A.3回くらい書き直した。あと、分量が普段の倍
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最近は衣装部屋と化している自室でパジャマに着替えた後、私は隣にある彼の部屋のドアをノックする。どうぞと言われてドアを開けると、私と同様に既にパジャマに着替えた彼の姿。それを横目に私は遠慮なくベッドにごろんと寝転がり、毛布を被った。
最初の頃はこの後少し問答があったり溜息をつかれたりしていたけれど、最近ではもう諦められたらしい。部屋の電気が消えると私の横に彼が入ってきたので、それと同時に距離を詰める。
「んふふー」
身体をぴったりとくっつけると背中に腕が回された。明日は休日ということで今日は深く触れてもらおうと、パジャマ以外には下しか身につけていない。私と彼の間は薄布二枚に隔たれているだけなので密着感が凄い。彼とは極力一緒に居れるようにしているけれど、やっぱりこの時間が一番幸せを感じることができる。
「寝る前のアイは本当に甘えん坊さんだな」
「そうだよー。でも、嬉しいでしょ?」
「そりゃもう。こんなにかわいい女の子が甘えてくれるんだからなぁ」
「じゃあさぁ、ご褒美、くれてもいいんじゃないかなー? そんなかわいい女の子に」
そう言うと、顔が近づいてきたので目を閉じる。唇が一度、二度と重なり、入ってきた舌を受け入た。
身体は先ほどよりも密着し最早寸分の隙間もない。無音だった寝室に水音が響き、触覚だけでなく聴覚すらも私の興奮を煽っていく。それと同時に押し付けた胸の先端が固さを帯びていくのを自覚した。彼との隙間は薄布二枚だけ、きっと気づかれているだろう。隠すことなくむしろ擦り付けるように身体を捩れば、わかっているとでも言うように彼の腕が背中から私の前へと移動してきた。
「ぁ……っ」
身体の隙間にねじ込むように入ってきた手が、パジャマの上からゆっくりと私の胸を刺激し始める。堪らず出た声はキスを続けていたためくぐもったものになったが、私の反応など既に熟知しているだろう彼は躊躇うことなく愛撫を続けた。
同棲を始めて一年と少し。幾度も刺激し続けられたこの身体は、ことこの場面に至るともう私の言うことを聞くことなど無い。彼から与えられる快感に私の脳から発せられる命令が上書きされていく。
暫く彼に身を委ねていると、満足したのか距離が離れた。手は未だ私の胸を刺激しているが、身体が離れた分寂しくて目を開けると、私をじっと見つめる彼と視線が合った。
――ああ、君のこの目、本当に好き……。
情欲に囚われた熱い眼差し。見る人によっては恐怖すら感じるだろう強い眼光。普段は私のことを見守ってくれる穏やかな瞳が、今この時だけは私を一人の女としてしか捉えていない。この人の全てを私が独占していると思えて、たまらなく愛おしかった。
「んっ……。今日は、最後までしてくれる?」
甘い刺激に身体を震わせながら、媚びるように尋ねる。こういうことを始めてから時折口にする言葉。答えはいつも変わらないけれど、それでもと思っていつも聞いてしまう。
「それはもうちょっとだけ、な」
「むぅ」
同棲を始めるときに決めた、一線は高校生になるまで越えないという約束を彼は律義に守っていた。私の方は準備も覚悟もできているというのに、こうして焦らされているのはひどいと思う。尤も、私も彼が最後までしないとわかっているのにこうして毎日のように誘いに来ているのだから、焦らしているのはどっちだという話ではある。
とはいえ不満があるのは間違いないので、彼の身体を押して仰向けにしつつ、その上に馬乗りになった。お互いのパジャマのボタンを外しながら、何か言いたげな彼の機先を制する。
「じゃあ、これから色々するけど、しっかり我慢してね?」
「いや、ホント勘弁してくれ。最近マジで辛いから。お前色々覚えすぎなのよ」
「教えたのは君じゃーん。あ、でもね」
ボタンを外し終え、胸が露わになった状態で身体を倒す。先ほどとは違う肌が直接触れ合う感覚に興奮を覚えながら、口を彼の耳元に近づけて小さく囁いた。
――別に、我慢できなくなってもいいよ?
