中盤から妊娠に関することで不快な表現がゴリゴリ出てきます。特に女性は注意した方が良いかも。感想で一言いただければこの話読まなくてもいいように次話の前書きにまとめます。後書きに没案書いたのでそれは読んでもいいかも。
書きたくなかったけど書かざるを得ない、オリ主の置かれた立場と思考の話。書いててなんもおもんなかったけど、削るわけにもいかないやつ。
芸能プロダクションの仕事場としては決して広いとは言えない一室の中で、俺は事務作業に従事している。
社長は営業、ミヤコさんは地方のステージに立つB小町の引率兼マネージャー業務で外に出ているため、現在苺プロの事務室にいるのは俺一人だ。
そう、俺一人である。芸能プロの事務室で仕事しているのが、社員でもなければアルバイトですらない、タレント名目の中学生が一人だ。それが電話応対から来客対応、事務作業までこなしているのだから、やべぇなこの会社潰れたほうがいいぞと思うのも無理ないことではないだろうか。今日は土曜だから来客は滅多にないからいいんだけどさ、信頼が厚いのはありがたいんだけどね。
とはいえ、これでも原作よりは環境がマシなようであるから悲惨この上ない。そりゃアイ一人に注力することになるわ、根本的に他の子プロデュースするだけの人的なリソースがないんだもの。B小町は全員未成年だから地方に行くなら必ず社長かミヤコさんの引率が必要になるし、その間は残った一人で営業と事務両方やらなきゃならんのだから。夢とやらが無ければ到底納得できる仕事量ではないだろう。ブラック企業の見本みたいなもんやな……。
そんなわけで、その日も心をぴょんぴょんさせながらワーカーズハイをキメていたわけであるが、一枚の書類が俺の陶酔感を強制的に覚まさせる。稟議書の体を取ったそれはミヤコさんから上げられたもので、既に社長の決済印が押されていた。その件名はこうだ、「劇団ララライ主催ワークショップへの参加について」。
正直、そこまで驚きはなかった。そろそろ来るものであることはわかっていたし、これが星野アイの今後にとって必要なものであることはすでに理解していたからだ。
だがそれでも、俺の思考を一瞬停止させるには十分な題名だったのは間違いなかった。
席を立ち、コーヒーを入れてそのまま一口飲む。そして、席に戻って改めて書類を確認する。
内容は単純で、B小町所属の星野アイを劇団ララライのワークショップに参加させるというもの。紹介者として鏑木という名前と、劇団側の請負人として金田一という名前も記されてあった。書類の形式としては何も問題が無い。ならばと、溜息を一つついてから淡々とスケジュールに予定を入力していく。
社長もミヤコさんもアイもこの場に居ない。書類はまだ残っている。ならそれを先に終わらす方が今は大事だと思った。
午後八時。未だ中学生の俺には就業制限があるため手早く退社準備を済ませると、まだデスクにかじりついている社長とミヤコさんに声をかける。
「それでは、お先に失礼します」
「おう、お疲れさん」
「お疲れさま翔一君」
頭を下げ、事務室を出た。今日もミヤコさんの眼は虚ろだったよ、悲しいなぁ……。
外に出ると今年もあと一月と少しを残すのみとあってやはり少々肌寒かった。ビルを出てしばらく歩けば大通りに出る。土曜日だからかまだ人通りはまだ多く、俺と同じようにスーツを着た人たちが集団で居酒屋へと向かう姿が伺えた。休日出勤とはご苦労なことだ、俺も人のことは言えないのだけれども。
普段ならばそのまま家に帰るところなのだが、今日はアイがB小町の面々を呼んで晩御飯を一緒に食べると言っていたのを思い出す。ならばと、晩飯は外で済ませようと途中にあるチェーンの定食屋に立ち寄った。
食事中にアイに連絡を取ると全員泊まっていくらしいので、土産にケーキを四つ買っていく。家に着きドアを開ければ、音に気付いたアイが出迎えてくれた。
「おかえりー」
「ただいま。これ、お土産ね」
「さっすが、気が利くねぇ! ありがと!」
アイにケーキを渡してリビングに入ると、B小町の面々がテレビを囲むように座っていた。『おじゃましてまーす』との声に手を振りつつ答える。見ればそれぞれの手にはコントローラーが握られており、コードの先には取っ手付きの四角い鈍器がある。テレビの画面を見ればどうやら先日発売されたばかりのパーティーゲームをやっているらしい。
なるほどそれが今日の目的かと納得すると、
「翔一君も交ざらないの―?」
「四人でちょうどいいでしょ。やりたいこともあるし、アイをいじめるのはナベさんに任せた」
メンバー最年長、現在高校二年の渡辺さん――ナベさんと呼んでいる――に誘われたが、考え事があるので断っておく。「任された!」「翔君ひどいよぉ!」等々、姦しい声を背中に受けながら自室に向かった。
スーツを脱いで部屋着に着替えた後、椅子に座ってパソコンを起動――しようとして、やめる。家でできる急ぎの仕事はない、ならば少し考えようと思考の海へと潜っていく。
