星野アイを救いたいだけのお話   作:でぃあ

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一日で書ききれたので更新だぁ!!!!

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子供を作ることを翔君に同意してもらった翌日、私たちは午後の授業をサボって一足先に事務所へと向かうことにした。下校時間にはまだまだ遠いので時折スーツを着た人とすれ違うだけの人通りのない通学路を二人のんびりと歩いている。

 

昨日は一日中たっぷりと愛し合ったおかげで私は元気一杯なのだけれど、隣を歩く翔君はどうにも覇気がない。疲れが残った表情を隠さないままに時折腰を抑えたり擦ったりしている。

 

授業中もすごく眠そうにしてたし歩く速さも普段よりかなり遅く、なんか背筋も曲がり気味でよぼよぼのおじいちゃんみたいな歩き方だ。普段よりも小さく感じる身長差に新鮮味を感じつつも、とても辛そうな様子なので私は下から窺うように尋ねてみる。

 

「翔君、大丈夫ー?」

 

「大丈夫じゃないです」

 

即答されてしまった。

 

「お前、昨日どんだけやったと思ってるん」

 

「でも、スッキリしたでしょ?」

 

「しすぎたのでこれからは加減をお願いしたいですねぇ本当に! 心から!」

 

まあ確かに昨日は求め合ったというよりちょっと私が一方的に盛り上がってたって感じかも。なんだかんだで朝から晩までずーっとくっついてたし。でも赤ちゃん作っていいって言われたんだから仕方がないよね。

 

「まあ予行演習だよ、予行演習。これから頑張らなきゃいけないしさ!」

 

「演習で殉職しかねないからやめてもろて……」

 

「殉職は流石に困っちゃうなー」

 

翔君がいないと私一生子供作れなくなっちゃうからね。

 

「それよりも、アイさんはなんでそんなに元気なんですかねぇ。身体とか大丈夫なのか?」

 

「ぜーんぜん問題なし」

 

「あんなにしたのに?」

 

「うん。不思議だよねぇ」

 

回数が増えると普通は女の子の方が辛くなるとは思うのだけれど、何故か痛みも疲れも全くないんだよね。ホント不思議な話だけど、これからは回数もこなさなきゃいけないからちょうどいいかもしれない。

 

「まあアイが大丈夫ならいいけどさ……。あんま無理しちゃだめだぞ、焦る必要はそこまでないだろうし」

 

「そうだね。どっちにしろ社長とミヤコさんに許可もらわないといけないし、一応今日もお薬飲んでるもん」

 

「うん。やっぱ最低限筋は通しとかんとなぁ……」

 

「だね。――気合、入れないと」

 

「ほどほどにしてやってな」

 

「そういうわけにはいかないよー」

 

昨日合間合間の休憩がてら今後の流れを色々と相談したのだが、子供ができてから報告ってのはちょっと違うと思ったのと、翔君もその方がいいって言ってくれたので事前に社長とミヤコさんに伝えることにしたのだ。

 

――怒られるかな? 怒られるよねぇ、きっと。

 

翔君は注意事項以外は何も言わなかったけど社長とミヤコさんには立場もある。きっと怒られるし、困らせちゃうのは間違いない。

 

でも、それで諦められるようならハナから翔君の前で口に出してはいない。私が言い出したことなのだから私が説得しなければならないのだ。

 

――話すのは得意じゃないけど、頑張らないとね。

 

懸かっているのは私と翔君の将来。交渉の手札なんて持ち合わせていないのだから、感情そのままにぶつかるしかないのである。

 

――正直に、素直に、嘘はなし。

 

まずは自分の気持ちを偽ることなく素直に伝えてみようと思う。まあ、感情表現を盛りはするけど嘘をつくわけじゃないからね。

 

「ふふ、頑張らないとなー」

 

「社長もミヤコさんも不憫だよな……」

 

「何か言った?」

 

「いえ、何も……」

 

隣からの胡乱げな視線を受けつつ、脳内で話すべきことをしっかりと整理しながら黙々と歩く。気づけばあっという間に事務所の前で、普段は勢いよく開ける扉を今日はゆっくりと、少しだけ手を震わせながら開いた。

 

 

 

 

 

「いつかはこういう話がくるってわかってたけどよ……」

 

「ちょっと早すぎる気も……。いえ、まだ妊娠してないだけマシかもしれないわね……」

 

