星野アイを救いたいだけのお話   作:でぃあ

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次回からの重い展開のための説明回。



011

朝起きて、手早くシャワーと身支度を済ませたら、早速朝食の準備に取り掛かる。

 

朝から手間をかけるのは面倒なので、冷凍しておいた白米を温め、味噌汁を作り、あとは漬物と卵焼きくらいのものだ。アイはこれで十分だし、そこに追加でウィンナーを焼いておけば俺の分の量も問題ない。所謂男の子ってこういうのが好きなんでしょっていう感じの朝食だ。野菜? 知らんな。

 

冗談です、ちゃんと茹ででおいたブロッコリーとかミニトマトがあります。俺だけならいらんけど、アイさんいるからね、バランスは少しでも整えてあげたい。

 

そんな感じのものをキッチンで用意していると、後ろでドアの開く音がした。続いてのそのそと足音が近づいてきて、後ろから抱きつかれる。

 

「おはよぉ」

 

「おう、おはよう。寝坊助さん」

 

「今日はちゃんと一人で起きてるよぉ……」

 

「当たり前なんだわ。はよシャワー行っといて」

 

「うん……」

 

そう言って、俺から離れるとフラフラとした足取りでアイが着替えを取りに自室に戻っていく。最近ではすっかり慣れてしまったやり取りではあるが、初期の頃は寝起きのアイさんに甘えられるのマジで心臓に良くなかった。流石に寝起き直後のアイさんなんて施設の頃でも見かけなかったし、あの子顔が良すぎてむにゃむにゃモードでもかわいすぎるんよな。最高かよ。

 

ちなみにアイさんが出てきたのは俺の部屋からである。一体なんでそんな場所から、不思議だなぁ……。

 

暫くコーヒーを飲みながら待機して、シャワーからアイさんが出てきたのを確認してから最後の調理を手早く済ます。準備が整ったところで一緒にいただきますだ。

 

テレビをつければ朝のニュース番組が流れている。どうやら某ハムのお祭り男さんが今年限りで引退するらしく、もうそんな時期かとぼんやりと前世を思い返す。そういや去年虎の球団が33-4かまされてたもんな。なんでや。

 

「翔君って野球興味あったっけ?」

 

「ん? いや、そこまでかなぁ。どうしてまた?」

 

「なんか考えてるみたいだったから。あれ、って思って」

 

「そっか。まあ、そこまでではないけど一回見に行ってみたいと思ってる。ドームとか」

 

「あー、確かにドームは行ってみたいねぇ……。そういえばニノが言ってたよ、商業施設できたんだってさ」

 

「へー、今度の休みにでも行ってみるか?」

 

「ありだね。デートしよデート」

 

るんるんのご機嫌アイさんかわいいです、もうこれ見るために生きてるようなもんだわ。幸せだなとつくづく思う。きっとアイもそう思ってくれてるだろう。

 

朝食を終え、歯を磨いて制服に着替えたらすぐに家を出る時間だ。先に玄関で待っているとアイさんが遅れてやってきた。靴を履いたら外に出る前に向き合って、軽いキスを一回。行ってきますのキスってやつだ、一日寿命が延びます。稀にその後キスが何回か続くことがあるのはご愛嬌というものだ。

 

誰もいなくなる家に向かって行ってきますと言ってから、外に出る。俺もアイも中学生としては忙しい身であるが、こうしてほぼ毎日一緒に家を出ることができるのは今の環境のおかげだろう。

 

俺たちは現在中学三年生。なんと同棲中である。

 

 

 

 

 

ことの始まりは数か月前。斉藤社長とミヤコさんが身元引受人としてアイの戸籍上の両親になったところからだ。俺もアイも当時は施設暮らしだったのだが、B小町の人気が出てきたことでセキュリティ上の問題が生じてきた。

 

原因の根本は、アイが潰れりゃ俺たちも潰れると覚悟ガンギマリ状態になった斉藤社長が「青少年の健全な成長のために恋愛は欠かせない」という理由をぶち上げ、苺プロ所属タレントの恋愛自由化を発表したことにある。これによって原作に書いてあった通り、男がいるアイドルなんて推せないということでガチ恋勢などはほぼ駆逐されてしまった。一時的に物販の売り上げなどが明確に減ったことからもそれは窺える。