結局、あの後俺は社長にもミヤコさんにもワークショップの件を話すことは無かった。理由は単純で、既に結論が出た案件に対して、それをひっくり返すだけの理由を見つけることができなかったからだ。
義理人情で成り立っている芸能界。今回の案件は完全に鏑木さんと金田一さんの好意で成り立っているもので、それを一度了承していながらひっくり返すのはあまりにも義理を欠いている。噂になればアイだけでなく苺プロの今後にも関わるだろう。
それに、これはアイにも苺プロにも得しかない案件であって、危険なことであると知っているのは俺だけだ。もし何とかして説得するためにアイが寝取られかねないから、アイを殺そうとするやつがいるからなどと口に出してみたらどうなる。頭がおかしくなったかと家に帰らされるのがオチだ。下手すれば危険な人物と認定されてアイと引き離されることもあり得るだろう。そうなれば苺プロの面々からの信頼と、アイを失うことになるのだ。とてもではないがそんなことを言えるわけがない。
この件に関して――いや、この件に関わらずとも、現段階で俺ができることはほぼ無いと言っていい状態だった。
一応カミキヒカルの対処に関してだけはある程度の目途が立っている。存在は既に掴めているし、劇団ララライが練習に使う場所も既に把握しているので、最悪俺が殺しに行けばいい。そうすれば少なくとも原作のようにドームライブの当日にアイが殺されるなんて事態は回避できるし、その後に命を狙われ続けることもないのだから。
しかし、アイの子供のことやアクアやルビーの存在を考え始めると、どうしても無理が出てきてしまう。
アイが幸せになるためにはきっと子供の存在は不可欠になる。あの子が求めている愛で最も有力なものは家族愛、それを実感するには間違いなくアイ自身の血の繋がった人間が必要だ。
この場合だけを考えればアクアとルビーという存在が必須というわけではない。だが、そのもうひとつ前の原作における設定がアクアとルビーの存在の重要性を際立たせる。
原作で例の幼女が言っていた、「真の意味で母を得られなかった二人と、魂の無い子を産んだ母親を導いてあげた」という言葉。
全くもって不快なことではあるが、これはアイの流産か死産、もしくは産んだ直後に子供が死ぬことを意味している。そして、それを哀れんだ芸能の神が子供に魂が入るよう導かせたということだ。
アイが芸能の神に哀れまれる条件は恐らく二つ。アイが芸能関係者でそれなりの輝きを放っていることと、
しかし、アイが何故魂の無い子供を産むのか。これに関しては何一つ対応策が思いつかなかった。そもそも何故そうなるのかすらわからないし、これが設定という名の運命で決まっていたことなのか、それとも純粋に運が悪かったのか、その判断材料すらないのだ。
後者ならば流産や死産に関しては悲しいことではあるが、人間である以上どうしても防げないことだ。しかし、前者であるとしたら本当に何をすればいいのかわからない。そうなった場合の結果だけならわかるが。
原作ではアクアとルビーという最終的に愛を実感させてくれる存在を生むことができた。しかし、もし仮にそれができなかったら。愛に飢え、愛を求めて、愛を実感するために子供を求めたのに、その子供を抱き上げた直後に失われてしまったらどうなるのか。そうなった時のアイがその後どういう行動をとるのか、想像するのは容易かった。
ならば条件を変えて時期をずらせばいいのではないか。相手がカミキヒカル以外の人間、それこそ俺ならいいんじゃないかと考えたこともある。だが、運命であると仮定をするのであれば、これはあまりにも自分の願望が全面に出すぎていた。結果を変える可能性は低いと思わざるを得ない。
そしてもう一つ、アイの子供に入るはずの二つの魂、これが天童寺さりなと雨宮吾郎の魂ではなければいけないのか、それともそれ以外の人間の魂でもいいのかという問題もある。後者ならばいいのだが、前者ならば考えなければならない。天童寺さりなはすでに亡くなっているから仕方ないとしても、雨宮吾郎を見捨てる必要性があるのか。助けられる可能性があるのに、原作でアイに手を差し伸べてくれた善人を見殺しにしなければならないのかということをだ。
それに、雨宮吾郎が生き残った場合、双子のうち片方に魂が入らない可能性も考える必要がある。この場合は、双子の内片方の子供は生き残れないということだ。そうなれば、結局子供を死なせたという絶望をアイは抱いてしまうだろう。
そこまで考えて、胸の奥から沸き上がってくる吐き気を感じ、無理矢理思考の海から這い上がった。
――少し、深く入りすぎたな。
まともな精神状態じゃないと自覚した俺は、水でも飲もうと部屋を出て台所に向かう。途中リビングを通ると、未だにB小町の面々が元気一杯にゲームに興じている。やっているゲームはレースのやつに変わっていたが。帰宅してから一時間以上は過ぎているはずなのだが、あの様子では就寝はてっぺんを越えることになるかもしれない。
