彼女たちは走るために生きてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ。
別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが彼女たちの運命。
この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果はまだ誰にも分からない…………。
オレは小さい時から極道の道しか無かった。
大阪万博の建設労働者などが集まるスラム街で生まれ、同時にその万博によってスラム街は一部を残し駆逐され、追い出された。
横目で街の電気屋さんのショーウィンドウに置いてあるテレビで華やかなウマ娘のレースやライブを見て、羨ましさと苦労を知らない彼女らに恨みを持っていた。
その後、高度経済成長に揉まれたオレは学校を中退し、極道の道を歩んでいった。
人殺しとか手を血に染める様な事はせェへんかったが、地上げや闇金、暴力沙汰に手を染め、多額の金を儲け、多くの珍しいモンや高級なモンを買い漁った。
やけど、1991年から例の法律でウチを含めた極道は力を失い、オレもほとんど金を使い果たした。
それが原因か知らんけど、春におやっさんからいきなり告げられたんや……。
――――1991年 5月 大阪 ミナミ
桜が散って葉桜が目立ち、初夏と呼ぶに相応しい暖かさの頃にオレは突然おやっさんに呼ばれ、おやっさんの部屋に入った。
おやっさんは右手に持ってる煙草をふかしている。
オレが来た途端に灰皿に煙草を擦り付け、こちらを見ている。
「失礼しまっせ、なんやおやっさん、オレを呼び出しなんてまたなんか新しい仕事でも入ったんか?」
そうオレが言うと、おやっさんは椅子に深く座り込み唸り声をあげる。
おやっさんは深刻そうな顔でこちらを見つめ、笑っていたオレもそのおやっさんの顔を見て笑うのを止め、近くの革製のソファに静かに座る。
オレがソファに座っても、おやっさんは深刻そうな顔をしたまま長く黙り続け数十秒が経ち始める。
その今まで見た事の無いおやっさんの姿にオレは動揺し始める。
「な、なんやおやっさん、そんな辛気臭い顔してどないしたんや。また他の組との抗争かいな。バブル期でそんなもんほぼ収束したやろ……それともなんか他の用事かいな」
そうオレが不安そうな声で話していると、おやっさんは何か躊躇う様な感じでゆっくりと話し始める。
「そんな大事な用や無いんやけどな……
その場に居たオレはおやっさんの言葉を一瞬、理解する事が出来なかった。
だがすぐにおやっさんのボケた発言だと理解し、オレは安堵と同時に呆れていた。
どういう訳か分からへんけど、おやっさんのいつもの冗談に決まってるやろと。
「は?何を言ってるんやおやっさん、ボケとりますん?ウチがカタギやなんて大事やないですか!」
「ハハハすまんすまん、ボケてたわ。ほな破門しよか、文志」
「……!?」
そう言って大きな黒字で破門と書かれた
「はは……おやっさんは気でも狂ったんか……なんでや!?突然意味分からんやろ!!オレが何したっちゅうんや!!!」
「今のこの組にはお前は要らんのや、オケラなお前には様々なアコギな罪があるから落とし前つけなあかんねん。ほやから理解してくれや……」
「こ、こんなん理解出来るかいな!アホらし過ぎるにも程があるわァ!!」
「……文志、もう今の時代はアコギな商売は出来ひんねん、それに組の中でもお前をよく思っとらん人も居るさかい。周りから言われて絶縁状を突きつけようか考えたが、これしか方法は無いんや、堪忍やで文志……」
おやっさんは申し訳なさそうな顔をしながらこちらを見ている。
オレにはおやっさんの言葉を簡単に理解出来ひん。
だって約15年弱の極道歴でオレはこの組の為に頑張って来たんや。
それやのに、こんな扱いはあまりにも理不尽やわ……
せやけど、おやっさんの頼みならオレはこのカタギになるのを受け入れるしかない……。
「……おやっさん分かりましたわ、この破門状受け取ります。今までおおきにでしたわ……」
「ちょい待てや文志。突然カタギにしたお詫びや、お前に新しい仕事先を斡旋したる」
「……足を洗ったのに仕事を貰うのはおかしない?」
「まあそやけど、破門言うてもウチとしては形だけや。個人的にはお前を家族やと思っとるさかい、数年ぐらい経てば仕事が嫌になってもまた組に戻れるようしたる。それにウチが斡旋するんのはアコギな仕事やないから安心せぇ。とりあえずお前の仕事内容は東京にあるトレセン学園でトレーナーになってもらうことや」
おやっさんから突然極道とは真反対の世界への仕事の斡旋にオレは目を丸くし驚く。
「と、とととトレセン学園!?あのウマ娘名門学園のトレセン学園か!?!しかもトレーナーっておやっさん、アソコのトレーナー試験は難関中の難関や、学歴が低いウチには無理やて、それにウマ娘はオレには苦手や……」
「まあそう言うなや。それに学歴なんかは安心せぇ、URA(ウマ娘競走協会)に知り合いが居るから、ソイツに推薦状書いとくさかいそのままテスト受けてトレセン学園に向かえや」
オレはおやっさんのその発言には半信半疑だが、財界や政界など様々な繋がりを持っていたおやっさんなら有りうる。
「それにお前は賢いから試験は簡単や、ウチの組の体調管理も行ってたし、問題あらへん!ワハハ!!」
……いや、ワハハやあらへんけど!?