言い切った瞬間、彼の雰囲気が変わるのを感じる。上手くいったと私がニヤリと笑えば、彼の手が荒々しく動き、私はそれに身を委ねていく。
その後の詳細は省くけど、結局その日も一線を越えることは無かった。ひどいよね、いけずな人だよホント。でも、次の日「危なかった。昨日は本当に危なかった……」って言っていたので、ちょっとだけ自尊心が満たされた。
年の瀬も近づき、中学生最後のクリスマスまであと一週間に迫った頃。私達は相も変わらず二人並んで登校していたが、学校に入って靴を履き替えるべく下駄箱を開けた時、事態は起こった。
「おお、マジか……」
蓋を開けた瞬間に床に落ちたそれを翔君が拾い上げる。そして、それをまじまじと見てから一言呟いた。横から覗いてみれば翔君の手には何とも可愛らしい封筒が。所謂ラブレターというやつだろう。
「初めてもらったなこういうの」
「むぅ、遂に来ちゃったか……」
翔君は戸惑っていたようだが、このまま玄関で話しているわけにもいかないので教室に向かう。同じ芸能事務所に所属していることが理由なのかはわからないが、ありがたいことにこの三年間クラスは常に一緒だった。二人一緒に教室に入ると近くの人に一瞬だけ視線を向けられたが挨拶はない。小学校の時と同様に私は――ついでに言うと翔君も――学校で友人を作ることはできなかった。正確に言えば作る時間も切っ掛けも無かったと言うべきだろうか。
私はそもそもオフの時に人と積極的に関わろうとは思わないし、実際にクラスメイトの名前を一人も覚えていない。担任の先生の名前すらわからないほどだ。
翔君は人当たりは悪くないけれど学校では常に私の側に居てくれるので、それを見て話しかけてくる人がそもそもいなかった。一度申し訳なく感じて友達作らなくていいのと聞いてみたけれど、話が合わないから面倒らしい。
そんなわけで私はもちろん翔君も学校の人たちとの接点なんてほとんどないはずなのだが、どういうわけかラブレターなんてものが届いてしまった。容姿や雰囲気を考えれば今までこういうことが無かった方がおかしいのかもしれないけれど、私と翔君は結構公然とべったりしてたのでいい威嚇になっていたはずなのだが……。一体どうしたらいいだろう。
授業が始まったので翔君の方を見れば、早速封筒を開封して中身を読んでいた。何となくニヤニヤしているような気がして消しゴムをぶつけてやろうかと思ったけど、私はとても寛容なのでぐっと我慢する。問い詰めるのは後でいいのだ、後で。午前の授業が終わって給食を食べ終えたら早々に翔君の元に向かう。
「来て」
一言だけ告げると廊下へと歩いていく。向かうのは屋上へと繋がる階段。屋上の扉は閉鎖されているため人通りがなく、内緒話にはもってこいの場所だ。仕事の話を直接したい時などによくここを使っている。
一足先に屋上の扉の前で待っていると、それから三十秒もしないうちに翔君が上ってきたのでにっこりと笑顔を作る。そして、
「それで、どうするの、それ」
階段を上り切るのを待たずに質問をぶつけた。それを聞いた翔君はこちらを一瞥した後、溜息をついてから口を開く。
「随分と怒ってるな?」
「怒ってないけど?」
「眼が笑ってないぞ」
「気のせいでしょ」
気のせいに決まってる。私は今最高の笑顔をしているのだから。やり取りの間に階段を上り切った翔君がやれやれといった態で壁に寄りかかる。それを見て私もため息を一回ついた後、笑顔を作るのをやめて並ぶように壁に寄りかかった。
「放課後に体育館裏に来てくれってさ。とりあえず行ってみようと思ってる」
「ま、そうだよね。流石に女の子の呼び出し無視して放置はまずいだろうし」
「そういうことだな。というわけで、放課後ちょっと教室で待っててくれ」
「え? 私も行くけど?」
「おまえは何を言っているんだ……?」
それはこっちのセリフってやつだ。彼女がいるのに別の女の呼び出しに応えるのだから、監視くらいさせてもらうのは当然ではないか。そもそも、君だって私が告白受けるときにはついてくとまでは言わないけど、ちゃんと近くで見守ってるくせに。
私がそう言うと、翔君は「そりゃ心配だからな。何かあったらどうすんだ」なんて開き直った。それはとても嬉しいけどさぁ、今回は君のことなの、わかる?
