星野アイを救いたいだけのお話   作:でぃあ

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遅れた原因は二期が始まって注目度が上がってから投稿しようと思ったからです

決してウイニングポストにハマって一日十時間とかやってしまった結果、書く時間がなくなったからではないんです


一度は書こうと思っていたB小町メンバー視点の閑話
今回は新野冬子さん視点です


閑話01

――何とまあ、随分と可愛い子連れてきたもんだわ。

 

社長に促されるように恐る恐る練習場へと入ってきたとんでもない美少女。強面のヤクザ崩れに無理矢理連れられた被害者、というのが私が星野アイに対して持った初めての印象だった。

 

「えっと、星野アイ、です。よろしくお願いします」

 

自己紹介とともに頭ぺこりと下げた美少女、四人目のメンバーとなった星野アイに対しての対応はまあ至極当たり前のもので、年齢が高峯と同じで一番下というのもあってか可愛い可愛いと褒めながらちょこちょこと他愛のない会話をしていく。やり取りをしてやばいやつという感じはしなくて一安心はしたが、何となくではあるが普通の人よりも警戒心が強い印象があった。

 

アイの境遇を知った今思えば当たり前のことだろうとは思うのだが、その当時は容姿に対しての対抗心もあったのだろう、なんか澄ました子だなーとちょっとした反発心を感じたのを覚えている。これは他の二人も同様で、どうなるかなと帰り道に気持ち不安気に話したことも記憶に残っていた。

 

アイドルグループ『B小町』はアイが加入してすぐに活動を開始したわけだが、当然のように順風満帆のデビューとは当然いかなかった。しかし、随分と個性あるメンバーが揃ったのもあってか出だしこそ資金面に問題を抱えていたためスロースタートとなったが、半年も経つ頃には地下アイドルでもそこそこ名前が売れるようになっていた。社名を社長の名前から取った苺プロなんていうちゃちい零細プロダクションが抱える唯一のアイドルグループとしては順調な滑り出しをしたと言えるだろう。

 

しかし、その順調さとは裏腹にグループの内部では徐々に不和が生じてくる。原因は社長が既に頭角を現しつつあったアイを前面に出して売り出す方針を取ったからで、それはその頃に発表された楽曲でアイが歌うパートがかなり多かったことからも窺える。苦しい懐事情で形振り構っていられなかったというのはわかっていたが、理解できるのと納得できるのは話が別である。

 

アイドルなんてものをやろうとするのだから私たちはそれなりに自分の容姿や愛嬌、さらに言えば才能に自信があるのだ。だというのに自分たちをまるでバックダンサーのように扱うのだから不満が生まれるのは仕方のないことだろう。

 

最初こそ抜群の容姿と歌唱力、ダンス、ファンサービス全てを高いレベルでこなすアイが優遇されるのは仕方ないと考えることができたし、次は私がと自分を発奮させる要素にすることもできた。しかし、それが半年も続けば流石にはっきりと理解してしまうのだ、アイという絶対的な存在がいる限り自分たちはこのままの立場が続くことになるのだろうと。

 

社長に何度も問い詰めてみたがアイを優遇するという運営方針は微塵も変わることはなく、とはいえ私たちにもプライドがあるからアイに対して直接的な嫌がらせなどは行われることはなかった。だが、この状況がこれからも続くようならどうなるかわからない、結成から一年ほど経った頃にはそういう危機的な状況になるほどにグループの仲は険悪なものになりつつあった。

 

今思えばその頃のアイは何とかグループ内の雰囲気を良くしようとよく話しかけてきていた記憶があるが、余裕が無くなりつつあった私たちにはそれに対して友好的に返すことなく、アイは笑顔を張り付けつつも何となく寂しそうにしていたのが記憶にかすかに残っている。

 

事態が動いたのはそんな時だ。今まで私たちの声をずっと無視し続けた社長が方針を転換して全員を売り出すと言い始める。どうせ不満解消のための口だけだろうと思ったがそれにしては妙に具体的なプランが飛び出してきて、私たち個人の営業やメインの楽曲の作成など今までまるで通らなかった話が急に進むことになったのだ。突然のことに流石に私たちも困惑したが、自分のことのように喜んでいるアイを見てどうしてこうなったのかはすぐに察することができた。

 

「それで、どういう意図なの?」

 

