我らが“叛王”、ユーサーペイン・エクザリオ様。
差別され、迫害され、追放された少年は、この国の頂点に立つ王となられた。
全てを奪われた少年が、全てを手に入れたのです。
「ペイン王。西部地方の反乱分子に関してなのですが」
彼の王の御名を呼ぶ時には、決して“ユーサー王”と呼んではいけません。その名を口にしたが最後、その首は胴と別たれることでしょう。
その名を呼ぶことを許されたのは、世界で唯一人。……あぁ、実に腹立たしい。どうして、何故、その唯一が私ではないのか。
「泳がせておけ。肥え太らせて、集まらせて、最後に一網打尽で粛清する。良い見せしめになるからな」
「――はっ!」
冷血にして、非情にして、徹底的。
冷酷無比な王は、しかし、それ故に完璧な平等主義者。
血筋も、容姿も、性別も、年齢も。それらの差異が彼の目に映る事はありません。
ただ、能力だけが判断基準。
だからこそ。努力さえすれば、私のような者でも取り立てて下さるのです。前王の治世では迫害されるだけだった私でも。
「それと。俺は今この上なく忙しい。故、対応はナンバー25辺りに任せる。決して手は出さず動向を監視させろ。上手く泳がせろよ」
「――全ては御心のままに」
ナンバー。
それは王の配下に与えられる番号。王にとって、国にとって、その人物が何番目に有能かを示す数字。数字が小さくなるほど権力が与えられていく仕組み。
重要なのは。これが固定ではなく、功績・失態などによって常に変動するという点。私たちは常に競い合い、上を……より王の近くを目指している。
「よっ、ナンバー3。また王は例の地下施設へ行ったのか?」
「ナンバー9か。……その通りですよ。いつも通り、王はあの部屋へ向かわれました」
“忙しい”と言って足早に立ち去った王を見送れば、一人の男が話しかけてくる。
ジャラジャラと顔中に付けたピアス、無数の入れ墨。品性の下劣さが容姿にそのまま反映された男。ナンバー9。
彼もまた能力によって選ばれ、出世した者。前王の治世であれば、間違いなく凶悪犯として処刑されていたことだろう。
「さてさて、我らが王は何をしておられるのかねぇ?」
「知りませんよ。ですが、どうあれ国の為に必要な事でしょう。そして、手が必要ならば申されるはず。声がかからないということは、私たちは知る必要のないことなのでしょう」
ここ最近、王は王宮地下の部屋に入り浸っておられる。
極秘裏に建設を進めた部屋。完成後は王以外の誰一人として、入室は勿論、近付く事さえ許されない謎多き領域。
あの方はその部屋に固執しているのです。そう。例え、あらゆる全てを擲ってでも。
「へぇ~~? お前さんは気にならんの? 王大好きナンバー3さんはさぁ? あの様子は、どっからどう見てもイカレてるぜ?」
「不敬だぞ、ナンバー9!」
王を“イカレている”などと言う事も、その御心を勝手に推し量ろうとすることも不敬極まりない。今直ぐ、この場で斬り捨ててしまいたいくらいだ。
……だが。この男の言葉に正しさを感じてしまっている己がいることも事実。
陛下の様子は確実にオカシイ。執着は凄まじく、いっそ病的。
食事や睡眠を擲つことも珍しくなく。何を犠牲にしてでも、あの部屋で進めている“ナニカ”を優先なされる。
そのせいで王の身体は日に日に瘦せ衰え、目の周りには深い隈が刻まれている有様。
このままでは、きっと。そう遠くない内に王は倒れてしまわれる。そうなれば最後、この国も終焉を迎える事だろう。
「あの噂、知ってるか? 王は地下で死者蘇生の研究をしているってヤツ」
……聞いたことはある。
死者の蘇生。絶対の禁忌であるソレこそ、王の執着しているモノだという言説。
