○ビー「絶対に殺してやる」
いい奴だったよお前ら。
評価感想お気に入りよろしくお願いします。
小走りに部屋を出ていくアイを見送りながら、ついに来たかと、俺はそんな感慨に浸っていた。
原作でアイが吾郎と屋上で会話をした時に五か月の段階で寒い季節だったようだから、時期的には夏になる今頃が妊娠したタイミングなのだろう。今さら原作の設定通りにいくわけはないとは思うが、やはりここら辺は設定と言う名の道に引き寄せられているのかもしれない。
しかし参った、完全に油断してたわ。アイが妙にしおらしくしていたから、一つからかってやろうとぶっこんでみたらぶっこみ返されてしまった。
とはいえ困ったわけではなくて、むしろそういう対象として俺を選択してくれたことが嬉しくてしゃーない。アイとはそういう関係ではあるし将来のことも話してはいたけど、やっぱりああやって明確に言葉にしてくれるのはとても幸せなことだ。
本当によくここまでの関係を作ることができたとつくづく思うわ。アイと友人関係になった頃は年頃の女性の扱い方なんて全く分からなかったからなぁ。徐々に慣れてきたけど恋人としてアイを満足させれている自信はないし、正直俺よりもいい人がって思いは今でも多少はあったりする。でも、ああやって伝えてくれたのだからしっかり返さないとな。どれだけ悩む時間あったかって話でね、こっちは既に覚悟完了してるんですわ。
座布団の上で改めて仏壇の方を向いてもう一度手を合わせる。
――頼りないかもしれませんが、何とか娘さんを幸せにできるように頑張ります。どうか見守ってやってください、星野あゆみさん。
写真に対して一礼した後、立ち上がってアイが作業しているであろう台所へと向かう。話しかける前にこっそり覗いてみるとアイが花瓶から花を抜いて中を洗っていて、その様子は特に変わったところがあるようには見えない。だが、あえて足音を立てて中に入るとこちらを向くことはなかったが、まるで怯えるかのように身体を一度びくりとさせた。
「アイ」
そんな様子を見て、ゆっくり近づいた俺は後ろからアイのお腹に腕を回す。そうするとアイが動きを止めて口を開いた。
「ごめんね、急に変なこと言っちゃって。翔君があんなこと言うからお返ししようと思ってさぁ」
表情はこちらから伺うことはできないが、まるで冗談を言うようにアイは明るく言葉を紡いだ。本当に冗談のつもりならそれでいいんだけどさ、きっとそうじゃないだろうってのはわかっているので真面目な声で必要な一言だけ口にする。
「俺は、いいよ」
「え?」
俺の言葉にアイは持っていた花瓶を置いてからぽそりと呟く。
「ほんと……?」
「覚悟はできてる」
「そっ、か……」
そう言うと、アイがくるりと反転して俺の背中に腕を回す。そのまま俺の胸に額を押し付けたアイは何も言わなかったが、すぐに顔がくっついている部分に湿り気を感じたのでゆっくりと頭を撫でた。
静かに涙を流すアイを暫くの間慰めた後、びくりと身体が震えたのを感じたのでリビングのテーブルへと移動を促す。そして、二人対面で腰を下ろした後に俺は少しばかり躊躇いつつ口を開いた。
「まあ、子供を作るのは俺としては問題ないんだが」
「うん」
「事前に話しておかなきゃいけないことはあるので、怒らずに聞いてほしい」
アイが頷いたのを見て話を切り出す。
親権は戸籍上の両親である斉藤夫妻が持つことになること、アイドルをやる以上もしかしたら結婚ができないことなどの制度上の問題。アイはまだ十五歳であるから身体が成長しきっておらず、身長は百五十一センチとどちらかと言うと小柄な方であるから恐らく妊娠すること自体に危険があること。それに伴って今の年齢なら子供をうまく産めない可能性があることまで俺はあえて踏み込んで話したが、その最中アイはじっと俺を見たまま真剣に聞いてくれていた。
「……とりあえず、言うべきことはこんな感じだ。詳しくは産婦人科のお医者さんと相談するべきだとは思うけど、恐らくやめた方がいいとは言われると思う」
「うん。きっと、そう言われるよね」
現代において十五歳――今妊娠したら十六歳か――で子供を産むことを推奨する医者などいないだろうから当たり前の話だ。ただ、話を聞いてもなおアイの瞳は力強い意志を持っており決意は変わっていないように見える。
「翔君は、正直に言えば反対寄りなの?」
「いや、さっきも言った通り覚悟はできてるし、アイが本気で望むなら俺も賛成する。ただ、やっぱり身体のことはな、俺が産むわけじゃないからな……」
こと妊娠出産の過程において負担のほぼ全てを負うのは女性。十か月間お腹で子供を育てるのも、つわりや苦痛に苦しみながら子供を産むのもアイであって俺ではない。俺ができることなど不自由になるだろうアイの生活サポートくらいしかないのだ。
「アイに何かあったらと思うと、怖いよ」
原作では無事に出産できたが、ここまで状況が変わってしまうと何が起こるかわからない。神様がアイのことを見ているのは間違いないだろうが、もし万が一のことがあったらと思うとどうしても不安になる。
背もたれに寄りかかり、上を向いて溜息をついた。どう考えてもアイ自身の方が怖いはずなのに情けないことだ。
そんな俺を見て、アイは立ち上がると俺の方まで回り込んで後ろから抱えるように俺の頭を胸元に寄せた。
「だいじょーぶだいじょーぶ! 絶対何とかなるって!」
