一番星と一等星。   作:果実味

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 原作を読み脳が焼け、アニメ化すると知って視聴したら脳が溶けた結果がこの小説です。
 自己満足で書いたものなので原作とは設定が違ってるかもですけどご了承ください。
 とにもかくにも言いたいことはただ一つ。

 ーー星野一家よ、幸せであってくれ!






Lesson1

 

 

 

 

 

 ──流行というものはいつだって突然に、そして瞬間的に広がっていくものである。

 

 ネットに一本の動画を投稿したとしよう、その人には興味のない内容だったとしても別の誰かにはとても興味をそそられる内容だった場合、同じく関心を持つ同士がいないかと拡散する。点が線となりやがて大きな円が作り上げられる……それが流行の起爆点。

 

 ──では『B小町』というアイドルユニットをご存知だろうか。

 

 結成から約四年。メンバー内の入れ替わりはあるけれど絶対的なセンターが存在することでファンを少しずつ、しかし確実に増やしている新進気鋭のアイドルユニットだ。

 彼女らは初めから世間に注目されるほど有名ではないしメンバーの全員がまだ中学生。地下アイドルというドルオタでもなければ認知されない小さな箱庭の中で歌い踊り、笑顔を絶やさなかった。

 そんな彼女らも流行の発信源としてネットに取り上げられその容姿、歌、踊りに魅了された人間が次々と足を運び今は年齢の割に懐が潤うほどファンが増えてきた。加えてアイドル活動の他にも個々の能力が存分に発揮される仕事を貰えるようになり『アイドルタレント』としての階段を登り始めている。

 

 ──そんな人気絶頂とも言えるB小町の存続に亀裂が生じる問題が起こる。

 

 B小町の絶対的センター、アイの活動休止である。

 この情報はすぐに拡散しドルオタはもちろん、一般人にも知られてきた今となってはまさに時の人。活動休止という内容にネットでは様々な意見が飛び交う。

 

 ──アイ、元気かな? またライブ見たいよ〜

 ──活動休止って病気かなにか? 心配……

 ──どうせ男でも作って身籠ったんじゃね? アイドルならありそー

 ──ファンとしてアイの事は心配です。誹謗中傷とかありますけどこういうのは無視して今は安静に休んでください。

 

 アイについての話題がやがてネット内の住人による論争に発展し事態は悪化する。が、それも所詮は一時的な鬱憤の捌け口として用意された餌であるため時間が経てば別の話題に喰い付き同じ事を繰り返す。

 さて……そんな話題の中心となったアイという少女は現在どうしているのか。活動休止と公表した以上やはり理由は存在する。

 活動拠点の東京から西へ移動すること約八百キロ、宮崎県のとある田舎の病院にアイの姿はあった。

 

「検査結果……二十週、双子ですね」

「双子っ! うひゃ~こんなに大きいのも納得!」

 

 担当した医者から告げられた結果にアイは目を大きくして驚く。そしてその隣で頭を悩ませて唸っている男──斎藤 壱護は意を決してアイに聞く。

 

「アイ、お前本当に産む気か? 十六歳で妊娠、出産って事になったら俺もお前も終わりだっ!」

 

 活動休止の理由──それはアイの妊娠。確かにこんな事実が世に広まればアイドルとして人気を博した名声は地に落ちるだろう。同伴者である壱護はアイの後見人、実質身元引受人でありB小町の所属事務所『苺プロダクション』の代表取締役だ。だから壱護は会社とアイの将来を天秤にかけてもバレたらその両方を失う可能性が極めて高いからこそ切羽詰まっている。

 

「先生はどう思う?」

「……」

 

 選択権を委ねられた医者の青年はこう言う。

 

 ──最終的な決定権は君にある。よく考えて決めるんだ。医者としては(・・・・・・)そうとしか言えないな。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

「医者として……か」

 

 アイの検診を終え今は休憩時間。病院の屋上は常時開放されているが病院の関係者以外にはあまり知られていないスポットであるため一人で考えたい時はよく訪れる。

 

「じゃあファンとして考えたらどうなんだろうな……」

 

