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またしても4ヶ月空き、お待ちいただいてたかたには大変申し訳ございません。
今回が本編最終話となります。
どうぞ最後までお読みいただけますよう、よろしくお願いいたします。
「まだですか?」
葬は珍しく、彼女の方から父親の元に出向いていた。
それもかれこれ1時間以上滞在し、お茶をしているので、快挙といえば快挙である。
ここにいる分には側近たちもとやかく言わないし、ぎりぎりまで医者も目を瞑る。
「もう少し待って…」
うんうんと唸りながら俊典が書く書類を待っていた。
彼も腕を怪我しているので非常に作業がしづらそうではあったが「片腕は使えるんでしょう?」と娘に首を傾げられ、戦闘時は自分も似た思考だったので、何も言えない。
「それを決めていただかないと他の書類が何も出せませんので、早くしていただけますか」
「そうは言われれても…こういうのってそんなすぐに決めるものじゃないよね?」
本来なら数ヶ月とかかけて考えるものである。
何を悩んでいるかと言えば、娘の名前だ。
公文書の殆どは甲乙表記なので中身は作成済みだが、これが決まらないことには戸籍もつくれない。
名付けに関してはいざ決めようとするとなかなか決まらず、スマホで調べながら画数とかまで気にしだしてドツボにハマってしまった。
「何か、どういうのがいいとかある…?」
「何でも良いですよ」
「何でもいいがいちばん困る…」
そんなどこの家庭にもありそうでない会話。
違うのは夕飯のメニューではないところであろう。
「そんなに悩むくらいなら『葬』のままでいいじゃないですか」
「奴がつけた名前はちょっと…その、ダメとかじゃないんだけど…」
「じゃあ字だけ変えます?『祝』とか?おめでたそうであまり似合いませんが」
「字は良いと思うよ」
葬にとって、名前は仕事毎で変わるものである。葬でも祝でも、九でも無花果でもいいので、無難なところでさささと決めて欲しい。
重要視していなかったから督促もせず後回しにしたのがいけなかった。
一方で俊典としては、名前とは親が子どもに贈る最初の贈り物だ。それも一生物の。
自分とAFOの確執に巻き込んでしまい、その存在すらないものにされ、辛い思いをさせた。これまで親らしいことを何もしてやれなかった。だからより良い名前を贈りたい。
認識の違いは、すなわち温度差であった。
葬はもうしばらく待ったが、とうとう痺れを切らしてテーブルの上から書面をひったくった。
「アッ…」
「八木」の後ろに、葬の一文字より少ない画数でさらさらと記入を終わらせる。
「もうこれでいいでしょう」
しっかりボールペンで書かれたそれを俊典に突き返した。
「これは……」
書かれた文字を見て、すとんと落ちた。
盲点だった。
彼女自身は適当に決めたのだろうが、きっとこれはこの子の名前だったのだろう。
「うん、良いんじゃないかな。良い名前だ」
名は願い。
暗い土の下の闇で育った彼女という一輪の花が、この先、明るい日の光の下で空を向いて美しく咲きますように。
「改めまして、これからよろしく。一花」
カーテンを風が揺らす。
外では陽の光の中、木々が僅かに薄紅色の蕾をつけていた。
後に飾られる写真。
家族写真の中に、大輪の花を咲かせた黄色い振袖姿を映すのは。
もう少しだけ、先のことである。
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八木一花
17年越しのHappy birthday
MORE………
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「オラァ!強盗だ!金出しやがれ!」
「全員動くんじゃねえぞ!!」
その日、某所飲食店に白昼堂々強盗が押し入った。
店内に踏み入った男3人は、それぞれ武器を手にしていた。
「それ、デトネラット社製?」
「ああん?」
男たちの不運は、この日このタイミングでこの店を選んでしまったこと。
そして彼女に出会してしまったことだろう。
「お買い上げどうもありがとう、と創設者に代わって言っておこうかな」
「何だテメエは!?女!?死にてえのか!?」
「そのキレイなお顔ぐちゃぐちゃにしてやろうか!?」
「ちょうど良い、人質だ。連れてこうぜ」
美しい女である。
自信に満ち溢れ、傲慢不遜な態度すら似合う均整の取れたプロポーションの美女だ。
こんな時でもなければ声すらかけられない高嶺の花。
「私が誰かだって?」
何が可笑しいのか、女は声を上げて笑う。
男たちに見る目があれば、女がこんな大衆向けの店にいるような人物でないと理解できただろう。
シンプルに見えるスーツ一つ、アクセサリー一つでこの店の売上を優に超えるだろうことも。
武器を持った強盗相手に、その青い瞳に恐れも動揺もカケラもないことも。
1人座るテーブル席に、コップが3つあることも。
「素晴らしいことじゃないか。ホークスの奴、積年の望みが叶ったな」
ひとしきり嗤って、女の美しい顔が、それこそ花の笑みを浮かべる。
