隻腕の狼、テラに忍ぶ。   作:子犬

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 新年ですね。
 お気に入り、評価、感想、誤字報告などなど、ありがとうございます。更新の度に間隔が開いてしまって大変申し訳ないです。
 また暫く更新が遅れてしまうと思いますが、ネタ帳だけは膨れているのでお待ちいただけると幸いです。

 今回短めです。



閑話:ウワサ

 

 

p.m. 1:10 ロドス本艦 食堂

 

 昼時の食堂。業務が一段落し、お腹を空かせた職員たちが思い思いの時間を過ごしている。そんな食堂の入り口で、一人の男に近寄る影があった。

 

「──よぉ、お前もこれからか?」

 

「ああ、さっき終わってな。そのままこっちに来たんだ」

 

「そうだったのか、じゃあこれから昼だろ? どうせなら一緒にどうだ?」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「今日はヤーカさんも居るらしいからな、楽しみにしてたんだ」

 

 ロドスで提供される食事はそこで暮らす人々の健康を考えた物になっており、栄養バランスはもちろん、その味や質も非常に良いものとなっている。

 健康的で温かい食事は、人々の平穏な日常の一幕となる事で身体の健康だけでなく、精神の健康を守る上でも重要な意味を持っているのだ。

 

「うーん⋯⋯ 美味い!」

 

「やっぱり、ここの飯を食べる度にロドスに来てよかったって思えるよなぁ」

 

「それだけ前までの俺らの生活がクソだったってのもあるが、それを抜きにしてもいい場所だよここは」

 

「⋯⋯あぁ、そうだな」

 

 製薬会社であるロドスは、キャリアや鉱石病への感染の有無を問わず各国から人材を多く集めている。そのため、非感染者の他にも彼らのような行き場をなくした感染者や、感染者を取り巻く状況を変えたいと願う者達が集まり、日々信念のもと自身の力を使っている。

 企業である以上労働の必要はあるがその対価として与えられるロドスでの生活環境は、所属している感染者の多くにとって優良なものであった。

 

 それぞれ受け取ったトレイにのった食事をゆっくりと食べ進めながら、自身の近況報告をしていく。次第にそれは、他愛のないものからロドスでの業務についての話へ変わっていった。

 

「それで、もう仕事には慣れたのか? 俺はもう少しかかりそうなんだが⋯⋯」

 

「ほぼ問題は無いな、まぁ業務って言ってもほとんど雑用みたいなもんだが」

 

「すげぇなぁ⋯⋯ 俺なんて教官に怒られまくってるのに⋯⋯」

 

「俺とお前でやってる仕事は違うんだ、お前はお前で慣れていけばいい」

 

「⋯⋯まぁ、無理せずやってくよ。 ひとまずは新人でいられるうちに訓練についていけるようにしないとな⋯⋯」

 

「ほぉ⋯⋯ 珍しいな、お前がそんなこと言うなんて。 そんなにキツイのか?」

 

「ああいや、確かに大変ではあるけどそうじゃないんだ⋯⋯ なんつーか、ここの戦い方に合わせるのに手こずってるんだよ⋯⋯」

 

「あー⋯⋯ そういえばお前、集団で動いたこととか無かったもんな」

 

「そうなんだよ⋯⋯ 一人で好き勝手動けないのは中々息苦しいぜ⋯⋯」

 

 友人とそんな会話をしながら、昼の一時を過ごしていく。生きるために必死だった以前の自分達であれば、この様に腰を据えて話をする余裕などなかっただろう。最近ロドスに加入した彼らにとってこのような時間は安心できるものであり、かけがえのないものだった。

 

「──あ」

 

 昼食を食べ進めていると目の前からぼそりと友人の声が聞こえた。それが耳に入った男は手を止め、ちょうど口へ運ぼうとしていた料理を一度置くとどうかしたのかと問いかける。それを聞いた友人は、「そういえば──」と話を切り出した。

 

「新人で思い出したんだが、俺たちのすぐ後にここ(ロドス)に来た二人の事何か知ってるか? 同期みたいなものなのに全然知らなくてな⋯⋯」

 

