隻腕の狼、テラに忍ぶ。   作:子犬

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 予想の数十倍くらいの人に見て貰えてて⋯⋯ 数字見て思わず二度見しました。感想や評価をつけてくださる方もいて、とても嬉しい限りです。

 狼の戦闘描写もっとかっこよく書きたいけど、発想力と語彙力が無いもんで⋯⋯ 

 ていうかまだ原作キャラ出てないってマジですの⋯⋯?
 このままじゃ「原作:アークナイツ」が飾りになりますわよ?



故国への道

 

 狼は何処からか聞こえてくる鳥の鳴き声が耳に入り、瞼を開く。外は薄らと明るくなっており、森には朝霧が立ち込めていた。

 昨晩は警戒を解かずに壁に背中を預け身体を休めていた為、若干疲れが残るが別段問題は無い。あの男の事を疑っている訳では無いが、信じきっている訳でもないので警戒は解かずにいたが、周囲や自身に異常がない事からその考えは杞憂であったことが分かった。

 狼は立ち上がり、土間に降りる。思えば、十分では無いとはいえここまで休むことが出来たのはかなり久し振りの事かもしれない。

 

「おや、起きてたんですかい」

 

 そうして身体の状態を確認していると、住居の引き戸が開かれる。視線を向けるとそこには二冊の本を抱えた昨日の男がおり、その目の下には薄く隈が浮かんでいた。

 

「お主⋯⋯」

 

「あぁ、俺ですかい? いやぁ思ってたよりも物置が散らかってまして⋯⋯ 夢中になって探してたらこんな時間に⋯⋯」

 

 どうやら昨晩から今までずっと、使えそうな物品を探していたらしい。──この男は、何処までも気のいい人物のようだ。

 

「それでなんですがねぇ、いくつか使えそうなもんが見つかりましたよ!」

 

「む⋯⋯」

 

 男はそう言うと抱えていた二冊の本を狼に押し付ける。それらの本には見たことの無い装丁が施されており、表紙にはそれぞれ、「現代の極東語について」「よく分かるヴィクトリア語」と記されていた。どうやら言語に関する教本のようだ。

 

「これは⋯⋯良いのか?」

 

「えぇ、もう俺には、必要ねぇもんですから⋯⋯」

 

「そうか⋯⋯」

 

「⋯⋯現代の極東語を覚えればもっと通じるようになるでしょうし、ヴィクトリア語は簡単なものでも覚えておけば基本色んなとこで使えやす」

 

「礼を言う⋯⋯」

 

「いいんですよぉ、これは俺なりの恩返しでさあ」

 

 狼に教本を渡した男は、何処か物悲しげな目をしていた。その時、受け取った教本をしまった狼は不意に、あるものが目に付く。

 

「お主、それは⋯⋯」

 

「うん? ──あぁこれのことですかい?」

 

 男はそう言うと、本とは別に右手で持っていたものを狼に見せる。

 

「こんなもん持ってた覚えはねぇんですがねぇ⋯⋯」

 

 男が取り出したのは、手のひらに収まるほどの小さな木仏。角が取れ丸くなっているそれは間違いなく、狼が戦場で拾われたその時から持っていたものだと分かった。持ち物を確認してみると、確かに持っていたはずの木仏がないことに気付く。

 

「⋯⋯」

 

「ひょっとして、これも要りますかい?」

 

「ああ⋯⋯」

 

「なら、これも持って行ってくだせぇ。⋯⋯どうにも、俺のもんじゃねぇ気がするんだ」

 

 男から小さな木仏【帰り仏】を受け取った狼は、そのまま住居の外へと向かう。

 

「もう出立ですかい? もう少し、ゆっくりしていってくれてもいいんですぜ?」

 

「⋯⋯これ以上、世話になる訳にはいかぬ」

 

 もうこの男からは十分な程の恩を返してもらった。これ以上は、こちらからも返さなければいけなくなってしまう。

 昨日、男から聞いた話により自身が置かれている状況が随分と奇妙なことになっていることが分かった。あとは実際に、自分の目で確認してみなければ⋯⋯

 

「そうか⋯⋯ ところで、何処に向かうかは決めてるんですかい?」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯まぁ、ここらの土地にも詳しくなさそうだしなぁ。 そうだなあ⋯⋯ 南の方に向かうのはどうです?」

 

「南⋯⋯」

 

「えぇ、南の方ならここよりも経済が発展してますし、情報も集まるはずだ。上手くいきゃ、あんたの言う"あしな"の事も分かるかもしれねぇ。 ⋯⋯あぁいや、ただなぁ⋯⋯」

 

 男はそこまで言ったところで、言葉を詰まらせる。

 

