アスティカシア学園地球寮。ティル、アリヤ、マルタンは、新入生のアーシアンを迎える準備を進めていた。

しかし、新入生の1人、ニカ・ナナウラに、気になる点があり――?

※ティル・アリヤ・ニカの出身地など独自設定があります。
※アニメ時間軸前のお話。アニメ時間軸→ティル、アリヤ、マルタンは3年生。今作では1年終盤~2年生。
※スレミオ、御三家はでません。

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手のひらにつかみ取る

ティルはアスティカシアでの学園生活に満足していた。

授業ではレベルの高いメカニック技術を学ぶことができるし、地球出身者ばかりが集まる地球寮の雰囲気もいい。

 

特に、同級生とは心地いい関係を築けていると思っている。

まずは、経営戦略科のマルタン。優柔不断でやや頼りないものの、顔を合わせてすぐにティルに話しかけてきてくれた。自分の殻に閉じこもらずに、動き、前に進んでいけるタイプだ。科は違うが寮では他愛ない話をする。けしておしゃべりではないが、そこが一人の時間を大切にしたい自分に合っている。押しつけがましくないコミュニケーション能力とバランスの良さを持つことから、次期寮長に決まっていた。

次に、同じメカニック科のアリヤ。入寮初日、故郷から譲り受けたからという理由で、家畜――ヤク、ヤギ、ニワトリ――を持ち込んで、ここは動物園かなにかかと面食らってしまったのは懐かしい。

マイペースな彼女とも打ち解け、今ではすっかりしぼりたてミルクの虜となっている。

――学年に3人だけのアーシアンは、スペーシアンばかりの学園では少数派だ。3学年合わせても両手で足りる人数で、支えあって生きている。

「今度の新入生も3人くらいかなー?」

ミルクを飲みながら、アリヤはなんともなしに言う。

「多分そうなるんじゃないかな。地球からの枠は少ないから……」

マルタンの読みに、ティルもうなずく。

「そうだな、むしろ3人いればすごいと思う」

地球の環境は、スペーシアンと比べてもひどいものだ。地球の中でも格差はひどく、児童労働や人身売買が頻発している国も数多い。衣食住足りて学習機会があり、アスティカシアに入学できるだけの費用とチャンスがあった。それは地球では恵まれた部類に入る。結果として、学年に1人だけか、アーシアンが入学しない年もある。

「まあ、時期が近付いたら何人入寮するか連絡は入ると思うし、わかったらすぐ伝えるよ」

「はーい。女の子いたらいいなあ」

そんなアリヤの願いが叶うと知ったのは、入寮者が3人いると、学園から連絡を受けたときのことだった。

 

 

「――男子2人、女子1人。今年はみんなメカニック科みたいだ」

マルタンからの情報に、アリヤは飛び上がる。

「やったあ!女の子!」

「女の子だけじゃなくて、男の子にもいろいろ教えてあげてよ?」

「え~、ティルがいるじゃない」

地球寮に、女子の先輩はいなかった。寝室はもちろん男女別である。男所帯の地球寮でもなんの不自由もなさそうに過ごしているようだったけれど、やはり心細かったのかもしれない。

「……新入生の女の子から嫌われないようほどほどにね」

ティルがマルタンに向き直る。

「それで、名前とかわかる?」

「うん。男の子のほうが、ヌーノ・カルガン、オジェロ・ギャベル。女の子のほうが、ニカ・ナナウラ」

ナナウラ。

意図せず目が瞬きを繰り返してしまう。

「ナナウラって珍しい苗字だね」

マルタンがさらりと言っているが、珍しいなんてものじゃない。

地球の東アジア地域のごく一部で使用されている苗字だ。

「うわ~、住んでるところ、私たちと近いかな?」

アリヤは東アジアにルーツがある。ティルも同じくだ。

学園に来て同郷のものが来るかもしれないと思うと、アリヤのように興奮してもおかしくない。

「よかった。じゃあすぐに仲良くなれそうだね」

アーシアンという超マイノリティは、そうそうひどい場合を除き、それなりにすぐ仲良くなる。

もしかしたらアリヤとニカ・ナナウラは、生涯の友となりうるのかもしれない。

 

――最初におかしいとおもったは、初対面のときだった。

「ニカ・ナナウラです。よろしくお願いします!」

青みがかった暗めの髪。同じく暗めの髪のアリヤと同じく、東アジアルーツに見える。

その割には、アリヤのように突っ込まなかったのだ。

ティルの髪型を。

――ちょんまげ?えー!?今の時代にちょんまげ?

そう言われた記憶がよみがえる。

その昔東アジアでされていた髪型だが、アーカイブを見てなんとなく自分の髪でして以来、しっくりときた。だからずっとちょんまげなる髪型を続けている。入学前から、入学後も。

他に同じ髪型の人間を見たことはない。常用されなくなって久しい。もしかすると大多数の人間にとって忘れられたのかもしれない。学園まで来て人の髪型を調べる人間などいないだろう。

知っている人間だからこそ、驚きはする。知らなければなんの反応もしない。

もちろん、知っていたがあえて指摘をしなかった、という点も考えられる。

けれど、彼女を呼んだ時に、反応が遅れていた。

「ナナウラ」

最初期。ティルは、ニカではなく、苗字のナナウラと呼んでいた。

一対一ではなく多人数で話していた時、最初彼女は自分が呼ばれているのだと気づいていないようだった。

 

世間話のつもりで、マルタンやヌーノ達がいるときに聞いてみたことがある。

どのあたりの出身か、何人家族か、と。

「地球の東アジア出身」「父親と二人暮らし」。

それ以上は話したがらず、また、ヌーノの「俺は孤児です」の発言もあって深くは聞けなかった。

彼女には、なにか話したくないことがある。

それが分かった。

けれど、話したくないことを話させることはしない。

むしろ、話したくないことがあると気づいたことを悟らせない。

アスティカシア入学。

それは、はるばる地球からやってきて、つかんだチャンスなのだから。

 

 

 

 


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