彼は、地獄のドラマ版『今日あま』を乗り越えることができるか?
―――ある平和な“フェニックスワンダーランド”の日常であ……
「な、なにィ⁉ドラマだとぉ⁉」
彼―――『ワンダーランズ×ショウタイム』座長
「ふむ、今回出演するドラマは……おっと、『今日は甘口で』……超有名な漫画じゃないか。司くん、これはスターに近づくためのチャンスだよ」
横から喋るのが『ワンダーランズ×ショウタイム』役者兼演出家
「へー。司があの名作漫画のドラマに出られるなんて。まあ、他の人の足引っ張らないようにしたら?」
毒舌を吐くのが『ワンダーランズ×ショウタイム』の歌姫
「ねえねえ!誰の役をするの?司くん!」
隣の超元気いっぱいのお嬢様は『ワンダーランズ×ショウタイム』役者
「えーっとなになに……俺が演じるのは、最終話で出てくるやつっぽいな」
「これは……名前を知らない役者が多いねえ。普通、名作の漫画をドラマ化するときにはたいてい、大御所を使うのだけれど……今回のドラマは、知っている名前で言えば
すると、台本を見ながらポチポチとスマホを弄っていた寧々がこちらを向く。
「殆どが役者じゃなくてモデルみたい。ちゃんと演技できると良いんだけど……」
「それは、不安だね。あの有馬かなは、どちらかというと周りの演技に合わせる演じ方をするからねえ……演技力が低いところで撮影すると演技力が落ちてしまうのも難点だね」
「確かアレだよね!あのすっごい演技をする子!ピーマン体操面白かった!」
ピーマン体操とは、一時期はやった有馬かなが歌うピーマンを食べよう!みたいなニュアンスの曲である。結構ヒットして、その後も曲を発表したが、ピーマン体操以外全て外れた。
「まあ、しかし、有馬かなが演技を合わせてくるなら俺がしっかりと練習して、高い演技力を発揮すればいいということだな!そうすれば、俺はこちらの練習があるから、しばらくは来れなくなる」
「うん。司、頑張って」
「頑張れ司く〜ん!」
「行ってらっしゃい、司くん」
そうして、司はメンバーたちに暖かく送られたのであった。
一方その頃、有馬かなはというと、高校にて
「くちゅん!」
「え、先輩今のくしゃみ?かわいい〜」
「うっさいわね。誰か私の噂でもしてるのかしら。噂してるとしたら、多分、アクアぐらいしかいないだろうけど」
「お兄ちゃん、何の噂してるんだろうね」
「さあね」
このくしゃみが実は結構離れているシブヤからの噂が原因とは、知る由もなかった。
―――話は変わり、稽古の日。
普通なら、稽古というのは一ヶ月ほど期間を取るのだが……何故か期間が二週間ほどしか無い。
「うむむ……脚本が意味不明すぎるぞ……。どうすればいいんだ……」
「どうした?えっと、確か……」
「天翔けるペガサスと書き、天馬!世界を司ると書き、司!その名も―――天馬司!」
「お、おう。で、どうした司」
話しかけてきて少し引いているのは、今回司が共演することになっている最終回のストーカー役で出る
「実は、この脚本のことで悩んでいてな……素人の俺が書いた脚本でもここまでひどくはならないぞ」
「それは、俺も思った。この脚本は完成度が著しく低い。俺も未だにこれを脚本だとは思えない。しかし、演技のことを相談するには大御所が必要だし……」
「話は聞かせてもらったわ」
そこにいたのは……赤い髪をしたボブカットの少女だった。
「えーっと、天馬司だっけ。私は有馬かな。こっちのアクアの知り合いよ」
「おお!お前が有馬かなか!確か、あれか!重曹を舐める天才子役の!」
「十秒で泣ける天才子役!なんでみんなその間違いをするのかしら。ルビーもそうだし」
「ルビーとは誰だ?もしや、今回の出演者か?」
「いいや、ルビーは……」
「ルビーは俺の双子の妹だ」
