推しのキミしか愛さない   作:伽花夏折

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推しとの過去を思い偲ぶ件

 

 

 照明の消えた暗い部屋の中。硬いベッドに背中を預けて目を瞑る。眠気など推しの引退宣言の衝撃で吹っ飛んだが、午前にある講義のことを思うと今すぐ入眠しないといけない。

 目を瞑ろうが頭はぐるぐると動く。微忘ルナが引退を決めた理由。いちリスナーにすぎない俺にここまで執着する理由。今更な疑問も含めて、微忘ルナのこと、胡桃沢のことを、まるで宇宙内で自転する小惑星のように思い巡らす。

 一番心に引っ掛かるのは、不思議と、先程言われた『中途半端』という言葉。

 彼女の言う通りだ。

 俺は中途半端な男だった。

 微忘ルナの推し事が一番だと語り、その障害となりえる中の人の存在を拒絶した。そのくせ言動とは裏腹に行動はいまいち煮え切らず、胡桃沢との腐れ縁をきっぱり断ち切ることなくこの一カ月を過ごした。――バーチャルではない彼女にも好意を抱きはじめていることを、態度として見せてしまった。

 微忘ルナが引退を決意した具体的な理由は、結局、有耶無耶にされた。

 彼女がなにを思い、なにを限界と感じて、あの世界から消えることを選んだのか。俺は正直、まだよくわかってない。……しかし、ひとつだけ決定的な事はある。

 ぜんぶ、俺のせいだ。

 俺の中途半端な態度のせいで、微忘ルナはあの世界から消える。

 最初からわかっていた。急に告白してきてリアルで会おうとか言われた時点で、彼女の様子がどこかおかしいって。それ理解していたのに、波風立てない性格を言い訳にして、場の雰囲気に流された。推しの中の人に好意をもたれる状況に無意識に快感を感じて、胡桃沢の心の内奥に隠された真実を見て見ぬふりしていた。――俺は半端なクソ野郎である。

 己に腹が立ち、無意識に歯切りした。入眠はさらに遠のく。

 

 

「……やっぱムリだ。これ以上、問題の先送りなんて」

 

 

 睡眠は諦めて部屋の照明をつけた。

 外出用の服に着替えて、玄関に向かいスニーカーを履いた。

 そしてドアノブを捻る直前。

 スマホを取り出して胡桃沢に【話したいことがある】と簡潔に一報を入れた。もう寝てる可能性もあるが、なんとなく、まだ起きてると確信があった。俺同様に寝れず、悶々と苦しんでいるだろう、と。

 準備も済んだところで、

 

 

「会いに行こう。胡桃沢に(中の人に)

 

 

 がちゃりと扉を開いた。

 

 

    ☆

 

 

 暴走族の走るバイクの音で小うるさい奈幌市の夜道を駆ける。夜空はまだ昏く、空気は冷たいほど澄んでいる。目指す場所は、先程までいたあの場所。

 そこに向かう道中。

 懐かしい場所を通り過ぎた。

 胡桃沢と出会ったアニメショップ。デートのときに行った家電量販店。望外の再開を果たした大学の傍など。まるで胡桃沢との思い出を遡っているようだ。

 ひたすらに動かす両足同様に、思考は勝手に回る。

 ――ふと『微忘ルナとの記憶』を思い出した。

 微忘ルナと出会ったのは今から約一年前。デビュー配信が偶然配信サイトのおすすめに出て、なんとなく再生したのは全ての始まりだった。そこから、毎日飽きずに配信を続ける彼女に興味をもち、性格や趣味に共感して、少しづつ微忘ルナというコンテンツにハマりだした。

 今思えば胡桃沢の前では、あまり微忘ルナの事を考えなかったな。まあ俺はバーチャルとリアルは別物だと考えてるから、無意識に微忘ルナとの記憶を、心の奥底に封じ込めていたんだろう。

 この際だ。

 胡桃沢に告白される以前。

 微忘ルナの配信に通い詰めた()()()()()()()()()()()()()()

 そうしたらなにか、彼女の引退理由も見えてくるはず……。

 

 

 息切らし、足をとめた。喘ぐように上を向く。

 そのついでに、暗雲に紛れる朧月。

 微忘ルナの象徴たるものを見上げた。いまも脳内に鮮明に浮かぶそのキャラクターに、熱く滾るような想いを馳せた――。

 

 

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