ウマ娘 ブラックアサシン   作:Yoshi4041

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第6話 芙蓉とお兄さま

 ――――芙蓉(フヨウ)

 中国や台湾、日本では沖縄、九州、四国に自生し、関東地方以南で観賞用に栽培されている植物。

 7月から10月の初めにかけてピンクや白色の花をつけ、朝咲いて夕方にはしぼむ1日花で、長期間にわたって毎日次々と開花する。

 花言葉は「繊細な美」「幸せの再来」そして「しとやかな恋人」である。

 まるで今後のライスシャワーに相応しい花言葉である。

 

 

 

 ――――ライスシャワーは早朝から学校近くの多摩川の土手を走っている。

 

「ライスがあの時、もう少し力があれば……スタートができていたら、トレーナーさんにはもう失望させたくない………だから………」

 

 来週まで迫った芙蓉ステークスはライスシャワーにとって大事なレースの一つ。

 前回のレースで惨敗したのが響いており、勝利数を稼がねばクラシックレースへは参加が難しくなる。

 彼女は受け入れてくれたトレーナーに勝利を授ける為に彼には秘密の特訓を繰り返していた。

 

 

 

「………ライスシャワー、オレになんか隠し事してへんか?」

「ふぇっ!?」

 

 ライスシャワーはオレの驚き、目を泳がせながら動揺し始める。

 この反応を見てやっぱり図星か……ホンマに要らん事せんでエエねんて。

 

「……ホンマにさぁ?――――」

「ごごご、ごめんなさい………」

 

 オレは説教をしようとした途端にライスシャワーはすぐに謝る。

 オレは怪しいと思ったが、やっぱりそうやった。

 無駄なトレーニングして怪我したら困るし、無駄に負担かけずに簡単なレースに勝たせたいねん……。  

 

「………前にライスがオレに1ヶ月に1回のローテーションがエエって言ったけどな、前回のと次回のレースの間隔は20日……いつもより短いから慎重に進めなアカン。自分もまだ新人トレーナーやさかい、幸い次回のレースは簡単なメンバーしかおらへんから無理にトレーニングして怪我する可能性増えるんだけなんやから」

「でも、ライスはもう負けたくないから……トレーナーさんの為にも……」

 

 やはり前のレースを引きづってんなぁ、別にクラシックやG1みたいな大事なレースやないからええのに……。

 オレはため息を吐き、ライスに返答する。

 

「だからなんやねん?オマエはまだレースも始めたばっかなんやから今はそこまで強くならんでエエ。前の11着がなんや?まだ始まったばかりやから気にすんな」

 

 オレはライスの頭をポンポンと軽く叩き、そして撫でる。

 

「せやけど、お前にものごっつい強敵が現れたりライバルが現れたらその時は好きに特訓せぇ、な?」

 

 オレがライスの頭を撫でながらそう言うと、ライスは不満げな顔をしている。

 まだ不満げやな……確かにオレも勝ちたいで?

 この仕事を斡旋してくれたおやっさんの為にも、ライス嬢の為にも。

 

 ………せやけどホンマに、これはライスシャワーの為なんやろか。

 楽なレースだやからってトレーニングをさせず、不満な彼女をこのままにさせるのは、幸せやないかもしれへん。

 それによぉ考えたら、まるでライスシャワーが弱くて怪我や病気になるかもしれへんって、他のウマ娘より悪いから逃げてるような感じやないか……?

 それはライスに対して余りにも侮辱的やん。

 オレは元極道、常世(とこよ)組の若頭補佐やぞ!?

 いつからチンピラみたいなアコギなことしてんねん、オレ!

 彼女がやりたいことをやらせたらええねん、それが一番やないか!!