まあ15年ほど組の体調管理や怪我の手当はしてきたし、なんならブラ〇クジャック並に自分で自分の手術出来るかもしれん、知らんけど。
「……分かりました、この倉塚文志頑張らせていただきます。ほなおやっさん、今までおおきにや」
「ええ人生歩みや、文志…まあ数年我慢してくれや、戻る準備させたるさかい」
そうおやっさんが悲しそうな顔をしながらそう言い、オレは部屋から去った。
そしてオレはこの日、カタギの道へと歩み始めたのだ。
――――東京 府中市
服はオシャレする様な人間や無かったし、おやっさんの推薦状で通して貰ったんや、いつもの真っ黒な背広で革靴でバッチシ決めたから大丈夫や!
そして胸には金色に輝くトレーナーバッジ、学園には偽装した履歴書と何故か簡単に合格してゲットしたトレーナーライセンスも送付したし問題無い!
……うん、なんも問題あらへん!!
まあ、ウマ娘は今でも苦手やな……特に中央の奴らはボンボンのイメージがあるわ。
まあ、我慢すれば問題あらへんやろ!
そんな事を心に思いながらゆっくり歩いていると、突然後ろから何かにぶつかる。
オレは反射的にいつもの癖でメンチを切ってしまった。
「あ゛あ゛?どこに目ェ付けてるねん!!」
「うう、ご、ごめんなさい……!」
し、しまった!ついカタギ、しかも女の子に因縁つけるところやないか。
アカンアカン、女の子には優しくせな……。
後ろを振り向くと黒鹿毛の小さくて
服は学生服、しかもウマ耳……この近くのウマ娘の居る学校って事はまさか、トレセン学園やないか!?
彼女に案内して貰ったらええやん、これはまたと無いチャンスやんか!!
「ご、ごめんなさいお嬢ちゃん、声荒らげて。少し道案内して欲しいんやけど……」
「は、はい!なんです……って、ひぃぃぃぃいいい!!!」
そう言って彼女は俺の前からすぐに逃げ去った。
まるで化け物を見たかのような驚き方だ。
「なんや、そんなに驚かんでもええのに、恥ずかしがりなべっぴんさんやな〜」
するとその瞬間、後ろから誰かが肩を掴む。
「あー、君ちょっといいかい?」
「ああ?なんや……」
そう言って後ろを振り向くとサツが数名がこちらを睨みつけていた。
こんな所で問題起こしたら、おやっさんに面目が無いわ。
ここはちゃんと落ち着いて話をしなアカンな!
「申し訳無いんだけど、少し話を聞いても良いかな?」
「なんや、オレは極道やないで既にカタギや!それにオレはここにトレセン学園のトレーナーとして来たんや!!関係あらへん!」
「そのカタギって言ってる時点でもうヤクザなんだよ。しかもトレセン学園のトレーナーって……関東のヤクザでもそんな嘘は付かないぞ。とりあえず職質受けてもらうから、ついて来い」
う、嘘やろ……府中に来てすぐに職質受けたで……ホンマにカタギになったけど、オレの人生大丈夫かいな?
オレはこの先の将来が不安になってきたわ……。
そしてオレはこの先、様々な波乱万丈な道をウマ娘と共に歩む始まりとなるとは今のオレには予想が出来なかった。
既にPixivで投稿しておりますが、こちらでも投稿を始めました。
温かい目で見守って下さい。
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