「⋯どうした」

 

「⋯⋯この森は北の土地にあるんですが、今この国は北と南に別れて争ってるもんで⋯ 南に行くとなると前線の混乱地帯を抜けなきゃならねぇんです。それに治安だって世辞にも良いとはいえねぇもんだから、街道には野盗どもが出るかもしれねぇ」

 

 戦乱渦巻く日ノ本では殺人、強盗なんぞ日常茶飯なため特に気にすることでは無いが、どうやらこの国でもそういった事には注意しなければならないらしい。

 

「まぁあんたは相当腕が立つみたいだし、どうにかなるでしょうがね」

 

「⋯⋯では、南を目指そうと思う」

 

「そうですかい、なら気を付けて行ってくだせぇ」

 

「⋯⋯分かった」

 

 会話を済ませた狼は戸口をくぐり、表に出る。「世話になった」と一言告げ、住居を離れようとしたその時後ろから声がかかる。

 

「行っちまう前に一つ、いいですかい?」

 

「⋯何だ」

 

「いやなに、お名前だけでも聞いておこうと思いましてねぇ」

 

「⋯⋯」

 

 おそらくこの男は今まで余計な事を聞かないよう気を配ってくれていたのだろう。出来れば名乗ってやりたいものだが、生憎名乗るような名前は自身には無い。──だが、皆から呼ばれていたものであればある。

 

「⋯⋯狼と、そう呼ばれている」

 

「へえ⋯⋯なるほど⋯⋯狼の旦那か ちなみに俺はハルっていいやす」

 

「ハル殿⋯⋯」

 

「とはいえ、随分と遅い自己紹介になっちまいましたねえ⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯まぁ、またいつかお会いしやしょう」

 

「⋯⋯ああ」

 

 「またいつか」と言う時の男──ハルの目が、教本を渡した時のように物悲しげに見えたがきっと、気のせいだろう。その後ハルに見送られながら、狼は南を目指し森の中を歩き始めた。

 少し歩くと住居からはかなり離れ、男の姿が完全に見えなくなる。すると狼は徐に地面に座り込み、懐から【帰り仏】を取り出すと、慣れた動作でそれを左手で持ち、拝んだ。しばらく拝み、目を開けるとそこは見慣れた葦名の地──という事はなく、変わらず森の中であった。

 帰れないことに落胆こそしたが、これは帰るための仏である。旅の御守りとしては十分であろう。木仏を懐にしまった狼は立ち上がり、また歩き出した。

 

───────────────

 

「っ⋯⋯」

 

 あれから暫く、ハルに渡された教本を片手に森を歩いていた時だった。進行方向、狼の視界に黒い影が入る。狼は速やかに教本をしまい、刃を抜く。

 黒い影は地を這うように移動しており、こちらには気付いていない様だった。気づかれぬよう慎重に距離を詰めていくと、やがてその姿がはっきりと見えてくる。

 

「あれは⋯⋯ 蛞蝓か⋯⋯?」

 

 その生物?は外殻が黒い結晶──あれも源石だろうか?──に覆われており、隙間からは黄色い本体のようなものが見える。それはまるで蛞蝓の様に地面を這って移動していたが、蛞蝓というには大きく、丸かった。

 

 未知の生物との邂逅はいつも名状しがたい緊張感が伴う。一見動作が蛞蝓のように鈍重で、弱々しく見えたとしても、それは見かけだけの情報に過ぎない。もしかしたらその人の頭程の体躯にとてつもない力を秘めているかもしれないし、或いは優れた知能を持っている可能性もある。

 ──未知とはそれ程までに、恐ろしいものなのだ。

 

「来るか⋯⋯」

 

 どうやらあちらも気付いたようで、変わらず鈍重な動きでこちらに這い寄ってきた。狼は刀を柳に構え、相手の動きに注視する。

 そして蛞蝓との距離が目と鼻の先程になった時、蛞蝓は此方へ飛びかかってきた。───弱々しい、体当たりだったが。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 体当たりを半身になって躱すと、今度は噛み付こうとしてきたがこれも軽く飛び退けば簡単に避けられる。

 試しに切りつけて見ると、その黒い外殻は案外薄く、わざわざ隙間を狙わなくとも外殻ごと傷を与えられることが分かった。傷を負い、怯んだ蛞蝓を今度は上から突き刺してみる。蛞蝓はこれを避けることも無く、そのまま串刺しにされ絶命した。

 

