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拙い文ですが原作に追いつけるよう努力しますので温かい目で見てください。今後はちょいちょいとオリジナル展開や独自解釈なども増えていきますので違和感を抱かれてしまうかもしれないですが暇つぶしの娯楽として見てやってくれるとありがたいです。
雨宮 吾郎という青年は運が良い。
その生い立ち、産科医という職に就くまでは本人とって過酷な人生だったのかもしれないが少なくとも人の輪には恵まれていた。
研修医時代に出会った二人の少女に好意を持たれその内の一人とは歪んだ恋人ごっこをするくらい人生はどう転ぶか分からない、と吾郎の人生録に深く刻まれたのはいい教訓だ。
──そして、雨宮 吾郎の肉体は死を迎えこのまま地獄へ行くかに思えた魂は現在も残り続けていた。
「よしよ〜し、いいこでちゅね〜
「ば、ばぶー」
星野 愛久愛海という乳児の肉体に。
「こらアイ。可わいがってないで早く準備して、今日は忙しいんだから」
「は~い……もうちーちゃんってば姑みたい」
「十六歳の姑がいてたまるかっ! ほら、私が見ておくから」
「ルビーちょっと待っててね〜」
「その子はアクア」
自分は死んだんだな、そう確信した時は随分と混乱したものだが生前から修羅場を何度も経験している吾郎にとっていわば『推しの子に転生した』という事実はあっさりと受け入れられた。もちろんなぜ転生したのかは分からない、あの日──アイの出産に立ち会えなかったのは心残りだが現にアイの子どもとして生きているのだから約束は守れたと思うことにした。
「アクア〜お姉ちゃんでしゅよ〜」
「ばぶ……」
だがしかし。推しの子に転生したのはいい、むしろ神様に感謝しても足りないくらいの幸運なのだが抱っこしている人物に問題があった。
「うんうん、アクアはかぁ〜い〜ね〜」
にへっと表情筋がゆるゆるでアクアの頭を撫でる少女──鳴川 千十星に懐柔されそうになっていることである。
生前では一応、恋人(手は出していない)のような関係であったために乳児の姿で面倒を見られるのは複雑な気持ちだったがそんな事はチトセの知るところではない。ここは割り切って赤ちゃんライフを楽しむのが賢いとアクアは判断した。
「はんぎゃあー! はんぎゃあー!」
「おやおや、かまってちゃんが泣いてる」
アイの代わりとしてアクアに構っていたが、そのタイミングを狙ったかのような大合唱。そうなればチトセが取る選択は一つしかない。
「どしたのルビー? 抱っこ?」
「あー!」
「そっかそっか〜じゃあアクアも一緒に欲張りセットしちゃお〜」
星野
そしてアクア、ルビーの双子を両手で抱えスリスリと頬ずりをするチトセのなんとまぁだらしないことか。とてもステージの上でファンに見せられる表情ではない。
とはいえアクアは思う、チトセはこんなにも愛情表現ができる人間だったんだなと。確かに心の距離間をぶった切る遠慮の無さと愛嬌は持ち合わせていた、けれど
「おいクソアイドル、いつまで赤ん坊に構ってるつもりだ?」
「お、いっちー支度できた? 私は準備万端だよ」
「……あぁこりゃ重症だな」
ひたすら双子を甘やかしているとチトセ、アイの里親である斉藤 壱護が開口一番に罵声を浴びせたが何事も無かったかのように受け答えをする。普段であれば壱護が罵倒しようものならチトセの右拳が顔面を貫くのだが双子の前では絶対に暴れたりしない。
いつでも受け身を取れるようにと構えていた壱護はチトセの返答に安心半分、心配半分といった具合だ。
「いや〜ごめんごめん、準備おっけー!」
「遅いっ! もうリハまで時間ねぇんだ。手短に今後の活動を話し合うぞ!」
「「は~い」」
「不安しかねぇ……」
意気込んで言ったものの頑張ってもらわなければならない二人からは覇気のない生返事が返ってくる。
それでも時間には限りがあるため気持ちを切り替えて壱護は話し始める。
「いいか! アイドル『アイ』は今日復帰となる。復帰第一弾は今夜の歌番組、生放送だけどいけるな?」
「もちろんっ」
「よし。本番中に何かトラブってもチトセ、リーダーであるお前がアイをサポートしてやってくれ」
「あいあいさ〜!」
「……リーダー変えるか」
「なんでっ?!」
「そして、アイとチトセが仕事の間は妻が子供の面倒を見る」
