辺境惑星冒険譚 〜砂漠とロボと海賊と〜   作:明田川

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衛星軌道砲撃戦

「さて、軌道には乗れたか?」

 

『久しぶりの操艦ですが、腕は鈍っていませんよ』

 

 宇宙へ上がる際に立ちはだかる最大の障壁は、惑星自身の重力だ。地表にまで降りたということは、井戸の底にまで落ちたことを意味する。もう一度上にまで登るのは難しい、というのは数世代前のお話だ。

 

『重力制御機関は正常に動作中、慣性制御は対デブリ防御へ』

 

 その厄介な重力は、既に操れるものになっている。船の重量に見合った重力制御機関を搭載していれば、推進器など吹かさずとも浮き上がるかのようにして大気圏外へと到達できるのだ。

 

「操艦は任せた、火器管制はこっちでやる」

 

『了解、よろしくお願いしますね』

 

 船の操縦席は分厚い装甲で守る必要があるため奥まった位置にあり、外を見ることができる窓はない。その代わり複数のディスプレイと、船中に取り付けられたカメラからの映像を投影できるVRゴーグルで情報を得る。

 

「格納武装の展開開始、前の仕事でどれだけ駄目になってたんだったか…」

 

『1.2GWクラスレーザーの稼働率は70%、2.4GWは60%です。主砲の荷電粒子砲は二番砲塔が損傷のため出力低下中、副砲の電磁投射機関砲は80%ってところですかね』

 

「案外ボロボロだな、そんなに無茶させたか?」

 

 前回の仕事で彼の船は少なくない数の武装を失っていだが、そのどれもが外部からの攻撃によるものではなかった。砲身が、レンズが、どれも自らの放つ熱によって破損しているのだ。冷却の暇すらないほどの激戦だったのだろう、そうでなければこうはならない。

 

『この船でも十分やれます。この先に居る船が正規軍の辺境パトロール艦隊でない限り、負けはないかと』

 

「だな」

 

 敵艦はまだ惑星の影に隠れており、直接船から照準しての攻撃は出来ない。だが位置さえ分かれば、視認しなくても弾は当てられるのだ。宇宙用の偵察機をカタパルトから発艦させ、主砲に砲弾を装填した。

 

『敵艦周辺で慣性制御を確認、出力はクラス1…対デブリ防御用ですね。熱量は急速に増大中、起動しようとしています』

 

「主砲なら多少曲げられても突破出来るな。動かれたら面倒だ、質量弾による飽和攻撃で潰すぞ」

 

『飽和攻撃了解。姿勢制御に問題はありません、お好きなタイミングで攻撃を』

 

 惑星の陰に隠れていた敵艦隊だが、放った偵察機によってその姿を捉えられた。宇宙ステーションと思わしき施設に係留する形で保全されていたようだ、好都合なことにまだ動いてはいない。目標の位置と速度を得た火器管制システムは、惑星の重力などを計算に入れながらも、瞬時に命中させられる弾道を導き出した。

 

「目標のある宇宙施設を偵察機が捉えた。開拓惑星の宇宙港って感じだな、それなりの大きさはある」

 

 複数のコンテナが詰め込まれた巨大な埠頭設備や、密閉式の倉庫も見える。昔は開拓のための一大拠点として栄えたのだろう、何度も拡張された痕跡が残っている。しかし今は使うものなどおらず、静かに海賊の船を抱えて漂っている。

 

『艦隊は係留されているようですね、撃ちますか?』

 

「もちろん。自己推進弾装填、楽しい楽しい衛星軌道砲撃戦だ!」

 

 惑星の軌道に沿って砲撃をする場合、あまり高い速度で打ち出すとこの惑星の第二宇宙速度を超えてしまい、衛星軌道を離れて星の外まで飛んで行ってしまう。そのため衛星軌道に留まれるギリギリの速度で砲弾を射出し、目標の近くで砲弾のロケットモーターを起動、速度を高めて慣性制御の妨害を突破する。

 

『誤差許容範囲内、ロケットモーターによる終末誘導で修正できます。やはりデータのない惑星で撃つとこうなりますね、損傷しているのもあるとは思いますが』

 

「当たればいいんだよ、当たれば」

 

