TS尻軽騎士のバージン・エンパイア   作:夢泉

4 / 4
2話:カツドンおいしい

 

 

 卒業までは親孝行をする。

 いずれ、かつての主たちに負けぬ王となる。

 この2つの決意に上下や優劣は存在しない。

 「私」は確かに七の王に仕えた記憶を有する「騎士」であるが、同時に、今も涙を流しながら手を振り見送る両親の「娘」でもある。

 家を出て暫く。既に2人は豆粒のように見える距離にあり、私は彼らより背丈が小さいのであるから、彼らからは更にずっと小さく見えていることだろう。

 それでも彼らは、一人娘の門出をいつまでもいつまでも見送るのだ。涙を流しながら、大きく大きく手を振って。

 たとえ声も届かぬ距離にあろうとも、決して一人ではないのだと――そう伝えるように手を振る彼ら。彼らの娘で良かったと、心の底から思う。

 彼らがいたから。彼らが私を産み、育ててくれたから。私は『終王』の最期の命令を果たすことが出来るのだ。

 

「風向き良し。馬の嘶きも、兵の足音も、剣戟の音も聞こえない。これで届かねば『戦王』様に笑われてしまうな」

 

 様々な時代を生きた私は知っている。古今東西において、秘めたる想いが美徳の一つとされることを。

 むき出しの感情は獣じみていて、それを隠すことは成程“文明的”であるのかもしれない。

 しかし、人は死ぬ。それは頂点たる王でさえ逃れられない宿命である。別れはいつだって突然で、理不尽だ。

 だからこそ、誰より文化文明を愛した『文王』は仰った。――「人間という名の美しき獣であれ」と。

 

「す――――」

 

 大きく息を吸い込みながら、思い出すのは戦場のひりついた空気。

 戦場において味方に指示や檄を飛ばす時、あるいは敵へと口上を述べる時、普通の発声では到底足りない。何万の兵の足音、馬の嘶き、剣戟、怒声罵声絶叫悲鳴――あらゆる音を凌駕しなければならないのだ。

 背筋を伸ばし、声帯を絞る。己の体を1つの楽器に見立てよ。肺腑、骨、肉、気道、無駄なものなど1つもないと知れ。それらの有する力を完全に理解し、肉体の最適解を叩き出せ。さすれば――

 

「いってきま―――――――す!」

 

 この感謝を、春の風が届けてくれることだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

 そして私は、偉大なる王を目指すべく大いなる一歩を踏み出し――

 

「……それでね。君は今、何の面識もないピューラウス家の御子息の顔面に、全力の飛び蹴りをブチかました……ということになっているんだけれど。何か言い分はあるかい?」

「あの愚か者が、仮にも騎士を名乗っているとは片腹痛い。おめおめと生き恥を晒すくらいであれば、自ら腹を切って王に詫びるべきと思う」

「いや、少しは言い訳をしようよ……」

 

 ――現在、官憲に拘束されて取り調べを受けていた。

 しかし、この差し出された「カツドン」なる食べ物は美味である。料理の文化も飛躍的に発展しているようで実に喜ばしい。

 私は、都合4杯目の“おかわり”を要求しながら、ここに至るまでの経緯を思い返していた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。