星野アイを救いたいだけのお話   作:でぃあ

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秘密組織の長になってエイリアンから地球を守ってたのでくっそ遅くなりました。

意見感想高評価よろしくお願いします。


027

何はともあれ一着目を早々に決めることができたので、続いて二着目をと再びドレスの群れへと向かい合ったのだがここからが中々に大変だった。

 

ドレスの大まかな種類だけでも一着目に選んだプリンセスライン以外に、Aやらエンパイアやらマーメイドやらと結構な数があるし、そこにさらに形や色などが分けられるのだ。ぱっと見ただけでも間違いなく五十着以上はあるし、貸出しているものも含めれば恐らく百着近くあるのではないだろうか。

 

一応それぞれ体型や髪形に応じて向き不向きのものがあるのである程度は絞れるとはいえ、それでも選択肢が三分の一以下に減ることはなかったと思う。その結果、時間を多めにとっていたことも災いして私はドレスの着せ替え人形になることと相成ったのである。

 

なんかスタッフさんのテンションが上がってこれはいかがですかってどんどん進めてくるからついつい私も乗っちゃったんだよね。そりゃウェディングドレスが似合ってるって目を輝かせながら言われたら私も悪い気はしないしさ、翔君もなんかすごい勢いで写真撮ってるし、ここまで旦那様が協力的だと私が妥協なんてできるわけがない。

 

翔君の好みは明らかに一つだけ写真を撮る回数がやたらと多いのがあってわかりやすかった。ミニがいいんだね、ミニが。気持ちはわかるよ。

 

けれでも結局は私の好みを優先してスレンダーラインにすることにした。一着目がふわっとした感じなので、二着目は細身の体格の人に似合うらしいすらっとしたものの方がいいかなと思ったのだ。実際に写真を撮って並べたらそれなりに映えるだろう、きっとね。

 

ちなみに翔君は普通のタキシードを着ることになったのだけど、普段からスーツを着ているからかばっちり似合っていた。流石だよね、私の携帯のフォルダにも戦利品がたっぷりと増えて大満足だ。

 

さて、そんな感じで衣装を選び終えて打ち合わせが終了したころには既に陽が落ちかけていたので、スタジオから手配してもらったタクシーで駅前のホテルまで直行。部屋に到着してようやく一息ついた。

 

「あぁー、ベッド柔らかいぃ……」

 

「いや、ほんとお疲れさん」

 

長距離のフライトからの着せ替え人形と、流石に少々疲労感を感じていた私は手荷物を置いてそのままの勢いでベッドにポスンと倒れこんだ。身体が一度ポンと跳ねた後に、うつ伏せのままホテル特有の柔らかいベッドに沈み込む。気を抜いたせいか疲れがどっと出てきてしまって、このまま目を瞑ったらすぐに意識が落ちてしまいそうだ。

 

「まだ寝ちゃだめだぞ。ご飯食べに行かんとな」

 

「起こしてぇ……」

 

「はいはい」

 

機内食を食べてから何も口にしていないからお腹はぺこぺこだ。身体のバッテリー残量は流石にちょっと心もとなくて、ここで食事をせずに寝てしまうと夜中に空腹で目が覚めてしまうだろう。とはいえ疲れた身体では起きるのも面倒だ。情けない声を上げながら声のした方に身体を傾けて手を伸ばし、翔君に腕を引っ張ってもらいながら立ち上がりそのまま彼に寄りかかった。

 

「お疲れだろうけど、もうちょっと頑張ろうなー。チキン南蛮とマンゴーが待ってるぞ」

 

「あー、今必要としてる栄養分全部取れそう」

 

疲れた身体にはカリっと揚がった鳥肉の脂とマンゴーの糖分がさぞかし染み渡ることだろう。立ち上がった勢いそのままに抱き着き軽く甘えて頭を撫でてもらった後、鏡の前で軽く衣服を整えて変装用の帽子と伊達メガネを身に着けてから部屋を出て街へと繰り出す。

 

「だいぶ涼しくなってきたね。でも、散歩するならこれくらいがちょうどいいかも」

 

「そうだなぁ、暑い中歩くのはきちぃわ」

 

