狭間の地の冒険譚・望楼より臨む聖騎士 作:騎士
あらすじ
接ぎ木の貴公子に敗北した。
目が覚めると、まず私の酷い有様に驚いた。盾や剣は折れるか砕けるかして使い物にならず、それどころか頼みの綱の鎧さえ、所々が酷く凹んでいるせいで元の精巧な造りなどもはや見る影もない。
特に酷いのはひしゃげた鉄兜で、バイザーなどもはや下がることもない。甲冑に描かれていた紋章に至っては、存在したかすら危ぶまれるほどすり減っており、もう望郷さえ許されないのだと実感させられる。
鎧はまだ生きているが、剣と盾は既に使い物にはなりそうもなかった。どこかで武器防具を調達しなければならない。
最悪は、懐にしまっている聖印から炎を生み出せば戦えないことはないが、何度も頼っていては集中力など持つはずもない。武器を手に入れるのは必須だ。
起きようとした時、少女の声の主が置いていったふたつの瓶が目に留まむた。それらを手に取る。それ自体は他愛のない、しかしよく出来た工芸品であるが、それよりも私はその中身に興味を惹かれていた。
緋の雫に、青の雫。硝子瓶ではあるが、その見た目は聖杯のようにも見える。
一口ぶん、飲んでみる。味はよくわからないが、胸の内側から込み上げる何かが、体を突き動かしたくなるような感覚を覚えさせた。 美味くはないが、きっと疲れ果てた時にこれを飲むのだろう。大切にしまい込み、改めて体を起こした。
立ち上がった私の視線の先に、半透明の人影が映った。悪霊の類い、もしそうなら今の私に打つ手は無い。神聖な武器を折られてしまったのだから。しかし人影は一向に襲う気配を見せない。もしやと思い近づくと、人影はこちらをちらりと一瞥して、続いて下を指差す。
口がぱくぱくと開き、何かを訴えようとしているのはわかるのだが、どんなことを言っているのかまではわかりそうもなかった。仕方なくその指が差す先を覗き見る。下は何やら洞窟のようになっており、段差の下は石棺のようなものが見える。
……意を決して飛び降りた。
それなりの高さがあったようで、水が多少の勢いを和らげてはくれたものの、鎧の重さで地面に叩きつけられそうになる。両手をついて勢いを殺し、どうにか無傷で立ち上がれた。上を見上げても梯子や階段のようなものは無く、戻れないと思わせられた。
ともかく怪我なく無事に降り立ったので、周囲を探索しようと辺りを見渡す。後ろには先程見えた石棺が無造作に積まれており、その中身は既に人骨で埋まっている。先駆けた人々の未来の姿かと思うと、自分もいつかこうなるかもしれないとも考えてしまう。
嫌な考えを頭を振るって落とし、改めて前を見る。黄金に光る眩い何かが見え、それはきっと危険なものではない……と、半ば確信に近い決めつけのまま駆け寄った。地面から浮かび上がり、中空を漂うような光を見て、心に暖かさを覚えた。物質的な温もりではない、安堵感を覚えるような輝きに触れると、光はよりいっそう眩さを増し、そして戻った。
これが祝福、そう感じた。
そこに座り込むと、まるでここが元から自分の住む場所だったと錯覚しそうになる。きっと、これは人々の意識の根幹にあるものなのだろう。先祖返りをするような安心感が、これにはあった。
………あまりここに長居していてはいけない。
名残惜しいが、立ち上がることにした。まだ武器も見つかっていないのだ。一刻も早く戦えるようにならなければ。
洞窟の先はより狭まっていた。覚悟を決めて奥へと踏み込むと、明かりが見えた。人工的なもの……つまり、火の光源が。
