次回、ついに夏休みデート!!
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萌ちゃんカップの翌日。
ギラギラと照りつける太陽が、この高度育成高等学校の敷地を容赦なく焼き尽くしている、そんな夏休みの昼前。私服に身を包んだ私は、寮のロビーにて待ち合わせをしていた。
「はぁ、なんでこんな暑い日に外に……人間って本当に無駄を好む生き物だよね……」
「___あら。私にその“無駄”を強要した人物とは思えない傲慢さですね」
「あ、有栖ちゃん。おはよー……こんにちは?」
私が独り言を漏らしていると、待っていた人物である有栖ちゃんがいつものベレー帽を被って涼しそうなワンピースでエレベーターから現れる。
私たちの言う無駄。それは有栖ちゃん主催…と表向きにはされている、実際は私が企画した「Aクラス親睦会」である。私が有栖ちゃんの派閥(というか今はAクラス全体の組織?)に入る代わりに条件として提示した「みんなに寄り添う」という言葉の実行案として、私が有栖ちゃんに提案したのだ。有栖ちゃんは「何の意味が……」と終始不満そうであったが、少し煽ったら食いついてきてくれた。ある意味扱いやすい子である。
「前にも言ったでしょ?私、暑いのは苦手なんだよー」
「それには同意しますが、貴女が計画から実行までこなすのでしょう?私を挑発した者としての誠意を見せて欲しいところです」
「言われなくても、今日は頑張るよー……はい、お手をどうぞ」
「ええ、ありがとうございます」
談笑しながら歩いていた私たちは、目的地であるケヤキモール内にあるアミューズメント施設に到着する。その一角にあるボウリング場のワンフロアを貸し切る形でAクラスの面々が集まっていた。
「みんなー、おはよー!!今日は楽しもうねー!!」
私がそう手を振ると既に集まっていたAクラスの子たちが応答する。集まった彼らの顔には、一様に戸惑いと、それを上回るほどの高揚感が浮かんでいた。無理もない。これまで坂柳有栖と葛城康平という二つの強大な派閥に分断され、常に水面下でヒリヒリとした牽制を続けていたAクラスが、こうして「単なる親睦会」として集まることなど、入学してから現在まで一回もなかったからだ。
1レーンに5人程度が集まり、クラス内対抗のプチ大会が始まる。Aクラスの面々は基本的に競争心が高い。己のプライドと承認欲をかけ、全員がボウリングに夢中になっていた。かく言う私は。
「私ボウリングとかやったことないからなー……誰か、先行で投げてよ」
「お、じゃあ俺が行くぜ。初手からストライク決めてやるからな」
「橋本くん、がんばれー」
私のレーンに集まったのは橋本くん、真田くん、清水くん、美紀の4人。ランダムで振り分けた結果であるが、美紀は私のところに割り振られなかったら順番を飛ばされる可能性もあったため丁度いいと言えるだろう。
「ちっ、2本残ったか。まあいい、スペアを狙ってやる」
「よっ!橋本!外せ!!」
「うるせえ清水、俺は決める時は決める男なんだよ」
宣言通り、二投目でスペアで10本倒した橋本くん。次のフレームで7本を倒し17点。続く清水くんは可もなく不可もなく、14点。真田くんも14点と、まだ誰もストライクを取っていない状況。
「ほら、次は美紀の番だよ〜」
「あっ、は、はいっ!」
「山村ってボウリングとか出来るのか?」
「え、えっと……わ、分からない、です。やったことがなくて……」
「大丈夫、私もやったことないよ!ほら力抜いて!」
思ったよりボウリングの球が重いのか、ぎこちなく移動する美紀。記念すべき一投目は…。
「ガター、だな」
「美紀、次だよ次ー!!」
「あ、あう……え、えいっ!」
「お!3本倒れた!やったね美紀!!」
「ほ、ホントですか……!良かった……」
さて、最後は私の番か。おお、思ったよりボールが重いな。別に程よく点数を狙ってもいいけど……さっきの美紀の有様を考えると、続く私が高得点を取ったらただの辱めになりそうだし。そう考え、一投目はあえてガターを狙う。
「あちゃー、ボウリングって難しいね!」
「お?あの野生児・赤井萌にも苦手な競技があったなんてな」
「橋本くん、このボールを君に向かって投げてあげようか」
「おお、怖い怖い。お前が言うと冗談に聞こえないからな、やめてくれよ?」
「僕も意外だと思いました。赤井さん、運動に関しては何でも出来るイメージでしたから」
「あはは、真田くんまで。初めての競技に関してはコツを掴むのに意外と時間がかかるタイプなんだよ〜。よしっ、二投目は決めるよー!」
こうして10フレームが終了し、手堅く点数を重ねていた橋本くんが160点。対する私は一歩届かずの154点であった。……他の子の点数は、名誉のために伏せておこう。