そして。生き返らせようとしているのは、幻の騎士。
絶対の空席となった、永遠のナンバー1。
王の最初の臣下であり、唯一の騎士。彼は王の理解者であり、保護者であり、友であり、剣であり、盾であった。
王にとっては。あの男だけが、そうであった。
「……あくまでも噂に過ぎません。根拠のない悪意ある噂。信じる方がどうかしています」
「そうかねぇー。俺は強ち的外れとは言えない気がするんだがなー」
そのナンバー9の呟きを、「不敬だ」と咎め否定する事は、ボクには出来なかった。
◆◆◆
「くそ! 何が秘境の神秘だ! 何の効果もないじゃないか!」
死者を蘇生する奇跡が存在する――。
その噂を聞きつけた俺は、秘境の部族を侵略。武力で脅して“神秘”とやらの詳細を吐かせた。
が。それは唯の民間信仰の類。何ら現実的な力を有さないゴミでしかなかった。
これで幾度目だろうか。
医療。魔術。魔法。神秘。奇跡。呪い。死者を蘇らせる術があると聞けば、それを手に入れた。必要とあれば、今回のように侵略する事も、攻め滅ぼす事も厭わなかった。
だというのに。全て噓まやかしの出鱈目。今回と同じゴミばかり。
もう十年以上、同じことを繰り返していて。それなのに、一向に事態は好転しない。
禁術を使用し過ぎた反動で身体もズタボロになってしまった。
だが、それでも。
「それでも俺は諦めない。お前を絶対に蘇らせて見せる。なぁ、俺のたった一人の臣下、俺だけのナンバー1」
目の前には、無数の術を施され、特殊な液体に漬けられた男の――遺体。
俺を庇って死んだ時そのままの姿で、彼は保存されている。
「他にも臣下はいるだろうって? はは、冗談キツイよ。あんな奴らはゴミさ。ずっと俺の事を虐げて来た癖に、俺が力を持った途端に媚びへつらう屑でしかない」
彼の姿は今にも起きて「我が君」と口にしそうでさえある。
だが、俺の声は広大な部屋に虚しく響くだけ。応えてくれる声は無い。
「俺の味方は、理解者は、お前だけだった。力も金も権力も人脈も、何1つ持っていなかった頃の俺を、唯一お前だけが認めてくれた。“王の器”だと言ってくれた」
彼が居ない世界に価値なんて無い。
たとえ大陸を、世界全てを制覇しようとも。どれだけの富と名声を得ようとも。そこに彼が居なければ何の意味も無い。
いっそのこと。こんな世界、跡形もなく滅ぼしてしまいたいくらいだ。
だけど、それはしない。何故なら、そんなことをすれば彼と再び出逢う場所が無くなってしまう。
今の俺にとって、彼と再び出会うこと以外に為したいことなど無い。
「――認めよう。認めるしかない。蘇生は無理だ。如何なる禁術でも成し遂げられない」
確かに、現実の壁は高い。この非情な世界は容赦なく奇跡を拒絶する。
死者蘇生という奇跡は、人が届くモノではないのかもしれない。
だが。それならば考え方を変えるだけ。別の方法を試すだけだ。
「この肉体を生き返らせることが不可能であるならば。別の肉体に彼の魂を宿らせれば良い。魂の循環、輪廻そのものに干渉すれば或いは……」
たとえ、それが世を支配する理へ……世界そのものへ抗う行為なのだとしても。
構うものか。その程度のこと、俺がずっとして来たことだ。
俺こそは『叛王』。抗うことこそ、俺の王道なれば。
「幸い、生贄は大勢いる。粛清対象は腐るほど湧いてくる」
これが過ちの道であることなど理解している。
だが、止まらない。もう俺は止まれない。
だって。唯一俺を止められる者は死んでしまったのだから。
……あぁ。はやく、はやく再会したい。再会して、お前に俺の所業を叱って欲しい。
そう、俺は。あの厳しくも優しい声音を再び聞きたい。
ただ、それだけなんだ。
とりあえず、ここまで。
続きは需要があれば。