……ぼくだけ別ジャンルじゃないですか?
捏造設定、独自設定注意。
登場するのはオリジナルキャラのみ。
舞台と設定が同じなだけのオリジナルエピソード。
危なくなったらブラウザバック。
『顔だけの俺と顔なしの君』は名作だ。
人間と妖怪の恋愛を描いた王道ラブコメ漫画。
軽快なコメディが特徴だが、種族間の価値観の差や恋愛について回る外見を見つめ直すなど、重厚なシリアス要素も存在する。
あと大量の伏線と緻密な設定が魅力的で、考察が捗る。
だから、転生するならこんな世界が理想だと思っていた。
バトル漫画みたいに危険はなくて、ミステリー漫画みたいに治安が悪くなくて、ファンタジー漫画みたいに文化水準が低くない。
安心で、安全で、現代日本の延長線上にあって、ちょっとだけ刺激的な毎日を送れる物語。
…………
「準備しないさい、捨壱号君。起動してから三日も経った。もう
「……はい」
「では、行きたまえ。君は
「…………了解です」
甘かった、もっと考えるべきだった。
ラブコメ漫画だから描かれなかっただけで、この世界にも犯罪はある。
そして、妖怪が存在するならば──
「……ぼくだけ別ジャンルに生きていないです?」
ラブコメ漫画の世界に転生した。
だけど、ぼくが犯罪者相手に戦ってるのは何でだろうか?
◆『顔だけの俺と顔なしの君』とは、超人気妖怪ラブコメ漫画。著者は関根マスコ先生。
◆週刊連載されていたが、現在は最終章の執筆の為に一時休載中。既巻22巻。
◆アニメは3シーズンまで制作済み、映画化も決まり、スピンオフ作品も二種類存在する。加えて、実写ドラマ化も大ヒットしたバケモノコンテンツである。
降り頻る雨が視界を覆う。
まるで、雨女でもここにいるかのような豪雨。
けれど、これは厳密には雨ではないと
「そっか、今日は四番地の
曇り空が投影された天井から降り注ぐ水。
それは建物や道を洗浄する為のモノだ。道路を自動洗浄車が走っているのも清掃の一環。
人工の雨だからこそ天気予報に外れはなく、清掃中の四番地にわざわざ侵入してくる人なんていない。
だからこそ、人っ子一人も見当たらない四番地で、雨の中傘も差さずに走る男は酷く目立った。
「見つけました。十字路から南、九番地へ向かってるです」
『了解。俺が待ち伏せする。てめぇは後ろから挟撃しろ』
フードを被った男は走る。
何かから逃げるように、一心不乱に。
しかし、やがてその足は止まった。
理由は単純。
「なッ、
「よお、てめぇが〈
それは黒いスーツを纏った大男だった。
見えない壁を背にして、大男は立っていた。
スーツをパツパツに引き延ばす筋肉質な身体に、強面な顔立ち、眉から頬にかけて大きな切り傷の痕が付いている。
加えて、その大男は鞘に納まった短い日本刀のようなモノを腰に携えていた。どう見てもカタギではない。
「考えたもんだなぁ、
「それを何処で……⁉︎」
「だがよぉ、妖怪の取り扱いには国家資格が必要だって知らない訳がねぇよなぁ? 駄目だぜぇ、無資格で妖怪を悪用するなんてよぉ」
「何者なんだお前はァ⁉︎」
大男は懐から一つの身分証を取り出した。
そして、その内容をフードを被った犯罪者に見せつける。
「文部科学省陰陽局妖怪取締課の遠野國男だ。妖怪取締法違反の容疑でてめぇを逮捕する」
「お前っ、
〈
ナニカが溜まった試験管をブチ撒ける。
垢舐めとは塵や垢などが積もった風呂場から自然発生する妖怪。つまり、その試験管はアカナメにとっての
そして、アカナメが顕現する。
まるで初めから其処に存在したかのように。
静かに、存在感を消して、しかしそれでも背筋を震わせるような気味の悪さを漂わせて。
それは美女の姿をしていたが、一目で異様な化け物だと判断できた。
長く口から垂れ下がる舌、血肉に彩られた格好。
「チッ⁉︎」
アカナメの舌が遠野さんの肩へ伸びる。
遠野さんは咄嗟に横方向へ飛び退いたようだが、舌を掠めた肩に爛れたような跡が生じる。
「知ってるよなァ、陰陽師! アカナメが喰らうのは垢だけじゃねぇ‼︎」
