自覚する話。
【スザマヤ】サボり姫と真面目騎士
「あれ? マーヤは?」
昼休みももう終わりの時間。教室に向かうと、生徒会のメンバーはほとんど揃っていた。
ほとんど……つまり、マーヤ以外は。
リヴァルは首を傾げた僕を見て、やれやれ、と肩をすくめた。
「スザクも知らないってことは、こりゃサボリだね」
「サボりね」
「もうっ、マーヤったらまた」
「サボリだな」
「えっと、うん。そうだね」
全会一致でまたサボったのだろう、という結論が出たのに苦笑する。たしかに彼女は時折サボる。
「最近またゲームに熱中して睡眠不足みたいだし、どこかで寝ちゃったのかな」
ちょっと心配だな、と呟くと「お前は心配性だなぁ」とリヴァルが笑う。
「大丈夫だって。さすがに生徒会には来るでしょ」
そうだね、と他のみんなもその時は頷いたものの……マーヤは放課後になっても姿を現さず、ルルーシュが言うには携帯にも反応がないらしい。
「サボり病の方だったか」
とはやっぱりリヴァルの発言だけれど、僕は心配になる。
「ちょっと探してくる。皆は先に行ってて」
「あ、おいっ」
探すってどこを。
ルルーシュの声が背後から聞こえたけれど、聞こえないふりをして走った。
たしかにこの広い学園内を探すのは大変だし、マーヤが学園の外に行っていればもうお手上げだ。
でも、僕には一つ、心当たりがあった。以前、彼女を見かけた場所。
あまり人が来ない一角。木々と壁で囲まれた空間。
そして……
「やっぱりここにいた」
マーヤはここで食事をしていたらしく、購買で買ったであろうパンの袋を握りしめた状態で、壁にもたれていた。特徴的な青い瞳は閉ざされており、呼吸のリズムを見るに眠っているらしい。
驚かせないようにそっと近寄っていく。
(顔色は……悪くなさそう、かな)
若干目の下に隈が出来ているように見えるものの、顔色自体は悪くない。そのことにホッとする。
この場所が日陰で涼しいのは幸いだが、心地よいからこそ眠ってしまったのだろう。
まったく起きる気配がなく、眠りは深そうだ。やはりゲームに熱中して寝不足なのかもしれない。
(すごく一生懸命頑張っているみたいだし、寝かせておいてあげたい気もするけど)
あまりにも無防備な姿に危機感を覚える。この場所を知っている存在はほとんどいないだろうとはいえ、年頃の女の子が一人で寝ているのはどうかと思う。特に、マーヤのように魅力的な女の子ならなおさらだ。
「マーヤ、こんなところで寝たらだめだよ」
「んっ」
優しく声をかけてみるも、マーヤは小さく身じろぎするだけ。さらさらと黒髪が揺れる。木漏れ日がマーヤの黒髪の美しさを浮かび上がらせている。そして透き通るような白い肌は、つい目が惹きつけられる。
(うん。本当に危ないな、これは)
思わず口元に手を当てて、どうしたものかなと考える。今回は自分が起こすとしても、自分には軍の仕事もある。毎回来れるとは限らないし、その時に何かがあっては大変だ。
(マーヤに強く言っておこうか)
眠い時にここで寝てはいけない、と強く言うだけで彼女は納得するだろうか。疑問に思いつつも起こすために肩へと手を伸ばし……風が吹く。
揺れていた柔らかな髪が僕の手の中に入り込んできて、咄嗟にその髪の一房を掴んでしまった。
見ているだけでも艶やかで柔らかそうだと思っていた髪は、実際は想像以上に触り心地が良かった。
――ずっと、触れていたくなる。
(マーヤそのものみたいだ)
真っすぐなあの青い瞳のような、他の色には染まらない美しい黒髪。
指から力を抜けばいとも簡単にすり抜けて行ってしまいそうなほどに滑らかで……目を離せばどこかに行ってしまいそうな不安すら感じさせる。
ふと気づいた時には手に力が入っていた。逃してなるものかと彼女の髪を自分に引き寄せて、唇が、触れる。
ほんのりと甘い香りがした。
「……るるー、しゅ」
「っ!」
マーヤが寝ぼけた声をあげる。ハッとなって慌てて手を離したものの、彼女は起きていないようで少しホッとする。
けれど
(今、ルルーシュって)
考え込んでしまった。おかしなことではないのに、無意味に考え込んだ。
マーヤはルルーシュととても仲が良い。趣味が合うのだと言っていたし、彼女が生徒会に入るきっかけもルルーシュと仲が良くなったかららしいので、他のメンバーより距離が近いのも当然だ。