少し広い空間にはいくつかの蝋燭が灯っており、その光を眺めるように人が立っていた。
だが、その人は妙だった。まるで意識がないかのようにぼうっと突っ立ったままなのだ。物音を立てても全く反応しない。声をかけようかとも思って、近くによってからその姿に気付いた。
頬は痩せこけ、眼窩にはあるべきものがない。ただ茫然自失とするかのように、金で象られた流麗な直剣を握り、佇むばかりだったのだ。これは手を出すべきではない、と更に歩を進めた。
しかし、その先にいたのは更なる人。それも、今放置してきたものと似たような状態だった。
更に間の悪いことに、それはこちらを一瞥すると、何やら地面を探っていたその手を止め、傍らに転がっていた細剣を握り、立ち上がってきたのだ。
武器を全く持っていないのに、武器を持つ相手とやり合うのはまずい、そう判断して逃げようとする。
人……生気がないため亡者と呼称するが、この亡者はかなり動きが鈍重で、逃げるのは容易いだろう。
攻撃を誘い、そのまま脇をすり抜けようとした。
その時、亡者が漁っていた地面に目が行った。重々しい甲冑……それを被った遺体だった。
亡者は死体剥ぎだった。だが目利きは無いらしい。その傍らに手付かずのロングソードとヒーターシールドが転がっているのを見て、咄嗟に手に取った。
半両手剣ではなく片手剣を使うのはあまり経験してこなかったが、それでも徒手よりは遥かに馴染む。
しっかりと武器を握りしめ、亡者に向き直った。
冷静に盾を構え、亡者の攻撃を待つ。大きな縦振りが来るのを見て、刀身に盾を添わせるように押し出し、横に弾いた。
攻撃をパリィし、ロングソードを腹に刺し込む。亡者はそれで絶命し、そのまま力なく倒れた。盾も、持っていた鉄盾と比べると心許ないが、それでも何も無いような状態よりもよほどマシだと言える。
名も無き、倒れた失地の放浪騎士の冥福を祈り、次の亡者に目を向けた。まどろっこしい事はせず、ひたすら敵を倒すことを考えた。走って駆け寄り、大きく振りかぶって直剣を頭に叩きつけた。当然ながら鎧を着ない亡者は容易く死んだ。
その先にいる亡者にも、同様に駆け寄って横に切り裂いた。腕に当たったようですぐには死ななかったが、そのまま返す一撃を与えることで切り伏せる。
更に洞窟の先を進むと、その中は空からの光が入り込み、湿潤な環境のために緑の生い茂った空間があった。そして自然にできたのだろう足場の上に、見慣れぬ兵士が巡回していた。兵士はこちらを見つけると、何かを向けてきた。
嫌な予感が脳裏を過り、咄嗟に盾を構えた。それが結果的に功を奏した。兵士が撃ってきたのはクロスボウのボルトだった。ここにいては一方的に倒されると考えた私は、一思いに奥に見える光へと走った。これも、蝋燭の光であった。
光の下には先程と同じような見慣れぬ様相の兵士が佇んでいた。大盾と槍を持っており、堅牢な守りを容易に想像させた。あれを倒す手立ては無いが、クロスボウに一方的に撃たれるのとどっちがマシかを考え、大盾兵の眼前まで走った。駆け寄って一撃見舞うが、既のところで気付かれ、咄嗟に防御されて弾かれてしまう。そのまま槍を突き出してきた。
それを盾で受けると、いよいよ状態は膠着し始めた。硬い守り、堅実な反撃と、強敵であることに間違いない。お互い盾を構えては、弾いた攻撃の隙を狙う。
やがて疲弊すれば、こちらが不利だ。
私は、盾を捨てて剣を両手に握って構える。それを好機と捉えたか、大盾兵は槍の穂先を勢いよく突き出してきた。それを、剣を突き立てるために大きく踏み込むことで回避し、僅かな隙の生まれた大盾兵の胸に深く突き刺す。
