ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 作:黒マメファナ
音楽が好きだ。その気持ちに嘘や偽りは一度だってない。だからこそお金と時間さえあれば生の音源というものに触れるために足を運ぶ。その中で一番自分の心を掴んだのはギターでもベースでもドラムでもなく、勿論ボーカルでもなく──キーボードだった。
振り返れば、それは幼少期から始まった気持ちだと思う。物心ついた頃、最初に眼にする楽器といえばピアノというヒトも多いだろう。保育施設や幼稚舎、そういう類の場所に預けられた経験があればピアノ、エレクトーン、ピアニカ、鍵盤楽器とは馴染みがあるものだと思っている。
その中でも特に、そう特に強烈に記憶に焼き付いているのは小学校の頃だった。その前から興味のあった俺は親の勧めで大して上達もしないのにピアノ教室に一年通っていたのだが、その最初の頃、同じ年のかわいい女の子が弾いていたその姿に俺は夢中になって、かぶりつくようにして聞き入っていた。
──音がキレイだったから? いや違う、少なくとも当時の俺という少年は流行りの音楽と夕方時間帯のアニソンとスーパー戦隊と仮面ライダーが音楽だった。
──かわいかったから? いや違う、と言いたい。かわいかった、好きだと思ったのはそれよりも後だからだ。きっかけと言われれば自分でも納得してしまうが顔は関係ない。
「……キレイ」
少年が見入ってしまったのはその鍵盤──を滑る細くて長い
努力でなんとでもなる、とは言うが鍵盤楽器はその構造上とんでもない欠陥を抱えている。俺のように指がキレイでないと、手のひらが小さかったり、指が短かかったりすると運指に影響が出るという欠陥が。それを指して上達しない俺は才能が必要な楽器だと吐き捨てた。
だが逆を返せばピアノは美しい手を持つヒトを愛する楽器だ。そして
「──以上、若宮イヴの素晴らしさを語る上で欠かせない手指の美しさについての考察より、何か質問は?」
「……はい」
「はいそこの同志にして世界一指がキレイなキミ」
「……どうも……素人質問で恐縮ですが、これをパレオに再び聞かせるメリットとはなんですか?」
「なんだ、覚えてたのか」
パレオと付き合うようになって、いったいどれくらい経ったと思う? 実はなんといち──週間後! 後日談にしちゃ近い未来すぎるね!
あれから俺は誕生日の夜、パレオのおねだり攻撃に敗北、最後は「ロックさんと一緒に寝たのにパレオとはできないんですね」という脅迫までされ無事に同衾いたしました。えっちなことはしてないです、ええ断じて俺からはしてません!
「三箇条を守ってくれ」
「知ったことではありません、それで……ハルの指フェチの始まりが何処とも知れぬ美少女のピアノ演奏だったというのはもう何度か耳にしましたが」
「うん、あの運命の人に再会して」
「……浮気ですか」
「違いますね」
「誰だったんです?」
「燐子さん」
「うーん身近な所すぎますね」
燐子さんにオフ会で初めて言葉を交わしたのはつい先日のこと、あこちゃんにしがみついてぼのぼのみたいな顔をしていた燐子さんだったけど、ピアノの話をしたら思いのほか食いついて、コンクールの話をしたところで気付いた。
小学生の頃から素晴らしい手指をお持ちでしたが、たわわに実った果実の上に乗せられた指もすごくおいしそうで、思わずご飯が進みましたぞ。
「キモ……」
「めちゃくちゃドストレートな罵倒!」
「すごく気持ち悪いですセンパイ」
「センパイ呼びになるくらい嫌だったのか」
「最近特にブレーキ掛かってませんよね、パレオの前だと特に」
「そりゃ、掛けてないからね」
どうしてパレオと二人きりなのにブレーキ掛ける必要がある。それは性欲だけで精一杯で性癖はフルスロットルだよ。
とまぁ俺の性癖も開示して見事に明日香にどつかれたわけだけど、燐子さんもドン引き苦笑いだった、最高です。
「マゾの才能まで発揮されて……留まるところを知りませんね、株の低下が」
「後は、瑠唯さんにも先日プライベートでお会いして」
「……浮気?」
「いやこれはガチのたまたま……でいいんだよな」
俺には真相がわからないがバイト中に突如ましろが連れてきた。ましろとしゃべっていたところにやってきて知り合いの知り合いとして勤めて平静を保っていたはず。
