if シリーズ ナナリーの令嬢修業 平行物語   作:露草ツグミ

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pixivで連載していた作品の再掲です。
『ナナリーの令嬢修業』の番外編みたいな? 微妙に世界線が違うんですけど、『令嬢修業』にリンクしてます。
1500~2000字くらいずつで連載していたのを2話ずつまとめました。
まだ中編までしか書けてません。中編の後半はたぶん未発表です。プロットと違う方向に話が進んでしまったので後編(結末)をどうしようか悩んで放置してました。
実はまだ結末は決まってないんですが、読み返したらこのまま公開しても平気だと判断したので中編まで公開します。


『炎と氷の鬼ごっこ』前編

 ドーラン国内でも魔物が多い南の森。その森に隣接する街に僕とナナリーは魔法陣で降り立った。

 

「ララの特訓をしたいの」

「………………は?」

 

 ちょっと待って。君が初めて休日に遠出しようって誘ってきたのに、やることが使い魔の特訓なの? 

 

「だから隊服で来いって言ったのか……」

 

 眼鏡のブリッジを指で押さえながら深い溜め息を吐いた。

 

「私も制服だもん、同じでしょ」

 

 君は腰に手を当てて慎ましやかな胸を張る。

 

 君の制服姿はいつ見ても可愛い。どんな攻撃も無効化する高度な魔法が編み込まれた制服で機能も申し分ない。

 ハーレの職員の制服を作ってるのは特別な魔具らしいが、なかなか趣味が良い。特に女性職員の制服は個性に合わせたデザインになっている。

 この制服姿を見られるのだから、君がハーレに就職したのは正解だった。騎士団の黒い隊服よりずっといい。

 

 小さな僕が城で君に出会ったときもこの制服を着ていたはずだ。流石にあのときは細かな意匠は憶えていなかったけれど、白いワンピースだったのはおぼろげに記憶に残っていた。

 魔法学校でも君はシンプルなワンピースを好んで着ていた。僕の周りの貴族の女の子が着る華やかなドレスとは全然違う。

 登校初日に焦げ茶色の髪に飾り気のないワンピースを着た女の子が隣の席に座ったとき、僕は自分で思っていたよりも動揺していたのだと今ならわかる。

 

「制服なのは別に構わないけど、この森の危険性を把握してる?」

「わかってるわよ。ソレーユ地のハーレを手伝うこともあるんだから」

 

 王都から離れた南の森は魔物が多く、僕が隊長を務める第一小隊の管轄。

 ここは街中だから比較的マシだけれど、花の季節になると暖かく浮かれた空気に変質者も増える。魔物よりそっちの方が心配なんだけどな。

 

「所長命令なの。仕事で必要になるから、ララで長時間飛べるようになりなさいって」

「飛ぶだけでいいの?」

「『敵から逃げることを常に頭に入れろ』とも言ってた」

「君は応戦しないんだね?」

 

 ナナリーはムッとする。

 

「私だって逃げるだけなのは性に合わないわよ。でも仕方ないじゃない、所長から『攻撃は最後の手段よ~』って念押されてるんだから」

 

 ふむ、と僕は思案する。せっかくの休日が使い魔の特訓で潰れるのはたまらないが、ナナリーが「逃げる」訓練をするのは悪くない。彼女の辞書には「逃げる」という言葉が黒く塗りつぶされている(僕にも責任の一端はあるけれど)。

 戦いにおいては逃げる選択肢も必要だ。

 

「で、具体的に何するつもり?」

「私が逃げて、アルウェスが追いかける」

「つまり鬼ごっこ?」

「そう。七色外套をかけてやるの」

「せっかくだから攻撃もしてあげよう」

「のぞむところよ! 凍らせてやるんだから!」

「君は逃げるのが仕事なんでしょ。敵に反撃するのは最終手段じゃなかった?」

「ぐ……」

 

 鬼ごっこの範囲は国境周辺を除いた南の森の上空のみ。魔物の山と呼ばれる鋼山は範囲外にする。制限時間まで逃げ切ればナナリーの勝ちで、出発地点に転移して戻る。

 

 ナナリーがララを、僕がユーリを召還する。軽い高揚を覚えて口の()を持ち上げながら僕は眼鏡を外した。

 

 君は僕から逃げられると思っているのかな? 

 

 

 * * *

 

 

 私は自分とララに七色外套をかけてスタートした。アルウェスは四十秒経ってから動き始める。当然ながらアルウェスが私の居場所を特定できるような魔具や魔法は全部解除してある。そう簡単に見つかることはないだろう。後は運悪く鉢合わせしないように、アルウェスの気配に神経を尖らせるだけだ。

 

 ゾワッ。

 突如全身が総毛立つ。

 

「えっ!?」

 

 後ろから物凄いスピードでアルウェスが迫ってくる! 