大盾兵は引き抜かれた剣の数歩先へと後ずさり、そして倒れ伏した。切れ切れの息を整え、勝利の実感を得た。数瞬遅ければ死んでいたことは想像に難くない。
かなりの強敵、相当の使い手であった。
気を取り直し、洞窟の更に奥へと歩を進める。亡者が二体。あの大盾兵との戦いを経た私にとってはもはや雑兵ですらない。手前の一体を軽々と倒し、奥の亡者へ駆け寄ると、そのまま斬りつけて倒す。
よし。そう息をついた瞬間、左腕が鋭い痛みに襲われる。瞬間、理解した。そこはあのクロスボウ兵の射線に入っているのだと。痛みに耐えつつ岩壁へ身を隠し、ボルトを引き抜く。鮮血が吹き出たが、どうにか汚れた白地マントを破り、それを包帯代わりに宛てがうことで止血する。クロスボウはかなり遠方からの狙撃でも板金鎧を貫きかねない威力を持つ兵器だ。
むしろ、腕を射られた程度で済んだのが幸運だった。
向こうは恐らく装填しているはず。
決死の勢いで飛び出し、盾を構える。ヒーターシールドでは全身を守ることは出来ないが、前面に構えることで致命傷を受けかねない頭部と胸部、腹部を守りながら全力で走れる。
待っていたとばかりにクロスボウを構えるのが、盾越しにちらりと見えた。そのまま姿勢を低くし、懐まで潜り込む。
ボルトが盾に弾かれた感触があった。
そのまま身体を反転させてロングソードを斬り上げ、クロスボウ兵を大きく怯ませる。痛みで膝を折ったのを見て、直剣を腰だめに構え、片手で勢いよく突き出す。それは首元のチェインコイフを穿いて喉に穴を開け、兵士は動かなくなった。
その先の亡者にも、油断はできない。負傷している時に危険なのは、雑兵を相手にして油断することだ。
堅実に攻撃を盾で受け、先程の要領で直剣による斬り上げで亡者を屠ると、更にその先へと進んだ。そこも陽の光が当たっている空間で、草葉が生い茂っていた。その先に、哨戒するように歩き回る亡者が一人。
草葉に紛れ、しゃがんで音を立てないよう近付き、背後から背に剣を突き立てて奇襲の一撃を見舞った。無論剣が腹を貫いて生き残れる人間はいない。多分に漏れずその亡者が死ぬのを見届けると、その先の道へと進んだ。
そこにも亡者が佇んでいた。
もう何人を手にかけたかもわからないほど殺しただろう。一思いに剣を突き刺し、無力化する。
その先へ、先へ……進もうとして、膝が折れた。疲労によるものだった。かなりの連戦を強いられ、思ったよりも疲れていたのだ。
そこであの瓶の中身が役に立つのだろう。
緋色の雫の聖杯を取り出し、ごくりと喉を鳴らして飲んだ。胸から活力か漲るような感覚が身体中を駆け巡り、立ち上がった。そして気付く。左腕の痛みがない。
包帯を取り去って傷口を確認する。既にそこに刺創は無く、筋肉の張った肌だけがあった。
私はこの緋色の聖杯を見やった。もしや、活力をもたらすだけでなく、傷まで癒すのだろうか?
そんな事現実ではありえない。傷が癒えるなど、聖職者や私のような聖騎士が信託とともに得るもの。それこそ奇跡の産物だ、そうまで思い至って、もう一度瓶をまじまじと見た。
これは、もしかすると奇跡の産物なのだろうか?
とにかく、もうかなり飲んでしまって、あと一口も飲めば空になるだろう。温存しなくてはならない、と大事にしまって、洞窟の先へと歩を進めた。
金色の霧が、そこを塞いでいた。触れると腕がするりと抜けるが、不気味に思って引き抜こうとした時、酷い引っ掛かりに襲われた。
抜けない!