瑠唯さん、めちゃくちゃキレイな人だった。色白で、きちんとケアされていて、鍛錬を欠かさないあの魅惑の、指が。
「……パレオたち別れます?」
「そんなフランクに別れ切り出さないで!」
「いえあの……恋人に聞かせる話じゃないんですよね、どれも」
「恋人以外にどう発露すればいいんだよ俺のこのまっすぐ飛び出る情熱を!」
「ねじれて歪んだ
くそぅ、ああいえばこういうんだから。
とにかく俺が言いたいのはパレオと付き合ってからまるで呪いが解呪されたかのように推し指を間近で見る機会が増えたということだった。もしかしてパレオに呪われていたのだろうか、そう考えると辻褄が合ってしまう。
「ハルが東京で目移りしてませんように、とは願っていましたが」
「なるほどー、それが曲解されて呪われていたと」
「そうじゃないですか?」
どうやらマジで呪われていたらしい。ただ推しに会えるようになったということは、これから俺はもうパレオしか見えないんだろう。まぁそれが残念だとは思わないけどな。
いつの間にか膝の上に寝転がったパレオの頭を撫でているとパレオはリラックスした表情のまま問いかけてくる。
「ロックさんとは、どうですか?」
「うーん、まだ一週間だし」
「そうですね、ハルを好きになるなんて、見る目がありません。もう少し男性への耐性を身に付けるべきだとパレオも憂慮しています」
「……そうね、俺もそう思うけどパレオに言われるのは納得いかないな」
確かにロックとは自転車三分のお手軽距離に住んでいるが、それほど生活圏が被っているわけじゃない。メシいこうぜ、とか風呂入りに行くとか、そういう用事でこれまで一緒にいたわけだし。それが気まずいとなれば自然と顔を合わせる機会は減ってしまう。
「寂しいんですね」
「寂しいけど、それを理由に前と同じとはいかないだろう」
「どうしてですか?」
「……どうしてって」
「ハルはパレオを信じさせてくださるのですよね? でしたら、そんな寂しそうな顔しないで、会ったらいいじゃないですか」
「パレオ……そう簡単じゃないよ」
信じろとは言ったけど、俺自身も俺を信じられてないんだよ。正直、この寂しいって気持ちが別の気持ちに変わらないって自信はない。ロックのことも俺はあんまり信用してないんだろうな、ロックがもし、まだチャンスがあると迫った時が怖い。本人は別れ際にながく好きでいるって宣言してたくらいだし。
「浮気者」
「え、なんもしてない」
「そういう気持ちを抱くことがもう、軽く浮気です」
「浮気に軽いも重いもないと思うけど」
「──その寂しさを募らせて、限界になった時の方が、パレオ的には怖いです」
パレオの言葉に、少し考えて確かになと思った。会えない時間が愛を深くする場合もある。まさに俺とパレオの一年がそうだったように、執着が深くなればなるほど、それを愛と誤認してしまうこともあるだろう。つまりはガス抜きした方が安全ということ?
「火山は、楯状火山の方が溶岩ドーム型よりも噴火が穏やかなんですよ、頻度は高いですが」
「そうだね」
まぁ、とはいえ楯状がめちゃくちゃ絶対安全ってわけでもないのが火山の恐ろしさなわけだけど、噴火した場合の危険度ほぼ100%で下手をすれば上部が吹き飛ぶ威力が出るドーム型よりはマシになる場合が多いのか。
「わかった、パレオがそう言って信じてくれるなら」
「ですが、二人きりでこの部屋に滞在するのは禁止します。デートはありです、ギリ」
「ギリありなのか……ちょっとわからん」
「スポット的にこう、雰囲気がロマンチックじゃなければOKです」
「それは本人たちの匙加減ではないだろうか」
でもこの理論だと映画館って割とアウトなんじゃないだろうか。やべーぞ約束しちまってるんだよな。この際、パレオもこっそり呼び出して、いや暴れるなパレオは。
万が一雰囲気がちょっと恋人っぽくなった瞬間に暴れ出すだろうな。
「むぅ、モテ期なんて聞いてません」
「俺もなりたくてなってるわけじゃないし」
「学校でも告白されたそうですね」
「……そうだけど、そっちは断る一択だからな」
お前、俺がどういう高校に通ってるか忘れたわけでもあるまいて。
何度か言ってる気がするが、俺の通ってる高校の女子人数はゼロだ! 男子校通いで下駄箱からラブレターとかいうテンプレ受けてみろ、朝のHR始まるまで脳が理解を拒んだんだからな!
