メイキング・オブ・イモウト   作:高田正人

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第3話あらすじ:俺とちなみのおしゃれについてのトーク。女の子のおしゃれに対する情熱を俺は認めるのだった。はた目から見ればいちゃついているだけだ。


第3話:くそー、兄貴がだんだんカッコよく見えてきた

 

 

◆◆◆◆

 

 

「アイライナーまではいらないかな。クラスのまりりんとかはがっちりつけてるけど、ちょっと目力が強くなりすぎるんだよね。メイクは薄くても可愛い方がいいし」

「男はあんまり化粧の濃い女子とか好かないからな。すっぴんでもいいぞ」

 

 俺が何気なくそう言うと、ちなみはめちゃくちゃ大きなため息をついた。

 

「あれ? なんだよちなみ、その動物園のサルを見る目は」

「ダメダメダメダメ兄貴。あ~あ、男子ってホント分かってないってば。あのね、きれいなすっぴんってのは、そういうふうに見える自然なメイクをしたからなの。メイクのたまものなんです。すっぴんで勝負するアイドルとか女優なんていないでしょ?」

「ふーむ……なーるほど……」

「あとさ、兄貴って今のままじゃ絶対モテないし彼女もできないと思う」

 

 ちなみは俺の一言が相当気に食わなかったらしい。じっとりした目でこっちをにらむ。

 

「な、なんでだよ」

「だってさ、男って女に『素のままでいい』なんて言っちゃうじゃん。それって下手すると、女が化粧しても分からないって言ってるようなものでしょ」

「うぐ……確かにそうだ。男からすれば『素のままでいい』なんてのは誉め言葉だと思ってたけど、それって『お前が化粧してきれいになっても俺にはどうでもいいね』って言ってるようなもんだよな。確かにひどい」

「あれ? 案外あっさり納得するんだね、兄貴」

 

 俺がすぐに認めたのが意外らしく、ちなみは目を丸くした。

 でも、俺にとっては何気ない一言だったけど、女の子にはグサッとくる一言だったらしい。そうなると、俺としても意地を張る必要はない。

 

「だって、お前メイクするとぐっと可愛くなるからな。そのために時間も金も惜しまないし、実際お前が綺麗になると俺としても嬉しいし。その努力を男が『分かんね~』なんて言ったら俺だってむかつくよ」

 

 ちなみとのデート兼買い物。俺の隣に、こんなにきれいな妹がいるんだ。しかもそのきれいさは、何もしないで手に入ったものじゃない。時間とお金の結晶だ。女は化粧に時間かけすぎとかいう奴もいるけど、俺としては妹がきれいになってくれるのなら歓迎だよ。ちなみはぽけーっとして、それからじわじわと顔を赤くしていった。

 

「お、おい、どうしたんだよ」

 

 俺は心配になり声をかける。

 

「兄貴のバカ! なに急に恥ずかしいことさらりと言ってるの!? めちゃくちゃ照れる!」

 

 ちなみはそう叫ぶと、俺の腕に抱きついて胸を押し当ててきた。

 

「ええい離れろっての」

「やだ。兄貴のアホ、変態、スケベ」

「な、なんだと」

 

 俺をけなしているのに、ちなみはにこにこ笑ってる。

 

「もう、いきなりそんなこと言われたら嬉しくて私もバカになりそう。メイクしてよかったって思えたもん」

 

 ちなみは俺にすり寄ってくる。

 

「くそー、兄貴がだんだんカッコよく見えてきた。ファッションを理解されただけでそう見えるって、私ちょろすぎだよね。あーあ、なんか悔しいなぁ。次行くぞ~」

「はいはい。俺もだんだん面白くなってきたぜ」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 ということで次。しかし相変わらず俺には違いが分からない。でも、素直にそう言うとちなみは馬鹿にしないで教えてくれるし、これはこれで女の子の秘密を知っていくみたいでドキドキするのも事実だ。

 

「ちなみ、こっちでいいんじゃないか。なんかこれボトルがきれいで俺はいいと思うぞ」

「あ、それ化粧水だから。私欲しいの乳液なんだ」

「え?同じじゃね?」

 

 分からん。俺なんて洗顔せっけんを一応買ったくらいで、後はあんまり気にしない。肌荒れとかないし。

 

「違うの。化粧水はお肌に潤いを与えて、乳液は油分補給。化粧水の後につけるクリームとか美容液もあるけど、とりあえず今日は必要ないかな」

「へぇ~、色々あるんだな」

「うん。あ、あったあった。私はこのシリーズが好きなんだ」

 