 振り返ったと同時に炎の弾丸が降ってきた。とっさに氷壁で防御して、ララをクリスタル化させる。炎の攻撃は続く。反撃しなければやられる!! 

 氷で応酬しているうちにあっという間にアルウェスは私に追い付いて、スピードを落としてララと並走し始めた。

 

「な……なななな……」

 

 生意気な赤い瞳が七色外套をかけたままの私を見ている。ララとユーリを並走させている今の距離なら七色外套が見破られても仕方ないが、最初からそんなもの関係ないとでもいうように、アルウェスは躊躇(ためら)うことなく私を追ってきた。

 アルウェスが高速で使い魔を扱えるのは知っている。これはそういう問題ではない。彼は最初から私の位置が分かっていたのだ。

 

「その()……! どこまで見えてるの!?」

「君の七色外套くらいなら無いのと変わらないよ」

「何ですって!?」

「下手な七色外套では僕の目は誤魔化せない。もっと上手く隠れないと」

 

 下手は余計だ、下手は。

 両手の拳を震わせながらギギギギギと歯を噛みしめる。

 

「変な顔」

 

 プッとアルウェスが噴き出した。

 

「うるさいわね!」

 

 七色外套はハーレの仕事でよく使うし、それなりに自信を持っていたのだ。

 

「『僕の目は誤魔化せない』って何よ、透視でもできるっていうの?」

「そうじゃないよ。うーん……君は七色外套を見破ったことはない?」

「……あるけど」

「でしょ? それの強化版ってところ。かなり距離があっても、僕は魔力の綻びが見えるんだ」

 

 魔力の綻び……要するに私の魔法は雑だと言いたいわけだ。

 遠目に七色外套を見破るなどハーレの仕事では必要ない。七色外套が通用しない魔物と対峙したことはあるけれど、ハーレの仕事は魔物退治ではないので、危険になったらハーレに戻ればいいだけだ。騎士団の任務ではアルウェスは姿が見えない敵と戦うこともあるのだろう。

 ふと、騎士団とハーレの仕事──アルウェスと自分──で背負っているものに大きな差があるのを感じた。

 

「ハンデをあげるよ。僕のスタートをもっと遅くすればいい。二分? 三分?」

 

 ぐぬぬぬぬ。他のことを考えるのは後回しだ。

 

「……一分」

「それは無理だと思うよ」

「じゃあ、一分半」

「はいはい、まずはそれで行こうか」

 

 私は七色外套の魔法を丁寧にかけ直し、再びスタートした。

 

 

 七色外套の精度は上がった。ララのスタートダッシュも速くなった。感覚が研ぎ澄まされて周囲の気配も敏感に感じ取れる。それなのに……! 

 後ろに迫ってくるアルウェスを見て戦慄が走る。もう何度目だろうか。アルウェスのスタートを遅くしてからは開始直後に見つかることはなくなったが、七色外套をかけて全速力で空を翔けているのに、気がつくとピタッと後ろに付かれている。

 アルウェスもユーリも七色外套をかけているから遠目には見つけられない。私を見つけると彼はさっさと七色外套を解除して物凄いスピードで肉薄してくる。もちろん攻撃の手を緩めはしない。

 アルウェスの攻撃を防ぎ切れないときもある。ララの絶対防御のクリスタル化や無効化衣裳のハーレの制服に感謝した。

 

 私は炎の攻撃には氷で反撃してしまう癖がある。防御膜を使うなり、氷の攻撃を多彩にするなり、防御と攻撃の両方を考えなきゃ駄目なんじゃないだろうか? 

 一区切りついたときに独りでぶつぶつ考えていると、横から呆れた声がした。

 

「君、わかってる? 君の仕事は逃げることでしょ? 全然逃げてないんだけど」

「わかってるわよ!」

 

 逃げてないのではない。逃げ切れないのだ。逃げ切るどころか見つかって攻撃されて負けている。

 

「追いつかれて攻撃されたら反撃しなきゃおしまいじゃない!」

「つまり追いつかれたら終わりってことでしょ。どうすれば僕から逃げられると思う?」

 

 そうだった、アルウェスとユーリから逃げること、それが私の仕事だった。つい炎に対抗することを考えてしまった。いけない、いけない。

 何種類も魔法を使っても、一つひとつの精度が低ければ見破られておしまいだ。シンプルに、使い魔と七色外套にできる限りの魔力を注ぎ込むのだ。

 

「絶対にアルウェスから逃げ切ってやるんだから!!」

 

 ビシッとアルウェスに人差し指を突きつけると、彼は何とも言えない顔をした。

 

「……君にそう言われると思ったより複雑だな」

「はあ?」

「別に。逃げられるものなら逃げてごらん」

 

 フイッと視線をそらされた。

 

 

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