世間一般の彼女がどうするかなんて知らないけど、少なくとも私の主観ではそうするの。言い切った私を見て諦めたのか、私の方針に翔君は反対しなかった。ついてくって言っても君と同じようにちょっと離れたところから様子窺ってるだけだからね、安心してほしい。
とりあえず話がまとまったので、そろそろ教室に戻ろうと階段を先に降り始める。でも、その前に一言釘を刺しておこうと、もう一度笑顔を作ってから振り向いた。
「あ、そうだ翔君。ラブレター読んでニヤニヤしてたこと、言い訳楽しみにしてるから」
にーっこりと笑顔と共に優しい声でそう伝えると、私と同じように階段を降りようとしていた翔君が石の様に固まった。たとえ初めてのラブレターだろうが、私以外の女の子にデレデレするのを許すわけにはいかないのだ。彼の場合B小町のメンバーっていう前科もあるのだから。
その後何事もなく時間が過ぎて放課後になった。翔君は呼ばれた通りに体育館裏へと向かい、その後を私もゆっくりとついて行く。
待ち合わせ場所に近づくと女の子の姿が目に入る。そそくさと物陰に隠れて様子を窺うと相手が翔君に気づいて話し始めたので、じっくりと観察してみる。
見覚えがあるかと言われると何とも言えない。しかし、容姿は――悪くないけど、はっきり言って私の方が完全に上だ。スタイルも負けてないはず。これならば万が一が起こることはないだろう。最初にやることが比較なんて、嫌な女だと自覚しつつも観察を続ける。
話している感じを見る限り翔君は誰かというのは認識していそうな感じではある。一体どこで関わったのだろう。学校では常に一緒に居るはずなのに。
やはり恋人のこういう場面を見ると心はざわつく。口には出さなかったがこんなことは初めてだったので、正直ちょっとだけ不安になってついてきてしまったけれど、自分の黒い部分をはっきりと自覚してしまって嫌気がさした。
私が告白を受けているときも翔君はこんな気分だったのだろうか。やっぱ来るべきじゃなかったかなぁと思っていると、どうやら話は終わったようで女の子が頭を下げて走っていった。それを見送った後、翔君がこちらに向かってきたので物陰から出て隣に並ぶ。
「それで、どうだった?」
「普通の告白だった……のかな? 最後涙声だったのはちょっと申し訳なくなった」
「知り合いだったの?」
「ああ、委員会の仕事で二、三回会ったことあったよ」
「そっか」
歩きつつ横目で様子を窺えば、なんとも微妙な表情をしていたので流石に気になって聞いてみる。
「それで、なんて言われたの? あの子に」
「……それ言わなきゃダメか?」
「む。何? 何か言われたの?」
「いや、その……」
そこで口ごもるとは、一体何を言われたのか。私にすら教えにくいことなのか。心の奥底から沸々と何かが沸き上がるのを感じる。あと三秒、彼が口を開くのが遅かったら私は怒りの言葉を口にしていただろう。
「愛してるんです、って言われた」
でも、寸でのところでそれを回避する。怒りを向けるべき対象は自分だと、口を開く前に気づくことができたことに私は心から感謝した。
告白の失敗、青春では良くある一場面なのだろう。しかし、あの子の場合は告白相手に恋人がいて、なおかつ自分と相手の関係性が薄いと理解した上でそれを行ったのだ。一体どれほどの想いを募らせたのだろう。一体どれほどの勇気が必要だっただろう。
今思えば、私が翔君との関係を構築する過程で勇気を必要とする場面など皆無に等しかった。私がしたことなんて、お母さんに捨てられて彼が寄り添ってくれた時に、怖いと、そう言っただけだ。それ以外は基本的に全部彼が察してくれて、してほしいことをしてくれて、私がすることを受け止めてくれていた。
――エサもらってる雛鳥みたいなもんだね、私は。
叫んだのは最初の一度だけ。それ以降は何も言わずとも淡々と愛を注いでもらっている。そして、それを私は受け取り続け、日々を幸福に過ごしているというわけだ。