 ちなみは手に取ったのは、白い容器のシンプルなデザインのものだった。値段も手ごろだ。ちなみはちゃんと財布と相談しているし、高いのをやみくもに買ってるわけじゃないのは偉いな。

 

「これから寒くなるからお肌が痛むのが憂鬱だよ。兄貴も気をつけてね」

「俺は男だし平気だよ」

「油断大敵だってば。あとさ、最近乾燥する時期になるから、ハンドクリームとかリップクリームも忘れずに塗ってね」

「そうだな。後で俺もちょっと買っておくか。もし使わないんだったら父さんにあげればいいし」

 

 ちなみと一緒に買い物をしていると、なんだか生活力がついていく気がする。

 今まで気にしなかったけど、化粧品売り場ってのはカップルもちらほらいるが、大半は女子だ。男一人じゃ入りにくい雰囲気だけど、こうしてちなみが一緒だと全然気にならないのが助かる。

 

「ところで兄貴。私の体で一番好きなところはどこですか?」

 

 ちなみはいたずらっぽく笑いながら聞いてきた。

 

「そりゃあもちろん、顔に決まってんじゃん」

「ぶー。はい嘘」

「……脚です」

「よろしい」

 

 ちなみは満足そうに笑った。

 

「兄貴ってほんと単純だよね。私がどんな服来てても、胸見てるか脚を見てるかの二択だもん」

「悪かったな! しょうがないんだよ。俺は女の顔よりも脚の方が見ちゃう男なんだよ。あ~恥ずかしい」

 

 こんなデリケートな話も笑ってできるのは、ちなみの優しさなんだろうな。

 

「まあ、私はそんなに怒んないからさ。脚とかきれいに見えるようにタイツとかブーツとか気を遣ってるんだから、それなりに努力の成果を実感できてちょっとは嬉しいわけ。にひひ」

 

 ちなみは照れくさそうに笑うと、少しだけ顔を赤らめた。

 

「だから、こうやって妹をきれいにするために付き合ってくれる兄貴はけっこーイイ感じ。ありがとね、兄貴」

「お、おう……」

 

 不意打ち気味にそう呼ばれるとドキッとする。

 

「それじゃ、最後にネイル見てからお昼にしようよ」

「お、いいぜ。俺もお前がどんなのつけるか見てみたいし」

 

 そう言って俺たちは、コスメショップの隣のネイルコーナーへと移動した。

 

「わぁ~、これ可愛くない?」

 

 ちなみが手に取ったのは、パステルカラーのマニキュアだった。

 

「あ、塗る奴か。俺はてっきり付け爪かと思った」

 

 俺の頭の中には、モデルとかのカラフルな爪が思い浮かんでいた。

 

「ネイルチップのこと? あれもいいよね~。派手なのつけても休日だけとか、学校の時は取ればいいし、思いっきりオシャレできるし。でも、今日はこっちがいいな」

 

 ちなみはそう言いながら、色とりどりのマニキュアを見つめていた。

 

「いろんなのがあるなあ。こういうのはどうだ?」

 

 俺は近くにあったマニキュアのボトルを取る。

 

「へえ、兄貴ってこういう色が好きなんだ?」

「いや、個性的な形で面白かったから」

「あはは。やっぱりそういうのあるよね。こういうのって、ただ使うだけじゃなくて、部屋に置くインテリアみたいなものにもなるし、そういう楽しみ方もあるよね」

 

 ちなみはそう言うと、楽しげに商品棚に並んだマニキュアを眺め始めた。そして、一通り見終わると、一つの瓶を手に取る。

 

「これにする」

 

 ちなみの手にあるのは、深いブルーのボトルだった。

 

「青か。ピンクとかじゃないんだな」

「ちょっと方向性変えてみようかなって感じ。ピンクはあるし、それに、こっちの方が大人っぽくない?」

「あ、確かに大人っぽいよな。制服じゃなくて私服に合いそうな色だ」

「でしょ? 兄貴も少しは見る目あるじゃん。今の制服とこの色合わないからね。兄貴もべんきょーして女の子のファッションとか分かるようになるのは、モテるための第一歩だよ」

「へいへい。頑張りますよっと」

 

 俺は気のない返事をしつつも、内心はメモを取りたい気分だった。

 

◆◆◆◆

 

 

 

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