 狼は刃を蛞蝓から引き抜き、付着した体液を払うと改めて蛞蝓を観察し始めた。

 先程の戦い方からして知能は相当低く、単体では大した戦闘能力も持ち合わせていないことが分かる。これならば葦名の地に生息するヤモリの方がまだ厄介だろう。

 観察してみて分かったが、この蛞蝓の外殻の結晶はハルの腕に存在していたあの黒い結晶に酷似している。この蛞蝓も、あの鉱石病とやらに罹患した生物という事だろうか。

 

 少しの観察と考察の後、狼は再び教本を開き、森の外へ向けて歩き始めた。

 

 

「!⋯⋯⋯」

 

 暫く同じような木々の並びが続いていたが、歩き続けるとやがて森の奥に開けた風景が見えてきた。どうやら森の出口が近いようだ。

 早足気味に森の外に出ると、狼の視界に山がちな葦名の地とは違う、どこまでも平坦でなだらかな土地が広がった。一見なんてことのない景色だが、その中に目に付くものがある。それは遥か遠くに見える、山の如き大きさの黒い結晶だ。若干霞みがかって見える程に離れていても尚、その存在感と異質さが伝わってくる。

 

 これまでに何度かあの黒い結晶を見てきたが、結局あれらは何なのだろうか。人間を死に至らしめる病の元であり、その病に感染した生物の身体──ハルの腕やあの蛞蝓の体表──や視線の先の巨大な結晶の様に、いたる所に存在している。それ程の物のはずなのに、自身は今まで知らなかった。言語の事も、"種族"の事も、何も。

 ──ここは本当に自身の知る日ノ本⋯⋯ いや、世界なのか?

 もしもこの世界が文字通りの"別世界"なのだとしたら、己が受けている"竜胤の呪い"の様な理外の力に巻き込まれてしまったのかもしれない。それが真ならば、葦名へ帰るのはかなり絶望的と言える。

 

 ──ひとまずは南へ向かい情報を集めなければ。

 狼は頭を振り、後ろ向きになってしまった考えを散らす。幸い、森を抜けてすぐの場所に街道の様な道が見えたので、これを使って南に向かう事にした。

 少し天気が心配だが、多少降ったところで問題は無い。街道は見据えた先に果てしなく続いており、その両側には背の高い野草が繁茂していた。

 

 灰色の空の下、街道を歩き始める。

 

 ──この道が、葦名へ通じている事を信じて。

 

───────────────

 

「⋯⋯⋯」

 

 街道を歩き始めて数時間。狼はあることに気付き、足を止める。街道からの景色は大して変わっていないが、空気が変わった。戦国に生きる人間だからこそ嗅ぎとれた、いや、感じ取れた空気。──これは、戦場の空気だ。

 自身が立っているのはもう街道では無い。ここから先は戦場だ。恐らく、ハルの言っていた混乱地帯だろう。ここはまだ戦場の端の方だろうが狼は楔丸を抜き、警戒を強めた。

 

 しかし、いかにして混乱地帯を抜けようか。相手が余程の手練で無ければ駆け抜けることが出来るだろう。戦う事になったとしても雑兵であれば手間は掛からないだろうが、如何せんこの国 ──この世界は未知が多い。自身の知り得ない事象によって返り討ちにあう可能性もある。竜胤の呪いがあるとはいえ、この力を使う様な事はできるだけ避けたい。

 ともすれば、やはり駆け抜けた方が───

 

 

 危

 

 突如感じる殺気と、人の気配。

 

「ッ⋯⋯!」

 

 狼はその場から急いで飛び退く。その直後、先程まで立っていた場所に槍が突き出された。目を向ければ、その槍は街道脇の野草の中から伸びており、狼は自身が奇襲を受けたことを察した。

 

「チッ⋯⋯勘のいいやつだな」

 

「おいおい、ちゃんとしてくれよ」

 

 狼が楔丸を構えると、気だるそうな声と共に二人組の男が街道脇から姿を現す。見れば、その男達にも獣の耳や尾が生えていた。これまでに出会った人間達にはいずれも身体のどこかに獣のような特徴が見られたが、やはりこれは"種族"による違いなのだろうか。

 相手は一人が槍、もう一人が刀を所持しており、それ以外は見えない。防具は質素だが、狼の知る鎧とは少し形状が異なっているように思えた。

 

「⋯⋯なぁ⋯ あんた、怪我したくはないだろ? ここで俺達に有り金全部渡してくれれば、あんたには何もしないって約束するぜ?」

 

「そうだそうだ、せっかく俺達が情けをかけてやってるんだから、ここは大人しく渡しとけって。 な?」

 