一緒に住んでいるのに、一線を越えてないとはいえ身体を重ねる関係にすらなっているというのに、これほど幸福な生活を送らせてもらっているのに、私はまだ一度も翔君に愛してるって言ったことがない。
自覚してはいたのだ。私は翔君のことを心から愛してる。翔君も私のことを愛してくれている。これは普段の生活で嫌というほどに理解できている。だから言葉にするのを焦る必要ないと、いつか必ず言えることなのだからその時が来るのを気長に待とうと、そう思っていた。それはきっと翔君も同じで、だからこそ彼も私に愛してると口にしなかったのだ。私にプレッシャーを与えないように。
でも、今回はそれが裏目に出てしまった。
リビングのソファーに座って膝を抱えながら、私は情けなさと軽い絶望に囚われている。
あの後、私を家まで送った翔君はそのまま事務所へと向かった。沈んでいる私を見てとても心配していたけれど仕事は大事、私は大丈夫と何度も言って納得してもらったのだ。私は何も予定が無かったので素直に家に入ったが、本当に幸運だったと心から思う。今の私の精神状況ではレッスンに集中なんてできない。ステージやスタジオでの仕事なら何とか取り繕ってみせるがそれでも最善には程遠いだろう。
何もする気が起きなくて、着替えることなく制服のままソファーに座り込んでしまった。こんなにメンタルが落ち込むのは久しぶりだ。それこそ、B小町の仲が険悪になりかけた時以来ではないだろうか。
――あの時も、何とかしてくれたのは翔君だったなぁ。
私の売り出しに注力する社長の方針を無理矢理抑えて、全員を売り出す方針に変えてくれた。その裏では私にも助言をくれて、素直に思っていることを皆にぶつけろと嘘を被るなと言って背中を押してもらった。そのおかげでちょっとだけ言い合いがあったけど、その後はあの子たちと気さくな関係を作ることができたのだ。
失ったはずの愛情も、大切な友人も得ることができた。私を引き取ってくれた社長やミヤコさんとの関係も良好で、仕事も順調だから金銭面にも不安はない。今の私は生活していく上での不安要素が何一つないのだ。最悪の状況に叩き落されたはずが、いつの間にか最高の環境に引き上げられていた。
――この環境を得ることができたのは、間違いなく翔君のおかげ。でも、私は……。
彼に対して何かできたことなど、果たしてあっただろうか。ぱっと考えてみても具体的な出来事が思いつかないのだから、恐らくはほとんどないのだろう。
何と情けないことかと、膝をぎゅっと抱きしめた。本来ならば、私こそが彼に何かを与える側にならなければならないのに、どうしてこうなってしまったのか。
私には曲がりなりにも親がいる。捨てられたとはいえ一緒に生活したこともあるし、私がアイドル活動を始めて最近ではテレビに出るようにもなったから、それを見て私の存在を思い出してくれるかもしれない。もしかしたらもう一度会えるかもしれないと、会って普通の親子になれるかもしれないと、そんな淡い希望を持つことができるし、それが最近のアイドル活動の目的の一つになっていたりもする。
でも、翔君にはもう親はいない。
人にも金にも恵まれたと本人は言っていたし、実際に施設のおばちゃんや後見人さんがとても良くしてくれているのを知っていたけれど、彼には本当の意味での家族がいなかった。だから私が家族になろう、私のことを大切にしてくれる彼を誰よりも大切にしよう、子供ながらそう思うのはおかしい話ではなかっただろう。同棲を望んだ時も、私が寂しかったというのも大きい理由の一つだけど、それ以上に彼を一人にしたくなかったというのがあった。
全て上手くいっているはずだった。彼と二人、本当の夫婦みたいな生活ができていたのに、私は最後の最後にその環境に甘えてしまったのだ。
その結果、誰よりも私が最初に言わなければならない愛してるという言葉を、私の人生において最も大切であろうその言葉を、名前も知らない女に奪われてしまった。