 

やはり失策だったかと苺プロの運営陣は頭を抱えることになったのだが、その状況を変えたのは恋愛自由化の恩恵を最も受けることになったアイだった。

 

「ふふん、私に任せてほしいね!」

 

「任せろって、なんか策でもあんのか? このままじゃ、苺プロは倒産まっしぐらだぞ」

 

「まあまあ、次のライブを見ててよ社長。今の私は世界一かわいいからね」

 

「おいおい、世界一とはまた随分とぶち上げたな。本当に大丈夫なのか?」

 

「結構自信はあるよ」

 

ニヤリと笑うアイに対して斉藤社長は不安がっていたが、結局次のライブでアイの言葉が正しかったことが証明された。

 

恋をしている女の子はかわいい、それは誰もが知っている真実だ。そして、それをアイという絶対的な美少女がファンに対して振りまいてしまった。彼らはアイの恋が自分に向けられていないことを理解している。しかし、それでもなお視線に入れずにはいられないその存在感とパフォーマンスが今のアイにはあったのだ。結局あれよあれよといううちに、減ったはずのファンや売り上げはV字回復するに至った。

 

最終的には少数の厄介なファンを切り捨て、多数の良質なファンと入れ替えることができたわけだが、それでも匿名掲示板を確認する限り一定数の危険なファンは残っている。知名度が上がってきている以上、セキュリティという問題に対策を打つことは急務と言えた。

 

アイ以外のメンバーは家族と暮らしているため問題ない。しかし、グループで最も人気があるアイのセキュリティが甘いのはどうしようもない事実だった。施設には大人の職員が常駐しているとはいえ、その構成員は子供がほとんどを占める。不審者が現れたとしてアイだけを優先的に守るわけにはいかないのだ。

 

大人たちと当人の間で話し合いが行われ、なんやかんやあったものの結局アイが施設を出るということで決着を見たわけだが、その後どうするかという段階で当のアイがごねにごねた。曰く、翔君と一緒じゃなきゃ絶対にヤダ! ということである。

 

話し合いの場には俺もいて、その時は無茶言ってんなーと思いながら見ていた。斉藤社長とミヤコさんの家に居候の方がいいんじゃないか? 別に会えなくなるわけでもないし、関係が変わるわけでもないのだから構わんやろと。

 

実際に関わる大人たち、施設のおばちゃん、斉藤社長とミヤコさん、そして何故かアイに呼ばれてきたらしい俺の後見人さんもそれは流石にと否定的だった。当たり前だよね。

 

しかし、黒い星を瞳に浮かべたアイが涙を流しながら悲痛な声で訴え始めると状況が変わる。

 

「お願い、私と翔君を離すようなことはしないで」

 

「いや、しかしなアイ、恋愛自由とは言えいくらなんでもアイドルが男と同棲ってのは……」

 

「それはわかってる。でも、私にはもう、大切な人は翔君しか残ってないの」

 

「星野さん、君もうちの翔一もまだ中学生だ。流石に二人で生活するのは早すぎると思うのだが……」

 

「みんなが正しいことを言ってるって、私だってわかっています。でも、それでも、彼と離れたくない。私は、一人で生きていくなんてもう、無理なんです……!」

 

両方の後見人を見事に圧倒するアイさん。親に捨てられた女の子の心の叫びに、大人たちは心を動かされたようだった。ちなみにそんな感動のシーンの中で俺は、やってんなーこいつ、このために俺の後見人呼んだのかアイさんマジ策略家半端ねぇわって冷めた目で見ながら思ってました。顔面に嘘が張り付いとるんじゃ嘘が、俺にはわかる。

 

結局、アイの意図を汲んだ俺が頭を下げたことで一緒に暮らすことと相成った。セキュリティ的に二重オートロック式のマンションが必須条件として求められたが、二人の稼ぎと俺の資産額によってその条件はクリアすることができた。

