翔はその後も手を変え品を変え探りを入れ続けたが一向にわかる気配が見えてこない。挙げ句、意識を偏らせすぎたために学校への進入はバレるというやらかしもしてしまった。しかも奈美恵によるものか能力による解決もできず、ただ逃げるのみしかできなかった。成果は得られなかった。
最初の侵入から凡そ一ヶ月経過した現在、奈美恵の『能力無効』によりまともに能力が使えず、その上『透明化』さえも意味がなく、最早お手上げだ。翔は今後の行動を考えながら、体育館裏の地面に腰を下ろし、一人コーヒーを飲んでいた。
「ううむ…………詰みかねぇ」
翔が奈美恵に接触して以降、彼女の能力は少し強力になっていると翔は感じていた。前までは彼女に関する事柄の記憶や学校や友人などの周辺環境への能力の行使は問題なく行えていたが、最近では少し失敗するようになってきた。今も翔の脳からは奈美恵の記憶が薄れつつある。
しかし翔も無抵抗で忘れる程愚かではない。翔は一週間前から奈美恵に関する情報を市販の筆記用具で、同じく市販のノートに手書きで書き残していた。何処かに能力を挟んでしまえば、そのノートや筆記用具は崩れ去り、二度と思い出せなくなってしまうかもしれないからだ。
何故こんなにも奈美恵の能力が強化されているのか、そらはやはり翔の誤算もあった。
通常、能力は使えば使うほど成長するという特性がある。これはありとあらゆる能力に総じて言え、『能力無効』もその例外ではない。翔はこの成長度合いを見誤っていた。本来能力は一万回程使用することでようやく一回り強化される。炎で例えるならば十度温度が高くなるのだ。しかし、彼女の体質なのか、はたまた与えてしまった能力なのか、彼女は千回で一回り、通常の十倍の速度で成長するのだ。はっきり言って異常だ。
「……やっぱ詰みだよなぁ!」
翔は自身に呆れて叫ぶ。もう頭の中の記憶から彼女はほぼ消え去っていた。何とかノートに書き記すことはできたが、もう名前すらも思い出せない。翔は忘れ去る前に、何とかして体育館裏の地面を掘り、そのノートを金属製の金庫に入れて埋めた。
そうして嘆いていると、翔の記憶からは彼女の概念や目的すらも消え去ってしまった。そしてその場に金庫とノートを埋めたことさえも。翔は何故自身がそこにいたことさえ分からず、一瞬にして何処かへときえてしまった。
その日の夜、奈美恵はいつも通り一人で帰り道を辿っていた。いつもの角を曲がり、いつもの横断歩道を渡る。しかし、彼女は横断歩道を渡りきる前に、突撃してきたトラックに衝突、宙を舞って意識を失った。
奈美恵大丈夫か!?