頭を抱える社長とミヤコさんに対して、背筋をピッと伸ばして真正面を向くアイ。そんな三人を見ながら黙って様子を窺っているワイ氏。アイが自分で話すというので傍観に徹しています。

 

子供が欲しいという主張と、それに伴う影響やデメリットを全て自分の口で説明したアイ。それを聞き終えてどうしたもんかと言いながら、はぁと溜息を吐いた社長は何とも力のない声で口を開く。

 

「お前も翔一もまだ未成年だが実質独り立ちしてるようなもんだ。子供を作っても不自由なく暮らせるだけの経済力もあるし、お前の保護者としての立場から言えば相手が翔一なら申し分ない」

 

社長の隣に座ってるミヤコさんもその言葉に頷いている。おう、そうはっきり言われると流石に俺も照れるね。嬉しいわ。

 

「でもな、アイ。お前まだ十五歳だぞ? しかもお前はアイドルなんだ、恋愛自由を標榜しているとはいえ男が居るってだけでも割とやばい。だってのに子供ができましたなんて、ばれたらB小町どころかうちの事務所が吹っ飛びかねんぞ。子供を作るなとも産むなとも言えんが、せめてもう少し大人になってからじゃダメなのか?」

 

懇願するように言う社長。まあ尤もな意見だよね、正直に言えばワイトもそう思います。でもねぇ、ここで引くようならアイさんは口に出してねぇんだよなぁ……。

 

「私もね、元々はそう思ってた。アイドルをしっかりやりきって、翔君が大学卒業して二人で安定した生活を手に入れられてから子供を作りたいって」

 

実に真っ当な考えだ。だが、そこでアイは「でも」と一度区切ってから改めて口を開く。

 

「でもね、お母さんが死んじゃって、私と血が繋がってる人は居なくなっちゃった。正確にはいるかもしれないけど、少なくとも私と関わろうとはしてくれなかった。それがとても――とても、寂しい」

 

「アイ、それは……」

 

「言っても仕方のないことだってのはわかってるんだよ? 今の私には常に側に居てくれる翔君がいて、いつも見守ってくれてる社長やミヤコさんがいて、一緒に進んでいける友達がいる。でも、それでもね、側に居てくれる人がいっぱいいるってわかってるのに、寂しいって気持ちがどうしても消えないんだ」

 

アイの言葉に社長は何かを言おうとしたが、口を数回パクパクさせただけだった。

 

「多分、この寂しさは生半可なものじゃ消すことなんてできない。翔君ならわかるんじゃないかな?」

 

「ん? 確かにそうだな」

 

アイがこちらを向いて会話を振ってきたので頷きを返す。

 

俺は慣れてしまったけど、その寂しいという気持ちはとてもわかる。前世はともかく今世では俺も親、親戚が一人もいない天涯孤独の身だからね。家族や親族ってのは居ればいるで面倒なんだが、いないとそれはそれで寂しいもんだ。まして親も死んだとなれば余計に孤独を強く感じるのよな。俺も無性に悲しくなって、アイと出会う前に盗んだバイクで走りだすならぬ掴んだ小銭で電車乗るってやった記憶があるわ。

 

久々に思い出した記憶に懐かしさを感じていると、アイは社長の方に向き直って言葉を続けた。

 

「私のこの感情を本当の意味で理解してくれるのは翔君しかいない。だから、私は翔君との絶対に切れない繋がりが今すぐにでも欲しい。翔君と一緒に家庭を作りたい。これが、今回子供が欲しいって思った理由だよ」

 

アイはそう言い切って、口を閉じた。

 

重い。本当に重い感情だとつくづく思う。正直に言えば、俺は今すぐにアイとの子供が欲しいかと言われればそういうわけではないし、原作のことを抜きにすれば家庭を作るのはもっと大人になってからでも構わないと、そう思っている。恐らくは母親が亡くなる前のアイの考えとほぼ同じような感じのはずだ。

 

だが状況は変わってしまったし、最愛の人にここまでの思いを向けられて受け止めないのは流石に男が廃るわ。子供なんて育てたことがないから不安はあるけれど、アイはもっと不安なはずだからね。繋がり? 上等だわ、一生離れてやらん。絶対にクソみたいな結果を覆してやるわ。全力で気張らせてもらいますよ。

 

