メイキング・オブ・イモウト   作:高田正人

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第2話あらすじ:俺はちなみにリップをプレゼントを買ってやり、とても喜ばれた。その後もショッピングは続く。


第2話:すいません、これ、俺のプレゼントということで包んでください

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ちなみとのデートはショッピングモールでの買い物がメインだ。ちなみはいろんな店に入っては商品を見て回る。そして気に入ったものがあれば試着したりする。ちょっと高めのコスメとかを試すときは、店員さんにメイクをしてもらったりしていた。

 

「お似合いですよ。お客様は色が白いし、こちらの色のリップがよく映えると思います」

「あ、本当ですね。うわあ……やっぱり自分で選ぶだけじゃダメだなあ。こっちのほうがずっといい」

 

 そう言ってちなみは、店員さんが差し出した鏡に映る自分を見つめる。ナチュラルな感じで色のついた朱色の唇は、異性の俺が見るとついドキリとしてしまう。ちらりと名前を見ると、たぶんあれはこの前ちなみが言っていた欲しかった奴だ。

 

 値段を見ると、たしかにちなみがちゅうちょするのも無理はない価格だ。

 

「あ、じゃあこれください」

 

 俺は店員さんにそう言って財布を取り出す。まあ高いけど、俺が買えない値段じゃない。

 

「え? は? いいっていいって、今回はちょっと試しただけだし!?」

 

 分かりやすく焦り出すちなみ。

 

「待ってよ! これじゃ私たかってるみたいじゃん!」

 

 でも、同時にちらちらと目が欲しそうに見ているのが分かる。

 

「すいません、これ、俺のプレゼントということで包んでください」

 

 俺がちなみの抗議を無視して店員さんにそう言うと、美人の店員さんは吹き出すのをこらえながら包装してくれた。ちなみが何か言っているが、聞こえないふりをする。こういう時は男がかっこつけてもいいじゃないか。

 

「はい、彼氏さんからのプレゼントですね」

「ち、違いますっ! 私の兄ですから!」

「あら、ご兄妹でしたか。それは失礼しました。では、ありがとうございます」

 

 店員さんは丁寧にラッピングしてくれている。ちなみは恥ずかしさで真っ赤になりながらも、嬉しさを隠しきれないといった様子で俺の腕にしがみついている。

 

「ホ、ホントにいいの兄貴? 私今日は兄貴に何か買ってもらうつもりで来たわけじゃないんだけど?」

「何言ってんだ。せっかくおしゃれしたいんだろ? こういう時こそ遠慮すんなって」

「そ、そうかもしれないけど……悪いじゃん」

「じゃあいいのか? このリップ、俺が使うことになるぞ」

「ぶっ……!そりゃメンズリップクリームってあるけどさ、女の子用のリップをつける兄貴……あははっ、なにそれ」

「ほら、笑っただろ。だからこれはもうお前のものだってことだ」

「分かったわかった、降参だよ。ありがとね、兄貴」

 

 ちなみは観念して、嬉しそうな顔になった。たまにはこういう買い物も悪くない。

 

 俺は代金を払ってレジから離れてから、改めて手にした包装した商品を渡す。

 

「欲しかったんだ、これ。すごく嬉しいよ兄貴。本当にありがと」

「おう。じゃあ、後で塗ってやるからな」

「え? 兄貴が?」

「ああ。俺が塗ってやろうと思ってな」

 

 ちなみは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに頬を赤くしてうつむいた。

 

「お、女の子がメイクまで許すなんて、特別な相手だけだからダメ……。でも、兄貴なら……特別……」

 

 ちなみの声は小さくなっていき、最後は聞き取れなかった。でも、何を言おうとしたのか想像がつく。きっとこう言いたかったに違いない。「兄貴にだったら、口紅だって塗られてもいい」って。俺は心臓が大きく鼓動した。半分冗談で言ったことだからだ。

 

 てっきり「無理無理。兄貴にリップ塗られたらタラコ唇みたいになるからやめてよね~」なんて笑って返されると思ったのに。逆にそうちなみに返されると、まるで俺がちなみを彼女みたいに扱ってる感じで心臓の鼓動が早くなった。なんだよそれ。ちなみは妹なのに。

 

「あの……お客様。できればその……次の方が来られてますので……」

 

 店員さんにそう言われてハッとする。周りを見ると他の客たちが俺たちのことを見ていた。全員、ほほえましいものを見る目付きだ。ちなみの顔は相変わらず赤いままだ。

 

「ど、どうもすみませんでした!」

 

 俺は慌ててちなみの手を引いて店を出た。

 