 

結論が出た後、先程の涙が嘘のように――実際嘘だったけど――満面の笑顔でくっついてくるアイさんを尻目に、やられたことを理解して頭を抱える大人たちを見る。これからの気苦労を考えるとかわいそうだけど仕方ないよね。うちのアイさんはもう本物(マジモン)嘘吐き(アイドル)なんだわ。しかも嘘だけじゃなくて真実も使い分けれるからタチ悪いし、さっきの言葉も真実の感情が籠ってたからこそ説得力のある演技()として通じてるのよね。あんなの使ったら大人の数人転がすなんてちょろいもんだろうさ、パーフェクトアイさんテラオソロシス。

 

そんなわけで、俺とアイさんの生活がスタートしたわけだが同じ部屋に中学生が二人、何も起きないはずがなく、施設という自制の軛から解放されたアイさんからのアタックを受け続ける日々を過ごしているわけである。ちなみに防御はほぼ毎日のように破壊されており、それによって何が起こるかは――省略されました、となるわけだ。ちなみに絶対防衛ラインは死守してます。それは高校生になってからね、流石に。

 

他に施設を出たことによる副産物として挙げられるのは、友人を呼べることになったことだろうか。今までは環境上友人を呼べるような状態ではなかったが、俺とアイの関係を知っている関係者に限られるとはいえ、家に誰かを招待する経験が無かったアイにとってはそれが新鮮なようで、レッスンの終わりなどに良くB小町の面々を誘っている。

 

原作ではアイが在籍していたころのB小町のメンバー間の関係は最悪だったようで、実際この世界でもデビューして一年後くらいにアイが「最近、雰囲気が良くない」とポツリとこぼしたことがあった。

 

原因はやはり斉藤社長によるアイを最優先にする売り出し方針にあったようだが、メンバーの強みを生かした営業資料の作成を積極的に行ったり、各々がセンターとなる楽曲の作成を推進したり、全員を売り出さないとアイだけでは上に行けないと言い続けた結果、何とか他のメンバーの不満を解消するに至った。俺は誰よりもアイを最優先する立場なわけだが、その俺が他のメンバーの売り出しを積極的に推進したことで苺プロの方向性を変える上での影響力は結構出せたとは思う。

 

俺がこれ主張してる時のアイはちょっとプクーッとしてたが、実際あの三人の能力は他のグループならセンターを張れるくらいに高いのだ。人の名前を覚えるのが苦手なアイが一発で覚えたくらいだからね。だから、合いそうなところに売り込めばそれなりにレスポンスが返ってくるんよ。アイドルとしての輝きはやっぱアイが頭一つ抜けてるけど。

 

とはいえ、最近の友人たちと楽しんでいるアイを見ているとこの選択は正解だったと思える。まあ、その出来事以降に時折B小町の面々からの視線に熱を感じるようになったのは気のせいにしておこう。修羅場を作るのは原作アクアだけで十分なんだわ。

 

まだまだ他のメンバーの売り出しは足りていないけれど、少なくともそういう方向性を見せたことで安心して活動に専念してくれているのはありがたい副産物だ。モチベが上がってメンバー間の仲も良ければパフォーマンスも上がっていく。それによって仕事が増えるといい循環ができてきているように思える。

 

だから、それに応じて俺の処理しなきゃならない書類が増えるのは仕方ないことなのだ。人手とレッドブルが欲しい、斉藤社長何とかしてくれ。信用できる人材じゃないといけないのわかってるけど、効率化にも限界があるんです。就業制限で俺が午後八時に帰るときにミヤコさんが虚ろな目でこっち見てくるんですよ。今日だってほら、死んだ魚みたいな目してる。あんたの嫁でしょあの人、かわいそうが過ぎるので何とかしてあげてくださいね……。

 

 




投稿が遅れたのは札幌記念現地観戦のためでした。私の夢はウィンマリリン、儚く潰えた模様。

ランキングバブルが弾けたのでこれからはのんびり投稿していきます。評価9乞食は継続中。
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