男たちの背筋に、悪寒が走った。
誰かの喉が「ヒぃ」と音を鳴らす。銃身がぶれて、狙いが定まらない。
戦場でそれは許されない。彼女は赦してはくれない。
「知は生きる術であり、無知は罪だ。無害に見える美しい花に毒があったり、可愛らしい獣が存外獰猛で危険だったりする」
そして男たちの失敗は、知らなかったー否、直ぐに思い出せなかったこと。
彼女こそが、正しく。
「そういう事は、知っておかなければ、ね?」
大輪の毒花にして、2本足の
「こいつ、死柄木ー!」
男の言葉は、そこで途切れた。
「通してください!」
強盗事件発生の報を受けて、最も早く現着したのはインゲニウムと略ダイナマイトであった。
野次馬を退かし現場に入れば、すでに犯人たちは縛り上げられていた。
客が避難した店内では、3人の男女が食後のコーヒーを飲んでいる。
「むむ?八木くんではないか!?」
「やあヒーローズ、久しぶり」
「何でテメエが居やがんだ?騒ぎの元じゃねえだろうなぁ?」
「まさか。この私がこんなみみっちい強盗騒ぎなんて起こすわけないじゃないか」
やるなら陽動。もう一段二段上がある。
言いながら足元の犯人を踏みつける。
「あうっ」と妙に声が上擦っていたが、聞こえないことにした。
直ぐに同行者の男が蹴飛ばして遠ざけようとする。急ぎ犯人達は回収された。
「うう…出来ごごろなんです…」
「俺らよりアイツ捕まえろよ!凶悪犯じゃねえか!」
「私は
「八木くん」「ぶち込むぞクソが」
一応、両親の手前アウトラインは弁えている。
ちょっとグレー寄りな金回りだったり、メリッサの開発品を巡り大立ち回りをしたり、流れで何箇所か吹っ飛ばして当局から睨まれているのはご愛嬌。
「アメリカから帰って来ていたんだな」
あの日から後、各国からヒーロー達が支援物資を引っ提げて押し寄せた。
父オールマイトの知り合いも多く、彼の見舞いついでに顔を合わせた者もいる。
その中でもアメリカの徴たる星条旗の名を戴くスターアンドストライプことキャスリーンは足繁く通って来た。
父が不在でも何かと構われ、何かと思っていたが、こっそりと耳打ちされた。
「新しいママとか、欲しくないかい?」
キャスリーン個人としては、俊典への好意。憧れであり、幼き頃の想い。
所属する国としては、個性抑制薬の輸出入に噛みたい意図があった。
将を射んと欲すれば馬から。
一花にとっても利があった。
彼女にとっての大敵は日本の行政機関である。
そして日本は、アメリカに強く出られない。
地位、財力、人脈。
後ろ盾として申し分ない。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
即決で、父親を売り渡す事にした。
これまでの経緯からして人の人生を売り飛ばすことに躊躇いがない。
それからは超特急で埋立作業だ。
当の本人が気がついた頃には外堀が埋まるどころか新居が建っていた。物理的に。
手を組んだ2人は元の気質も合っていたのか睦まじさを見せ、キャシーとゴリ押しして諾と言わせたのだ。
ノリでスターがオールマイトを横抱きにしている写真(2人のサイン入り)を緑谷たちに送ったら大変喜ばれた。
「テメエも来いや。事情聴取すんぞ」
「直ぐ終わるから、協力してもらえるかな」
「待たせてるのは君たちのところの会長だから、ゆっくりで構わないよ」
「構えや!んで、コイツらヤったの誰だ?個性使用は」
「私が注意を引いて2人が。2人とも一種免許持ってるよ。ああ、ちなみにここに居るのは全くの偶然。駐車場があったから寄っただけ」
一花は傍に控える青年たちを視線で示す。
片方は房のついた細い尻尾を一振りして、もう片方は変わらず中性的な顔に社交辞令の笑みで会釈する。
アメリカに渡った一花を追いかけて来たのが、彼らだった。
累が及ばぬように、離れたはずだったのに。
「何で来たんだ!!」
後にも先にも、一花があれほどまでに感情を顕にしたのは初めてだった。
「俺たちの人生は俺たちのもんだろ。俺たちが自分の意志で、お前の傍にいるって決めたんだよ」
怒鳴り合いの大喧嘩をして、抱きしめ合って。
それからというもの、常に2人は一花の側に在る。
本当なら直ぐに後を追いたかったが、高校を卒業するまで我慢した。
それまでに2人で渡米費用を稼ぎ、獅郎など、士傑でヒーロー免許を取ってプロ事務所から勧誘も受けていたが全て断って一種免許を取り直した。
一種は新しい個性使用の制限区分で、かつての解放軍の趣旨を多少汲んだ制度改正により設けられた。
ヒーロー以外で個性使用を許される免許の最上区分だ。
緑谷たちの代までは旧制度試験での取得だったが、以降はヒーローはより狭き門となった。
しかし、目指す職業の多様化もあり、混乱は少ない。
子どもの将来の夢が、ヒーロー一択ではなくなった。
皆、自分でできること、やりたいことを探している。
高校生になった壊理は、どこかでイヤホンジャックの歌を聞く機会があったらしく、音楽に夢中になっている。可愛いもの好きの義母に可愛がられて、すくすく育った。
