夜に濡れた君と、夜に溺れた私。似ているようで正反対の君と私。足元の水たまりにうつる二人とも、ダイヤモンドを纏っていた。
今日も私は夜に溺れる。同じ日々に少しの刺激を求めて。夜に住む蝶と狼は溺れる私をさらに深みへと誘う。昼にはなにも知らない顔をして日々を紡ぐ。紡いだ日々に首を絞められながら。締められる首が苦しくて、またさらに夜の深みに溺れていく。今の私を見て、きっと親は泣くのだろう。その涙がまた夜へ誘うことを知らずに。
君を見つけたのはそんな日々の中だった。天球が真っ青に染まっている。立ち並ぶビルの間。昼の中に夜のにおいを感じて、辿っていくと、そこに君はいた。さんさんと地を焼き夜を乾かすひざしの中に、海の中から浮かび上がってきたクラゲのように君はいた。だけど、君は蝶だった。片羽をどこかへ落してしまった蝶。周りの雑踏は君のことが目に入っていなかった。でも私には誘蛾灯のように見えた。目線を下げるともうすぐ足元に君がいた。会話 はいらなかった。
1kの私の部屋に入れ、夜を洗い落とす。簡単な粥のようなものを食べさせ、ベッドに入れた。君はすぐに意識を手放したようで、深い呼吸を繰り返している。君は夜の目と髪を持っていた。外の色とは真逆のその色に誘われるように、私もベッドに入り君の後を追った。
起きると君がいた。ベッドの淵ギリギリで身を丸くしている。外はいつの間にか君の髪と同じ色になっていた。飾り気のない部屋の壁にかかる時計を見ると、あと少しで明日だった。ベッドから出て、まだ寝ている君を残し、コンロが一つしかない、狭いキッチンに向かった。 カチッとコンロに火をつけ、片手鍋に水を入れる。ゴボゴボと水が湯に変わっていく。水蒸気を顔に受けながら、ボーっとしていた。ふと気配を感じて目線を自分の背後にやると、君がいた。
「おなか減った?」
私の問いには答えず、君はそのまま玄関へと向かった。夜の色のハイヒールを履いて、一人君はまた夜へ帰って行ってしまった。
君に引き寄せられたあの日から、私は君の光を忘れられなくなった。危うげで、いまにも消えてしまいそうなのに、確かにそこにあり、強い色気をだす光。今日もまた、私は夜に溺れていく。誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように。
そんな日々を過ごして一年が立とうとしていた。しのつく雨の中私はコンビニの前にいた。コンビニは今日になってしまった明日の中で、確かに光を放っている。音もしない雨の前で、水たまりを見て、ボーっとしていた。ふと人影が水たまりにうつりこんだ。顔を上げた私の目に映ったのは、君だった。言葉がでない。人は求めているものが思わぬ時に現れると思考ができなくなるのだと初めて知った。夜に濡れた君は、コンビニの光に照らされて、ダイヤモンドを纏っていた。夜に溺れた私は、雨の中に足を踏み入れた。すぐに私もダイヤモンドを纏った。片羽を落とした蝶と、光に引き寄せられた蛾。似ているようで違う二人の共通点はダイヤモンドを纏っていることだけだった。
読んでいただき、ありがとうございます。雨の夜に、コンビニの光を受けてキラキラしてた水滴が綺麗だな、と思ったので。