 

「ライス、スマン今までの言葉、全て撤回や……好きに沢山練習せぇ。放課後でも休み時間でも、ただし怪我には気ぃつけ?」

 

 ライスはオレの真逆の発言に目を丸くし、驚いた表情をする。

 

「と、トレーナーさん……?どうしたんですかいきなり?」

「ん?いや、オレが馬鹿やったって訳や、オマエにはレースしかあらへんのにそれを邪魔するような事をして……それにオレはオマエをどこかで弱いと感じてたんや。本気にしなくても大丈夫なレースを選んでいたのはそういう訳や………」

 

 オレはそう説明すると、ライスシャワーはどこか悲しそうな表情をし、耳も絞るようにしている。

 

「せやけど、それは余りにもオマエに対して侮辱的やったわ。トレーナーのオレがライスシャワーを信じなくてどうすんねん?……せやから次の芙蓉ステークスは圧勝しろ。ほんでライスシャワーの凄さをオレに見せろ!それならオレはオマエを一生弱いとは思わへん!!」

 

 オレはそう声高らかに宣言すると、ライスシャワーは耳をピンと立て、目を丸くすると数秒間無言になる。

 そして突如、彼女はボロボロと大粒の涙を流す。

 

「どどどないしてん!?なんや変な事言ったか!?!?」

「す、すみません……ら、ライスはね、前のレースで負けた時から今までずっと不安で……だからがんばってたくさんたくさん練習しようとしたんだけど、トレーナーさんはダメだって言うし、こ、こんな不運でダメなライスをトレーナーさんは見捨てるのかなと思って……」

 

 オレはライスシャワーの発言に衝撃を受ける。

 大の大人のオレはこんな小さな子を、ライスシャワーを不安にさせてたんか……。

 

「あ、アホか!そんなことする訳ないやろ!!オレの初めての仕事相手はお前や。お前に何かあれば全てオレが落とし前つけるから……だから泣かんでええって、ほらなんか甘い物買ってやるから?な?タピオカやティラミスなんでどうや??」

 

 だがライスシャワーは泣き止まない。

 もうどないせいちゅうねん!

 これやから子供は苦手やねん………。

 せやけど、そこまで不安にさせたのも罪悪感感じんねん。

 

「ほ、ほな、なんかオレにして欲しいこと叶えさせたる…それならどうや?」

 

 するとライスシャワーは泣きじゃくるのをピタリと止める。

 

「……ほんとになんでも?」

「うわぁ、なんやいきなり落ち着くんかい!………ああ、男に二言はあらへん!!全ては無理かもしれへんが、なんか買ったり、やったりしたるわ」

 

 オレがそう言うと、ライスシャワーはモジモジしながら照れ始めた。

 

「では、と、トレーナーさんを……『お兄さま』って呼んでも、い、良いの?」

「お、お兄様やて!?………ほ、他は無いんかい?」

「なんでもって……男に二言は無いじゃないの?お兄さま??」

「ッッッッッッッッッ!!……ああ、どうしたんやライスシャワー」

 

 そうオレはムズムズしながら嫌そうに顔を歪ませ、返事をすると、ライスシャワーは満面の笑みで尻尾を振りながら目を輝かせる。

 

「お兄さまっ!お兄さまっ!お兄さまっ!!」

「わかった、わかった!もう恥ずかしいからエエやろ……せやけどそんなんでええのか?高いブランド物のバッグや服とか全然買うてあげるで?」

「……ライスはね、む、昔読んだ絵本に出てくるお兄様が好きで、こんなお兄様が居たらなぁと何度もおもって、だから今はお兄さま呼び出来るだけでもライスは嬉しいよっ!」

 

 な、なななんて純粋な子なんや………。

 周りに居たア〇ズレ共はカネかブランド物か高級な料理を選ぶっちゅうのに、実はウマ娘ゃなくて尼か聖職者やないか?

 ……せやけど、オレみたいに社会に絶望せぇへんように、強く、しっかりと守ってあげなアカンなぁ。

 

「そうか、ほな芙蓉ステークスでもなんか欲しいもんその時までに考えときや。ほな今日もトレーニングしよか!」

「うん!ライス頑張るね!!」

「せやけど、ミホノブルボンみたいに休暇届は出さへんで!」

「うぅ〜……でもしかたないね、お兄さまっ!」

「………やっぱり、お兄様呼びはやめようや?」

 

 

 