「それで、告白してきた方はどうでした?」
「めっちゃかわいいやつだった、後輩らしい」
「……ヤキモチいいですか?」
「ダメです」
いや美少年通りこして美少女だった、ああいうキャラが濃いのは勘弁してくれよ。
しかも金髪ヤンキーなのがいいんですとか言われたんだからな、やっぱり俺、髪色変える! ダークレッドにする!
「ブロンドもいいと思いますが」
「チャラいって文句ばっかり言われるし」
「その中途半端なチャラさがモテない要因ですからね、ハルの」
「……つまり?」
「危険色ですからね、寄ってくる女性はいないでしょう」
なるほどな! つまり髪色変えてヤンキーというかチャラい感じが薄まるとモテる可能性があるという心配をパレオはしてるわけだ。まさか、そんな髪色一つでモテたら苦労しないんだよなぁ。俺はいつだって内面勝負よ。
「まぁそれはさておき、パレオは何色がいいと思う?」
「うーん、そうですね……ピンクと緑とか」
「なんでツートン!? しかも色が奇抜!」
せめてダークブラウンでピンクメッシュとかになりませんかね!? インナーカラーとかもうちょっと色の使い方あるんじゃないかって俺はずっと思ってるよ、パレオに関してもさ。
そして明るいピンクだとキレイに染めるにはブリーチしなきゃじゃん。俺の髪がボロボロになってしまうんだけど。
「じゃあ、パレオみたいにウィッグはどうです? あとはメッシュのエクステとか、そうすればTPOとか気分で髪色を変えれますし」
「あり、パレオってどこのウィッグ使ってんの」
「これです」
たっか! こんなん種類集めたら破産しますよお嬢さん、だがパレオは首を傾げてからてへっとかわいくウィンクしてきた。かわいいので許します。
どうやらチュチュさんの持ち物が最初だったらしく、その後もチュチュさんが色を一通り揃えてくれていたのだとか、いいなぁ。
「ハルもお揃いになってくれたら嬉しいなぁ……」
「お揃いって?」
「パレオは普段がピンクと水色なんです、パレオとチュチュ様のカラーのツートン、RASのライブしか知らないと白黒のイメージが強そうですが」
「そうなんだ──いやいや、それってお揃いにしたらパレオとチュチュさん推しにならない?」
「なりましょう! チュチュ様を推しましょう!」
「いやですけど!?」
結局そんなくだらない雑談と、早めの夕食を作ってくれただけで帰ることになった。まぁカレシの家に入り浸ってると知られたら、めっちゃ厳しい門限つけられそうだしな、それは仕方ない。健全なお付き合いのためには我慢は多いよ。
「うぅ……早く卒業して、ハルと一緒にチュチュ様のマンションで暮らしたいです」
「なぜ俺もチュチュさんのマンションで同棲する想定なんだろう」
「パレオがハル成分を効率よく補給するためです! なんならRASの裏方でもやっててくださるとすごくありがたいです、パレオが!」
「お前がね」
どうすんだ、ロックと気まずくなってたら。
それに俺はパレオの恋人かもしれんが、RASはちゃんと推したい。俺はあのバンドが新しい時代を作ると信じてるし、ずっと応援していたい。だからあんまりRASの内情に踏み込むのは絶対にNGでよろしく頼む。
「ハルはいじわるですね、パレオがこーんなに、一緒にいたいとアピールしているのに」
「伝わってる」
「本当ですか? 本当なら、何故ハルはまだ童貞なのでしょう」
「三箇条があるからね」
「ハルが勝手に言ってるだけですよ!」
ふざけんな、中学生に手出したなんて知れてみろ、俺はロリコンのレッテルを貼り付けられるに決まってる! 二歳差がめちゃくちゃ健全極まりない年齢差だったとしても、それは心理的ハードルってやつだ! 同年代でもあこさんをそういう目で見れないのと同じだ!