「あぁ、成程。『日東本草図纂』か……」
「アカナメは骨を除いた血肉全部をしゃぶり尽くすバケモンだ‼︎ お前の身体を丸ごと喰らって証拠隠滅してやるよッ‼︎」
「その口振りだと、死体の処理にまで手を伸ばしてやがんなぁ? 死体損壊罪も上乗せしてやるから覚悟しろよクソ野郎がぁ……‼︎」
更にもう一撃。
〈
舌が鞭のようにしなり、遠野さんを喰らい尽くそうと涎を垂らす。
──
「させない‼︎」
「──っ⁉︎ 馬鹿野郎がっ⁉︎」
バチンッ‼︎ と。
「…………は?」
〈
だって、目の前の光景が信じられなかったのだ。
死体を丸呑みにするアカナメを……陰陽師の大男だって回避するしかなかった致命の一撃を、
あり得るはずがない。アカナメの舌はそれが人体であれば、老若男女関係なく消化する事ができる。人間であれば、逃れられない攻撃だ。
……その時、〈
人間であれば逃れられないと言うのであれば、
即ち、その少女は──
「────妖怪……‼︎」
「
国家権力は得体の知れないオカルトを使わない。
彼らが扱うのはもっと安心で安全で安定したテクノロジー。
少女は──つまり、
「
◆
◆義肢を開発するサイボーグ工学と人工知能を作成する計算機科学が組み合わさって生まれた技術。まだ一般には普及されていない技術だが、人間の代わりに労働を行う事を期待されている(同時に、人間の職を奪う事を危惧されている)。
◆ヒンナガミシリーズはミヤカワ・コーポレーションが販売している戦闘用
「はぁ……おいてめぇ、何をやってんだ」
せっかくぼくが助けてあげたのに、遠野さんはため息を吐いてぼくを睨む。
悲しい事だが、今のぼくはただの道具だ。歯向かって廃棄処分にされるのも嫌だし、テキトーに申し訳なさそうに謝っておこう。
「参上が遅れて申し訳ないです。ぼくの失態で貴方に手傷を負わせてしまいました」
「違う、そうじゃねぇよ」
「……?」
「……分かんねぇか? 俺は挟撃しろっつったよなぁ。犯人の背中はガラ空きだっただんだから、俺を守るよりも先にやるべき事があったんじゃねぇのか?」
チラリ、と〈
ヤツはとっくに逃げ出していた。
「……犯人の捕縛よりも、
「柔軟性が足りねぇなぁ。金属製だからか?」
「…………金属だけじゃなく、プラスチックや有機化合物も原料です」
「まぁ、いい。俺は〈
「了解です」
駆け出す遠野さんを尻目に、アカナメに向き合う。
アカナメは攻撃の効かない
「面倒くさいですね──
ぞぞぞぞぞぞぞッ、と。
ぼくの制服が
これこそが
形が無いからこそ、どんな形にも変形できる万能の武器。
ナノマシン一つ一つに精密に操るには巨大な演算機が必要であり、本来は実用的でない武装だ。しかし、
『Transform>>>Attachment:Machine Gun』
ガガガガガガガガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
閃光が瞬き、爆音が響く。
連射された弾丸がアカナメを撃ち抜く。
マトモな生物なら生きていられるはずがない。
──しかし。
「……だと思いました」
アカナメは無傷で其処に存在していた。
攻撃する前から知っていた。ぼくの攻撃もアカナメには効かない。
「…………………………………………」
「千日手ってやつですね。これはぼくの努力じゃどうにもならないから、仕方ないです。このまま睨み合いでも────ちょっと待ってください」
治安を維持する側に属してはいるが、やる気がないため程々にサボろうとした。
その天罰なのか、嫌な事に気がついてしまう。
「
「…………………………………………」
恐らく、ここが
雨の降る街を巨大な風呂場と看做して、そのサイズに合わせてアカナメはより強大になっていく。
「まっ、まぁ? いくらデカくなってもぼくに貴方の攻撃は効かな──」
にゅるんッ‼︎ と。
アカナメの舌がぼくの全身を
四肢を押さえつけ、舌がぼくの身動きを封じる。
「ぎッッッ⁉︎ むッ、無駄ですよ……‼︎ 貴方の攻撃は効かない! 貴方のスペックじゃぼくに敵わないと