入ってきたのは、さっきまで空気だったアクアだ。
「ほう、アクアにも妹がいたのか。実は、俺にもひとつ下の妹がいてな。咲希と言うんだが……」
咲希というのは、妹の
「はいはい、シスコン話はそこまで。んで、どこがわからないの?」
「おう。俺が分からないのは……つまりのところ全てだな。一応、フェニランでショーキャストをしていて、そのステージの脚本を書いたりしているのだが……ぜんっぜん分からない」
実際、ワンダショの脚本はほとんど司が書いている。そして、フェニランとはフェニックスワンダーランドの略である。
「ああ……悪いわね、ここの現場、悪いところがあったら全部撮り直して無駄に高い編集技術で入れ込むのよ。だから、脚本を全然意識してないのよ」
「なるほどな……しかし、それだと効率が悪くないか?半クールですべて抑えなければならないのだろう」
「今回のドラマ、イケメンのモデル売り出すための宣伝なのよね……だから、現場を見た原作の先生の絶望した表情、忘れられないわ」
司は激怒した。必ず、かの
「そのような行為、断じて許されない……未来のスターたるこの俺が、このドラマを完璧に成功させてみせる!」
再度、司は決意した。
―――撮影当日である。さすがはショーキャスト。面構えが違う。
「では、天馬さんはこちらの衣装に着替えてください」
「これは?」
差し出されたのは、黒いパーカーに黒いズボンのまさにストーカーというべき衣装であった。
「天馬さんの役は、星野さんと同じくストーカー役です」
「わかった。着替えよう」
そして、着替えた。
その後である。
「フザケルナ!」
司はイライラいしていた。この、珍妙なる演技に。
(何で、こんなに演技力が低いんだ!よくこのドラマに出れたな!)
そう思うのも無理はない。
司の役は、最終回のときに、双子のストーカーの兄として出た。
「天馬、ちょっといい案がある」
「どうした、アクア。この演技力をどうにかできるのなら喜んでやるぞ」
「なら、話は早い。今から、俺とお前が一斉に走って、メルトの耳元でアイツを思いっきり罵倒するぞ。小声でな」
メルトとは、
「気は進まんが……やるしかない。この演技力をなんとかするために」
ダッシュ!彼らは進みだした。この災厄の元凶に向かって。
そして、耳元で
「お前、近くで見るとブスだな。加工しないとそんなもんか?」
「演技力が低すぎるぞ。よくこのドラマに出れたな」
「なにィ!」
そうメルトが反応すると、二人でニヤッと笑う。
ここで、二人の内一人―――司が倒される。
(よし、ここから先は頼んだぞ……アクア)
司は倒れた。
そして、アクアがやられたふりをする。すぐに起き上がってヒロイン―――かなに向かって罵倒する。
「現実見ろよ、夢見てんじゃねえよ!お前なんか誰にも必要とされてない!お前はこの先、真っ暗闇だ!」
その後、かなが、いつもなら棒読み演技をするのだが、今回は違った。
「それでも、光はあるから……」
今回は、涙付きだ。
―――撮影終了後、司は、とっとと帰ることにした。なにより、ずっとカメラを回されていて、慣れぬことなので疲れたのだ。
二人と連絡先を交換して、司は帰ることにした。
「司!」
「ん?何だ、かなか。どうしたんだ、俺は帰るぞ」
「司」
「何だ、アクアもか。この後に打ち上げがあるのなら、俺は行かないぞ。なんせ、咲希が待っているからな!」
「いや、その……」
「また会える日を楽しみにしているそうだ」
「ちょっと、アクア!」
その言葉に、司は、笑みを浮かべた。そして、その笑みを浮かべたまま
「ああ!俺も、また会える日を楽しみにしているぞ!」
そう言い残し、司は去った。
後日、アクアとかな、そしてアクアの妹である星野ルビー―――本名