なのにどうして
(こんなにもショックを受けてるんだ、僕は)
でも、そうだ。マーヤはルルーシュを信頼しているのだから、彼にこの場所を教えて起こしてもらえば
「……いや。一応、ルルーシュも異性だし、シャーリーかカレンにお願いしておこうかな」
最近特にカレンと仲が良いみたいだし、カレンにお願いしておこう。
なんども、言い訳がましくそんなことを反芻する。
――ルルーシュには、彼にだけは知らせたくなかった。
いや、それどころかこの場所のことを他の誰にも教えたくない。僕の、僕だけの心にしまっておきたい。
(君のこんな無防備な姿を知っているのは、俺だけでいい)
一度深く息を吐きだし、そして吸い込む。
「マーヤっ!」
「わっ」
大きな声で名前を呼ぶと、さすがにぱちりと青い瞳が顔を出す。見慣れているはずなのに、なぜか今日はいつもより輝いて見えた。
綺麗だな、と改めて思う。
マーヤそのもののような、とても真っすぐな青い瞳はずっと見ていてもきっと飽きないだろう。
「え? スザク? あれ?」
「はぁ。ダメじゃないか、マーヤ。こんなところで寝ちゃ」
もう放課後だよ、と肩をすくめるとマーヤは「嘘」と驚いて携帯をのぞき込んでいた。
「あちゃあ……ごめん、スザク。ありがとう。わざわざ起こしに来てくれたのね」
「僕は構わないけど、これから暑くなるし、外で寝てしまうのは危ないよ……まあ、危ないのは暑さだけじゃないけど」
「あはは。気を付け、って何か言った?」
「ううん。何も」
首を振ってから、手を差し伸べる。マーヤが笑って僕の手に触れる。
僕よりも小さくて柔らかい手に、なぜだか心臓がやたらと反応する。身体が熱くなる。
いや、本当は理由を知っている。
気にせずに手を引っ張ると、軽やかに立ち上がるマーヤ。ふわりと香るマーヤの香り。
そのまま抱きしめたくなるのをぐっとこらえる。
「誰にも気づかれず、熱中症にでもなったらどうするんだい?」
「ごめんなさい。気を付ける」
「はぁ……で? ここで眠ってしまって授業サボったのはこれで何回目だい?」
「うぐっ」
念のためにと問いかけると、図星だったらしい。マーヤは喉を詰まらせたような声を上げた。
つまり、マーヤの口にした「気を付ける」がどれほどあてにならないかが分かる。肩をすくめた。
「マーヤ、君がここに来たくなるのも分かるから止めろとは言わない。けど、一つだけ約束して欲しい」
「?」
「ここに来るのは、僕が登校している時だけにしてほしい」
「え、それは、でもスザクに迷惑が」
「そうじゃないとむしろ心配でしょうがないよ」
「うぅっ」
じっと見返すと、マーヤはがくりと肩を落として「分かった」と頷いた。
「僕がいない時はカレンとシャーリーに監視をお願いするからね」
ルルーシュの名前は口に出せなかった。
「監視って、ちょっとひどくない?」
「不良生徒な君が悪い」
「……なんだか、今日のスザクはちょっといじわるね」
じとっとした可愛らしい目を向けてくるマーヤに「そんなことないよ」と返しつつも、『ちょっとくらい、いいじゃないか』と思った。
(僕が目の前にいるのに、他の男の名前を口にしたんだから)
この感情について、はっきりと名前を付けるのは、まだ止めておく。
だって僕は名誉ブリタニア人で、彼女はブリタニア人で。
迷惑はかけたくないのに。苦しめたくないと思っているのに。でも同時に、諦めたくもない。
彼女の隣に自分以外の男が立つのが許せない。譲りたくない。
だから今はまだ、このままでいい。
「ほら、行こう。皆待ってるよ」
「そうね」
彼女が心を安らげるこの場所を知っているのが、僕だけだという事実だけで、今は満足しておく。
【いつかその唇から、自分の名前を出させるまでは】
スザマヤが、書きたかった。純粋な?スザマヤが。
でも、ユフィの顔がちらつくのと、名誉ブリタニア人であることの葛藤も有りそうで……難しい。
血染め後はどうあっても曇る展開しか思いつかないし、むしろ今の内な気はするんだけど。
やっぱり全然違う世界線じゃないとこの二人は幸せにならないかも。
【追記】
最近はスザマヤ妄想が激しい。いいCPだ。