社長の方針を変えることができる人間など、私たちのマネージャーをしてくれている社長夫人のミヤコさん以外では一人しかいない。アイと同い年でまだ中学二年だというのに随分とスーツが似合う少年――松田翔一にそう問いただしたのは、社長から方針転換を告げられた次の日のことだった。

 

「唐突ですね、新野さん。皆さんお揃いで、方針転換の話ですか」

 

「話が早いのは良いことだね」

 

しらばっくれることなく本題に入る所は評価できるが油断はできない。この少年はアイと恋人関係にあるというのにわざわざ社長が囲い込むように事務所で仕事に関わらせ、挙句の果てに最近では事務仕事を丸ごと任せているのだ。実際事務手続きがスムーズになっていることを考えれば事務所にとってプラスなのは間違いないのだろうが、まだ中学生だというのにそこまで業務に関わらせるなどいくら異常がまかり通る芸能界と言えどありえない状態だ。

 

そんな異質な存在である彼は、私たちの問い詰めに気後れすることなく答える。

 

「まあ、全員を売り出そうっていうのは別に最近言い始めたわけじゃないので。社長もとうとうその気になったんでしょう」

 

「アイを一番贔屓にしてる君がそんなことしてたって言うの? 君にもアイにもメリットなんかないでしょう」

 

「そんなことはないんですが……」

 

そう言って、松田君は困ったように頭を搔いた。演技かと一瞬思ったがどうやらそうではないようで、どうしたものかと本当に悩んでいるように見える。そして、暫くしてからため息を一つついて意を決したように口を開いた。

 

「前提として皆さんに才能がありそうだったからって言うのがまず一つあります。アイが一発で名前覚えましたから。なのでそれを前提に聞いてほしいんですが……」

 

「うん」

 

松田君の答えに頷く。

 

アイという少女は才能を持った人間故かはわからないが、レッスンやステージ上で見せる輝かしさの影で時折抜けた部分を見せることがある。その一つが人の名前を覚えるのが苦手というもので、どうやら何かしら輝くものを持っていない人の名前を覚えるのが極めて不得意らしい。

 

そういう意味では私たちは一発で名前を覚えれる程度には才能があるとあのアイが判断してくれたのだろうから悪い気分はしないが、それとこれとは話が別である。複雑な感情を抱えながら松田君に続きを離すように促すと、それに頷いてから再び口を開いた。

 

「アイは皆さんとのアイドル活動、結構楽しんでるんです。ですが運営方針によってB小町の雰囲気が悪くなり始めて、アイも社長に言ってみたんですがビジネスのことですから中々上手くいかず……。そこでどうにかならないかと頼まれたので、少し動いてみようと思った次第でして」

 

「……えっ、それだけ?」

 

「はい」

 

「それで、私たちに何を求めるつもりなの?」

 

「その、皆さんの不満は極力解消できるように今後は俺も動きますんで。できれば、仲良くやってくれたらいいな、と……」

 

あまりの答えに思わず隣にいた二人と顔を見合わせる。

 

芸能界というのは基本利用されるかされないかで、今回のことも待遇改善を条件に何かしらの要求をされるのだろうと当たり前のように思っていた。しかし、心配そうにこちらを窺う松田君を見ると本当にそれ以上のことは無さそうで、毒気を抜かれてしまった私たちはとりあえず動いてくれた松田君に礼を一つ言ってその場を後にする。

 

「何と言うかさぁ……。あの子たち、変わってるけどいい子だよねぇ」

 

メンバーのナベちゃんと高峯共に帰路に就く最中、私がポツリとこぼした言葉に二人は力なく頷くのだった。

 

 

 

 

 

その後、社長は言葉を違える事はなく私たちに対してのプロデュースは力が入ったものに変わっていった。個別の仕事も増えて徐々に忙しくなっていくと、失われかけていた自尊心が回復していくのがわかる。肉体な疲労と引き換えに精神の疲労を癒しているわけだが、そこはまあ若さでどうにでもなるのだ。

 

事務所が推してくれていればそれなりに結果もついてくるもので、売れている子に対して攻撃的になる必要性も無くなる。そうなればアイの好意も素直に受け取れるようになり、意地を張って済まなかったと皆で詫びを入れてからは関係はどんどん改善されて、気づいたころにはグループ内の雰囲気は以前よりも良くなっていった。

 