ジジジジジジジッ、と。
不快な砂嵐の音が脳の奥で聴こえる。
「なッ、ぼくの防御を貫いただと⁉︎ 人体じゃなくてもッ……有機物なら何でもいいって事ですか⁉︎」
初めの一撃は体表のプラスチックに弾かれただけ。
金属だけでなく有機化合物も使用されたぼくの
遠野さんがぼくを叱った理由が分かった気がした。
(やばいっ、ナメてたのはぼくの方だった! 死ぬッ、
必死に打開策を考える。
ぼくの脳味噌は優秀なようで、超高速で様々なシミュレーションを行う。
だけど、間に合わない。いくら
(やば、これ死──)
「──何やってんだ‼︎ 車を狙えぇ‼︎」
考えるよりも先に、
『Transform>>>Attachment:Beam Sabel』
ナノマシンが五メートル近い高熱の刃へ変形し、道路を走っていた
そして、切り裂かれた車のタンクから
「こんな……簡単に?」
理屈は分かる。
アカナメは垢から生まれ、垢を喰らう妖怪だ。
垢自体が消滅すれば存在を保てなくなるだろう。
(だが、瞬時にそれを気づいて打開策を思い付くか……⁉︎)
遠野さんはとっくに〈
彼の足元には糸が何かで捕縛された犯罪者が転がっている。
「なぁ……ロボット。一つ聞きたい事があんだけだけどよぉ」
「……はい、何ですか」
サボってたことがバレたのだろうか。
ぼくはそんな呑気な事を考えていた。
「
「
瞬間、回答を間違えたと気付いた。
遠野さんの雰囲気が変わる。
理由は分からないが、ぼくは致命的なミスを犯した。
「あり得るはずがねぇんだよ。てめぇに妖怪が見えるなんて」
「な、にを……」
そして、彼はぼくのミスを指摘する一言を放った。
「……
「………………………………………………は?」
そんな、全てをひっくり返す一言を。
「何を、言ってるんですか……? だって、現に……」
「
「認知、心理学……?」
なんだ?
それは、まるで、妖怪が科学で説明できるみたいな…………。
あり得ない、あり得るわけない。
だって、原作ではそんな事一言も言われてない!
「シミュラクラ現象って知ってっか? 点が三つあったら表情だと錯覚するってヤツだ。それと似たようなもんさ。俺達は理解できない現象があったら、それを妖怪だと錯覚してしまう」
「違う! アカナメには物理的な実体があったです! 現に舌がぼくの身動きを封じた‼︎」
「それも錯覚だよ。てめぇがアカナメに押さえつけられたと思い込んで、心理が身体を硬直させた。
「でっ、でもッ! それならその理解できない現象自体は⁉︎ それこそは本当のオカルトっ、妖怪だと呼べるんじゃないですか⁉︎」
「てめぇが勝手に理解を放棄しているだけだろうが。もういっぺん考えてみろよ。
姿形は錯覚。物理攻撃が効かないのもそもそも存在しないから。
だとすれば、人体を食らう攻撃は? あれはオカルトじゃないって言うのか?
けれど、
「
微生物は汗、皮脂、角質、肉を分解する。骨だけは食べないというのも、ただ単純に骨が分解できないだけ。腐敗臭も文字通り腐敗させてるから臭っていただけ。
そうすると、風呂場で発生するという伝承も疑わしい。恐らく、風呂は何の関係もない。
洗浄液で洗い流されたのも、何か難しい理由があった訳じゃない。単に洗浄液で死滅しただけ。
現代に残るオカルト、妖怪・垢舐めではない。
現代の品種改良技術が生み出したテクノロジー、超強力な分解力を持った微生物・アカナメ。
「コイツは妖怪の中でも、本物の超常現象である真怪じゃねぇ。人為的に作られた偽怪、その中でもテクノロジーによって生み出された
「………………………………、」
「そして、言ったよなぁ? 妖怪は認知心理学で説明できるって。だがよぉ、オカシイよなぁ?
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
ガシャン、と手錠が掛けられた。
ただの手錠じゃない。ナノマシンの操作を阻害する特殊な手錠が。
「
その日、
◆この物語に登場する
◆他に存在するのは
続きはないです。