 ――――1991年9月21日、千葉県船橋市 中山レース場

 東京、阪神、京都と並び日本の4大ウマ娘レース主場である

 G1レースもクラシック戦線初戦である皐月賞が開催し、また年末にはトゥインクル・シリーズの1年の総決算である有馬記念が開催されている。

 そして本日は外回り芝1600mのオープン特別競走(1勝クラス)である芙蓉ステークスが開催される。

 1番人気はアララットサンに譲ったものの、案の定1番人気を含め、ライスシャワー以外のウマ娘は新バ戦を何度も挑戦した子や前のレースでライスシャワーの11着より低い順位の子などが多く居るレースである。

 

「………準備は出来てるか、ライスシャワー」

「お兄さま……ライスね、始まる前からいいレースになりそうって……わくわくしてるの!今日は走るの楽しみかもしれない!」

「ほう、それはエエ事聞いたわ!ほな気楽に頑張って勝利しいや!!」

「じゃあ行ってくるね、お兄さまっ!!」

 

 ライスシャワーは手を振りながらターフの方へと走ってゆく。

 あの時の不安な表情は既に消えていた。

 あとは無事に1位取ってレースが終われば問題無いねん。

 

 

 

 ――――ライスシャワーはターフにやって来る。

 一昨日に降った大雨の影響で芝が濡れ、更に昨日と今日で曇りが続いたこともあり、完全に乾くこと無く芝の状態が悪い重バ場状態となっている。

 ターフの芝を踏みしめると水が染み出て、走るとぐちゃぐちゃになるこの重バ場のレースはライスシャワーにとっては今回が初めてである。

 そこには既に今回の競争相手のウマ娘達全員が居た。

 3番人気のタマアワーは観客席へ手を振ると、観客席から「タマアワー頑張れよ!」との声が飛んでくる。

 そこには1984年のジャパンカップにて史上初の日本のウマ娘の勝利と二人の三冠ウマ娘を倒したことで知られるカツラギエースが彼女の応援に来ており、周りがざわめいていた。

 またサクラミサキオーの応援にも1988年の日本ダービー優勝ウマ娘であるサクラチヨノオーが来ていた。

 二人は運命的な何かを感じているのだろう………。

 そしてライスシャワーにも運命的な何かを感じる奴がそのターフに居た。

 

「あらら?ライスシャワーはん?こないな所で会うなんて偶然とちがう?」

「あ、アララットサンさん……」

 

 1番人気のアララットサン。

 小倉レース場での3回の新バ戦に掲示板に乗るか乗らないか怪しいぐらい勝てない状況だったが、中山レース場にて4回目にて初の勝利を収め、芙蓉ステークスに進出した。

 

「アラアラ、ここで対決できるやなんて、なんかの運命やな〜。そやけど最近、うちはこの中山が得意かもしれへんさかい、今回も負けへんから堪忍やで?」

「わ、私だって……負けないよ!お兄……トレーナーさんと約束したから……」

 

 二人はそう言いながら睨み合う。

 彼女らは何かしらの運命を感じている仲ではあった。

 彼女らは見つめ合いながら沈黙を続ける。

 するとアララットサンは突然頬を赤らめ、照れ始める。

 

「ライスシャワーはん、そないに見つめられると、ほんまに恥ずかしどす……」

「ごごご、ごめんね!そんなつもりじゃ……」

「アラアラ冗談どす。ほんまにライスシャワーはん、ちんまりして可愛(かい)らしいどすなぁ……そやけどレースはお互い気張ろなライスシャワーはん」

 

 そう言ってアララットサンはふわっとゲートの方へと向かっていった。

 レース場全体でファンファーレが鳴り響く。

 

『中山レース場第9レース、芙蓉ステークス3歳オープン。外回り1600m今年は8頭立てです。4年前の芙蓉ステークスの名称変更前である芙蓉特別の勝ち馬はサクラチヨノオー、朝日杯3歳ステークスと日本ダービーを勝っております』

 

 気温18度、少し肌寒い9月下旬で行われる今日の中山でのレースは緊張感が溢れている。

 他のウマ娘達が順調に枠入りを完了し、そして最後はライスシャワーの番となる。

 ライスシャワーもゲートへと入っていく。

 

