メイキング・オブ・イモウト   作:高田正人

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あらすじはネタバレがあるので一番下の後書き部分にあります。


第6話:もうしばらく、私も彼氏作らないであげる。感謝してよね

 

 

◆◆◆◆

 

 

「真子って子と仲が悪いのか?」

「そんなんじゃないってば。あの子、前は明るくて気が利くいい子だったんだけどさ」

 

 ちなみは遠ざかっていく二人の背中を見てつぶやく。

 

「実のお兄さんにすごい懐いてたんだけど、もうじき結婚するんだってさ、お兄さん」

「あ……なるほど」

 

 真子の俺を見る何か言いたげな視線の理由が、それで分かった。

 

「そういうこと。頭で分かってるけど、心は納得できてないんじゃないかな。大好きなお兄さんを取られた気分だったみたい。ほら、それでちょっと荒れてる」

「そうなのか……」

 

 何となくだが、真子の気持ちは分かるような気がする。自分の兄貴が急に結婚するとかになったら、受け入れるのに時間がかかるのは仕方ない。

 

 確かに好きな人を取られるのは辛いことだ。でもそれぐらいでちなみに食ってかかるとは……なかなかのブラコンだ。

 

「ふーん、あの子も大変だったんだな」

 

 とりあえず納得はしたのだが……またあの二人に会うと気まずいな、と思った。

 

「ありがとね、兄貴」

 

 照れたような顔でちなみが俺に言った。

 

「あのまま放っておいたら私と真子、ケンカしてたからさ。真子のこと、ちょっとうざったくは思うけど、大嫌いじゃないし、また仲良くできたらいいなって思ってるから。今は少し距離は置くけど」

「まあな。正確には麻美に頼まれたんだ。なんとかしないとお前と真子がキャットファイトを始めるぞって言われたんだ」

「麻美らしいこと言うなあ。あの子、ああ見えて長女でしっかり者なんだ。結構男子にもてるし」

 

 そこまで言ってから、はっとした顔でちなみは俺を見てにらんだ。

 

「それと――真子の言ってた彼氏募集中って言葉、絶対絶対本気にしないで。いい?」

「べ、別に俺はお前がちゃんとした奴なら誰と付き合おうと――」

 

 俺の言葉をちなみは遮る。

 

「いいから! それ以上今の話したら怒るからね! 本気だからね!」

 

 ちなみが怒鳴るので俺は「はいはい」とうなずくしかなかった。やっぱり年頃の女の子は難しい。

 

「それに兄貴に言われなくたってちゃんと彼氏見つけるから! 私だってそれぐらいやれるし!」

 

 なんだかむきになったちなみを見ながら、どう考えてもブラコンはお前の方だろ、と言いたくなった。間違いなくちなみと真子は同類だ。俺は顔を見たこともない真子の兄を思い浮かべて「大変なんですね」と心の中で同情するのだった。きっと彼も真子にかなり振り回されたに違いない。俺はまあ――ちなみに振り回されるのは嫌いじゃないが。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 夕方。俺たちは連れだって家の近くのバス停でバスから降りた。ショッピングモールを堪能して、後はもう家に帰るだけ。家までの帰り道を、俺とちなみは並んで歩く。俺たちは手をつないでいた。

 

「ねえ……」

「ん?」

「私たち、また手、つないじゃってるね」

「ああ、なんだかすごく自然にな」

 

 指でそっとちなみの爪の辺りを撫でると、くすぐったそうにちなみは笑って俺と指を絡める。

 

「どう見てもカップルだよね。うわー誤解されちゃうな。困るなー」

 

 そう言いながらも、ちなみは全然嫌がっていない。むしろ、俺に寄り添って体をあずけている。

 

「俺は別に大丈夫だな。どうせ彼女とかいないし」

「寂しい兄貴だなあ」

「うるせえ。お前こそ、俺が彼氏だと間違われた困るだろ。ほら、手を離せよ」

 

 俺はそう言ったが、ちなみはますます強く握ってくる。

 

「別に嫌だなんて一言も言ってないし。私の手が冷たいから兄貴と手をつないでるの。こうしてるとあったかいし」

 

 ……なるほど。そういうことか。

 

「俺もそうだ。お前の手、あったかいからな」

「えへへ、同じだね」

 

 ちなみと肩と肩が触れ合う距離で並ぶ。

 