アイの言葉に決意と覚悟を新たに、彼女と同じように背筋を伸ばして前を向く。社長とミヤコさんは無言のまま、時折視線を合わせながら考え込んでおり、片や横目でアイを見ればいかにも緊張してますって感じで口をぎゅっと噤んでいる。

 

何とも重苦しい雰囲気ではあるが、そんな中で俺はアイに対しての決意を新たにしつつもこの件に関しては既に結論は出たようなもんだろうなと楽観視していた。

 

何故かと言えば、隣のアイドル様が完璧な演技をしてるのがわかっているからだ。感情をぶつけて大人二人を盛大に揺さぶった後、孤独な少女を演じてます。土台に本音がしっかりとあるからかホントに堂に入ってるわ、事前に聞いてなきゃわからんなこりゃ。

 

俺も頑張って真面目な顔作ってるけど、ガチで頭悩ましてる目の前の二人ホントかわいそう。

 

個人としては保護下の未成年の娘、公人としては事務所の稼ぎ頭のグループの中心。そんな存在が妊娠出産と書かれた爆弾に今から導火線に火をつけていいですかと聞きに来たのだから、社長の心境たるや同情極まるものがある。

 

ミヤコさんにしても女性の立場から未成年で出産なんてことを実行しようとする子供は何としても止めねばならないと思っているだろう。

 

だが、そういう理屈を容易く覆すほどにアイの置かれた境遇は悲惨なものがあるのだ。

 

子供の頃から虐待を受けていた女の子がそれでもいつか会えると信じていた母を失い、寂しさのあまり最愛の人と家族を作ろうとしている。こんなストーリーを否定できる人間はそうはいないだろう。特に、義理人情に篤い人物――まさに目の前の二人のような――ならば逆らえる道理などありはしないのである。

 

――なんかこういうの前もあったなー……。

 

あの時は四人転がしてましたね。今も第三者目線で見ればさぞや感動の場面なんだろうけど、一人称で見るとこんなもんである。目標を決めたらそれに向けて容赦なく突き進むアイさんホントたくましいわ。

 

「一つ、聞いてもいいか」

 

しばらく無言の時間が続いた後、社長が絞るように声を出した。

 

「どうして、このタイミングで俺たちに打ち明けたんだ? 俺たちがここで断固反対するって可能性は容易に想像できたはずだ。それなら妊娠してから打ち明けた方がより確実に説得できただろう?」

 

社長の質問は至極当たり前のもので声は苦渋の響きであったが、こちらに向けられた視線は鋭かった。社長も、そしてミヤコさんも、ここでつまらない回答をすれば許さないと、そういった感情を視線に乗せている。

 

だが、そんな視線にアイが屈することは当然の如くあり得なかった。

 

「理由は二つあるよ。一つ目は、それが筋だと思ったから。私は社長にもミヤコさんにも散々迷惑をかけ続けてきたのに、それでも見捨てずに私を見守ってくれてた。そんな人たちに不義理なことなんてできないって思ったの」

 

「そうか……。それで、もう一つは?」

 

アイの言葉をしっかり受け止めた後、社長が続きを促す。

 

「実はこっちが最大の理由なんだけどね。――私の子供には、周りの人たちに望まれて生まれてほしい。そう、思ったんだ」

 

穏やかに笑みを浮かべ、しかし、その中に悲しみを含ませながらアイはぽつりと呟いた。

 

これは殺し文句だよアイ。絶対に逆らえんわ。目の前の二人は当然として、事前に聞いていた俺ですら思わず溜息をついてしまうほどにその言葉には重みがあった。

 

「……決まりね、壱護」

 

「そう、だな」

 

ミヤコさんの呟きに社長が力なく頷く。それを聞いて頭を下げると、アイも同じように隣で頭を下げた。これから少なくない苦労があるだろうが、それでも最大の味方を無事に得ることができたのは幸いだ。これで何とかなるだろう、アイは愛する家族を手に入れることができるはずだ。

 

安心した俺は隣に座るアイの手を軽く握ると、それに応えるようにアイも俺の手を握り返した。視線を合わせ少しだけ微笑み合う。そんな俺たちを苦笑いと共に社長夫妻が見守ってくれていた。

 

 




覚悟ガンギマリアイさんによる大人転がし(二度目

今回は結構サクサクかけたなぁ。そろそろ高千穂とワークショップを回収しないとですね。

改めてお気に入り感想高評価よろしくおなしゃす。
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