『さあ最後は8番のライスシャワーが収まってゲート入り完了………』

 

 観客はゲートを見つめ、会場は静まり返る。

 その実況が発声して数秒が過ぎるとゲートが開く。

 芙蓉ステークスが始まった。

 

『ゲートが開いてスタートが切られました。ちょっと7番のジョウテンウオロー立ち遅れました』

 

 ゲートが開いた瞬間、ジョウテンオウローがゲートから出るのをミスして出遅れる。

 一方のライスシャワーも大外8番の影響もあり、他のウマ娘から遅れるが、ジョウテンオウローほどの大幅な遅れは起きなかった。

 

『さて、まず先手を取りました1番のジンデンクイーンは1馬身半程のリードを取っています。2番手2番のタマアワー。その外めをつきまして3番サンクティティ。その後ろ、内に入りまして4番ハーバーリファール。その外めをついてる6番アララットサン、1番人気です!その後ろに外めをついて上がっている8番のライスシャワー。その後ろちょっと切れました後方から二人、5番サクラミサキオーと最後方の7番ジョウテンオウロー、こういった体制になっております』

 

 実況は黙々と現在のレース状況を伝える。

 一方のライスシャワーは走りながら後ろからどう先頭のウマ娘を上手く抜かすかを考えていた。

 

「こ、このまま内から抜ければ、最後の直線での体力は温存できる……でもライスはこんなところ抜けれない……」

 

 ライスシャワーは身体が小さく、内から行けば前方のウマ娘に囲まれ、抜け出せなくなる可能性が高い。

 

「だったら……ライスのやることは1つ、外側を精いっぱい走るだけ………!」

 

 だがライスシャワーは長く更に体力があるウマ娘だ。

 それならば内側で走るのではなく、外側を走れば良い。

 ライスシャワーはそう判断し、外側を走りながらゆっくりと着実に前の方へと向かっていく。

 

『向こう流しの中間地点を過ぎていきます。これから第3コーナーのカーブを目指して行くわけですが、現在先頭は1番のジンデンクイーンが先頭に立っています。そして2番手には3番のサンクティティ、その外にピタリとライスシャワーが3番手につけています。その後ろ、内に入っているのが2番のタマアワー。その外をついて1番人気のアララットサンは5番手といった順番です』

  

 実況はそう説明するが、800メートルを過ぎ、第4コーナーのカーブに入る直前にはもうライスシャワーは既に1位になっていた。

 800メートル通過タイムは平均の少し早めの11.8秒で通り過ぎてゆく。

 

『これから第4コーナーのカーブに入っていきます!さあ先頭の方、8番が上がってまいりましたライスシャワー上がって来た400の標識を切ります!さあライスシャワーが上がって来た!内の方でジンデンクイーン!最後の直線コース!ジンデンクイーン、そしてライスシャワー、ライスシャワーが先頭に立っております。ライスシャワー先頭!』

 

 ライスシャワーは直線コースに入ると、一気に加速し始める。

 ジンデンクイーンは力尽き、バ群の中へと消えてゆく。

 

「第4コーナーを曲がりきった後は直線で頑張って、ここでライスは勝負を……仕掛ける!」 

 

 ライスシャワーが前に来た時には既に他のウマ娘もスピードを上げ始めていたが、。

 勝負は既に始まっている!

 ライスシャワーが第4コーナーを曲がり終えると、少しずつ内側へと向かい、徐々に後続と距離を離す。

 

「「む、無理ぃ〜!!」」

 

 ライスシャワーを追いかけ、抜かそうとしていたサンクティティとハーバーリファールはそう言いながら次第に距離が離れていく。

 

『そして1番人気アララットサン、なんと2番手に上がってきました!しかし先頭は依然ライスシャワーです!』

 

 一方のアララットサンはライヒシャワーの後ろにくっ付いて、必死に追っかけている。

 

「へぇ、ライスシャワーはん……ええレースしとるどすなぁ。せやけど直線で抜かしたる!」

 

 アララットサンはスピードを上げる。

 ライスシャワーも後ろのアララットサンに気づいたのか、速度をあげる。

 

