ウマ娘 ブラックアサシン   作:Yoshi4041

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 ―――西暦1991年、平成3年。

 この年はバブル崩壊して間もない頃、景気悪化に向かってゆっくりと進み始めていたが、経済不安で人々が暗い中、明るいウマ娘界隈は彼らの現実逃避の為に一段と盛り上がりを見せ、多くのウマ娘がブームを牽引して活躍していた時代。
 特にオグリキャップ以降のメジロ家輩出のライアンやマックイーン、そしてオグリキャップのラストランで一緒に走ったホワイトストーンを含めて「新三強」と呼ばれた時代である。
 また、クラシック三冠でも憧れの先輩であるシンボリルドルフの無敗の三冠ウマ娘を目指すトウカイテイオー、そのライバルで弥生賞をシンボリルドルフと同じタイムで勝利したイブキマイカグラ、その他にレオダーバン、シャコーグレイドやナイスネイチャなどの強豪ウマ娘がジュニア級に揃っていた。
 短距離・マイルではオグリキャップとマイルCS、ジャパンカップなどで競ったバンブーメモリー、後の獲得賞金で素晴らしい記録を叩き出すダイタクヘリオス、『華麗なる一族』と呼ばれた名家であるダイイチ家出身のダイイチルビー、怪我と病気の危機的状況をくぐり抜け、デビューを勝ち取れたケイエスミラクルなどが激戦を繰り広げていた……。


第3話 脚質

 ―――理事長室

 

「大変すんませんでした!次からは気をつけますんで……」

「不問ッ!熱発はそんな重大なものでは無いからな!ゆっくり休ませて安静させよ!!」

「ありがとうございます、ほな失礼します……」

 

 倉塚はそう理事長に頭を下げながら理事長室から出て、扉を静かに閉めて後にする。

 

 …………ふぅ、なんやめっちゃ焦ったわ。

 ライスお嬢のデビュー戦が熱発?という病気になってお嬢は泣き止まないし、人間のオレはそんなん聞いた事無い病気やから動揺したけど、ただの発熱でしかもデビュー戦は延期出来る事を知ったからひとまず安心や。

 とりあえず一ヶ月後の新潟レース場で行われる8月の新バ戦にはお嬢を万全の状態にせなあかんからな。

 ………なんや、お嬢が[[rb:不安要素>ヤクネタ]]な気がしてるわ……あの時、お嬢の身体が強そうやったのはオレの気のせいやったんやろか……。

 オレはトレーナー室に戻るとそこにはライスシャワーがちょこんと申し訳なさそうにしながらビクビクしながら座っている。

 多分オレが怒るんやと思ってるんやろか、反抗してくる偉そうなチンピラならそこで殴り合いするかもしれんが、こんな産まれたての子犬みたいな感じでおったら怒る気にもならへんて……まあ女は殴らへんけど。

 やけど、この態度は今後のレースでタイマンとかでやり合う際に負けてまうし、これに関しては注意せなアカンわ。

 

「…………ライス!」

「は、ひゃい!ごごご、ごめんなしゃい!」

「何を謝ってんねん!悪い事してへんし謝ったら負けやで。………とりあえず、お前はこれからお前は強いライバルと立ち向かう際、怖がったらアカンで。堂々と仁王立ちする勢いで立ち向かうんや!」

 

 ライスにそう言うと、ライスは何か決意したような顔をしている。

 

「ん?どうしたんやライス」

「トレーナーさんの言うとおり、ライスはがんばるよ……!」

「……その意気や!ほな今日からは無理な特訓はすんなや、常に体調は万全にしときや。新バ戦はオレにとっても、お前にとっても大事なレースやからな」

「わ、わかった、ライス……次はトレーナーさんに迷惑……かけない、からがんばるよ」

「それでええ!とりあえず次の新潟での新バ戦で敵に落とし前つけてやれ!」

「落とし……前?で、デビュー戦で誰かをライスが前に突き落とせばいいって……こと?」

「ちゃうちゃう、えっとあれや……まあビューって走って一着なってくれやって事、その為に元気な状態で維持せぇよって意味や!」

「……と、とりあえずがんばるね!」

「おう、とりあえずいつも通りに走り込みしてこいや」

「うん、いってくる…!」

 