流石九州宮崎と言うべきだろうか、陽が落ちたとはいえ半袖でも歩いていれば汗をかくくらいには気温が高いが、軽く散策するにはちょうどいいだろう。疲れていたし食事をするだけならホテルのレストランという選択肢もあったのだけど、せっかく宮崎に来たのだし少しくらいは歩いて回りたいのだ。

 

「前回来たときは何も見れなかったしなー、今回も時間はないけど駅前見るくらいはしたいもんね」

 

「そういや、帰ってきたとき随分とご機嫌斜めだったもんな。何も見れなかったし食べれなかったーって」

 

「そうだよ! ひどいよね、経費節約だーって言ってさ。宮崎まで来たのにご飯はコンビニだし空港と会場の往復しかしなかったんだもん」

 

「まああの頃は資金繰りがまだなぁ……。全国各地でやるライブの良い席のチケットを何故か東京で抽選するという暴挙もしてたし。全部はけたけど」

 

「社長も阿漕だよねぇ。でも何だかんだで客席結構埋まってたから驚いたけどさ」

 

「ちょうど名前が売れ出したころだからな。まだまだ地下アイドルとはいえCDやDVDの売り上げも伸びてきてるし、地方でも小さいライブハウスなら埋めれるだけの知名度は出てきたってことは良いことだわな」

 

「まさに今が売り時って感じだね。まあ、私一年くらい休養もらうんだけど」

 

「共犯の俺が言うのもなんだけど、本当に暴挙だと思うぞマジで」

 

「それはそう」

 

翔君の言う通りB小町の活動は極めて順調だ。そんな中で私が一年近く休養するのはいかがなものとは思わなくもないけれど、逆に今だからこそ社長も許可できたのかも。高く飛ぶ前には膝をかがめる必要があるわけだし。ま、私がいなくても一年くらいなら何とかなるなる。みんな実力あるし、私一人が高く飛んでも意味がないからね。

 

それに翔君だって暴挙とか言いつつも、私が進みたい方向に一緒に向いてくれてるし。ありがたいよねホント。

 

嬉しい嬉しいと機嫌が上り調子になってきたので隣を歩く翔君の腕を抱えるように腕を絡める。

 

「暑いが」

 

「暑いねぇ。でも、こんなことできるのきっと今だけだろうし」

 

「それは、そうかもなぁ……」

 

変装しているとはいえ、私はどうしても視線を集めてしまう。もし今後アイドル活動が順調に進めば仮に変装していたとしても翔君とこうやって二人で歩くことなんてできなくなるだろう。まして東京では絶対に無理だ。だから、今だけ。できることはできるときにやっておかないとね。

 

それからしばらく二人で歩いてから近場の定食屋でご飯を頂き、ホテルに戻ると早々にシャワーを浴びてトランクケースから引っ張り出した化粧品で肌や髪のお手入れを済ませる。

 

旅行先では流石に面倒な気持ちはあるのだけど、一日忘れたら取り返すのに一週間はかかるという気概を持ってやらないとすぐに妥協してしまいかねないからね。継続は大事なのだ。

 

手入れを終えると翔君も上がってきたので、二人でベッドの上に転がってテレビを見ながらいちゃいちゃしよう――と思ったのだが、疲れが溜まっていたが故か今日ばかりは先に眠気がやってくる。

 

「んー、眠い」

 

「慣れないことやると疲れるよな、テレビも面白いのないし寝るべ寝るべ。明日も早いし」

 

「明日六時半出発だっけ?」

 

「うん」

 

「早すぎるよぉ……」

 

「高千穂ってアクセスが悪すぎるんよな……」

 

宮崎から特急に乗って延岡駅まで行き、そこから路線バスに乗り換える。悲しいことに特急と路線バスの乗り換えも待機時間ががっつりあるので、七時前の特急に乗っても現地到着予定は十時半前である。タクシーで移動もありだが、果たして高千穂まで行ってくれる車があるかどうか怪しいところだ。

 

「じゃあ今日は大人しく寝ようかな……」

 

「そうしよう」

 

そう言うと翔君がテレビと室内灯を消したので、枕の位置を整えつつ普段と同じように翔君の隣にすっぽりと収まった。

 

「暑くない?」

 

