嬉しくもある。僕は素直に君に称賛を贈る。いつまでたっても君は憧れの存在で。それでいて僕は君を渇望している。仄暗い情欲とともに。

 

 感情がすぐに表れるはつらつとした頬。僕の腕にすっぽりとおさまってしまう華奢な身体。ほんのりと色づいた柔らかな唇。少し癖のある、触り心地の良い水色の髪。彼女に触れることが許されるたび、さらに深く、誰よりも近くと湧き上がる欲望に歯止めがきかなくなっているのではないかとも思う。

 

 滑らかで新雪のように白い肌には僕が付けた痕が赤い花びらのように残っている。消してあげなくてはという理性と、このまま残しておきたい欲の(はざま)で揺れている。

 

 君と僕では天と地ほども違うのに。君は無垢で純粋で──僕は汚らわしく、抱えてきた想いは酷く重い。僕が欲望のままに振る舞えばきっと君を潰してしまう。澄み切った美しい空から君を淀んだ地に引きずり堕とすことになるだろう。

 

 けれども、僕はもう君を手放すことはできない。

 

「何を一人で考え込んでるのよ!」

 

 急に顔がひんやりとする。ナナリーが手の平に氷を作って、僕の頬と額に当ててきたのだ。

 

「冷たい」

 

「頭冷やしなさいよ。魔物の呪いを解けばいいんでしょ?」

 

 僕の熱を冷ますにはこんな氷じゃ足りない。頬は冷たくなるのに、身体はますます熱くなる。君が触れると内側から熱くなってしまう。

 

 ぐいっと編んだ髪を引っ張られる。鼻先が触れそうなほど近くに翠色の強い瞳がある。

 

「絶対に、魔物を追い出すんだから」

 

「……うん」

 

「アルウェスならできる。私も手伝うから」

 

「うん」

 

「魔物の巣窟に討伐しに行くんでしょ? 魔物に呪われる人も出るかもしれない。きっとアルウェスの経験が役に立つわよ」

 

「そうだね」

 

「私があんたを負かす前に魔物に負けたりしないで」

 

「うん」

 

「ヨボヨボの老爺になるまで、ずっと喧嘩しながら一緒に歳をとっていくんでしょ?」

 

「──はい。誓います」

 

「は?」

 

 ナナリーの手首を優しく握って、睫毛を伏せて赤く色づいた唇に僕の唇を重ねた。触れるだけの口付け。離れ難くて、つい長めになったのは許してほしい。顔を離すとナナリーは目を見開いて固まっている。

 

 僕にとって懐かしい、とても大切で大好きな言葉。僕を僕として生かしてくれたのは君だよ、ナナリー。大きな君がくれた言葉が小さな僕の希望になった。お姉さんと小さな僕のか細い絆。何もできなかった小さな僕は、その絆を繋ぎ止めようと必死に努力して、そして今の僕がいる。

 

 隣の席の女の子に恋した僕はただの馬鹿な男でしかなかったけれど、君はそんな僕を真っ直ぐ見つめて好きだと言ってくれた。

 

「なにすんの!?」

 

「君から求婚されたのかと思って」

 

「きゅ…………! ちちち違う!!」

 

「『誓う』のはまだ早かったね。それは婚姻のときだ」

 

「だから違うってば!!」

 

 ナナリーは茹でダコみたいに赤くなり、僕の腕を凍らせた。氷に包まれる直前に炎で腕を守って、周りの氷も解かしていく。

 胸に温かいものが広がる。僕の心を覆っていた暗い霧が晴れていくのを感じる。

 

「ちょっと頭大丈夫!? これでも食べて冷静になりなさい!」

 

「んっ……」

 

 ナナリーが僕の口に氷の欠片を押し込む。口の粘膜が一気に冷たくなって顔をしかめる。ナナリーがふんと鼻を鳴らしている。

 

 腕を凍らすより地味に効果がある。防御手段として有効だと助言したほうがいいだろうか? 「何かあれば凍らす」と言いつつ、僕以外の人間に対しては、よっぽどのことがなければナナリーは凍らすことはない。

 

 ……いや、彼女の手で他人の口に氷を突っ込みそうだから却下だ。

 ナナリーの手が他の男の口に触れるなど許せるものではない。

 

 ナナリーは手で直接触れなくても凍らすことができるのに、学生時代からの癖が抜けないのか、僕の腕を凍らすときはいつも腕を掴む。僕相手ならそれでいい。でも身を護るために自分から男に触れたら本末転倒だ。

 

 「冷たい」と言いながら君はリスのように頬を膨らまし、ガリガリ氷を齧っている。僕も氷をガリガリ齧る。何をやってるんだろうね、僕たちは。

 

 噛み砕いた氷が口の中で溶けていく。そういえば、腕は何度も凍らされたけど、口内はなかったな。

 ……この先口の中を凍らされる可能性があるのか? 

 

 まずい、ちょっと想像してしまった。

 

 僕が片手で口許を押さえて俯いていると、何か勘違いしたらしいナナリーが覗き込んできた。

 

「やっぱり具合が悪いんじゃないの? 魔物の魔力が暴走すると気持ち悪いとか?」

 

 額にひんやりとした手が当てられる。氷は消えていたけれど、ナナリーの手はまだ冷たい。その冷たさにホッとする。

 

「気分は悪くないよ」

 

「それならいいけど……」

 

「もう一個氷もらってもいい?」

 

「いいわよ」

 

 ナナリーは氷の欠片を出し、手ずから僕の口にいれようとする。

 

 ──やっぱり君は無防備だ。僕にあんなことされたのに。本当に食べちゃってもいいの? 今度は手加減しないよ? 

 

 僕は氷と一緒にナナリーの指も口に含んでペロッと舐めた。

 

「なななっ! なにすんの!?」

 

 ナナリーはまた真っ赤になっている。

 ああ、可愛い。どうしようかな、この()

 

「君は甘いよ、すごく」

 

 

(終わり)

 

 




ぎりぎりR15???ちょっと不安になってきました。

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