 放たれた砲弾は未だ動けない敵艦隊へと接近し、慣性制御装置による妨害を受ける。しかし点火されたロケットモーターがそれを押しのけ、無防備な船へと突っ込んだ。精度は悪くなく、敵艦は次々と内側から火を噴いてそのダメージの大きさを知らせてくれる。

 

『着弾しました、効果測定中』

 

 デブリ迎撃用のレーザー砲もあったようだが、砲弾の前面は金属の塊で構成されており、比較的低出力なレーザーが行う数秒の照射では迎撃できない。推進剤以外で内部に爆発するようなものを持っていないため貫通力こそあれどダメージは大きくないが、それでもコルベット以下か同程度のサイズであれば、十分な損傷を与えられるだろう。

 

『全弾命中、敵艦炎上していますね』

 

「そろそろ惑星の陰から出る、レーザーを使うぞ」

 

『機関出力正常、各レーザー砲の発射準備修了、続けて重力バレルを目標へ指向』

 

「光学で捉えた、発射!」

 

 カンナギのホーミングレーザーと同様、コルベットのレーザーも重力制御によってその軌道を捻じ曲げることで、360度全方向へ攻撃することを可能にしている。光を曲げるだけの重力場を発生させるのは、重力制御機関に対する負荷が大きい。レーザーによる飽和攻撃によって宇宙船舶の鉄壁にも思える防御を突破するのが、この武装の設計思想だ。

 

『命中、命中、ステーションは避けたんですね』

 

「折角なら調べたかったしな、そのために陸戦隊も連れて来ているんだ」

 

 偵察機を数機追加で送り出し、衛星軌道を周回させ、暫定的な衛星監視網を作り上げる。得られる情報も本格的な衛星網と比べると劣ってしまうが、この星の現状を知るには十分だ。

 

『地上から連絡、レジスタンスの部隊と接敵したそうです』

 

「速いな、奴らも隠しドックの存在を知っていたのか?」

 

『それは局長代理に聞くとして、戦況は悪くありません。我々は今のうちにステーションを調べてみますか?』

 

「そうだな」

 

 レーザーの直撃を受けた船は外殻を赤熱させ、その船体を歪ませていた。ステーション側の迎撃システムもお粗末なものしかなく、小さな砲塔二つをレーザーで焼いておしまいだ。傭兵は動き出す前に仕留められてよかったと思いつつも、数基のコンテナを宇宙へと放出した。それは内部にアンドロイドを積んだもので、無理矢理ハッチをこじ開けて内部に侵入することができる。

 

「内部の制圧を試みる、ステーションと相対速度合わせてくれ」

 

『ハッチの溶断完了。アンドロイド部隊が内部に侵入しました、接敵はしていませんが隔壁が閉鎖されていますね』

 

「サッサと制圧するぞ、最悪空気が無くなろうと構わねぇや」

 

『了解ー、壁ぶち抜きまーす』

 

 無骨なアンドロイド達は隔壁を爆破し、奥は奥へと進んでいく。そして管制室に飛び込んだ機体が銃弾をその身に浴びながら見たものは、宇宙に隠されていたもう一つの艦隊の存在だった。

 

『まだ船があったとは、それも衛星の裏に。敵艦隊は二手に分かれて移動中、この速度であれば1時間後には地上へ降下するものと思われます』

 

「もう移動を始めたのか、海賊風情が洒落せぇことしやがって…」

 

『どうします?』

 

「予想進路に誘導弾を撃って足止めだ、その間に使えるものを探す。惑星の影に隠れられたらレーザーは使えない、レールガンも逸らされる…どうしたもんかな」

 

 海賊はリスクの分散をしっかりしていたらしい、まんまと起動までの時間を稼がれてしまった。傭兵はここまで入念にやれるなら地上の統治ももう少し頑張れと思いつつ、ふと目についた宇宙用の輸送コンテナを見る。

 

「面白そうなものがあるかもしれない、使えるかもな」

 

 ひときわ巨大なコンテナに描かれたロゴは、協商連合に所属している兵器メーカーのものだった。巨大な攻撃機しかり、無人の第二世代機しかり、協商連合はこの星で何かをしようとしていた痕跡がある。あのコンテナの中身が兵器であるならば、使ってみるのも一興だろう。

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