推しガイル   作:TrueLight

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作者は本編の内容を忘れつつあります。本編との矛盾などあればご指摘いただけますと幸いです


番外:今ガチ①黒川あかね

『お前はクビになりてぇのか!? あぁ!? あかねの出てるリアリティショーが人気出てるって言うから観てみたら……なんだこれはァ!? 総出演時間10分もいってねぇんじゃねぇか!?』

 

 自分なりに、努力したつもりだった。

 

『チャンスだって言うのにこれっぽっちも目立ってない!! マネージャーのお前がしっかりしなくてどうする!!』

 

『ですが社長……あかねも十分頑張って──』

『頑張るだけじゃ金にならないんだよ!!』

 

 でもそれは、なんの慰めにもならなくて。お世話になっている人たちに、迷惑をかけるばっかりで。

 

『……ごめんなさい、マネージャー……』

『──っ、聞こえてたか……。あかねは、精一杯やってるんだ。気にしなくていい……ちゃんと俺が、防波堤になるから……』

 

 頑張らなきゃ……もっと頑張って、爪痕を残さなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そういや居たわこんな子。あかねだっけ?】【あかね別に居てもいなくても同じじゃない?】【あかねOUTでいいから男新メン増やして~~】

 

 そして私は、精一杯頑張った。番組が、その視聴者が求めている存在になろうと努力した。

 

 ──それでも、どれだけ頑張ってみても、空回りしてばっかりで。

 

『目立つためにはどうすれば良いかって? そりゃあ、ユキやカナから男を奪う悪女ムーブだよ。これが出来たらキャラが立つし、間違いなく目立てる──もちろん、これは指示とかじゃない。でも、こういうの出来る子が売れるんだよねぇ……』

 

『ゆきちゃんと……かなちゃん、から……』

 

 ディレクターの方にも助言してもらって。求められる存在になろうって、収録のたびにアドバイスをいただいて、実践した。

 

【あかね 好き #今ガチ の検索結果はありません】

 

 自分のことで精一杯で。あの日はじめて、マネージャーが社長に頭を下げているところを見た。きっと、それは初めてじゃなかった。

 

 頑張らなきゃ……もっと、もっと。迷惑を、かけないように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、今日。収録を午後に控えた週末の午前。何度目かも分からない、今日こそは……と言う気持ちを抱いて、私は事務所の応接室で立ったまま待機していた。昨日の夜に突然、マネージャーに呼び出されて。

 

 こういうことは珍しくないけど、今ガチに出演が決まってからは覚えがない。だから……また、迷惑をかけちゃったんじゃないかって。そんな不安ばかりが頭で渦を巻いていた。……なにせ、マネージャー経由とは言え、用があるのは社長らしかったから。

 

 カラカラの喉で、何度目とも知れない生唾を呑んだ。そしてついに、応接室の扉が音を立てて開いたのだった。

 

「おっ、おはようございます!!」

 

「おう、おはようございます。センセイ、こちらが黒川あかねです……あかね、顔上げてご挨拶しろ」

「は、はい……?」

 

 緊張のままに深く腰を折るも、社長は意に介さずに私にそう言った。言われたままに顔を上げて……ようやく私は、社長が誰かと一緒だと気づいた。そして、それはマネージャーではなく。社長の言葉を咀嚼すれば、センセイ、と呼ばれるような立場のひとらしかった。

 

「はじめましてっ。劇団ララライにて役者をしております、黒川あかねと申します……」

「……はじめまして。苺プロダクション所属の心理カウンセラー、比企谷八幡です。よろしく」

 

 苺プロダクション……その事務所には聞き覚えがあった。国民的アイドル、星野アイが所属する事務所であり。今ガチでも──かなちゃんと。女優有馬かなと恋愛ストーリーを繰り広げている俳優、星野アクアが所属していたはず。

 

「それじゃあ先生、私はこれで。事務室に居ますんで、何かあれば声をかけてください……あかね。こちらの比企谷先生がお前の話を聞きたいそうだ。劇団としてのメンタル……ヘルスケア? 支援強化の一環だ、協力して差し上げろ。いいな?」

 

「は、はい……っ」

 

 他人が書いたメモでも読むような口調で、社長はそう言い残して部屋から立ち去ってしまった。応接室には、私と……心理カウンセラーだと言う比企谷先生だけが取り残されていた。

 

「急に押し掛けて悪かったな、改めて比企谷だ。すまんが少し付き合ってくれると助かる」

「私なんかで良ければ……」

 

 比企谷先生はソファに腰を下ろして、対面に座るよう手で促した。それに軽く頷いて、私は先生の正面に座る。

 