「それは……確かに、そういえばハルと同い年でしたっけ」
「そうだぞ!」
多分、これで高校三年生と一年生で付き合ってほっとしても、来年には大学生と高校生でギャップを感じるんだろう。高校生の先輩後輩で付き合うとうまくいかない現象はそこにあるんだろう。俺だって同級生が大学生と付き合ってるとか聞くとうへぇとなるし。
「少なくとも、俺たちはそれを二度経験しなきゃならんからな」
「ハルが大学生になった時と、卒業した時ですか」
「そうだ」
「まぁでも、同棲してしますし、夜の生活がレスとかでない限り大丈夫だと思いますけど」
「なんでサラっと同棲してること確定しているうえに夜の生活が安泰になってるのかな?」
「大学生と高校生、新歓コンパ、飲まされ管を巻くハル、終電は過ぎ、ホテルには男女二人きり、再会する二人は燃え上がり……パレオさんはええの? いいんだよ、今はロックがほしい。遼くん……♡ なるほど!」
「なるほどじゃねぇが」
なんでナチュラルに浮気相手がロック想定なんだよ。いいんだよじゃないよ、よくねぇよ。
なんていうか、不健全な書物を読みすぎではありませんでしょうかパレオさん。そしてまた結局同棲は確定してるし。
「同棲はします」
「したい、ではなく?」
「ですがハル、パレオは一人暮らしの許可が降りないと思います」
「……そりゃそうか」
放任主義かと思われるがそんなことない。そもそもパレオのおバカさんは両親にすらバンド活動を隠していたらしい。バカなことこの上ないがバレるのに結構な時間を要したことに驚きだ。いやバンド自体が本格活動したのが去年の夏前くらいだから、別におかしくはないんだろうけど。あとはパレオの普段からの信頼がものを言ったという経緯もあるな。
「なので! パレオの両親と交流があって、実は信頼されているなんちゃって優等生のハルを召喚して、ご挨拶させれば可能性はあるというわけです」
「そうだね」
近所だし親同士の仲もいいからね、伊達に俺とパレオが物心つく前から一緒だったわけじゃない。お兄ちゃん代わりとして、いいとこ見せてきてしまった結果、一時期まで両親公認だったんだし。別れたけどな。
「そもそも親は知ってましたよ、最近また付き合い出したこと」
「なんで!?」
「お盆のこと、気づかれないと思いました?」
「その時には付き合ってねぇよ! ってまさか、俺の親もか!」
「はい」
はい、じゃないが。
はぁ、こりゃ同棲云々はさておき遅くても年末には鳰原家におじゃましなきゃいけないな、というかその時点でもおせぇってキレられそうだが、付き合い始めたのは一週間前なんだよ、信じてほしい。
「というわけで、誠心誠意、親にパレオへの想いをぶつけてくださいね、ハル♡」
「あい……がんばります」
「パレオはもう、許可もらってますから」
「はい……はえぇよ」
もうツッコミをする気力もなくなり、俺は現実逃避としてパレオを抱き寄せてベッドに転がる。間近にある顔が非常に嬉しそうなのが腹立たしい、くそかわいいなコイツは。
山場を乗り越えたらトントン拍子に外堀が埋まっていく。それまでの疎遠っぷりがなんだったのかという程に、俺とパレオの道はたった一つの筋になっていた。
「大丈夫です、パレオはハルのこと、ずっとずっと、大好きです」
「……俺も、パレオのことをずっとずっと、大好きでいるよ」
手が俺の頬を撫でてくる。大きな手、キレイな指、音楽の、鍵盤の神様に愛された俺にはないもの。
俺のフェチを発掘したのは燐子さんだったけれど、ここまで肥大化させたのはパレオのせいだ。指と指を絡め合い、手を繋いで俺は幸せそうなパレオを抱き寄せて、彼女が中学時代では最初にして、最後の触れ合いをした。閉じられた目がゆっくり開いたその、恥ずかしそうな幸せそうな顔を、俺はきっと生涯忘れることはないんだろう。
ドルオタが同じドルオタ後輩とオタ活ができない理由 END Thank you for reading.
一年ぶりにやってきて怒涛の投稿して、宣言通り終わらせにきました。
まぁ後語りは毎度のごとく長くなるものですが、知っているからはいつものかと流していただき、知らない方はそうなんだーと思って読み飛ばしていただいてどうぞ。
色んな変態を書いてきましたが指フェチ手フェチはちょっとした挑戦でした。というのもこの性癖、作者自身のものだったりします。なめたい云々はちょっと誇張していますが描写も概ね作者の感想だったりします。だからといって榛名ちゃんが作者の自己投影かと言われると全く違うんですが。私自身、年の差に関して大分寛容で、なんなら先生と生徒の恋愛とか書いちゃうのに榛名ちゃんはたった二歳差でぎゃーぎゃー喚くし。
反省点としてはまぁ、これもまたいつも通りでして、明るいまま終わらせたかったのに結局じっとりして、シリアス調になるんですよねこれが。「指フェチ手フェチの変態ドルオタ」が幼馴染とオタ活がしたいって内容でどうしてああなるんでしょう。次があれば次はきっと、終始明るい変態を主人公にラブコメを書きたいです。
それでは、また次回の作品、別の作品でお会いできることを願っています。
――黒マメファナ