「ら、ライスはね……約束したんだ……お兄さまに圧倒的な勝利をするって……だから負けないよ!アララットサンさん!!」

「うちも……もう負けは嫌どす!ライスシャワーはんに勝って、トレーナーさんに強い所を見せたいんや!!」

 

 アララットサンは再び速度を上げ、少しずつ距離を詰める。

 ライスシャワーは必死に抵抗をする。

 100の看板が右横を一瞬で過ぎる。

 

『ライスシャワー先頭、100を切ります!アララットサン2番手、アララットサン2番手!』

 

 直線コースは残り100メートルを切った。

 アララットサンは距離を詰め、ライスシャワーのすぐ後ろ外側を走っている。

 既に両者の一騎打ちが始まり、彼女らは全ての力を振り絞って全力で走る。

 会場は緊張感が包み、観客の歓声が大きくなる。

 

「行けやライス!お前なら勝てるんや!!」

 

 オレはライスのレースに興奮していた。

 正直。まだウマ娘のことは全くやないが理解してへんし、難しいところはある。

 せやけど、ライス嬢や彼女らが必死に勝利を目指しながら頑張っている姿は感動できるんや!

 周りも二人のレースに声援を送っている。

 

「いけ!ライスシャワー!!もう少しだ!!」

「アララットサンも頑張って!抜かせるぞ!!」

 

 観客席は盛り上がりをみせ、実況も興奮し始める!

 ジワジワとライスシャワーの距離を詰めるアララットサン。

 ゴールはもう目の前に迫っていた。

 

『さあアララットサンかわせるか、かわせるか!かわす勢い!!かわす勢い!!さあかわせるか!!!』

 

 観客達は二人の結末を見守り、アララットサンとライスシャワーはほほ同時にゴールインをした。 

 

『ん〜、僅かに届かないか?どうか?……二人並びましたが、内はライスシャワー、外からアララットサンが突っ込んで参りましたがどうでしょうか?』

 

 ライスシャワーとアララットサンの二人は呼吸が乱れ、同時に掲示板を見る。

 まだ順位は表示されていない。

 すると1位の欄に『8』の数字が点灯する。

 ライスシャワーの勝利が確定した。

 

『順位が確定しました!ライスシャワーです!2番人気、ライスシャワーが新バ戦以来の白星をあげました!!2着はアタマ差でアララットサンです!』

「や、やったー!ライス勝った……!!」

 

 大差の勝利ではなく、アタマ差ではあるが勝利は勝利。

 ライスシャワーは腕を上げながら喜んでいた。

 観客はライスシャワーに祝福していた。

 

「おめでとうライスシャワー!素晴らしいレースだったよ!」

「アララットサンも他のウマ娘もよぉ頑張ったな!次に期待してるで!!」

 

 ライスシャワーはそんな声に頭を下げ、感謝をする。

 周りに居た負けたウマ娘達は悔しさと悲しさを堪え、ライスシャワーに対して拍手する者、握手する者など様々だった。

 アララットサンもゆっくりとライスシャワーに近づく。

 

「悔しいわ、うちが負けるやなんて……せやけど、アンタに負けてもそない辛くあらしまへん。ライスシャワーはん、おめでとーさん!」

「あ、ありがとう……アララットサンさん」

「……ライスシャワーはん?それ、言い難いとちゃう?」

 

 アララットサンはそう言うと二人は笑い合った。

 そして上位三人はウィニングライブへと向かう為、更衣室へ向かう。

 

「ライス、お前よぉ頑張ったで!」

「あ、お兄さま……ごめんなさい、ライスは圧勝できなくて……」

「そんなん心配せんで大丈夫や、もっと喜びや!アタマ差でも勝ちは勝ち!おめでとうやで、ライス!」

「あ、ありがとう……お兄さま……」

 

 ん?なんや、そない今回の勝利嬉しくないんか?

 まあ、激しいローテやったから疲れてるんやろな!

