星野アイを救いたいだけのお話   作:でぃあ

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オリ展開極まってる。

評価感想よろしくオナシャス。


018

葬儀の翌日から片付けや手続きに追われる日々が始まる。

 

俺も社長もしばらくは休養を取るべきではとアイに伝えたのだが、それを断ったアイは母親が亡くなったという感傷に浸ることもなく仕事と後片付けに邁進することになった。そんなわけで、学校を休んで事務所に顔を出した俺とアイは今後について社長たちと話し合っている。

 

「とりあえず職場に行って私物を引き取ってこようかと」

 

「お葬式の時に少し話したんだけど私物はまとめておいてくれるって言ってたから、この後電話してちょっと行ってくるよ」

 

「わかった。車が必要な時は遠慮なく言えよ?」

 

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

「そんなに量多くないらしいから、今日は大丈夫そうだけどね」

 

本来ならばこういった手続き関係は保護者がついてくるのが望ましいのだが、アイが「できることは自分でやるから大丈夫」と言いだした。流石にそれはと社長もミヤコさんも手伝いを申し出たものの、アイはお母さんのことだからと頑として譲らない。

 

どうしてそこまでとミヤコさんが問うと、少しの間だけでもお母さんと向き合いたいという返事が返ってきた。こう言われてしまえば俺たちにはどうしようもない。

 

社長夫妻の視線が俺に向いたが、俺は口を開かず沈黙を貫いたまま顔を横に振る。こういう時はある程度本人の自由にしてもらったほうが精神的に楽になることを前世の経験から理解していたからだ。

 

結局、俺が付き添うことを条件に社長夫妻が折れて先程の会話に繋がった。二人は忙しい立場だがアイの戸籍上の両親という立場でもあるし、この状況で何もしないわけにはいかない。俺もアイも高校生で車の運転ができない以上、部屋の片づけなどで荷物を運ぶ必要があるので遠慮なくお世話になることになった。

 

「昼には戻ってくるのか?」

 

「うん。午後は撮影あるでしょ?」

 

「……なあ、アイ。今日の仕事、本当に出るのか? こんなことがあったんだ、しばらくの間休んでも流石に文句は言われないぞ」

 

「それはダメだよ。今日の撮影はB小町じゃなくて私だけなんだから先方に迷惑がかかるし。それに、当日にキャンセルなんてしたら社長だって困るでしょ?」

 

「それはそうなんだがな……」

 

弱々しい社長と元気そうなアイ。態度が逆な気がしなくもないが、まあこんなもんかとも思ってしまう。誰かが亡くなった時、気を遣うのは基本的には周りの人間なのだから。

 

「私は大丈夫だから。遠慮なく仕事バンバン入れちゃって!」

 

――大丈夫、かぁ。

 

昨日も何度か聞いた言葉ではある。

 

一見すれば今のアイは精神を大きく崩すほどのダメージを受けているようには見えないし、社長にもそう見えているからこそ無理に仕事を休ませようとせず気を遣うだけになっているのだろう。

 

しかし、星野アイという少女は嘘をつくのが本当に上手で、仮面を被られるとその感情を察することはとても難しい。長年見てきた俺でも今のアイは結構無理をしているということくらいしかわからないのだ。

 

だからと言って無理矢理にでも休ませればいいかと言われるとそうでもないだろう。親が亡くなって一週間も経ってない中で必要なことをするにあたって無理をしない人間がいるとは思えないし、仕事や作業に逃げたい時だってあるはずだ。

 

メンタル的には相当にきついだろうが、少なくとも感情を取り繕う余裕がある以上、無理をしているのを察して気遣いすぎては逆にアイの負担になってしまうだろう。

 

なので、結局本人が望むようにするしかないのだが、何がきっかけで危うい精神が崩れるかどうかはわからないので可能な限り側に居ようとは心に決めている。これから遺品整理などもあるし、何か揺さぶられるようなものを見てしまったら理性と嘘によってかろうじて保たれている危うい均衡は一気に負の方向に傾いてしまうだろう。そんなときに側に居て、感情を受け止める相手になるのが俺の仕事だ。

 

そんなわけで、ある程度話を付けた後、社長達の心配そうな視線を受けながらも事務所を出てアイの母親の職場へと向かう。

 

到着すれば話の通り私物はまとめられており、量も少なかったので背負ってきたリュックに全て収まってくれて助かった。事務所から拝借してきた菓子折りを渡してお礼を言うと、聞きたいことがあれば何でも話すのでいつでも来てくれとありがたい言葉を頂戴したので、改めてお礼を言って職場を後にする。

 

「なんかさ、妙に親切だったね」

 

「そうだな。アイが未成年ってのもあるかもだけど、きっとアイのお母さんが真面目に働いていたからじゃないかな」

 

「だね。話は少し聞いてたけどさ、あの対応見ると事実だったんだろうなーって実感したよ。ホント、私の覚えてるお母さんと全然違う」

 

そう言って、アイがはぁと溜息をついて俯いたので頭を撫でる。すると、感情を押し殺したような声でポツリと呟く。

 

「私、お母さんのこと全然知らないなぁ」

 

アイが母親と最後に会ったのは五年前。それだけの時間があれば人間は十分変わることができてしまうだろうし、アイの母親が世間一般で言うまともな人生に軌道を修正できたのは間違いなさそうだ。でも、それならばどうして娘に会いに行かなかっただろう。

 

今更顔を出すことはできないと思ったのか。それとも、本当にアイのことを愛していなかったのか。

 

「まあ、近いうちに部屋の片づけに行かなきゃならないから、そこで何かしらわかるかもしれんな」

 

「そう、かもねぇ……」

 