「はぁ……」
壱護の発言に後ろで深い溜息を吐く女性──斉藤 ミヤコは気乗りしない……いや絶対に無理矢理押し付けられた感がひしひしと伝わってくる反応だ。
「奥さん若いよね〜社長の若い子贔屓には他のメンバーもマジ引いてるよ」
「マジか気をつけよ」
「チトセさん、赤ん坊は私が──」
「じゃあアクアをお願い。ルビーったら全然離してくれないから」
「……懐かれてますね」
「むしろ取り憑いてほしいかも」
「それ笑えませんよ」
それぞれが話し合っている間、アクアはアイについて考えていた。客観的に、総合的に判断すると母親としてはダメな部類に属するだろう。どこか危なっかしくてポロッと子どもの存在を暴露してしまうかもしれない。
幸い、社長の壱護はそのイカつい見た目から想像できないがアクア達のことをちゃんと考えているようだしフォローに関しては問題ない、加えてこの家には精神的支柱のチトセがいるのだ。なんとかなるの精神で過ごさなければ身が持たない。
「子ども達を仕事場に連れてっちゃだめ?」
「駄目に決まってんだろバカかお前はっ!!」
「いっちー、アイにそんな態度だとルビーが怒るよ? ほら、すでに睨んでる」
「はんっ! ガキに睨まれたくらいでビビる俺じゃねえよ」
「ならアイを侮辱したってことで私が殴っていい?」
「──さて、話の続きだ」
「あ、逃げた」
「うるせぇ! つーわけでアイ、肝に銘じろ。十六歳で二児の母、アイドルであるお前にそんな事が世に知られたらアイドル生命即終了だっ!」
「えぇ〜めんどくさ、困っちゃうね〜ルビー」
チトセに抱かれるルビーによしよしと頭を撫でながら壱護の注意喚起に渋り顔だ。ミヤコは『アイが間違えなかった……』と驚いている。
「監督責任を問われて俺の事務所も終わり、全員地獄行きだっ」
「ん〜私は他の事務所に移るって選択肢もあるよ?」
「……頼むからウチにいてくれ、チトセ様」
「うむ、苦しゅうない」
鼻を鳴らしてご満悦のチトセ。この家のカーストはチトセが一番上なんだな……アクアは壱護の土下座を見てそう思う。
「──っと。さてそろそろ移動するぞ」
壱護の合図に先程まで気の抜けた雰囲気を漂わせていたアイドル二人の顔つきが変わる。それは復帰する久しぶりのB小町としてステージに立つ緊張からではない、いかにして現場を、そして見るものを魅了できるか……その決意が表に出たにすぎない。
(やっば……鳥肌たった)
アクアは初めて見る二人のいわば『仕事の顔』に内心震えた。プライベートと仕事で態度が変わる人間はいる。しかしアイは楽観的、チトセは自由奔放、だから切り替わる瞬間をこの目に収めることができたのはファン冥利に尽きる。
「ミヤっち〜ルビーお願いね」
「分かりました」
「アクア、ルビー、ママお仕事行ってくるね〜」
「逆だ逆。それでも母親か」
「人の名前と顔覚えるの苦手なんだよぉ」
「双子だもんね〜成長したら一目で分かるけど」
「絶対美男美女になるね」
「──間違いないっ」
あはははっ! と笑いながら家を後にする二人に言葉は発さずともあの二人ならどんな事でも対処できるのだろう、根拠もない押し付けだがアクアはそう思いながら見送った。アイにはチトセが、そしてチトセにはアイが……そうやって二人三脚していけば乗り越えられない壁はない、と。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
壱護、アイ、チトセの三人を乗せた車はとある放送局に停車し一息つく間もなく一般人からアイドルへと変身させる衣装に着替えセッティングされた舞台の上で待機していた。
今夜の歌番組は生放送、一つのミスがそのまま世間に見られてしまうアイドルという『商品』にとっては大事な現場だ。
B小町のメンバーも全員集合し司会進行役のキャストにアイ復帰のインタビューをしている最中。アイドルグループ『B小町』のメンバーはそれぞれが小さいながらも個人の仕事を貰っている、しかし生放送という大舞台の経験値が足りない面々は言葉にはしないが『緊張』という不安要素は無意識に内から外へと漏れ出す。
「本日活動再開となったアイさん! 大丈夫? ご飯ちゃんと食べてる?」
「はい! 今日もいっぱい食べてきました!」
そんな負の雰囲気を漂わせている現場で一人……いや二人だけはいつもと変わらない、見る者にとっては違和感を抱くほどの自然体なアイドルがいる。