「あー、はいはいあの二人組か、当然知ってるぜ。それなりに話題にもなってるしな。コードネームは確か⋯⋯ 女の子の方が『ウタゲ』で、男の方が『オオカミ』だったか」

 

 友人が口にしたのは、自分達に続くようにしてロドスに加入した二人のオペレーターの事だった。極東出身であるというその二人組は、既にロドス内で多少噂になっていた。

 

「コードネーム⋯⋯戦闘オペレーターだったのか⋯⋯ それで、話題って?」

 

「⋯⋯噂で聞いたんだがその二人、採用テストでかなりの高評価を出したらしくてな」

 

「高評価⋯⋯ 俺はそのテスト受けてないから詳しく分からないんだが、それってどれくらい凄いんだ?」

 

「俺から見ればバケモンだな」

 

「化け物ねぇ⋯⋯」

 

「今までコソコソと生きてきた俺らじゃまず無縁な評価だよ。 他にも色々聞こえてくるが⋯⋯まぁあくまで全部噂だからな、ホントかどうかは知らん」

 

「随分とまぁ、凄そうな同僚が来たんだな。 にしても、片方のウタゲって子凄いな。普通の女の子にしか見えなかったのに高評価だったのか」

 

「おいおい、うちのCEOの事知ってるのにまだそんなこと言ってるのかよ」

 

 互いの脳裏に過ぎったのは、ロドス・アイランドのCEOを務めるコータスの少女。その姿を見た時は驚きと同時に「本当に大丈夫なのか」と猜疑心を抱いたものだが、彼女の見た目にそぐわぬ強い信念に触れていくにつれ、それも薄れていった。今ではすっかり、二人にとってのリーダーである。

 

「ははっ、それもそうだな。 ⋯⋯けど、その二人ってどんな関係なんだろうな、一緒にロドスに来たんだろ?」

 

「そこまでは流石に分からない。見聞きした限りだと家族って感じにも思えねぇけど⋯⋯」

 

「⋯⋯いつか聞いてみるか。 ──ってやべ!もうこんな時間じゃんか! すまん!この後用があってな、先行く!」

 

「おぉ、そうだったのか。じゃあ、また後でな」

 

「おう!」

 

 空になったトレイと座面に置いていた上着を両手に持って、出入口の方へと駆け足で向かう友人の背中を見送る。

 改めて時刻を確認してみると、思いの外時間が経過していた様だった。

 

 過ぎ去っていく時間に寂寥感が滲むのを感じながら、一人残された男は昼食の続きをしようとフォークに手を伸ばす。未だ手付かずだったサラダを口に運び、咀嚼すると何故だかやけに、苦味が口に残った。

 

 そんな時ふと、男は周囲が気になった。テーブルが静かになったせいか、まだ食堂に人は大勢居るのに自分の座るテーブルだけが取り残されている様な、そんな疎外感に似た何かを感じてしまう。勿論、男はここがそんな陰湿な場所であるとは微塵も思っていない。ただ、いつからか一人ということを強く意識するようになってしまったのだ。

 

 遂に自分は一人で飯が食えなくなる程寂しがり屋になったのかと男は内心で自嘲の笑みを浮かべると、残った食事を口へと運んだ。

 

「⋯⋯よし、行くか!」

 

 静かなテーブルでの食事は、早く終わった。

 自身を鼓舞する様に声を出しながら席を立つと、足早に出口へ向かう。次の訓練までどう過ごすか考えたり、今頃艦内を走り回っているであろう友人を想像しながら廊下に出ると、目的地は決めずに歩き出した。

 

───未だ自身の心身を蝕み続ける病からは、目を逸らして。

 

 






『長途の手記・一の章』
何者かが記した古びた手記
途方もない旅について、記したもののようだ
半ば朽ちかけているため、全てを読み解くことは出来ない

 葦名へ帰る術は、未だ分からぬ
 最早叶わぬことなのだろうか
 ならばせめて、九郎様に恥じぬ生き方を⋯

 一先ずは、あの娘から受けた恩を返さねば
 剣の稽古をつけよ、との事だが⋯

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯
 ⋯⋯⋯⋯
 ⋯⋯
 ⋯
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