「おや、萌さん。橋本くん程度に負けてしまったのですね」
「有栖ちゃん。有栖ちゃんは参加してないから分からないだろうけど、結構難しいんだよー?このボウリング」
「ええ、他の方が苦戦していたのを傍で見ていましたから。難易度については理解していますよ」
「有栖ちゃん、多分このボウリングの球も持てないよ。非力だし」
「バカにしているのですか?それくらい出来るに決まっているでしょう」
「あはは、ほんとにー?持った瞬間重すぎて足の上に落として悶絶しちゃう有栖ちゃんが目に浮かぶよ」
「……貴女は、本当に人の神経を逆撫でするのがお上手ですねっ…!」
「わ、有栖ちゃんが怒った!清水くん、にーげろー!」
「お、おい!?なんで俺まで巻き込むんだよ!?!!さ、坂柳!!お願いだからその振り回してる杖を降ろしてくれー!?!!」
逃げ回りながらAクラスの色んな人達を巻き込んで、私たちはプチ鬼ごっこを楽しんだ。
__________________
ところ変わってカラオケ。
30人近くが入れるパーティールームを予約した私たちは、各々が好きなように座っていた。有栖ちゃんは有栖ちゃんで他の人の歌を聞きながら、クラスメイトたちの相談に親身に乗っている状態だ。うんうん、これこそ寄り添うリーダー像。葛城くんの良さを有栖ちゃんが引き継げば、もうAクラスは怖いもの無し!だよね。多分。
「な、なあ赤井」
「ん?どうしたのー、清水くん」
「そ、その、船上試験でのことだけどさ、あれホントなのか?携帯貸す代わりに、西川の連絡先を……」
「ああ、そうだった!西川ちゃんの許可もとったし、今渡しちゃうねー」
「よ、よしっ!!!……あ、べ、別に俺が西川のこと好きとかそんなんじゃないからな!」
「またまた清水、素直になれよ〜」
「そうだぜ、男子連中にはバレてんだからよ」
そう言って清水くんの肩に手を回したのは吉田くんと橋本くん。話の流れから察するに、清水くんは西川ちゃんのことが好きで、もはや丸わかりなレベルらしい。
「う、うるせーよ。そういう吉田だって白石のことが好きなんだろ!」
「は、はー!?!俺が!?白石を!!?な、ないね!絶対!!別にそんなんじゃねーし!!」
「おいおい、お前ら分かりやすすぎるだろ。恋愛には駆け引きっつーのも必要だぜ?」
「うるせーチャラ男、お前にはわかんねーだろうな俺たちの苦悩が!」
「そうだそうだ!」
「世知辛い評価だねぇ。そうだ、赤井は好きな奴とかいないのか?結構お前、男子の中じゃ人気なんだぜ?」
興味もない話をいきなり振られてしまった。ここで答えないのもおかしいし、まあ満足するなら応対してあげるか……。
「えー?いやー、いないかなー。そういうの、考えたこともなかったよ」
「ま、お前は運動一筋って感じするしな。好みのタイプとかもないのか?」
「好み?男の子の?……えー、なんだろ。例えばどういうのがあるの?」
「そりゃ色々あるだろ、顔が良いとか、運動ができるとか、頭がいいとか。後は金持ちとかな」
「全部欲の塊じゃん」
「ハハハ、人間ってそういうものさ」
「えー……うーん…顔がいい?後は……優しい子とかかな」
「お!聞いたか里中!」
「ぶふっ!?!!お、おい橋本!なんでそこで俺に振るんだ!!」
「おいおい、そこは感謝しろよな〜?あ、そうだ。この際だからさ、お前の女子の好みも聞かせてくれよ」
「女の子?それまたなんで」
「いやいや、赤井。お前は愛想がいいだろ?加えて嫌味もないときた。そうなると、女子にもお前のファンは多いんだよ。他クラスの奴から調査してくれって頼まれてな、俺の面目を立てると思ってさ」
嘘である。橋本の内心は、この情報を坂柳に売って自分の立ち位置を有利にしようとする、極めて私利私欲に塗れた計算であった。
……が。そんなことを気づくはずもなく。
「えー……?女の子……?男の子より難しいよ」
「ほら、女子なら見た目も色々あるだろ?髪の長さとか、どんな服が好きだとか。後は赤井がさっき言った性格でもいいわけだしな」
「ちょっと橋本、萌に何聞いてんのよ」
先程から回ってくるマイクを尽く回避している真澄ちゃんが、不機嫌そうに私の隣に座る。それを見て橋本くんは愉悦を深めた笑みを真澄ちゃんに向けた。
「いやー、だって気になるだろ?赤井とは普段こういったことを話す機会もないからな。神室ちゃんだって内心は気になってるんじゃないか?」
「は?私が?馬鹿言わないで」
「ほーう?じゃあ今この場に来た理由は何だよ」
「別に、あんたが余計なこと聞いて坂柳の機嫌を損ねたくないだけ」
「まーまー、これくらいでキレるほど姫さんの器も小さくないだろ。てことで聞かせてくれや、赤井」
「うーん……髪………どっちかと言うと、長い方が好き、なのかな?風になびく髪とか、綺麗だなーって思うよ。性格はやっぱり優しい方が好きかな?」
