カミキのキャラがやっと決まったようなので進めますね
体調が悪い。
そうはっきりと身体の変調を自覚したのは高千穂から帰ってきて一月ほど経った頃だ。
生理も遅れていたし高めの体温が続いていたこともありもしかしてと思いつつも、仕事がある以上休むわけにもいかない。そんな私の体調不良に目敏く気付いた翔君に気遣われながらも表面上はしっかり、中身は気怠い日々を過ごしていたのだが、自分の身体に何が起こったかをはっきりと自覚したのはある日のダンスレッスンを終えた直後だった。
汗を拭いている時に突然吐き気に襲われ、慌ててトイレに駆け込んだ時にはもうこれは間違いないと確信していたように思う。
ふわふわとした足取りでその日の帰り道にドラッグストアに寄って妊娠検査薬を購入し、浮ついた心のまま家に帰りトイレに入って早速使ってみる。判定が出るまでの一分は今までに感じたことがないくらいに長く思えたが、しばらくして判定の枠内に一本の線が浮かび上がった。
――妊娠、したんだ。
自分が望んでいたこととはいえ、それを認識した瞬間の感情はどう言い表せばいいのかわからない。
驚き。喜び。困惑。期待。不安。色々な感情が混ざり合ってどうにもまとまらない心を何とか抑えつつよろよろと居間のソファーの定位置に腰を下ろすと、ゆっくりと自分のお腹に手を当てた。
この中に、自分と彼の子供がいる。
それを改めて実感した瞬間に、私の心は弾けんばかりの喜びで満たされる。
もし周りに人がいたら絶対に不気味がられるくらいに満面の笑顔を浮かべているだろう。ダメだ、こんなの抑えられるわけがない。
「ふふ、ふふふふふ」
我ながら気持ち悪い声を出していると思うが今日ばかりは許してほしい。だって家族ができたのだ、私と大切な人の血を受け継ぐ大切な家族が!
携帯で時間を確認するとまだ夕方の時間帯で、翔君はまだ仕事をしているだろうから帰ってくるにはまだ間があるだろう。なら電話をかけて早速伝えようと電話帳を開き――手を止めた。
こんなに嬉しくて大切なこと電話で伝えるのは味気ない。妊娠を伝えた時の翔君がどんな反応をするか、喜んでくれるのは間違いないにしても想像するだけでニヤニヤしてしまう。
「ふふ、早く帰ってこないかなー」
ああ、こんな幸せな想像ができるなんて思いもよらなかった。まだ生まれてきてもいないというのに私をこんなにも幸せにしてくれる。そして、きっと彼のことも幸せにしてくれるのだろう。あまりにも気が早すぎるとは思うが、想像するのが楽しくて再びお腹をゆっくりと撫でる。
「早く会いたいなぁ……」
もし私一人だったらこんなに幸せな気持ちになれなかった。きっと嬉しさよりも不安が上回ってどうしたものかと慌てていたに違いないし、このことで頭がいっぱいになって仕事や対人関係にもきっと悪影響が出ていたと思う。
でも、頼りになる人達が傍に居てくれるおかげできっと私は心穏やかなまま生活を送ることができるだろう。そのことにただただ感謝するしかない。
見守ってくれる社長たちにも改めてお礼を言おう。そして、仕事を頑張って帰ってくるお父さんのために愛情と感謝を込めておいしい料理を作るとしようではないか。
一緒にご飯を食べて、お風呂にも入って、そして教えてあげよう。どんな顔で驚くのか楽しみで仕方がない。先ほどとはうって変わって、キッチンへと向かう私の足取りはしっかりと、そしてほんの少しだけ軽かった。
家に帰り玄関を開けると、台所からの良い匂いと共にぱたぱたとアイが気持ち小走りで駆け寄ってきた。
「おかえりー」
「ただいま。ご飯作ってたのか、体調大丈夫?」
「うん、今日は結構調子良かったからね!」
「それは良かった」
ここ最近アイは体調を崩し気味だったので食事の用意に関しては俺の仕事になっていたのだが、顔色を見るに今日は問題ないようだ。靴を脱ぎ、くっついてきたアイさんを軽く抱きしめる。アイ吸いは疲れに効くんじゃよ。
頭を二、三度撫でて満足したので腕を離すと、そのまま俺にくっついていたアイが上目遣いにこちらに問う。
「先にご飯食べちゃう?」
「うん、そうするわ」
「りょーかい。じゃあ用意しとくね」
アイの言葉に頷くとアイはにまっと笑い、軽く背伸びしてちょんと唇を触れさせてから台所へと戻っていく。
その後姿を見送りながらつくづく思う。なんかこう、いいよなぁ。今まで幾度も繰り返してきたことだけどその度に生きてて良かったってなるわ。新妻アイさん、たまらんなぁ……。