それは科学の発展の犠牲になりかねないのでやめてもろて。三分の一とか踏みたくないぞおい。
とはいえ俺を上から覗き込むアイの表情は笑顔そのもので、無事に産むことができると確信しているような感じだ。ならば俺がこれ以上何かを言ったところで結論が変わることはないのだろう。ここからはもう大丈夫と言うアイの言葉と神様を信じるしかないのかもしれない。
諦めた俺はもう一度だけ溜息をついた後、アイを見上げて口を開いた。
「じゃあ、俺もサポートするから頑張ろうな」
「うん!」
「でもさ、アイは怖くないのか? その、出産の時とかすっごい痛いだろうし……」
「うーん。そうだね……」
俺の問いに、アイは少しだけ考え込んでから答える。
「実を言うとさ、絶対に大丈夫っていう確信みたいなものがあるんだよね。なんかわかんないけど」
「確信なのにわからないとはこれ如何に」
「なんかねー、さっき翔君が覚悟はできてるって言って抱きしめてくれてた時にさ、大丈夫だぞーってどっかからピピっときた? みたいな?」
「ん?」
流れ変わったな。急にシリアスからオカルトにベクトルが変わったぞおい。それ絶対神託とかそういう系の電波受信してるやん。確かにこの世界は神様の類が存在する世界だけどさぁ、こうやって身近な人に電波飛ばしてくるの怖い……怖くない? 宇宙的な恐怖とか感じてSANチェック食らったりしないかな? 直葬は嫌なんじゃ、アイにされるならいいけどさ。
正直話を聞く前より不安が増した気がしなくもないけど、きっとメタ的には大丈夫なんだろうねこれなら。怖いけど。
「……神棚でも買っておくかぁ」
「神頼みってこと? まあ、それも意外とありかもね!」
八月には高千穂行くし、その時にでもアイと一緒にお参りしてお守りとかお札買ってこよう。アイのことを守ってくれるならいくらでも拝むし賽銭入れるわマジで。口座に山ほど眠ってる諭吉さんにご登場願おう。
そんなことを思いつつ、ご機嫌なアイさんが俺の頭をぎゅっと抱きしめたので後頭部に当たる胸の柔らかさを楽しみながらされるがままになっていると、何かを思いついたようにそういえばとアイが俺に問いかけた。
「ねぇ、翔君。さっきすごく詳しく説明してくれたけどさ、一体いつあんなこと調べたの? 私が赤ちゃん欲しいって言ったの唐突だったと思うんだけど、事前に調べてまとめてないとあんなに詳しく話せないよね?」
「ん? あー、そうだな。最初に調べたのはアイと付き合い始めた頃だから、中学に入学した時くらいかな?」
アイの問いに素直に答える。あの当時は何が何でも原作との違いを何とかするために答えを出さないとって足掻いてた頃だったからなぁ。今はもう本当にどうしようもねぇって諦めてアイが無事ならいいんじゃってなってるけど。
「へ、へぇ~? そんな前から調べてくれてたんだ?」
「うん。ってどしたん、そんなニマニマして」
俺の回答が何やらアイの琴線に触れたようでなんかすんごい頬が上がってる。私の機嫌が有頂天って感じのすっごい笑顔してますよアイさん。
「んふ、んふふ……」
今度はあかねちゃんみたいな笑い方しだしたぞ、なんか怖い。俺の頭もげるんじゃないかってくらいギュっとされてるし、何なの何なの。
「翔君ってさぁ、付き合い始めた時から私と子供作ろうって考えてたんだー」
「ぬっ!?」
「私はまだ中学生だからピュアなお付き合いしようって思ってたのに、翔君はそういうこと考えてたんだねー。えっちだなー!」
――妙にニヤニヤしだしたと思ったらそういうことかよぉ!
ピュアってなんだピュアって。くっついてきて誘惑してたのそっちじゃんか! 毎日毎日抱き着いてきて顔近づけてきてさぁ、可愛いし、良い匂いだし、柔らかいし、我慢するの大変だったんですよ!? 同棲始めたら一瞬で崩壊したけど。ベッドの中で誘惑されるのは流石に無理でした。それでも愛してるって言ってもらえた時までは頑張ったけどね!
何か言い返そうと少しだけ考えたが、ここはぐっと我慢すると決めた。
方向性や動機が全く違うとはいえそういうこと考えてたのある意味事実だしなぁ。結局手を出したのは俺なので何も言い訳できねぇわ。これでワイは当分アイさんのおもちゃにされることが確定してしまったんや……。
つれぇわと思いながらも上を見れば、ご機嫌至極といった感じのアイさんが笑顔満面でこちらを見ていたので手を伸ばして頬に触れる。
――まあ、最近辛いこと多かったしこんな笑顔見れるならいいか。
アイが幸せそうにしてるのが一番大事だからね、思う存分おもちゃにされることとしよう。
「でも嬉しいな。そんなに前から将来のこと考えてくれてたなんて」
「そりゃな。聞いてたろ? 幸せになってほしいって」
「……懐かしいね」
目を閉じて俺の手に頬ずりするアイさん。他愛のないやり取りではあるけど、こういうので毎日幸せだなーって思えるからなぁ。愛おしいって心から思うわ。
「ねぇ、翔君」
頬ずりを止め、目を開けてこちらを見たアイの瞳には星の輝きと色が宿っていた。参ったね、この視線に俺は逆らうことはできないんだわ。
アイの声に促されるように立ち上がると、彼女に先導されるように俺の部屋へと向かう。どうやら今日の休日は長いものになりそうだった。
ここからはアイさんがひたすら幸せになるだけの物語だから気楽に書けますねぇ!
やべー出来事はオリ主が腹刺されるくらいだから何の問題もないな!
改めて高評価感想お気に入りよろしくね。