 まだまだ余裕あるから10月は休ませて11月に走らせるのもありやな。

 

「とりあえず、ウィニングライブ行ってこいや」

「うん、ありがとうお兄さま……」

 

 ライスシャワーはそう行って、更衣室のある方へ走っていった。

 更衣室ですぐさま着替え、ライスシャワーのウィニングライブが始まる。

 だが、終始笑顔で踊りをこなしてはいたが、同時にどこか引きつった顔をしている。

 周りにいたアララットサンとハーバーリファールは不安そうに見ている。

 

「ライスシャワーはん、アンタなんか隠しとるやろ?」

「え!?そ、そんなこと……ないよ?」

「嘘言いなさいな、ホンマは怪我しとるんやあらへんか?」

「………ッッ!!お兄……トレーナーさんには言わないでアララットサンさん」

「なんでや、ほならその怪我どうするんや?」

「か、隠して走るよ。どうせただの炎症だから……」

「あ、アホかアンタ!そんなんで走れるわけないやろ!!痛みを我慢して……アンタのトレーナーはんと医療班呼ぶから待ちなはれ!!」

 

 そうアララットサンは更衣室を出て、ライスシャワーのトレーナーと医療班を呼びにいこうとするが、ライスシャワーはアララットサンの腕を掴み、止める。

 

「やめて……ください……大丈夫ですから………」

「………ホンマ、どうなっても知らへんよ」

 

 ライスシャワーは静かに更衣室を出る。

 更衣室から出て少し歩いていると、ライスシャワーのトレーナーが居た。

 

「お、お兄さま、おまたせ……」

「おう、待ってたで……今日は電車止めてタクシーで帰ろか……」

「う、うん……」

 

 トレーナーは万札を振り上げてタクシーを停める。

 タクシーが目の前に停まると、ライスシャワーを乗せてからトレーナーも乗り込んだ。

 

「タクシーの運ちゃん、ここに向かってくれへんか?」

 

 そう言って、紙をタクシーの運転手に渡す。

 タクシーの運転手は紙に書いてる文字を読み、ライスシャワーを見る。

 

「あ、あのお兄さま……?」

「分かりました、安全運転で行かせてもらいます」

 

 そうタクシーの運転手は言って、タクシーの扉を閉め、アクセルを踏む。

 車内は沈黙が続く。

 

「……お、お兄さま!ライス……今回のレースに勝ったし、次のレースも頑張るよ!だからトレセンに帰ったらまた特訓開始するね?」

「おう、せやな」

「お兄さま、次のレースって10月かな?ライスは少し休みたいから11月か12月がいいなぁ……なんて………」

 

 車内は重苦しい空気が広がる。

 タクシー運転手は自分の襟袖に指を入れ、広げるほど苦しい空気が立ち込めている。

 するとトレーナーは溜め息を吐いて、ライスシャワーを睨む。

 

「………ライス、お前怪我しとるんやろ」

「ひゃっ……やだなお兄さまそんなジョーク、ライスは面白くないよ?」

「アホ!エエから答えんかいッ!!」

「ケガ、してると思う……でもライスはガマンすれば大丈夫だよ?だから……」

「そんなんはエエねん。レースよりもまずはお前の身体の方が心配や!怪我の状態は分からへんが、怪我が治るまで休養に入るでライス」

「……どうして、どうやって気づいたんですか?まさかウィニングライブで??」

 

 トレーナーは

 

「せやで……と言いたいがウィニングライブではさっぱり気づかんかった……オレは耳がエエからウィニングライブ後のお前らの更衣室からうっすらやけど騒いどる声が聞こえたんや……医療班やの怪我やの、でもそう聴こえたあとにお前の表情と右足見たら確信したんや……出会ってまだ短い間やけど、オマエの普段の歩き方や走り方は覚えとる……残念やけど休養はもう決めたんや」

「そ、そんな……」

 

 ライスシャワーは肩を落とし、落胆する。

 二人が乗ったタクシーは病院へと向かい、走っていく。

 

 芙蓉の木は寒地では冬に地上部は枯れ、春に新たな芽を生やす。 

 まるでこの植物が今後を予見しているのか、この芙蓉ステークスが彼らの今年最後のレースであった………。

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