これが幸せってやつじゃなと幸福感に浸りつつ食事、入浴を終えてリビングのソファーで一息つきつつテレビを見ていると、入浴後のケアを終えたアイが俺の隣にちょこんと座った。
これ自体はいつも通りの行動なのだが、そこでアイの様子が普段と違うことに気づく。なんか微妙に距離があるのだ。いつもはぴったりとくっついているのに妙に隙間があり表情を窺えば何やら緊張をしているように見えた。
そして、アイはふぅと一息吐いた後、緊張した面持ちで話を切り出した。
「お話があります」
神妙な言葉に思わず身体がびくりと跳ねさせ、慌てて身体をアイに向き合わせる。何かやらかしたかと必死に思い出すが少なくともこの数日は心当たりがない。とにもかくにもと、おすおずとアイに問い返す。
「お、おう。なんでしょうか」
「……赤ちゃんが、できました」
「え……?」
アイの言葉が耳に届いた瞬間の気持ちは言葉では言い表せないものだ。それまでの不安が一瞬で消え去り、ぶわっと全身が驚きと幸福感に満たされる。力が上手く入らずに震える手を無理やり挙げてアイの頬に添えると、それを受け入れるようにアイが頬を擦り付けた。
「できたのか……?」
「うん」
「そっかぁ……」
頬から手を外し、項に手をまわして軽く引き寄せるとアイはそれに従うように俺に身体を預けた。
「そっか、そっかぁ……」
どうやら語彙力が消失してしまったようで、同じことを繰り返しつぶやいたまま空いた片手で髪を梳くようにアイの頭を撫でる。いつか来るとはわかってたとはいえ、衝撃があまりにも強すぎたようでしばらくの間それを続けてしまう。それから何分か経ってようやっと自分を取り戻した俺は、アイの身体を離して改めて向き合い言わなければならないことを伝える。
「アイ、おめでとう。家族ができるな」
「うん」
「ありがとう。これから頑張ろうな」
「うん……!」
そして、改めてアイと抱き合う。本当は強く抱きしめたいくらいには幸せで満ち溢れていたが、お腹の中にはもう子供がいるのだと戒めて負担の無いようアイの身体を受け止めるようにする。
「ねぇ」
「ん?」
「いつもみたいにもっと強くても大丈夫だよ?」
「そ、そうなのか?」
「私の身体そこまでやわじゃないって」
「いや、そうかもしれんがな……」
ただでさえ細身の身体だから気を付けているのに、お腹に子供がいるとかもうどうすりゃいいかわからん。前世でも妊婦さんと関わった経験なんてないし、困った。
「もう」
俺が躊躇っていると、業を煮やしたのかアイは俺に強く抱き着いてくる。それをおずおずと受け入れるとアイはむふーとご満悦そうにしたが俺はお腹が気になってどうにも気が気じゃなかった。世の中の旦那さんはどんな感じなんやろなぁ……。
まあそのうち慣れるのだろうけど当分は無理そうである。
それからアイが満足するまで抱き枕になった後、今後のことを少しだけ話し始めた。
「社長達には明日話すのか?」
「そうしようかと思ったんだけど、まだ妊娠検査薬で陽性が出たってだけなんだよね。確率は九十九パーセントらしいから間違ってないだろうけど……」
「なるほど。じゃあ、先に産婦人科かな?」
「そのほうがいいかも。でも、社長達にもついてきてもらったほうがいいかもしれないから結局は話してからになるのかも?」
「そのほうがいいか。俺も一緒に――と言いたいところだが、やめたほうがいいだろうなぁ……」
「そうだねぇ。さすがにリスク大きいかも」
「だよな。とりあえず奥さんが妊娠中の旦那の心得とか聞いてきてもらえるとすごい助かる。俺もネットで調べてみるけどやっぱ医療関係者の正しい知識が欲しいわ」
「うん、聞いておくね。――でも、旦那さんかぁ」
「そうだろ? 奥さん」
「んふ。そうだね、奥さんだねぇ!」
アイが嬉しそうに身体を預けてきたので、その後は二人くっついたまま眠くなるまでのんびりと会話をしたり、お腹を触らせてもらって感動したりと穏やかな時間を過ごす。
なんというか些細なことではあるのだけれどもこういうのが幸せというのかもしれないなと、前世では得ることのできなかった幸福を与えてくれるアイに改めて感謝するのであった。
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