そんな感じで雰囲気が良くなったB小町はモチベーションを取り戻して再び順調に歩みを進めていくわけだが、残念なことに平穏は長続きすることはなく、ある日のミーティングで社長夫妻に引き連れられたアイがでかい爆弾を落としてきた。

 

「翔君と同棲することになりましたー!」

 

停止する思考のまま呆然と発言者を見つめれば、隣に立つ松田君の腕をしっかり抱えながらやってやったぜと満面の笑みでサムズアップを返してきたアイ。暫しの時が流れ、震え始めた私たち三人のうち誰が最初に爆発するかとなったところで、機先を制した社長が情けない声で説明を始め、とりあえず聞いてやるかとぐっとこらえる。

 

事の発端は私たちの安全管理の問題で、このままではアイのいる児童養護施設に迷惑をかけることになるから住居を何とかしようとしたらしい。すると、そこで一計を案じたアイに大人連中が見事に説得されてしまったとのことだ。

 

「――というわけで、見事に騙された俺たちはアイと翔一の同棲を認めることになったわけだ」

 

「社長、本当にそれでいいんかそれで」

 

高峯の言葉に頷きをもって同意する私とナベちゃん。そんな私たちにため息を一つ吐いてから社長は言葉を続けた。

 

「良くはない……が、反故にすると翔一連れて辞めるって言い出しやがったからなこいつ。残念なことにこの二人を辞めさせる余裕はうちの事務所には無い」

 

「私の交渉術が見事に決まったよね!」

 

「お前がやったのは交渉じゃなくて脅しみたいなもんだろうが!」

 

ぬけぬけと言うアイに一喝する社長だがアイはまるで堪えた様子など無く、まるで頭から音符が出ているのが見えそうになるくらい上機嫌だ。まあこれはもうどうしようもないにしても未成年の管理問題はどうなってるんだと、流石にここは私たちメンバーからも一言言うべきかと思い口を開こうとして――止めることにした。

 

何故かと言えば、事情の説明をし終えた社長が肩を落としながら項垂れ、その横でミヤコさんがため息をついているのが目に入ったからだ。ついでに言えば暴虐の権化の被害者に対して追撃するのは流石に不憫に感じるし、満面の笑みを浮かべるアイの横で全てを諦めている松田君が無表情で直立していたというのもあった。

 

「そういうわけでこいつらは一緒に住むことになる。まあ、住む場所はセキュリティの高いマンションにするからマスコミやファンが中まで入ってくることはない。それに常に男が傍にいる状態は安全管理の面で言えば楽になるのは事実だからな」

 

続く社長の言葉に皆が頷きを返す。B小町がそれなりに売れてきたことで私たちの安全面に対して問題が提起されていたのは事実なのだ。実家で家族と暮らしている私たちはともかく、アイは松田君と一緒とはいえ施設暮らし。何か問題が起こった時に児童養護施設の周りにアイドルのストーカーがうろついている光景など悍ましいことこの上ないだろう。それに対しての回答として一緒にマンションに放り込んでしまうというのは悪くないのかもしれない。

 

本来ならば社長夫妻と一緒に暮らすのがいいのだろうが――まあ、それを質問したところで返ってくるのは先ほどと同じ言葉だろう。傍からでも見ていてもわかるがアイの松田君に対する執着は物凄いものがあるのだ、二人暮らしをする機会が巡ってきたのならばみすみす逃す手はないといったところか。

 

「でも社長、そうなるとこれからは学校帰りだけじゃなくて仕事帰りも二人は一緒になりますよね。制服姿ならともかく私服で一緒にいるとこみられるのは流石にまずいんじゃ」

 

ナベちゃんの懸念はここにいる誰もが持っているだろう。だが、社長はこう言い切る。

 

「確かにそうだ。だがな、アイに彼氏がいるってのはアイの学校ではもう公然の事実みたいなもんになってる。まだ信用はされていないみたいだが既にネット掲示板でも書かれていることだし、そもそも今後ずっと隠し通せるもんじゃないからな」

 

「それはそうかもですけど……」

 

「隠せないなら最初から隠さない。敢えて公表する必要はないが、隠してばれた時より聞かれたら素直に認めてマイナスを受け入れた方がトータルとしては良いだろう。ま、だからこそ先の恋愛自由化発表というわけだが」

 