 ……心理カウンセラー。どうして私に? そもそも、社長とはどういう繋がりで……いくつもの何故が、答えの出しようもないまま私を混乱させていた。

 

 そんな私の胸中を見て取ったのか、あるいは事前に用意していたのか。比企谷さんは、自然な態度で……ともすればぞんざいにも見える仕草で、説明をしてくれた。

 

「何から話せばいいか……まず、苺プロ所属とは言ったが、業務委託でな。つまり自営業で、カウンセリングの仕事は常にある訳じゃない。今回お宅の事務所には、カウンセラーの売り込みに来たってところだ」

 

「なる、ほど……?」

 

 それにしては社長の対応がやけに丁寧だったし、私に対する態度は投げやりにも見える。彼の言っていることがどこまで本当か判断がつかない。

 

 けれど、そんな疑問にもまた、比企谷先生は先回りして答えてくれた。

 

「……ってのは、まぁ、建前なんだが。俺の友人に、以前この事務所に……劇団ララライに所属していた奴がいる。そいつが社長に対して、ちょっとした弱みを握っててな……こうして俺のワガママを通してくれたって訳だ。……いや、あいつの願いでもあるから俺だけのワガママってことも無いが……」

 

「ワガママ、ですか……?」

 

「あぁ。あんまり言い触らすのも恥ずかしいんだが……芸能界ってのはそこそこ闇深い界隈だ。分かるだろ? ……そこで、誰にも助けを求められずに自分を殺して──最悪なことに、比喩じゃ済まなくなるケースも()()()

 

「自分を殺す……」

 

 比喩じゃ済まなかった。つまり、芸能界で絶望して……自ら死を選んでしまった、人たちが居た。先生はそう(ほの)めかしている。

 

「それを、まぁ、減らせたらいいなって話だ。だから自分の手が届く位置に、それらしい人物、あるいは体制があったらアプローチをかけてる訳だな。今回の場合は、ようするにそういうことだ」

 

 比企谷先生と、その友人は。私を──あるいは劇団ララライと言う事務所の体制を、カウンセリングで助けたいと思ってくれている……と。そういう、ことらしかった。

 

「あー……俺の言動について言いたいことがあるのは分かる。一応俺も、相応しい態度の訓練は積んだんだ……が、どうも評判が悪くてな。少なくとも、年少相手には自然体で接しろって口酸っぱく……なぁ黒川さん。迷惑じゃなかったらひとつ、女優として俺の態度に点数つけてくれないか?」

 

 静かに先生の説明を聞く私に思うところがあったのか、先生はバツが悪そうに自分の態度の言い訳をした。かと思えば、その振る舞いが正しいのかどうか、私に判断して欲しいと言う。

 

 自分なんかが……とは思ったけれど。先生に協力して差し上げろ、との社長の言葉が思い出されて。

 

「はい、私なんかで良ければ……」

 

 そう答えるしかなかった。すると、比企谷先生はスッと背筋を正して、目元を柔和に細めて。口元に微笑を湛えて流れるように言葉を紡ぎ出す。

 

「それでは黒川さん。私の表情・口調・仕草等の振る舞いが、初対面のカウンセラーとして信頼関係を築く一助になるかどうか、率直にお聞かせいただけますでしょうか」

 

 顔に、声に震えは見えない。訓練を積んだと言うのが事実なのは疑いようもない。……でも、どこか。先生のこれが評判が悪い、と言うのは直感的に納得してしまった。わざわざ私に意見を求めてくれたのだから、なんとなく、ではなく。しっかりと理解して、言語化しなくてはならなかった。

 

「えっ……と、その。確かに、自然体でお話ししている方が……親しみやすい、と言いますか。笑っているのではなく、笑顔を張り付けているように見える……かも知れません。微笑む練習をしたのではなく、そう見える表情筋の固定方法を習得した、みたいな……すみません! 生意気なことを……っ」

 

 そこまで言ってしまってから我に返り、私は先生に頭を下げた。無礼講だと言われて真に受けるようなものだった。関係性を築けている間柄ならともかく、さほど関わりのない相手に許される物言いじゃなかった。

 

「いや、助かった。こうして初対面の人と話すたびに悪あがきしてるんだが……これでようやく諦めがつきそうだ。少なくとも、俺が愛想よくすると年下受けが悪いのは間違いない」

 

 けれど、私が後悔に唇を噛む直前、先生はそう言ってまた肩の力を抜いた──それを見て。思わず私も、ほぅっと息を吐いて心を落ち着けることが出来た。

 

 不愛想に見えて、相手に威圧感を与えない。先生はそんな不思議な人だった。

 