「兄貴……手、握るの……久しぶりだね」

 

 店の外でぼそりとちなみが言う。

 

「ああ、そうだな。昔はよくつないでたのにさ。覚えてるか? ちなみがアイス買った時落としてさあ。あの時は俺のを半分やっても泣き止まなくて、手を引いて家まで帰ったっけ」

「は、恥ずかしい過去話すの禁止だってば! 思い出させないで!」

 

 ちなみが俺の手をぎゅっと握りしめてきた。ちょっとびっくりしたけど、俺もそれを握り返す。

 

 小さい頃はこうしてよくつないだものだ。今ではすっかり大きくなってしまったけど、それでもちなみは可愛いと思う。むしろ昔よりきれいになったし、どんどん素敵な女の子に成長していると思う。

 

「悪い悪い。手、離すから」

 

 何だかんだ言ってだんだん気恥ずかしくなってきたので俺はそう言ったのだが、ちなみは首を横に振った。

 

「別にいいってば。兄貴カノジョいないじゃん? 今日は私が買い物付き合ってくれたお礼に、兄貴のカノジョみたいな感じになってあげるからさ」

 

 ちなみの手は柔らかくてすべすべで、ずっと触っていたくなるような感触だ。そんな手で俺の指の間に自分の指を絡めてくる。

 

「まったく、お前自分が可愛いのが分かってて調子に乗りやがって」

「あ、分かっちゃった?」

「兄貴を掌の上で転がす妹は悪い奴だぞ」

「にひひ、そうでーす私は悪女でーす。でも、嫌じゃないんでしょ?」

「うるせえ。ほれ、行くぞ」

「はいはい。兄貴は素直じゃないなあ」

 

 俺たちは並んで歩き出す。さっきまでは兄妹のように歩いていたが、今はカップルのような雰囲気になっている。兄妹といっても義理だからな。

 

 血のつながりはない。だから俺とちなみの遺伝子はまったく異なる。俺とちなみは赤の他人だ。その気になれば恋人にだってなれる関係なのだ。

 

「へ……えへへ……」

「何笑ってんだよ」

「だってさ……このリップ、本当に欲しかったんだ。これに合うのちょっと探したいから、もう少しコスメのお店見て回っていい?」

「ああ、もちろんいいぞ」

 

 ちなみは俺の腕に抱きついてくる。そして、俺を見上げてほほ笑む。こんなことされたら勘違いしそうになる。俺とちなみはただの義理の兄妹なんだって。でも、ちなみがもし俺のことを異性として好きだったら、それはそれで……すごく嬉しいことでもあるんだよなあ。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 しかし、俺は自分の見立てが甘かったことを痛感した。女の子の化粧品ってのはすごい量と種類があるんだな。男子の俺にとってはまったくの未知だった。あれだね、UFOにアブダクションされた人間ってのはきっとこんな感じなんだろうな。グレイに手を引かれてUFOの中を案内される感じだ。一方でちなみはじっくりとコスメを見て回っている。

 

「なんだこれ?」

「マスカラ。普段学校じゃあんまり派手なのつけちゃダメだけど、友達と出かける時とかはやっぱりつけたいよね」

「マラカス?」

「ブッブー。これはマスカラだよ。まつ毛につける化粧道具」

「ああ、そうか。そういえばお前のまつげ長いもんな。つけてたのか?」

「うん。兄貴になら見せてあげてもいいよ」

 

 ちなみは俺に近づいて目を閉じた。俺はちょっとどぎまぎしながら、じっくりとちなみの顔を観察する。ほんとにこいつのまつ毛って綺麗に整えられているよな。きゅって上にカールした感じのまつ毛が可愛い。

 

「へへ、どう?」

 

 目をパチッと開けてちなみはにっこり笑う。

 

「あんまり気にしなかったけど、よく見ると丁寧に形をセットしてるんだな」

「そうだよ~。女の子のこういうきれいになろうとする努力、男子はちゃんと誉めてあげなよ。ほめて伸ばす教育が大事なのです」

「はは、なんだそりゃ」

「笑い事じゃないってば。ビューラーで上げて、コームで形整えて、ブラシで下地塗ってからマスカラ塗って、ちょっと間違えると全部台無しになるから大変なの」

「な、なんだって……ピーラーにコードにマラカスって……男子からすれば全部難しい魔法の呪文だな」

「はあ? ピーラーは料理するときに使うものであって、そんな風に言う人初めて見たんだけど。ダメだなあ兄貴は」

 

 呆れるちなみ。そしていくつか見比べて、値段の安い方を買っていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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