 雨宮 吾郎という産医はドルオタである──が、吾郎の場合は少し特殊だ。過去に知り合った少女と意気投合しドルオタであることが判明、しかもB小町のアイの大ファンであり語らせたら半日は口を閉じないほどの崇拝っぷり。

 そんな少女に言われるがままにB小町のライブを見るうちに吾郎もアイに魅了され見事に奴隷(ファン)となったわけだ。

 ここまで聞けば布教されて沼に落ちた、というオチで話は終わるのだが吾郎がドルオタになった理由はそれだけではない。

 

「そりゃ〜ショックだよね」

「……後ろから声をかけないでください。驚いて心臓止まりそうでしたよ」

「どっちにしたって驚くでしょ? 私が吾郎くんの前に現れたら」 

「ははっ、違いない……」

 

 吾郎の背後から声をかけた主は腰まで伸びた金髪が特徴的な少女。口ぶりからして吾郎とは昔からの付き合いがあるようで。

 

「お仕事お疲れ様、はいコーヒー」

「ありがとうございます、いただきますね」

「むっ……久しぶりだからって敬語に戻るのはどうなの? 私達はともだち(・・・・)、でしょ?」

「そうでし──いや、そうだったね」

 

 怒ってますアピールとして頬を膨らませる顔も可愛い……とは言えず内心で『眼福、眼福』と唱えながらコーヒーで喉を潤す。

 

「──で? ファンとしてはアイのことどう思ってる?」

「酷な事聞くなぁ……そりゃショックだろ。けど同時に安心もした、病気とかそんなんじゃなくて」

「優しいんだね、吾郎くんは。君がアイのファンだって知ったら喜ぶんじゃない? 後で教えとこっか?」

「やめてくれ、俺はアイのファンだけど平等に接してもらいたいんだ。独り占めはただの自己満足さ」

「ファンの鏡だね。じゃあさ、ついでに私のファンになる気はない? サービスしちゃうよぉ〜」

 

 ほれほれ〜と指で吾郎の頬をツンツンする仕草に小悪魔め……と少女の性格をよく知る吾郎は距離の保ち方に苦戦する。

 

「前にも言った、推しはアイだけ。もし君の元へ行く日が来るとしたらそれはもう……ファンの域を越えてしまうんだよ──鳴川 千十星(なるかわ ちとせ)さん」

 

 少女の本名は公表されていない。B小町はアイの人気が高すぎるせいか他のメンバーについてはあまり情報がない、鳴川 千十星の芸名は『チトセ』。B小町のリーダーを務めており今はアイドルタレントとしてラジオ番組や地方のCMに出演している苺プロダクションの稼ぎ頭の一人だ。

 そんなチトセの本名を知る吾郎とは四年前の、この病院の近くで撮影をしていた時に出会った。

 

 ──そして吾郎が本格的にドルオタとなった原因がこのチトセである。

 

「……少し意外、まだ想ってくれていたなんて」

「一度だって君を忘れたことはないさ。君がいたからあの子(・・・)は生きる希望を捨てなかったんだ」

「そっか……希望になれたか、私は。だとしたら価値はあったね」

 

 風が頬を撫で髪の毛が乱れる。それを押さえるチトセは一枚の絵として完成された美術品であるかのような美しさと儚さをその表情にあらわしていた。

 

「ねぇ、吾郎くん。私はあの子のアイドル(推し)になれたかな?」

「残念、彼女の推しはいつだってただ一人さ」

「あははっ……やっぱり親友には勝てないかぁ〜布教は順調だと思ったのに」

「でも最後まで握りしめていたよ、『絶対にライブに行く』って言って本気で生きようとしていた……これは君に返すよ」

 

 ──約束、守れなくてごめんね。

 

 吾郎がポケットから取り出したのは蝶の片羽が特徴の高そうなヘアピン。これを受け取る際に握った手は弱々しく今にも折れてしまいそうな程に細かったのを思い出す、そして遺言も。

 