その姿を微笑ましく思いながら、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、コップに一杯一気に飲み干した。胸の悪さが消えることは無いが少なくとも吐き気は治まったので、休憩がてらキッチン越しにテレビの前で騒いでいる面々を見る。
原作でこの時期のアイがプライベートの時間に何をしていたのか、描写がない以上俺はわからない。だが、今俺が見ているような光景が現れることは無かっただろう。少なくとも原作よりは、アイは幸せに生活できていると言い切ることができる。だが、これから起こることが原作よりマシになるのかどうかは、恐らく俺にはどうにもならないことだった。
――俺が原作知識を使ったのか、原作知識が俺を使ったのか。どっちなんだろうな。
溜息を吐きつつ、洗顔と歯磨きのために洗面所に向かう。
チートアイテムだと思っていたものは、蓋を開けて使ってみれば呪いの装備だった。外すこともできず、只々その性能と呪いが生み出す結果を受け入れていくしかない。操られている、そんな感覚を覚えてしまっていた。
最善は原作通りに進めることなのだろう。原作通りに進め、最後の最後にアイを助ける。これが理想、そんなことはとっくの昔に分かっていた。
だが、俺は幼少期のアイを見捨てることなんてできなかったし、今の俺たちの関係性からして仮に全てを話したとしてもアイは絶対にこの選択を望まないという確信がある。俺もアイを他の男に渡すなど絶対に許容できない。俺たちが最善策を取ることなど既にできないのだ。
アイとの距離を程々の感じで保てていれば、いっそのこと原作知識を話してしまえば、なんてことも考えたが、どちらも遅きに失している。
このままいくしかない。何度も何度も考えて、結局出る結論は全てこれだった。
寝る準備を終え、無力感に苛まれながら一体何度目かわからない溜息を吐きつつリビングに向かう。ゲームに熱中してる四人に近づいて、区切りが良さそうなところで声をかけた。
「俺、今日はもう寝ちゃうから、あとはよろしくなアイ」
「えっ? もう寝るの? 今日は早いね」
「ああ、ちょっと疲れ気味みたいだから。何もできなくて皆には申し訳ないけど」
そう言うと「気にすんなー」と声が返ってきた。全く、いい子たちだと思う。朝ごはんは頑張ろう。
おやすみと言った後、部屋に戻り早々に電気を消した。精神の疲弊は認識していたが、どうやら身体の方も中々に疲れていたようで、ベッドに潜り込むとすぐに眠気がやってくる。それに抗うことなく目を閉じると、すぐに意識は遠のいていった。
正直苦痛でしかなかった。オリ主だから極力主観で書くようにしてるけど、入り込みながら書いてるとホントきつい。
次回はかわいいアイさんが出てくる予定だからそこだけ救いある。
以下空気感ぶっ壊れそうになったので没案にしたやつ。850文字は流石にもったいない。俺は本当はこういうのを書いていたいんだ……。
おやすみと言った後、部屋に戻り早々に電気を消した。精神は疲れていたが、身体の方はそうでもなかったようですぐには眠気が来ず暗闇の中でボーっとしていたのだが、数分経った頃ドアをノックされ身体を起こす。
何かあったかなとドアを開ければ、立っていたのはアイ。その後ろを見ると廊下の陰からB小町の面々がこちらを窺うようにのぞき込んでいる。
「……なんかあったの?」
「え、えっと、その、ね……」
どもるアイに驚いて様子を窺うと、何故か顔を赤くしている。そして、なんかニヤニヤしている三人の顔。
――あっ、罰ゲームか何かですねこれ。
しっかり察することができた。ゲームやっててタコ負けしたんだろうなぁ、きっと。
「その、今日はまだ、お帰りなさいのキスも、して、ないから……」
顔真っ赤にしながら話すアイさんかーわいいなぁ!
後ろの三人にアイコンタクトで任せろと言ってから、俺は躊躇うことなくアイの顎を上にあげた。
そして、ゆっくりとキスをする。二度、三度と啄ばむように唇を重ねた後、後頭部を抑えて逃げれないようにしてからキスを深めていく。
アイはビクリと身体を跳ねさせた後、慌てて目を開いた。視線が合うがそれを気にすることなくキスを続けると、どうやら諦めたようで受け入れ始めた。
廊下に響く水音が生々しく耳に届く。視線を後ろに向ければ顔を真っ赤にした三人の女の子。まさかここまでやると思ってなかったんやろなぁ。
とは言え俺も男の子なのでこういうチャンスは逃せない。たっぷりとキスを堪能してから、アイの身体から力が抜けそうになったところで唇を離した。
それから数秒アイはぼんやりとしていたが、すぐに我に返ったようで慌てて身体を離そうとする。それに抗うことなく手を離すと、アイがプルプルと震えだし、直後、
「し、翔君のバカァ!!!」
そんな叫び声と共に、リビングに向かって駆けていった。
改めて後ろに三人に視線を向ければ、ぎょっとした後に同じようにリビングに戻っていく。
それを見送り、リビングから聞こえてくる高い声に満足感を覚えながら俺は寝室に戻った。