腕が抜けないどころか、徐々に入り込んでいくような気さえする。この先に何があるのだろうか。とてつもない化け物がいたとすれば、私はそれとの対峙を強制される。あまり物資的な余裕がない今、強敵との会敵は避けたいというのに、迂闊だった。
更に吸い込まれ、視線がついに霧の向こうへと行く。そこにいたのは、一人の歩兵だった。大剣を握りしめ、そのファイティングスタイルは当時騎士団員だった私と似たものだ。
大剣兵は、私を見て一目散に走り寄り、大剣を振りかぶった。私はどうしようもない危機感を覚え、霧を抜けて盾を構えた。一撃が重く、受けても無理やり後ずさりさせられる。体格も一回り大きく、それ以上に人のものを超えた膂力を持っている事は明らかだった。
ならば、反撃しなくては。両手剣はその名の通り両手で振るう剣。一撃一撃は重くとも、その隙はとても大きいものだ。であれば、その隙を突いて剣先で突き刺せばよい!
両手剣による連撃を凌ぎ切り、一歩下がって剣を引き、腕を伸ばす勢いを利用した鋭い刺突攻撃を繰り出す。
攻撃の合間という隙を突いた刺突は、かなり効果が高い。大剣兵は痛みに仰け反りつつも、身体を捻ってその大剣の長大なリーチを活かして振り払った。
私はそれを盾で受けようとするが疲れた体でそれを受ければ盾が弾かれてしまうと察し、咄嗟の勢いで剣を振り抜いた。
それは確かに、大剣兵の肩を袈裟懸けに斬り裂いたはずだった。驚くべきは、それによって敵が怯まなかったことだ。
既に剣を振り抜いていた私は、振り払いの勢いを殺すことが出来ずに直撃を受け、腹に大きな打撃を貰って吹き飛んだ。兜の隙間から水が侵入し、口の中に砂利が入ってくる。
それを吐き出しながら、立ち上がって体勢を立て直した。よほど痛みに耐性が無ければ、あんな無茶な芸当できるはずもない。ひしゃげた鎧では、重い武器から身を守るには少し心許なかったか、と考えを巡らせる暇もなく、敵兵との決闘に戻った。腹部に痺れるような痛みが残るが、まだ戦える。
剣を両手で構え、大剣の間合いに入らぬようギリギリの距離を保つ。やがて両者の武器が届く距離になると、私も奴も踏み込んだ。お互い次の一撃が決め手となると察したのだ。
大剣兵は上段からの振り下ろし。こちらは対照的に下段からの突き上げ。互いの剣が交差する。
本当に。本当に一瞬早く、こちらの切っ先が兵の兜を貫いた。勢いで動いた大剣兵は、そのまま振り下ろすが、もう狙いも定まらなかったようで、かなりギリギリだが横を逸れていった。
幸運に安堵の息を漏らすも、最後まで油断しないように、トドメを指す。倒れ伏した大剣兵の背にロングソードを突き立てることで、ようやく終わったのだとわかった。
座り込み、最後の一口を煽った。傷が癒えていくが、それ以上に達成感と、生き残ったという安心に溜息をついた。これまでの狭間の地へ至るための旅で、祝福を宿した褪せ人が死なないことはわかっていたとしても、そう何度も死にたくはなかった。だから、かなり幸運だったろう。
それを感じて、もう一度大きな溜息をついた。
更にその先に道があることを知って、どうせならともう少し歩くことにした。どんな敵が待ち受けているのかと考えていた私は、その光景を見て呆気に取られた。先程と変わらず下を指差す亡霊、亡骸を抱える石棺。そこは私が目覚めた最初の場所だった。
生きて帰ってきたのだ。
その実感を得て、思わずガッツポーズを取る。
ぐっ!
結局、洞窟の方に道はなかった。となれば、目指す先は、あの小さな黄金の枝木の聳える扉。
その先には何があるのだろうか。
使命とはまた違う興味に、私は突き動かされていた。
踏破済みエリア
撃破ボス
・ゴドリックの軍兵
騎士の男の性格はどうだっただろうか?
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好奇心旺盛(洞窟などはくまなく探索する)
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勇敢(探索はするが、虱潰しではない)
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盲信(洞窟よりも地下墓などを優先する)
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慎重(得た情報に則って探索する)
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臆病(何も探索しない)