「約束……守れなかったか〜」

「これを受け取る時に言われた、代わりに謝ってほしいって」

「謝るくらいなら病気直してほしかった──ってのは私のワガママだよね。うん、今のはナシ」

「君が苦しむ必要はない、むしろ彼女の側にいた俺が何かするべきだった……今でも後悔してる」

「いやいや、研修医だった頃にできることは少ないんだし吾郎くんの方こそ苦しむのは間違ってるよ」

「……こういうやり取り、久しぶりだな」

「そう、だね。吾郎くんの前だとどうしても素に戻っちゃう」

 

 チトセの言葉を最後にしばしの沈黙。聴こえてくるのはそよ風で揺れる木々の音と鳥の鳴き声。それでも二人の間に気まずさというものはなくむしろその静けさが心地良いとさえ感じていた。

 

「人が亡くなる時って大抵は泣くらしいよ。家族とか恋人とか、大事な人ほど失ってしまった時の悲しみが大きいらしい」

「……何が言いたいんだ?」

「私は薄情者ってこと。だって私にとってあの日々は忘れることのない充実感と幸せで胸がいっぱいだった……なのに亡くなったってのに涙一つ流さないんだから……もしかしたらその気持ちは嘘だったのかなって自虐しちゃう」

 

 手すりに背中を預け空を見上げるチトセの表情は髪が邪魔してハッキリとは分からない。けれど吾郎には分かる、チトセは泣こうとしているのだと。それでも……それでもチトセの視界が滲むことはない、なぜならチトセは自我を認識するようになってからは泣いた記憶がないから。

 悲しいと感じる事はある、酷く傷つき絶望したこともある、似た境遇の人間が涙する場面を何度見たか分からない。同じ気持ちのはずなのに自分は涙を流せない、もしかしたら何かの病気なのでは? と病院に行こうともした。しかし親友の一言がチトセの激情を落ち着かせる決定打となり鳴りを潜めた。

 

「──嘘なんかじゃないっ」

「……分かんないよ? だって私はアイドル(・・・・)だから。嘘を武器にファンの前に立つ道化、それがアイドルのチトセなんだよ」

「いいや、君は嘘つきなんかじゃない。自分に嘘をつけないのがチトセだ、幸せだと感じた気持ちすら嘘だったなんてこと、俺が認めない。あの時の君はただの(・・・)、どこにでもいる普通の中学生──鳴川 千十星だっ!」

 

 一回り下の子ども相手に吾郎は必死に吐露する。もしチトセが本当にただの中学生であったならばここまで熱を込めないし今まで通りサイリウム片手にB小町のライブ映像を患者と一緒に(強制的に)見ていただろう。

 

「ふふっ……吾郎くんはやっぱり女たらしだっ」

「なんとでも言え、俺は君に対しては嘘をつかない」

「うん、知ってる。はぁ……あの子が君に好意を持ってた理由、改めて分かった気がするよ」

 

 アイルドルとしてのチトセ、ただの学生としての千十星、両方の顔を知った吾郎はいつからか推しのアイに向ける気持ちとは別のナニかを彼女に抱いてしまう。

 

「アイが妊娠したって知ったら何て言ってたと思う?」

「発狂するだろうな」

「ぷっ──あっはははっ! うんうんっ、私も同意見!」

 

 二人して白い歯を見せ合う。生き方も、立場だって違う人間同士がここまで関係を深めることになったのには一人の少女の活躍が大きい。

 チトセは吾郎をともだちとして、吾郎はアイドルではなく等身大のチトセとして接するこの居心地の良さに二人は満足している。

 

「じゃあさ、私が泣いたら……何て言うかな?」

「……やっぱり発狂するな」

「常に狂戦士(バーサーカー)じゃん」 

「でも──」

「ん?」

「でも絶対に……祝福してくれる」

「──っ! うん、そうだったら嬉しいな……」

 

 ──心の底からあい(・・)した人を見つけたときに、私はきっと泣けると思う。

 

 髪のサイドにヘアピンを付けたチトセの笑顔はとても幻想的で。四年前、この病院のとある病室にいた少女に語った紛れもない本心。

 吾郎は当時の思い出を懐かしみながら思うのだ。

 

 ──あぁ、やっぱり君は完全無欠のアイドルだ、と。

 

 

 

 

 

 

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