「そうそう! ご飯といえばこのあいだ
「ウチノコ?」
「猫ちゃんのことですよ。なんでも休養中に飼い始めたらしいです」
「あ、なるほど〜」
「そうっ!! 猫ちゃん!」
「あ、ハイ……」
危うく子どもの存在を暴露してしまいそうになったアイにすかさずフォローして流れを円滑に進めたのはチトセだった。先の自宅で言われた事態を慌てることなく対処したのは遠くで静観している壱護も一安心だ。
「では! B小町のみなさん、パフォーマンスの準備をお願いします!」
一度カメラを切り替えB小町の持ち歌のセッティング、メンバーの位置確認など……短時間で多くの人間が舞台裏で動き本番が近づく。
「あと三十秒でカメラ切り替わるんで! 良いパフォーマンスお願いします!」
若手ADが爽やかな笑みで親指を立てて激励を送る。その姿にアイもチトセも他のメンバーも笑みで返すと音楽が流れいよいよ始まる。
「B小町、知ってるグループ?」
「……知らね、興味もねー」
スタッフの女性が若手ADに話しかけると先程まであんなにも笑顔だったのが一変、目を細めガラクタを眺めるような表情でそう答えた。
「音源聞いたけど良くも悪くも普通。まぁこういうのが売れるんだけどな」
「量産型アイドル……」
音を身体全てに受けているB小町には聞こえるはずもない会話。そしてこれが芸能界を支え生き抜いてきた『現場を知る人間』の本音。芸能界を知らぬ一般人ならばアイドルという偶像に魅入られファンとなり認知することはあるだろう。そして推しを作り推しがどんな小さな仕事であっても活躍していればそれだけで『頑張っている』と評価される。
しかし芸能界に身を置く人間はこの業界で名を轟かせていない者の評価は『知らない』なのだ。ぱっと咲いてすぐに消えゆく花火のような者の一瞬の輝きをカメラに映し視聴率を得る。なおも輝きを増し大輪を咲かせたなら上等、静かに消えていくのなら見放す……弱肉強食、それが芸能界を生き抜く厳しさだ。
「どいつもこいつも嘘つきだらけ……ほんと、胸糞わりぃ」
立ち上げてまだ数年の苺プロダクションを知る人間がこの場にいったい何人いるか……B小町というアイドルグループのファンが一人でもいるのか……責任を持って監督するアイドル達がキラキラと輝きながらパフォーマンスをする裏で好き放題言ってくれるスタッフ達に壱護はつい愚痴をこぼしてしまう。
(笑顔の裏には嘘と打算が隠れている)
壱護が芸能界に入ってから嫌というほど経験してきた事だ。今さらと諦めてはいるが慣れることはない。
放送の穴を開けてはいけない、演者が最大限のパフォーマンスを引き出せるように心にもない嘘の言葉を吐く。立場が上の人間も良いモノを作るフリして見ているのは数字だけ、誰しもが嫌々ながら嘘を武器に今日も生きている。 それでも、斉藤 壱護は──
(ははっ……全く、上等だってんだ)
決して悲観することなくむしろ勝ち誇った笑みさえ浮かべていた。
(ウチのアイは──
曲がサビに入ると同時に照明の大部分がセンターのアイに向けられる。その姿、その瞳──全てが神々しく見る者を虜にする圧倒的な支配力はこの場のスタッフの視線を釘付けにし心に深く刻まれる。
──アイは完璧で究極のアイドルと。
今日が活動再開とは思えないほど圧巻のパフォーマンスを見せつける両の瞳に一番星を宿す娘から少し視線をずらして……壱護はいつも通りなもう一人の娘に思わず説教してやりたい気分になった。
(ったく……お前も少しは前に出ろ、脇役っつータマじゃねえだろ)
それはまるで影、アイという眩い光の後ろで歌い踊るB小町のリーダーであるチトセは満足げにアイの存在をより引き立たせていた。金髪と相まって美しくも儚い碧眼に星は宿っていない、センターのアイがより輝けるように立ち位置を微妙に変えたり他のメンバーとアイコンタクトを取りアイが自由に動けるよう細心の注意を払っている。
そんなチトセの行動に気づいていた壱護は頭を掻きながらスカウトした日を思い出し声をかけて正解だったと当時の自分を褒めてやりたい。
一番星と一等星、その違いは夕方に最初に見えるかどうかである。自然現象は人間の力ではどうすることもできない、しかし星ではない人として輝く者が同時に現れたら。
「やっぱお前はアイと同じだ」
──先か後か、ただそれだけの話である。