なお、制度改正の草案で横面張られてナガンの下で働かされている男がいるとかいないとか。存在しないはずの人間であるので。
「もう解決してるみたいだな」
事情聴取を受けている最中、もう1人現着したヒーローがいた。
「ショートも来たの?随分と豪勢な面子だね」
轟焦凍ことヒーローショート。
彼はこの度、そのチャート順位を2位へと上げた。長くその地位にあった、父親と同じく。
ビルボードチャートは廃止されるかと思われたが、間違った部分は正しつつも「功罪の功の方にも目を向けたい」と鷹見会長の意向で存続される事なった。
拡張化と細分化が進み、社会福祉や人権問題などへの取り込みも評価対象になり以前ほど絶対的なものではない。
事件後は廃止の声も強かったが、一花はそれほど興味はなく、タッチしていない。公式だろうと非公式だろうと人間というものは順位を付けるし、気にする奴は何をやったって気に病む。
「八木か?久しぶりだな」
「No.2昇格おめでとう」
「ああ。燈矢への花も、いつもありがとな」
早くにその時間を止めてしまった燈矢に、欠かさず花を送ってくれる友人がいる事が嬉しい。
「今度皆にも伝えておくよ」
花は弔たちと連名で贈っているものだ。
今回の帰国に合わせて面会予定も組んでいた。
現状報告や差し入れだったり、今度またスピナーが本を出すので、その打ち合わせだったり。次はコミックらしい。
トガももうじきだそうで、ウラビティが身元引受人になるそうだ。
ウラビティの行っている個性カウンセリングの拡張には一花も噛んでいる。
家庭事情に問題のある子どもの受け入れ先として。
そちらのノウハウはあった。
今は表向き慈善事業として、資金提供やボランティアに託けて様子を見に行っている。
置いて行く形になってしまった彼らには、泣かれて、怒られてしまった。
今年は一つ下の医大卒業と就職祝いだ。酒が入ったらまた蒸し返されることは間違いない。
「しばらくは日本に居るのか?」
「そうだね。ちょっと騒がしくなりそうだから」
ヒーローたちは一瞬剣呑な表情を浮かべたが、続いた言葉に別の意味で呆気に取られた。
「悪いけど今回はお土産を持ってきてないんだ。再来週、父さんがとびきりのを持ってきてくれるから、楽しみにしててよ」
1番に反応したのは、爆豪だった。
「完成したんか」
「後で君の所にも行こうと思ってたところさ」
この件の音頭をとっていたのは爆豪だ。
オールマイトも出資を申し出たが、代わりに仲介を頼まれたそうだ。
一花の仕事の一つとして、研究の護衛兼爆豪たちとの窓口である。
事情を知っていて、メリッサと年齢が近く同性で父親同士が友人で行動を共にしても不自然でないことからの人選であった。
可能性の塊は、脅威にも金にもなる。
よって前述の爆破騒動に繋がったわけだが、それは余談であろう。
数年をかけて、それはとうとう完成した。
モノがモノだけに税関を通るか分からないから、そこは顔の広い父任せだ。
「そうそう、彼にボスからの伝言。『前に言ったこと、忘れんなよ』ってさ」
「ああ?」と爆豪は眉を顰めるが、一花も伝言を頼まれただけなので、「さあ?」と肩をすくめてみせる。
なお、後に受け取ったデクからの応えは。
「うん、頑張るよ」
と、いうものであった。
「また、
悪の華が、咲かぬように。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
彼女の物語はひとまず終幕となります。
pixivの方では未来ifや番外編を書いていたりもします。(停滞させてますが)
こちらでも恋愛(と言っていいのかわからない)ルートの加筆修正版でも書きたいなと思っています。
支部で出すにはRまではつかないけど…な内容なので。
もし公開しまたらお運びいただけると幸いです。
ここからはつらつらと、ネタ語り的な話になります。
どこかで書いたような記憶もありますが、原作の名前はダブルミーニングとかが多く、踏襲しています。
八木一花は八と一で九としました。9番目の継承者のデクくんと並べています。
過去のNo.も同じ。他のナンバーズが呼んでいた「いち」「いっちゃん」は「九」で「いちじく」と読んでいます。
なので一花になっても同じ呼び方です。
花は個性の光の花。プルチックの感情の輪、で検索してもらうとイメージ沸きやすいかと。
また、黒衣はブラックコートもですが、読みの「クロエ」はChloeで開花を意味します。
タイトル回収。
オマージュもスパ◯ダーマンとかア◯アンマンとかのありましたが、彼女の場合はウ◯ドウかなぁ。
自分の思うかっこいい女の子を目指しました。
少しでも楽しんでいただけましたら嬉しく思います。
さて、末筆となりましたが、ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。重ねてお礼申し上げます。
筆は遅くなりましたが、時間と妄想力が許す限り、何かしらの形で文字書きは続けたいと思っています。
またお目にかける機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
畏