 ライスシャワーはそう言ってトレーナー室を飛び出す。

 ライスシャワーのこの三ヶ月間のトレーニングを見てきたが、ネガティブで自信が無い分、人一倍に他のウマ娘よりは特訓しとる。

 そりゃオレを不幸にしたくないのは分かんねん、でもな別にそんな事考えなくてええねん。

 自分の事を大切にすべきや……。

 

「とりあえず新潟でのデビュー戦の調査やけど、正直負ける気がせえへん。今回戦うダイイチリユモンや他のウマ娘も確かに実力はあるかもしれへんが、小柄ながら怪我はせえへんし、何なら体調管理やストレッチもちゃんとしとるお嬢は強い。熱発はしたが……まあ問題は無いわな!」

 

 オレは近くにあった新聞を手に取り、ウマ娘の情報は無いか新聞を広げる。

 

「それにしても……新聞は湾岸戦争や東欧の事ばかりやなぁ……」

 

 オレはその部分をササッと軽く読み、ウマ娘の記事を探す。

 

「ウマ娘の記事はっと……メジロ家のマックイーンとライアン、そしてホワイトストーンの三人が新たな「新三強」と呼ばれる時代か……いつかはこの三人の誰かに勝てるような……いや、有り得へんな」

 

 とりあえずお嬢も待っているやろし、トレーニング場に向かうかな。

 トレーニング場に向かうと様々なウマ娘がトレーニングしている。

 その中で菊花賞と天皇賞・春を制したメジロマックイーンが記者達に囲まれている。

 

「マックイーンさん、6月の宝塚記念での優勝おめでとうございます。お聞きした情報で天皇賞・春に続いて天皇賞・秋も目指すのは本当でしょうか?」

 

 記者がマックイーンにそう質問すると、自信ありげな表情で記者達に答える。

 

「ええ、勿論ですわ。次の京都大賞典にも勝って、天皇賞・秋の盾もわたくしがメジロ家に持ち帰りますわ!」

「「「オオォォォォ!!」」」

 

 記者達はメジロマックイーンの言葉に雄叫びを上げている。

 それにしても大変やな、有名になったら記者に質問され、揉みくちゃにされてああなるんかいな、そんなん毎日毎日シンドいわ。

 するとメジロマックイーンは冷然たる態度で記者の囲みから抜けようとする。

 

「もう良いかしら、ではトレーニングに戻らせて頂きますわ」

「もう少しお話を!」

 

 記者はメジロマックイーンの前に出て、どこかへ行かないようにと逃げ場を塞いでいる。

 

「退きなさい!これ以上は話す事ありませんわ」

「まあまあ、良いじゃないですか。たった10分程の質問じゃないですか……」

 

 ……なんか可哀想になってきたな、ほな助けてやるか。

 オレは記者に近づき、塞いでいた記者の肩を掴む。

 

「オイもうええやろ、あんさん。諦めの悪いヤツはオンナにモテへんで?」

「何だ、こっちは学園の許可を取って取材を受けて……ヒッ!!」

 

 その記者はオレの顔を見た途端青ざめ、その反応を見た周りの記者もオレを見て驚いた表情をしている。

 

「や、ヤクザだぁあああ!!」

「ユ、URAはヤクザとの繋がりがあるって噂、ホンマやったんや!!」

「と、とりあえず失礼致しますね、マックイーンさん本日はありがとうございました……」

 

 記者達はオレの顔が嫌なのかその場からそそくさと逃げていく。

 ウチは既にカタギや、ホンマに失礼なやっちゃやで。

 普通にモテたし、イケメンやと思うんやけどな……。

 目つきか!目つきなのか!!

 確かに怖いって言われてたけど、なんでやねん、そこまでビビらんでもええやろがい!!

 

「待てや記者共!オレはもう極道やない……ってまあええわ、大丈夫かいな……えっとメジロマックイーンやっけ?」

「全く、助けなくても大丈夫ですわ……えっと、ヤクザさん?」

「ヤクザ言うなや、倉塚や!トレーナーバッジが付いてるやろ!!それにオレは極道やない、カタギや!!」

「でも『カタギ』なんて言葉、ヤクザの方しか言いませんけど?」

 

 な、なんやコイツ、察しの良いやっちゃやな。

 そんなん別にええやろ、そんな事気にせんでええやないか。

 まあ、学園に迷惑掛けたらオレの首が飛ぶさかい、とりあえずなんか適当な言い訳を……。

 