――私、一体何やってるんだろ……。
情けなさと、惨めさによって私の心が砕かれていくのがわかる。そして、両目から涙が流れるのを抑えることはできなかった。
それからしばらくリビングでじっとしていたが、しばらくして玄関の鍵が開き、ただいまという声とともに翔君が帰ってきた。出迎えようと涙を拭って玄関に向かうと、顔を合わせた瞬間に彼は眼を見開き、慌てて私の側に駆け寄ってくる。
「アイ、泣いてたのか!?」
「うん。ちょっと悪い思考の渦に囚われてた感じ……」
「あー、そうだよな。ごめんな……」
軽く抱き寄せられ、頭をゆっくりと撫でられたので再び泣きそうになったが何とか我慢する。その後、手を引かれながらリビングへと移動した。
帰ってからまだ着替えてもいなかったので、話は後と夕食は簡単なものにしてお風呂も済ませてしまう。お風呂から上がったらソファーに二人、少しだけゆっくりしようとぴったりとくっついて座る。しばらく雑談で時間を潰した後、何があったのかを聞かれたので少し時間がかかったが素直に話すと、翔君は深い溜息を一つ吐いてから私の肩をぐいと抱き寄せた。
「何というか、色々抱えこませて申し訳ないというか……。やっぱりあの手紙、会いに行くべきじゃなかったなぁ……」
「ううん、あれはいいの。結局、私が勝手に変に捉えちゃっただけだから……」
申し訳なさそうに言う彼に、私はそれは違うと答えた。
慰めてもらったおかげで大分落ち着いてきている。しっかり頭が回るようにもなってきているので考えてみるが、確かにショックな出来事ではあったけど、ここまで動揺するようなことだっただろうか。
もしかすると、翔君が初めて私以外の女の子に告白されるという不安は自分が感じていた以上に大きかったのかもしれない。
今思えば、告白場所について行ったことや、あの女の子と容姿を比較しているあたりからもそれを感じ取れる。どうやら思った以上に私の心に余裕はないようだ。
――これは、中々くるものがあるね……。
確かに悔しいし、情けないとは強く思ったが、あそこまで感情がマイナス方向に振り切れるとは。自分の心の狭さを自覚して、むむむと顔をしかめると、それに気づいた翔君が口を開いた。
「なんか複雑な表情してるけど、どうした? まだなんか言いたいこと残ってた?」
「いやぁ……。思ったより余裕ないんだなって気づいて、ちょっと自己嫌悪してた」
「余裕、ねぇ。それはきっと俺にも責任があるだろうなぁ……」
はて、責任とはどういうことだろう。今回の一件では君は何もしていないはずだけど。そう不思議に思っていると、「よし」と呟いて何らかの覚悟を決めた翔君が私の顔をじっと見据えた。
「本当はアイが言うのを待つか、来るべき時が来たらと思っていたんだけど。アイがこんなに不安に思ってるなら、今言ってしまおうと思う」
「えっ?」
言ってしまうって何? 来るべき時ってどういうこと? というかなんでそんな顔してるのかっこいい。
急な展開に頭の回転が追い付かなくなり、視覚と聴覚から入ってくる情報のみをただただ認識するだけになる。そんな状態で、私の頬に翔君の手が添えられた。
「アイ」
「ちょっ! ちょっと待って!」
まずいと思って勢いよく立ち上がると、話の腰を折られた翔君が困惑しながらこちらを見上げていた。
「えぇ……?」
「急だから! この展開急すぎるから!」
「いや、そういう流れじゃなかった?」
「そうかもしれないけど! 私にも心の準備ってものがだね!?」
流石にこの展開になるのは予想してなかった。慰めてくれて嬉しいなとは思ったけど、急に結論まで突っ走ることになるとは。落ち着くために深呼吸を一回。改めて翔君を見れば、バツが悪そうにこちらを見返した。
「ちょっと外しましたかね?」
「そんなことは無いんじゃないかな……? でも、私が落ち着きを取り戻す前だったらスムーズだった説はあるよ」