「まぁそんな訳だから、おっさんの不躾(ぶしつけ)は大目に見てくれると有難い。今回は営業を兼ねてちょっと話を聞かせてもらいたいって建前でもあるしな」

 

 比企谷先生の言葉で、本題を思い出す。そうだ、彼はそれらしい人物や体制(・・・・・・・・・・)にアプローチをかけていると言っていた。そのどちらにしても、私は先生に協力するしかなかった。

 

「んで、だ──『今からガチ恋始めます』、通称"今ガチ"……黒川さんはこれに出演しているよな? 実は俺も、最初から追っててな……星野アクア、知ってる?」

 

「はい、共演者ですから……」

 

「気づいてるかも知れないが、俺が契約させてもらってる苺プロ所属の役者だ。事務所で顔合わせることもあって、年の差の割には仲が良くてな。いち視聴者として、今期の今ガチにはそこそこ詳しい……そこで、黒川さんが気になった」

 

「私が……」

 

 ドキリとした。一抹の期待と、それを搔き消すほど大きな恐怖。視聴者から面と向かって名指しで、居なくても変わらない。居ない方が良い、と突きつけられることを恐れた。

 

 でも、先生の口から飛び出た言葉は、まったく予想していないものだった。

 

「俺の目には、黒川さんが追い詰められているように見えた」

「──ッ」

 

「職業病ってヤツだな……黒川さんも経験あるんじゃないか? 役者をやるようになってから、舞台を純粋な気持ちで楽しみづらくなった。一般人として、観客席でただ享受すれば良いものを、女優としての自分が批評しちまうことは?」

 

 もちろん、ある。セリフが飛んじゃったんだな。うまくリカバリーしたな。私がもしその役だったら──そんな経験は、数えきれないほどあった。

 

「だよな。俺みたいな、わざわざ芸能界に首突っ込んでカウンセラーやってる人間からすると、未成年の恋愛リアリティショーなんてのはまさにソレなんだよ。恋愛感情なんて繊細なシロモノを、多感な十代が切り売りして数字を稼ぐ。社会問題になったこともあるくらいにはデリケートなコンテンツだ……誰でも気軽にSNSで発信できる近年じゃ特にな」

 

 胸が跳ねる。図星を突かれたような、言い表しがたい引け目を感じた。

 

【あかね 好き #今ガチ の検索結果はありません】

 

 SNSで好ましい反応を求めて、期待するのがバカなくらいそれは無くて。逆の意見を見ては、頑張らないと……と焦燥感に苛まれる。

 

 どうすれば良いか分からなくて、自分に出来ることを探して。何度も何度も、空回りした。

 

『目立つためにはどうすれば良いかって? そりゃあ、ユキやかなから男を奪う悪女ムーブだよ』

 

 でもようやく、ひとつだけ具体的なアイディアを貰えた。今日の午後……今日の収録こそは、って。そう思って家を出た。

 

「だから……何度目かにはなるんだが、改めて営業だ。黒川さん──俺にカウンセリングを依頼してみないか? 初回無料、もちろんここで聞いたことは一切漏らさない。口でも、文字でもな。誰にも言えなかった悩み、苦しみ……そこまでじゃなくても、仕事に対する取り組み方だっていいんだ。なんなら、一般通過視聴者に対するアンケート程度でも構わない……俺に、黒川さんの話を聞かせて欲しい」

 

 迷惑を、かけたくない。カウンセリングに応じたと言う事実すら、マネージャーに心配をかけたり、社長の不信感を買いかねない。

 

 だから、カウンセラーの先生を呼んでまでお話しするような悩みは無い……と言いかけて──思考はそこで立ち止まった。

 

『仕事に対する取り組み方だっていいんだ』

 

『目立つためにはどうすれば良いかって? そりゃあ、ユキやかなから男を奪う悪女ムーブだよ』

 

 ディレクターに、具体案を貰った。もしそれを私が実行したとして──今ガチの視聴者だと言う比企谷先生は、どう捉えるのかが気になった。

 

 今ガチを盛り上げる悪女キャラとして、視聴者には受け入れてもらえるのか──目立って、マネージャーや社長を満足させることが出来るのか。聞いてみたく、なってしまった。

 

 口の中は相変わらず、乾いたままだった。けれど、その言葉を口にしただけで──どこか、私の心は軽くなったような気がしていた。

 

「……今ガチで、試してみようと思っていることが、あるんです。これまでの今ガチを踏まえて……視聴者はそれを、どう捉えるのか。良かったら、ご意見をいただきたい、です……」

 

「──もちろん、聞かせてくれ」




この話数は他番外編との兼ね合いで時系列が前後したり、あるいは削除する場合があります
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