 こちらを向き、妙に芝居がかった言葉をかけてくるが、彼らは先程の行いを忘れたのだろうか。仮に本当だとしてもその言葉を信じる事など出来ないだろうに。

 そんな中、狼は気付く。あの様に言っている男達だが、その顔に余り余裕はなく、瞳には焦燥の色が浮かんでいるのだ。狼が不意の一撃を避けたことで、あちらも相手がただの旅人の類では無いことに気付いたのだろう。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「だんまり、か⋯⋯」

 

「なら、仕方ない⋯⋯お頭が戻るまでには片をつけるぞ」

 

「ああ⋯⋯」

 

 男達も自身の得物を構え、狼に向ける。

 

「⋯⋯参る」

 

 再び目覚めてから初めての、人間を相手にした戦闘だった。

 

「来ないなら、こっちから行くぞ!」

 

 刃を構えたが、男達を見るばかりで一向に動かない狼に対して刀を持った男が駆け寄り、得物を振り下ろした。

 狼はその粗末な連撃を表情一つ変えることなく全て弾き返したが、かえってそれが男の焦燥や怒りを加速させたのかさらに連撃を叩き込んでくる。

 

「さっきから防いでばっかだが、いつまで持つかな!?」

 

 焦りや怒りに任せた斬撃は精確さに欠け、故に読みやすい。そして本人も気付くことなく、次第に冷静さをも失っていく。自信の斬撃を力で押し返すのではなく、流水に受け流される様な、攻めているのは自分の筈なのに、そうでは無い様な嫌な感覚を男は感じたがそんなことは無いと振り払う。

 焦燥感に支配され、冷静さを欠いた男は得物を一際大きく振り上げ、狼に向かって振り下ろした。──身体の軸が、ぶれていることにも気付かずに。

 

「ッしまっ───」

 

 大振りの斬撃を弾かれた男はその勢いでついに体勢を崩し、仰け反ってしまう。──その隙を、狼は見逃さない。体勢を崩した男の喉に切っ先を向けると、迷いのない一突きを以て男を殺した。

 敵と切り結ぶ上で必須の技術であり、熾烈な剣戟の最中に隙を見出すもの。それが【弾き】である。

 

「な、何なんだお前はッ⋯⋯!」

 

 一人残された男は恐ろしいものを見るような目で狼を見ていた。槍の穂先は定まらず、その顔は恐怖で歪んでいた。目の前で相方が呆気なく殺されたのだ、仕方があるまい。

 

「な、舐めるなぁぁァァッ!」

 

 男は大声で自らを奮い立たせ、大きな踏み込みを伴った渾身の突きを放ってきた。──だがそれが、致命的な隙であると知らずに。

 槍とはただ"突く"だけではなく、長い柄を用いた一方的な刺突や、穂先による薙ぎ払いなど様々な使い方があるが、その分扱いが難しい。長い柄は長所ではあるが、狙いを外してしまった場合などはそれが致命的な隙になってしまう。故に、槍の遣い手には相応の技量が求められるのだ。

 目の前の男の場合は──

 

「⋯⋯は?」

 

 ──ただの隙だ。

 放たれた突きに対し狼は避けることなくむしろ前に踏み込むと、突き出された穂先の刃を踏みつけた。

 忍びの体術【見切り】。誤れば死地に至るこの技だが、見切ればすぐにも殺せるではないかと、忍びは考える。──忍びの目は刃のみならず、全てを見るのだ。

 

 突き出した槍を踏みつけられた男は強く踏み込んでいた事もあってか、そのまま体幹を崩し地面に引き倒される様に倒れる。狼が倒れた男の無防備な背中に刃を突き立てると、男は短い悲鳴とともに絶命した。

 

 刃の血液を払い、男達の死骸を一瞥する。

 獣耳の人間がどれほどの力を持っているのか気になってはいたが、雑兵程度であれば殺すのは容易いらしい。

 

 

「───へぇ⋯⋯なかなか面白いな、お前」

 

「ッ!?」

 

 

 危

 

 背後からの言葉と、先程のものとは違う濃い殺気。

 だが、戦闘が一段落したことや気配がしなかった事で少し油断してしまったせいか、対処が一瞬遅れる。

 

「ぐ⋯⋯ッ!」

 

 瞬時に前方に回避するが、避けきれなかった攻撃を右脚にもらってしまった。

 

「声をかけたとはいえ今のを避けてくれるのか、ククッ⋯⋯ これはいい相手と出逢えた⋯⋯!」

 

 狼は距離を取った後、その姿を見る。

 

 

 ──そこには、"鬼"が居た。

 





『異国語の書』
異国の言語について記された書物
「ヴィクトリア」の言語を、
習得できるようになる

幾度かの政変により
王が不在となった彼の国は、
今尚陰謀が渦巻き、
暗雲が立ち込めている

だが、覚えているだろうか
もともと我等は、平等だったのだ
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