「今日はありがと。兄貴とショッピングできて楽しかった」

「俺も楽しかったぜ。女子のメイクなんて今まで全然知らなかったけど、奥が深いんだな」

「お、兄貴が興味津々なんて珍しい。どう、本格的にやってみる?」

「俺がか?」

「そう。兄貴をモテモテの美形にしてあげるからさ。やってみようよ」

 

 そう言われて俺は想像してみる。髪型から服装から全部決めた俺を。ちなみのセンスだ。金と時間をかければ案外俺もいけるかもしれない。可愛い彼女ができたらそれはそれで嬉しい。そうしたら、こうやって手をつなぐのかな。

 

「……メイクとか面白いし、もてまくるのは悪くないけど、今はいいかな」

 

 俺がそう答えると、ちなみは唇を尖らせた。

 

「なんでさ」

「彼女ができたら、お前とこうやって手をつなげなくなるからな」

 

 ついきざなことを言ってしまう。義理の妹の方をまだ見ぬ彼女よりも優先するなんて、馬鹿なことかもしれない。それにちなみだって俺のことをただの義理の兄としか見ていないだろう。なのに、まるで彼女みたいな言い方をするなんて。俺の独占欲でしかないんだろう。

 

 でも、今日こうして一日を楽しめたし、何よりもこうやって手をつないで帰るこの時間は、誰にも邪魔されたくなかった。

 

「バーカ、格好つけすぎ」

 

 ちなみは俺の方を見ずにつぶやく。俺はつい横目でちなみの顔を見た。夕日に染まって少し赤くなった顔が見える。その顔は恥ずかしそうだけど、どこか嬉しそうだったのは見間違いだっただろうか。

 

「もうしばらく、私も彼氏作らないであげる。感謝してよね」

 

 俺たちは残りの道を、黙って手をつないだまま歩いた。俺たちは義理の兄妹だけれど、今日だけは恋人同士のように寄り添っていたいと思った。きっとそれはちなみも同じだったのだろう。実際に聞くことはなかったけど、つないだ手から俺と同じ気持ちが伝わったような気がしたのだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 義理の妹のちなみとショッピングに行き、そこでこいつのメイク道具を一緒に見てからしばらく後。俺は自分の部屋にちなみを招いて、うんうんと悩んでいた。目の前には女性用のメイク道具がいくつもある。全部試供品だ。もっとも、俺が自分で使う奴じゃない。ちなみに買うためにもらってきた奴だ。しかし悩む。

 

 なまじちなみという素材がいいから、どれも似合って決められない。

 

「う~ん、どれにしようか……」

「ね~兄貴まだ? 私そろそろ自分の部屋で宿題やりたいんだけど」

 

 最初は面白がって付き合ってくれていたちなみだけど、さすがに飽きてきたらしい。

 

「ごめん。後三つ試したい」

「三つ!? 最初より増えてない?」

 

 結局、俺は自分を美形にすることではなく、妹のちなみをきれいな女の子にすることにすっかりはまってしまった。将来はメイクアップアーティストの道も視野に入れたいくらいだ。

 

「あのさあ、私兄貴の着せ替え人形じゃないから! 少しは自重してよお!」

「心配するな。今試してるやつでいいと思ったのは、全部俺が自腹で買うから」

「うわ~、兄貴の凝り性なところが出たよ」

 

 ちなみはため息をつく。

 

「ほら、今度はこれだ」

「あーはいはい……」

 

 俺は真剣にちなみの顔を観察しながら、アイライナーを使ってアイラインを引いていく。

 

「お前をきれいにしたいんだよ。俺は」

「兄貴にそう言われればまあ、女子として嬉しいけどさ」

 

 ちなみがまんざらでもない口調でそう言ってくれる。

 

 途端に俺もインスピレーションがわいてくる。

 

「よし! じゃあこれとこれと……あとこれも試すぞ」

「勘弁してよ兄貴! もうやだ! 疲れた!」

「待ってくれ、あとちょっとだから!」

 

 こんな関係がもう少しだけ続くと思う。ちなみには少し気の毒だけど、お前のショッピングに同行したことから火がついたんだ。まあ、諦めて付き合ってくれ。

 

 

◆◆◆◆

 

 

[完]




第6話あらすじ:同級生の真子にも事情があった。仲良く俺とちなみはショッピング兼デートを終える。その後、俺はメイクに興味を持つのだった。メイクする相手は俺ではなくちなみである。
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