「あれま、そりゃ残念だな」
「残念?何が?」
「いーや?こっちの話だ」
さっきから変な橋本くんだな。まあ、いちいち気にしててもキリがないだろう。そう思っていると私にマイクが回ってしまった。……何を歌おうか。カラオケなんて、2年前に櫛田と行って以来だし。ま、無難にその時歌ってた曲を歌うか。
____2時間後。
その後も歌いながら橋本くんから質問攻めにあい、人に絶えず囲まれていたこともあって少し疲れた私は、部屋から出てドリンクバー前のベンチに座っていた。
「……はぁ。疲れた………」
「随分と深い溜息ですね。誰のせいで私がこんな精神的疲労を受けているのか、今一度思い返してみて欲しいものです」
目を閉じて休んでいた私の元に、コツ、コツ、と規則正しい杖の音が聞こえてくる。私は目を閉じたまま笑いかけ、当然のように隣に腰を下ろした存在に話しかける。
「そうは言っても有栖ちゃん。クラスメイトたちの有栖ちゃんを見る目が変わってきたんじゃない?どこか近寄り難い高潔な存在から、話すことを許可された瞬間に高度な知性を持った上に意外と優しい我々のリーダーって感じに」
「私としては、前者のイメージで十分ですが」
隠すつもりもないようで、ふぅ、と溜息をつく有栖ちゃん。本質的に他者と深く関わることに向いていない有栖ちゃんにとっては、思ったよりもストレスらしい。まあ、投げ出していない時点でかなり偉いよね。
「葛城くんも最初は警戒してたけど、今は楽しんでるよ?まあ顔には全然出てないけど」
「彼は笑顔が苦手だと仰っていましたから、それもあるのでしょう。私が賞賛の言葉を口にした際に見せた彼の毒気の抜けたような顔は傑作でしたね」
「あー、有栖ちゃん。あんまり人の顔を傑作とか言っちゃダメだよー?多分クラスメイトの中には有栖ちゃんのこと神様だと思ってる子もいるんだから」
「カルト宗教の教祖の間違いでしょう」
「あはは!それ自分で言っちゃう?」
私は立ち上がり、忌々しげに私を睨んだ有栖ちゃんにアイスティーをいれてあげる。
「でも、人を見る目に長けている有栖ちゃんだからこそ実感してるんじゃない?恐怖で支配するよりも、愛着と信頼で縛り付ける方が、長期的には絶対に反乱分子が出ない。葛城くんなんかは義理堅いから、一度守っただけで恩義を感じちゃうと思うなー」
「……ええ。理屈としては、理解しました。結束力は以前の対立時よりも深まっているとみるべきでしょう」
それでもどこか納得のいかない様子の有栖ちゃん。そんな有栖ちゃんを見ていると、どこまでも不器用なんだなと少し笑ってしまう。知略の天才が、たかが人間関係と感情にここまで苦労するとは。私はそんな有栖ちゃんの隣に座り直して、両手で有栖ちゃんの頬を挟み至近距離で瞳を覗く。
「も、萌さん……?何をするのですか」
「有栖ちゃん」
どこか真剣な声音の私に、言葉を失う有栖ちゃん。
「……私は、君を孤独にはさせないよ。寄り添い方を知らないのなら、私が教えてあげる。過程で行き詰まるのなら、私が助けてあげる。……孤独は、寂しいからね」
「………どこまでも不遜な騎士ですね。私が貴女の温もりを欲するとでも?」
「勿論、私はそのために有栖ちゃんの隣にいるからね」
「……いいでしょう。今は貴女の不敬な策略に乗ってあげます。ですがいずれ貴女を支配するのは、他でもないこの私です」
不敵な笑みを浮かべ、人差し指を額に押し付けられる。そろそろ離れなさい、ということらしい。
「さあ、私の騎士さん。貴女の案に乗ってあげた対価の命令です。部屋に戻ったらマイクを持って一発芸を披露しなさい」
「命令っていうかそれ、もはや虐待だよね!?!ブラックだ!!ブラックキングだー!!」
「誰がウル○ラマンの怪獣ですか。貴女の歌唱メドレーも追加してあげましょうか??」
「いえ!!誠心誠意有栖ちゃんのために一発芸させていただきます!!」
「ふふ、よろしい。……期待していますよ、萌さん」
この後部屋に戻った際に有栖ちゃんのベレー帽を奪って行った渾身の「坂柳有栖のモノマネ(声真似付き)」は、有栖ちゃんに杖で脛を狙われたことにより中止となった。ちなみに結構ウケた。
夏休み、誰とデートする?(一話投稿予定)
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坂柳有栖
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櫛田桔梗
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白波千尋
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綾小路清隆