だからお前らも彼氏作っていいからなと、随分と気軽に言う社長。アイドルグループの運営が言う言葉ではないとは思うが、恋愛自由化を発表した後に少しばかり騒がれたときの苦境は乗り切ったわけだし今後のことも既に対策は考えているのだろう。アイにやりこめられていた時と違う飄々とした社長の態度からそう察することができた。

 

まあ、運営が良いというならこだわっても仕方ない。私たちもアイに彼氏がいることを隠されていたわけではないし、信用されていないわけではないのだから良しとしよう。

 

――とはいえ、彼氏。彼氏ねぇ……。

 

私もうら若き少女であるから恋をしたい、彼氏が欲しいという思いはあるし、実際に告白を何度も受けている立場でもある。だが、いざ告白されたときにどうしてもその気にならないというのが本音であった。

 

――それもこれも、全部この子たちのせいなんだけど。

 

上機嫌のアイと、それにくっつかれている松田君を見る。絶世の美少女と平凡な男子中学生、一見すればなんと釣り合いの取れないカップルだろうと思ってしまうだろうし、実際私も最初はそう思っていた。だが、いざ二人と付き合い始めるとその印象は百八十度変わってしまう。

 

できる男なのだ、松田君は。いや、ほんとに。

 

打てば響くというような天才という印象こそないが、仕事は丁寧で堅実、そして早い。まるで二十年三十年と仕事を続けているのではないかと思わせるような仕事の慣れっぷりで、制服姿よりスーツ姿の方が似合っているくらいだ。ミヤコさんも早々に松田君に指示を仰ぐようになったと聞くし、先ほど社長が言ったアイと松田君を辞めさせる余裕が無いというのもどちらにその比重が置かれているのかわからないくらいには重要な人物と言える。

 

そんな仕事ができる一つ下の男の子の存在を知っていると、同じ学校に通う同級生に告白されたところでどうしてもパッとしないなーと思えてしまう。もちろん松田君より容姿が良い人はいるし、何なら仕事で付き合いができた芸能人からそういう話があったこともあるのだが、そういう人は女に困ってないから扱いが軽くなるのは明白だ。

 

とはいえ一度しかない学校生活をソロで駆け抜けるのは流石にもったいないだろうし、妥協すべきかなーとも思うのだが、やはりどうしても引っかかってしまって恋人を一度も作れていないというのが現状だった。

 

「彼氏、彼氏ねぇ……」

 

横にいた高峯がポツリと呟いたのでそちらを向けば、視線がアイと松田君の方に注がれている。気になって反対側を見るとナベちゃんも同じ方向に視線を向けていた。

 

この二人も同じようなこと考えてるんだろうなーと察してしまうが――まあ、こればかりは仕方ないだろう。身近な人間は良く見えやすい、隣の芝生は青いというではないか。

 

はぁとため息を一つついて私も件の二人の方に視線を向けると、ニマニマと満面の笑顔を浮かべているアイがされるがままの松田君にくっついているのが視界に入る。

 

こっちは恋人作れなくて悩んでいるというのにいちゃいちゃしやがって。イライラしてきたのでやはり一度シメておくべきだろうとにっこりと笑顔を張り付けてから口を開く。

 

「アイ」

 

「ん、なぁに?」

 

私の呼びかけにまるで恋人に向けるような甘い声で返すアイ。どうやら本格的にわからせておく必要があるようだ。

 

「ちょっと、私たちとお話ししようか」

 

「え? え?」

 

私の言葉に即座に反応したナベちゃんと高峯がアイを松田君から引きはがして両腕を抱える。

 

「松田君、ちょっとアイ借りていくね」

 

「おう、自由にしていいぞ」

 

「え? 何? どういうこと?」

 

全てを諦めた松田君に一言かけてから疑問を浮かべ続けるアイを別室へを連行し、その後アイがしなしなになるまでお説教という名の話し合いをじっくりと三十分ほど行った。

 

全員が満足したところで解放するとアイは涙目になりながら松田君に向かって駆け寄っていく。それを見て私たちは少しばかりの留飲を下げるのだった。

 

 

 

 




二期始まりましたね
長髪あかねちゃんはやっぱり最高です

原作の方は大変なことになっているので、カミキ関係のお話をちょっとだけ修正予定
次の話は修正が終わった後に書き始めるので気長にお待ちください

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