結局、直接話を聞く機会は失われてしまったために遺品を探すことでしかアイの母親がどういう生活をしていたかを窺うことはできない。倒れた時に持っていた携帯電話は遺体を引き取った時に一緒に受け取ったが、ロックがかかっていたために中身を見ることはできなかった。部屋に日記か何かが残っていればいいのだが、何もなければ携帯会社やそれ専門の業者に依頼する必要があるだろう。

 

と、そこまで考えていたところで視線を感じて周囲を見れば、通りすがりの人がこちらに視線を向けているのが視界に入った。歩道で女の子の頭撫でてればそりゃみられるわな。

 

「アイ、見られてるから、そろそろ」

 

「えっ……? あっ!」

 

そう言ってアイが俺から離れる。思わず撫でてしまった俺が悪いなこれは。

 

「すまん、自然と頭撫でてた」

 

「ううん、それはいいんだけど……」

 

恥ずかしがってるアイさんかわいいけど、今はちょっとそういう感じの状況じゃないのよね。慌てて変装用の帽子を被り伊達眼鏡を装着したアイを促すように口を開く。

 

「まあ、ここで止まってても時間がもったいないし次行こうぜ」

 

「うん。次、区役所だっけ? 結構混むって聞いたし、急ごうか」

 

「役所の昼はホントになぁ……」

 

本当にめちゃくちゃ混むからね。窓口担当の人にはお疲れさまと心から言いたい。

 

大した荷物を持っているわけでもないが一々駅まで歩くのも面倒なので、時間がもったいないとタクシーで区役所まで移動する。

 

区役所に入れば案の定それなりに時間がかかりそうな人数が順番待ちをしていたので、先に整理券を取ってから必要な書類を記入していく。

 

書類を書き終えた後、幸運にも椅子が空いたおかげで二人並んで腰を下ろすことができた。ぼんやりと暫く待っていると、携帯をいじるのに飽きたのか暇を持て余したアイが俺の手を取ってにぎにぎとしてきた。なんとも可愛らしい行いだ。

 

応じるようににぎにぎと返すと、頭の上に音符を出すようにご機嫌になったアイさんが少しだけ空いていた隙間を詰めて俺に寄りかかってくる。子供かな? 子供だったわ。

 

「周り、人いっぱいいるんだが?」

 

「変装してるから大丈夫でしょ」

 

「それは、そう……なのか?」

 

「携帯見てても暇だしさ、ちょっとくらい良いでしょ」

 

ぱちりと伊達眼鏡越しにウィンクしながらそう言われたので俺は頷くしかない。はい。アイさんがそう言うなら喜んで。

 

こうやってアイを見ていると実に普段通りの様子で本人の言うように大丈夫だと思えてしまう。しかし、空元気ということもあるので本当に難しい。

 

俺も親を亡くした経験はあるが前世は独り身で、親も死んでも仕方ないと思える年齢だったから特別誰かを気遣うようなことは無かったし、今世では両親が亡くなったのは物心がつく前のことだから当然そういう対応などする機会は無い。

 

前世で会社の上司や部下の親が亡くなったことはちょいちょいあったけどそれはあくまで会社の付き合いで、アイの様に家族同然の人との出来事じゃないのだ。

 

前世で家庭を持たなかったことがここで響くとは思わなんだ。何とか上手くフォローできればいいのだが。

 

「ううむ」

 

「どしたの? 嫌だった?」

 

「うーん、人生経験の足りなさを嘆いてた」

 

「……翔君さぁ、本当に唐突に変なこと言うよね」

 

ぐうの音も出ないわ。その後、アイを意識してなかった罰として腕を絡められました。流石に恥ずかしかったが、待っている間アイさんのご機嫌は良いままだったので良しとする。

 

 

 

 

 

しばらく経って俺たちの順番になったので窓口に行き、書類と欲しいものを伝えた後再び椅子に座って待っていたが、そこで再び窓口に呼ばれたので行ってみるとアイの母親の本籍地は東京ではないということが分かった。

 

「本籍地か。アイ、わかる?」

 

「まず本籍地が何かから説明をお願いしたいね」

 

「ですよねぇ……」

 

そりゃ本籍なんて高校生には馴染みないわな。

 

アイは斉藤夫妻の戸籍に入っているので東京で取ることができるようだが、アイの母親の分は本籍地からの郵送という形になり、また死亡届が反映されるのもこの場合は一週間くらいかかるので今すぐには手続きできない可能性があるそうだ。そういえば死亡届の提出は業者さんがやってくれたからなぁ。

 

「二度手間になるか。すまんアイ、ちゃんと調べておくべきだった」

 

「いや、仕方ないでしょ。私もお母さんが地方から出てきたなんて知らなかったし……」

 

まあ書類に関しては急ぐ話ではない。結局、アイの分だけ書類をもらって今日は帰ることになった。

 

料金を払って書類を受け取った後、ちょっと見てみたいとアイが言うので中身を確認してみる。

 

「へぇ、戸籍ってこんな感じなんだ。これどこ見ればいいの?」

 

「えっと、ちょっと貸してもらってもいいか?」

 

「うん」

 

渡された謄本を眺めてみる。アイの母親は予想通り結婚していなかったようで父親の記載がない。これは想定していたことだからまだよかった。しかし、最後の最後にこの書類はでかい爆弾を投げつけてきたのだ。

 

社長を筆頭にした戸籍謄本。その一番後ろに書かれているアイの名前。出生の下、養子縁組とあるその欄に書かれた従前戸籍の部分に記されていたもの。

 

その文字列が目に飛び込んできた瞬間に、俺は愕然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

「宮崎県、高……千穂……?」

 

 




アイが神様に見つかった理由を自己解釈してみた結果こうなった。
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