「ご、極道の映画とか観てた影響や!別にええやろそんな事!!」

「ふふっ、そうですわね。とりあえず助けていただいて感謝致しますわ。ではごきげんよう……」

 

 なんやアイツ、ホンマに偉そうやな。

 天皇賞・春と宝塚記念で勝ったから天狗になってるんやろな。

 京都大賞典か天皇賞・秋で負けて痛い目見ればええねん。

 ………まあ感謝してくれただけでも許してやるわ。

 とりあえずお嬢の所に向かわんといけないな。

 

「と、トレーナー……さん?今のはマックイーン……さんですよね?」

 

 うっ……この声はお嬢やないか!

 なんやいつもより声が低いような……。

 

「ライスか。せや、さっきメジロマックイーンが記者に取り囲まれていたから助けてただけや」

「そう、ですか………」

 

 なんや、エラい落ち込んどるやないか………そんなにオレを待ってたんかいな。

 なんか落ち込んでるけど大丈夫やろ、心配あらへん。

 

「ほならライス、お前の走り見させてもらうで」

「は、はい、がんばります……!」

 

 ライスシャワーがトレーニング場を走り始める。

 それにしても今日はいつもよりタイムが良いような感じがする。

 これならデビュー戦勝てるかもしれへんが、オレはウマ娘をトレーニングする事態が初や。

 借金した人間どもを育てた事はあるが、ウマ娘はちゃう。

 無理させるのも不安がある。

 それにトレーナーの仕事を与えてくれたおやっさんにも負けたりしたら面子が潰れる。

 それだけは絶対避けたいんや!

 とりあえずライスシャワーを、お嬢を分析しなあかん。

 ……確か、たづなさんからウマ娘専用の教科書を貰ったんやった。

 これを見ながら、お嬢の分析すれば問題無いやろ。

 オレってホンマに天才やわ!!

 そしてオレはライスシャワーを分析し、レース二日前にお嬢に作戦内容を伝える。

 

「ライス、お前に作戦を伝えるわ」

「よ、よろしくおねがいしましゅ…!」

「……ライス、お前良う噛むけど突っ込んだ方がええのか……?まあええわ、まずお前の脚質的に新潟のデビュー戦では『先行』で行く」

「『先行』……ですか?」

「ああ、例えばお前はスタートが下手なのがめっちゃ目立つ。スタートが上手いならええんやが、お前は時々しか成功しとらん。だからスタートが上手くないと『逃げ』は失敗すんねん」

 

 それを聞いたライスシャワーは悲しそうな、そして申し訳なさそうな顔をして、

 

「ご、ごめんね……ライス、スタートが下手で……」

「ちょ、そんなすぐに謝んなや!なんかオレが悪い事言ったみたいやんけ……まあスタートが下手なウマ娘なんて沢山いるし、そいつらよりはライスはマシやから気にすんな」

「う、うん……わかった……」

「……とりあえず話戻すで、ほんでやっぱお前小柄やから進路塞がったりしたら抜け出せないかもしれんから『追込』や『差し』は向いてへん。性格的にも体格的にも、そして走りの技術でもライスシャワー、お前には『先行』が一番ピッタリやわ」

 

 ……って教科書に書いてあるのを研究したんやけどな。

 てか、ホンマにコレめっちゃ分かりやすいな!

 ええやんコレ、まるでフ〇ミコンの攻略本みたいやんか。

 

「ト、トレーナーさん……」

「ん?なんや、なんか文句あるんか?」

「い、いえ!ただ……こんなにライスのこと、考えてくれてうれしいなぁって思って……」

「あ、当たり前やんか!ライスの事を一番に考えてるがな……」

 

 もちろんお嬢のことは考えてるが、まずはおやっさんがくれたこの仕事に(はいぼく)は許されへん。

 明後日はいよいよ、新潟のデビュー戦や。

 新聞によれば人気順はお嬢は2位、1位はダイイチリユモンや。

 ハッキリ言って、ライスの実力なら他のウマ娘でも、この1位のダイイチリユモンにも問題無く勝てる。

 

「短い時間かもしれへんけど、今日は先行の練習して明日の朝、上越新幹線で新潟に行くで。寝坊したら許さへんからな!」

「は、はい……!」

 

 そしてオレは明日、ライス嬢と共にデビュー戦を迎えるんや……!!




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