やるにしても連載作品が落ち着いてから……。
冒頭も前フリもなくクライマックスから始まる謎の話。
こういうのが好きなんだって言うアピールかもしれない。
人の気配が無い営業していない劇場。
その壇上の上に、俺と男は対峙していた。
だが、俺達の間には明確な差が存在していた。
強者と弱者の図式が、対峙していた時点で成立していた。
その原因は、スクリーンに映し出されている三つの映像。
俺は流されているそれを見て、しばらく言葉を失った。
「なんだ……これは……」
「見て分からない? 分かるよね? だって君の大切な子達だ」
モニターに映っているのは間違いなくルビー、有馬、あかねの三人。
それぞれが違う場所にいて、それぞれがオフショットを満喫している。そんな映像だ。
密着取材を受けたという話は聞いていない。
カメラが回っているのに三人は気付いてすらいない。
なのに映像は間違いなくリアルタイムでこちらに送られてきている。
じゃあ、じゃあだとしたらこの映像は……。
一体誰が撮っているんだ……?
「誰が? は今関係ないよね。今の君にとって重要なのは、どうするか? だよね」
ピ……と、三人の映像の上に一つずつ設置されている電光タイマーが一秒ずつ減っていく。
秒数は等しく、全員がニ十分を切った。
それが何を意味するのか、考えたくない。
直感に、従いたくない。
だがそれでも思考は勝手に最悪を作る。
そうであって欲しくない未来を描く。
「黒川あかねはやっぱり転落が一番美しいと思うんだよね。死を覚悟した時、二度も助けてくれた君は今度はいない。ああ、素晴らしい」
やめろ……。
「星野ルビーは交通事故が似合うと思うな。目標に向かっていたのに突然それが断たれる。あと少しだったのにって、間際に涙を流して段々と動かなくなるのはとても面白そうだ」
それ以上口を開くな……。
「そして有馬かなはそうだね……うん。彼女はストレートに腹を刺されるのが良いね」
カッッ!! と、全身が瞬く間に熱くなった。
身体を駆け巡る血が、一気に沸き立つのを感じる。
「アイドル業だ。彼女の芸風的に面倒なファンもいるだろう。その内の一人の逆恨み。悪く無い所か非常に素晴らしい筋書きだよね」
ギリッッ!! と、音が自分でも聞こえるぐらいに強く歯が噛み締められる。
感情が制御できない。
本能のままに行動したくなる。
くつくつと笑うゴミを今すぐ殴り飛ばしたい。
その腐り散らかした表情を一瞬で黙らせたい。
無意識に右手が、信じられない程に赤くなる程強く強く握りしめられる。
だが、それでも俺は最後の一線だけは踏み留まる。
今ここで手を出せば、あかね、有馬、ルビーの三人が危ない。
手玉に取られている今、不用意に手を出すべきではない。
そんな事は分かっている。
そんな事は、分かっているッッ!!
「……タイマーを止めろ」
「ん~。反抗的態度、一点減点」
屑の楽しそうな声が響いたと同時、ピっと電子音が響き。あかねのタイマーが十秒減る。
「ッッ!?」
「良いよ。僕を殺したいんだもんね。分かってるよ。だから面白い事をしよう。一歩で三十秒。口答えで十秒。一撃入れたら五分。殺せたらその場で全員ゼロだ」
ふざけるな。
ふざけるなふざけるな。
この男は明確な事は何も言ってない。
だが分かる。伝わる。
コイツは……殺させる気だ。
映像を撮ってる奴に、容赦なく。
黒川あかねを。
有馬かなを。
星野、ルビーを。
「有馬も……あかねもルビーも関係ないだろっ!!」
「はい口答え、癪に障ったので三点にしよう」
ピッ、とあかねのタイマーが今度は二十秒、次いでルビーのタイマーが十秒短縮される
「ありゃ、黒川あかねの命が短いね。運命に好かれてるのかな」
「ッッッ!!!!」
人を馬鹿にしたような声が聞こえて来た瞬間、殺人衝動が全身をめぐった。
今一度、全身の血が沸騰する。
今すぐ、今すぐコイツを殺したい。
頭の思考が、その一点に塗り潰される。
それだけは出来ないと、理性で必死に抑えつける。
頭を巡る映像が、俺の直情的感情を抑制させる。
歩道橋から転落し、頭から血を流しながら静かに力を失っていくあかねの姿が。
真横から車が激突し、段々と動かなくなりながら助けてと呟くルビーの姿が。
『愛してる』
深く腹を刺され、もう助からないことを知ってそれでも言葉を残す為に力の全てを振り絞ったアイの姿が。
そして。
そして。
「ッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
ぐわしと、自身の髪を乱暴に掴む。
思い浮かべたくない。
想像すらしたくない。
そんな事が有ってたまる物か。
そんな事態にさせてたまる物かッッ!!!
「ルールが分かった所で選択の時間だ。星野アクア」
ギロリと、声が聞こえた方を睨みつける。
強く。殺してやると言う意思を強く込めて。
「三人がいる場所はバラバラ、場所のヒントはこの映像のみ、映像が流れているのはこの場所だけ。三人は特に制約も無くオフを楽しんでる。好き勝手に動くだろうね。さあ問題だ」
両手を広げて演説を始める。
まるで劇団のショーみたいに。
自分が支配人であることを、誇示するかのように。
「誰を助ける?」
うるさいぐらいに声が響く。
「誰を見捨てる?」
どこまでもどこまでも脳に言葉が浸透する。
「それとも全員を見捨てて僕を殺す?」
黙れ。
黙れッッ!!
もうこれ以上喋るなッッ!!
「僕をここまで追いつめた。賞賛に値するよ。でも僕も警戒するし対策も練る。二度目は無い。断言しよう。僕を殺すチャンスは今後二度と訪れない」
分かっている。
ここまで追いつめるのに神経、精神を擦り減らし、犠牲を積んできた。
それを思えば、今ここで激情に駆られるべきだ。
全てを犠牲にしてきたのなら、彼女達も犠牲にして今ここで復讐を果たすべきだ。
そう、頭が訴える。
本能も、それを助長させる。
だがッッ!!!
『アクアくん』
『お兄ちゃん』
『アク……あーくん』
それ以上に俺は、三人を助けたいと願った。
本気で、本当の本気で、救いたいと思った。
イヤだ。
ふざけるな。
人を舐めるのも大概にしろ。
あの三人の命と引き換えにしてまで果たしたい復讐じゃない。
俺の心は……そこまで腐ってない筈だろッッ!
だから今ここで怒りに身を任せるな星野アクアッッ!!
殺したい気持ちを殺せッッ。
これ以上、俺の周りから誰一人も失わせるなッ!
「命の時間は短いよ? どれだけ頑張っても二人が限界じゃないかな?」
その言葉が、皮切りだった。
全力で、自分に出せる全速力で走り始める。
殺したい男の方ではなく、
救いたい少女達の方へと。
「あぁ……命の重みを感じる」
背後に聞こえる声が、俺に怒りを滾らせる。
今に見てろ。
絶対全員救ってやる。
全員をこの手で確実に助けてやる。
言ったな?
言いやがったな?
二度目はないだと?
今後僕は二度と追い詰められないだと?
だったらそれもひっくり返してやるよ。
有馬も助けて、
ルビーも救って、
あかねも守って。
全員を守って、守り切って、もう一度お前の前に俺は立ってやる。
一対一で、
誰の邪魔もせず、
お前の妨害全てを踏み越えて。
今一度対峙してやる。
その時こそ、
その時こそ。
「覚悟しとけ……カミキヒカルッッ!!!」