「それはなんかさぁ、弱みに付け込んでるみたいでやだ」
はぁとため息をついて「締まらんなぁ……」と言う翔君。ついつい頷いてしまうけど、締まらなくしてるのは私なんだよねぇ。
折角覚悟を決めてくれたのに、それを見事にぶち壊してしまって本当に申し訳ない。でも、少なくともシリアスな気分は吹き飛んでしまった。泣いて泣かれてなんかより、私はこんな雰囲気の方が良い。
では改めてと、翔君の方を向いて手を広げると、その意図を察したのかものすごく微妙な表情を浮かべた。
「続けろと? この雰囲気で?」
「うん」
「お前、何時からこんな非人道的なことするようになりやがった……」
それは間違いなく君の影響だねぇ。やれやれといった態で立ち上がった翔君に、優しく抱きしめられる。そして、顎に手を添えられて顔を上に向けさせられた。目の前には、先程と同じ覚悟を決めた彼の顔がある。
「プロポーズの時は覚悟しとけよ」
「それは期待してるね」
「アイ」
「うん」
「愛してる」
その言葉と共に、キスされる。夜にするような激しいものではない、触れるだけの優しいキス。それなのに、私の身体はまるで達した時のような幸福感に満たされた。
唇が離れ、お互いの顔が視界に入る。彼の顔は真っ赤だったけど、私の顔はもっと赤く染まっているだろう。きっと耳まで赤いに違いない。
「改めて言うと、めっちゃ恥ずかしい」
「それはそうだろうね……」
「柄にもないことした気がするわぁ……」
そう言って、私の肩に額を置いた。耳の横から「あぁぁぁ……」と声が出ているのを聞きながら、彼の背中に腕を回す。珍しくへなへなの翔君を抱きしめ、いつもとは逆の立場になっていることに思わず笑みがこぼれる。あんな雰囲気で、話の腰を折ってしまったのに、それでもしっかりと私の欲しかった言葉を言ってくれて、そんな彼がたまらなく愛おしかった。
言葉一つで、こんなにも幸せになれるものなんだなとつくづく思う。幼い頃から常々口に出さないと伝わらないと言われてきたが、本当にその通りだ。こうして言葉で伝えてもらったらもう一点の疑いもない。私はこの人に愛されている、心からの確信を得ることができた。
――じゃあ、今度はこっちの番だよね。
「ねぇ、翔君」
「ん? どした?」
私の問いかけに、彼が顔を上げた。再び近い距離で向き合うと、今度は私が彼の頬に手を伸ばす。それに動揺したのかピクリと彼の身体が動いたが、構うことなく顔を近づけ、口にした。
「愛してる」
――ああ、やっと言えた。
今までずっと心のどこかにあった恐怖心は、先程の言葉ですべて消え去った。
だから、言える。私はこの言葉を何度でも、彼に伝えることができる。
「愛してるよ、翔君。心から愛してる」
再び私と彼の影が重なり合った。先ほどとは違う、お互いの愛を確かめ合うような長い口づけ。私からしたそれを、翔君は私を抱きしめながら受け入れてくれた。
キスを終えた後、完全にスイッチが入っている翔君の顔が目に映る。それは私もきっと同じで、さぞ蕩けた顔をしているだろう。
「アイ、いいか?」
「うん」
彼の問いに頷くと、手を引かれて彼の部屋へと向かう。部屋に入るとちょっと強引にベッドに押し倒された。あまり経験したことのない力強さに胸が高鳴るのを感じる。
「すまん、今日は止まれないかもしれん」
「いいよ。君がしたいこと、全部してほしい」
私の返事を聞いて、彼の手が伸びてくる。その後の詳細は省くが、私の人生で最も幸せな夜だったのは間違いなかった。
アイさん「もう何も怖くない」
エッチなアイさんと嫉妬するアイさんを雑に書こうと思ったら、なんか勝手にアイさんが病み始めたのでどうしようってなってました。収集付けるのに時間がかかった。
本当はワークショップ関連の言及まで書こうと思ったけど、流石に分量増えすぎたので次回に。
ちょっと校正自信ないので追記とかあるかもしれない。