「ちょっと暑いかもだけど、空調入れすぎると喉カラカラになりそう」

 

「ホテルって乾燥するからなぁ。まあ、ベッド広いし暑かったら離れてもろて」

 

「それはイヤ」

 

ダブルベッドで二人離れて寝るには十分な広さがあるけれど、家でもくっついて寝ているのに今更離れて寝るとか無理な話であるので当てつけるようにグイグイと身体を押し付ける。

 

「ホントに暑いんだが」

 

「じゃあ、ぬ、脱いじゃう?」

 

「さらに暑くなるな、それ」

 

「さらにって、もう、エッチなんだからぁ!」

 

やだもーとぺしぺし翔君の腕を軽く叩くと、動きを封じるように腕が背中に回されてグイと引き寄せられた。これは確かにちょっと暑いかもだけどやっぱりこれくらいの距離の方が好きだな。

 

視線を合わせてから一度だけ唇をちょんと触れ合わせてから、そのまま啄むようにキスをして、深いキスへと続いていく。その間に翔君の手がするりと私の胸元に入り込み、やわやわと優しく撫であげて私に甘い刺激を与え続けた。

 

そんな甘い時間が暫し続いた後、唇が離れてから自分でも蕩けていると自覚してしまうような声で彼の名前を呼ぶと、翔君は今日はここまでとすっと身体を離した。

 

「しないの?」

 

「朝早いから。続きは明日の夜にな」

 

「むぅ……。明日いっぱい可愛がってくれるなら我慢してもいいよ」

 

「そこは楽しみにしといてくれ。明日は俺も我慢しません」

 

高千穂では何やらいい旅館を取ってくれているようなので、それを考えればここで我慢して疲れを取っておくのも悪くないかもしれない。じゃあ仕方ないかと、素直に諦めて寝巻を軽く整えてから再び翔君の横に入り込み最後のもう一度だけキスをする。

 

「ん、おやすみ」

 

「おやすみ、今日は綺麗だったぞアイ」

 

もう、寝る前にそういうこと言うんだ、ずるいよね。

 

嬉しさとちょっとばかりの恥ずかしさを感じて顔を翔君の胸に押し付けると、薄い寝間着ゆえか身体の熱がダイレクトに伝わってくる。慣れ親しんだ暖かさを感じたが故だろうか、安らぎを感じ触れ合いによって消えかけていた眠気が再び湧き上がってきたので、今度ばかりはそれに抵抗することなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

旅行二日目。昨日大人しく早めに寝たことで寝坊することはなく、朝の準備を終えた後も余裕をもってチェックアウト、駅のコンビニでご飯と飲み物を買って特急に乗り込むことができた。

 

一時間半ほど電車に揺られて延岡駅に着き、しばし待機してからバスで再び一時間半。数年前ならば延岡から高千穂まで電車が通っていたようなのだが、台風で被害を受けた結果廃線になったようだ。母も乗ったであろうその電車に乗ってみたい気持ちもあったのだけれどこればかりはどうしようもないので、翔君と並んで座りながらバスの中から景色を楽しむ。

 

高千穂は九州のど真ん中ということで一体どれくらいの山奥なのだろうと少々不安だったのだが、バスが走る国道沿いは集落が多く地図上で見るよりは意外と開けているなという印象を持った。それでも東京では見れない風景ではあるのだが。高千穂に到着したのは十時半になるころで、バスを降りるとここが母の故郷なのかと感慨深くなりつつも、素直に思った言葉を口にした。

 

「うん、わかっていたけど田舎だね!」

 

「ここら辺が中心街らしいが、まあ田舎だな」

 

バスセンターがあるところだからここが中心街に近いのだろうが、少なくともチェーン店の類は見当たらない。移動の拠点ということもあってかトランクケースを持った観光客が何組か見て取れるが、賑わっているという感じではなかった。

 

翔君が事前に一日利用で予約しておいてくれたタクシーは既に来ていたようなので、早速宿泊予定のホテルへ向かい荷物を置いてから、改めて最初の目的地であるお寺へと足を運ぶ。

 

住職さんには事前に話を通していたので名乗って軽く話を聞いたのだが、母はそこまで信心深くなかったようでここに来たのも覚えている限りで数回ほどだそうだ。その後は私の祖父母が入っているであろう永代供養墓に手を合わせてから、機会があったらまた来ると伝えて寺を後にする。

 

「随分あっさりした感じだったけど、もういいのか?」

 

「うん。確認はできたし、正直会ったこともないから……」

 

祖父母ないしその前のご先祖様とはいっても、一度も話したことがなければ中々実感がわかないからね。ここで供養されているって記憶しておく必要はあるかもけど、恐らくそれ以上ではないと思う。

 

「じゃあ次行こう」

 

「おう、次はお母さんの実家があったところだな。近所の人に話は聞いてみるか?」

 

「うーん、まあ行ってみてから決めようかな」

 

そう言いつつタクシーに乗りこみ次の目的地へ。母の実家があった場所は変哲もない普通の住宅街で、事前に登記簿で確認していたので知ってはいたのだが家のあったであろう場所もすでに新しい家に建て替えられている。

 

タクシーから降りて周囲をぐるっと見渡してみたが、正直に言えばここなんだなという以上の感想が沸くことはなかった。私にとっては初めて来る場所で、見覚えすらないしただの住宅街にしか見えないのだからこればかりはどうしようもないのだろう。

 

「前の家が残っていれば良かったんだけどなぁ」

 

「うーん……」

 

確かに家が残っていれば少しは思うところがあったかもしれないが、それでもやはりそこまで興味を持てたかは怪しい。

 

――随分と薄情なもんだね、私も。

 

余裕があれば周囲の人にここに住んでいた人たちはどんな感じだったかを聞いてみる予定ではあったのだが、見知らぬ人をいきなり尋ねるのは正直気乗りがしない。とはいえ次に来る機会など一体いつになるかわからないので、躊躇いつつも隣の家のインターホンを押す。

 

それから周囲の家を何件か回ってみたのだが、在宅していた方は未成年二人が訪ねてきたということで丁寧に対応してくれた。とはいえ何かしら特別な話を聞けたわけではなく、しいて言うなら母は幼いころから都会に憧れていたようだというのを知れたことくらいだろうか。両親を亡くして土地や墓などを片付けて高千穂を出てからはそれ以来一度も母を見かけたことはなかったとのことだし、親類縁者の類も居なかったので本当の意味で高千穂との縁は切っていたようだ。

 

「なんというか、ある程度想像できてたことしか聞けなかったって感じかな」

 

結局、二時間ほどかけて行った聞き込みの結果で得た結論はこれに尽きた。タクシーの中でそんなことをぽつりと呟くと、翔君が心配そうにこちらを見てから言葉を紡ぐ。

 

「まあ、実際に聞いてみるのと想像してるのではやっぱ違うからな。意味はあったとは思うが……」

 

「そうだね。本当にそれはそう。でも、ちょっと残念だったかな。確認はできたけど、得たものは何もなかったって感じ」

 

結局星野の家のことも、母のことも、ある程度わかっていたことを只々確認だけして終わってしまったという状況だ。何か一つでも面影があればよかったのだけれど、残念なことに何が面影なのかすらわからない。

 

「仕方ないよね。私が生まれる前のことなんだし」

 

少なくても十五年以上前のことだし、まして縁者の類も居ないのであれば何かが残っている方が奇跡というものだろう。

 

「まあ、もう来ることはないんだろうな……」

 

もしかしたら高千穂には来ることがあるかもしれないけれど、少なくとも母の実家があった場所に行くことはもう二度とないだろう。そんなことを思ってしまったからか、もしくは現状を知ってしまったが故なのか、埋まるはずだった心の中には空間ができてしまっていてどうにも寂しさを感じてしまう。そんな私の様子を見て察したように翔君が私の肩を優しく引き寄せたので素直に寄り掛かった。

 

肩に頭を乗せると慰めるように優しく撫でてくれて、本当に一人で来なくてよかったと心から思う。これで母に関する要件はすべて終わったのでここからは観光の予定が入っていたが、流石にこのままの精神状況では楽しめる気がしなかったので一度心を落ち着かせようと、翔君に身体を委ねながらゆっくりと目を閉じた。




ついに高千穂入り。次回は待望のSANチェックです。

改めて、意見感想高評価よろしくお願いします。
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