前話のアイがアイドルになる流れ、結構批判が出るかなとは思ったのですが無かったのでこのままいきます。自然に感じてくれたならとても嬉しい。
あの後アイが連絡を取ると、どうやら時間の融通が利いたようで翌日早速会うことになった。展開が早すぎるんよ。
まあ俺からすれば何話すのかさっぱりわかってないから準備もくそもあったもんじゃないのでいいんだけど。まあ多少は想像できるけど、確定してるわけじゃない。服装だけはちょっと良いの着てかないと駄目だね、相手は社長さんだし。
とりあえず情報だけでも集めておこうとパソコンで検索をかけてみたが、なんと苺プロダクションが出てこない。芸能事務所がホームページ無いってどうなんだこれと思ったが、時代的なものもあるし、まだ立ち上げたばかりでスカウト優先してそういうのに手回ってない可能性もある。この時期なんて社長以外だとミヤコさんしか事務員いなさそうだし、人手足りてなさそうな感じはあるよね原作でも。
アイがアイドルになると決めた以上は、俺も全力でバックアップしたい。とは言えダンスや歌の指導なんてできるわけがないので、事務方面で少しでもサポートできればと思っていたりする。事務なら前世の経験を活かせるしね、実際にやるのは難しいだろうけど交渉次第かなぁ。アイにも協力してもらおう。
さてさて日付が変わって次の日。
所謂スマートカジュアルって感じの装いで、居間でアイを待っている。後見人さんに会いに行くときはいつもこんな感じの服装で行くのだが、頻度がそう多いわけではないのでやはり珍しいらしく、職員さんから「今日はお仕事?」とからかわれた。そんな感じって返したら真顔になったけど。そりゃ中一が仕事とかマジかってなるよね。
「お待たせ―! って、あれ、今日ってそういう感じ?」
「おう、待ってないぞ」
暇つぶしに新聞を読んで待っていたら、アイが居間に入ってきた。だが、こちらを見てぎょっとしている。どうしたどうした。
「私もきちんとした格好の方が良いかな……?」
「んー、別にそこまで気にしなくていいんじゃないか。 昨日もそんな感じの服装だったろ?」
アイの服装はパーカーにジーンズと頭にベースボールキャップ、正に普段着って感じだ。
「そうかもしれないけどさぁ。釣り合いってものが……。やっぱ着替えてくる!」
そう宣言して自室にUターンする。しばらく待っているとネイビーのワンピースに着替え、ショルダーバッグを持ったアイさんが戻ってきた。
「お待たせ」
「……お前綺麗系も可愛い系もいけるのホントすごいよな」
「えへー、もっと褒めて褒めて」
よーしよしかわいいかわいいと頭をわしゃわしゃしてから、ぷんすこしながら髪を整えるアイの全身を改めて見る。アイさん身長はそこまで高くないけど顔立ちが年齢に比べて大人っぽいから、マジで何でも似合うのよね。今の格好だと普通に高校生ぐらいに見える。セクシーもキュートもいけるってすごい、ワイはどっちも好きです。容姿はAPP18だし……、でもニャルではないよ――ないよね?
神様なんて存在が明言されてるし、推しの子クトゥルフ世界線説はワンチャンあるなと脳内で提唱してから、アイの先導で面会場所に向かう。
「ん」
「はいはい」
施設を出て少し歩いてから、アイと手を繋ぐ。恋人になってから始まったことで最初は正直緊張したけど、最近はこれにも大分慣れてきた。駅までは歩き、そこから電車に乗って渋谷まで。電車はちょっと混んでいた程度だったが何故かアイさんがぴったりとくっついてきたので、空いている手で支える。するとニヤニヤしてるのが見えたので意図的だねこれは、帰ったらお仕置きですわ。
そんな感じでイチャコラしながらスタバに到着すると、既に斎藤社長がボックス席に座っていた。これでも十分前到着だったのだが。
「おじさん、つれてきたよー。――あれ、どしたの?」
「――あ、いや、なんでもない」
俺とアイの姿を見て斉藤社長が驚いたように見えた。はて、おかしいところはないはずだが。不思議に思いながらも席に座る。
「初めまして、斉藤だ。呼び出して悪かったな、兄ちゃん」
「いえ、こちらこそ遅れて申し訳ない。松田です、初めまして」
「ああ、今日はよろしくな。とりあえず、何飲む?」
「私キャラメルフラペチーノ!」
「では、アイスコーヒーで。ごちそうになります」
あいよと、斉藤社長がカウンターに向かった。その後ろ姿を見送っていると、アイに袖をクイクイと引かれる。
「ん? どうした?」
「第一印象はどう?」
「そうだな。見た目は怖いけど、物腰はしっかりしてたし、それなりに信頼できそうな感はあるな」
アイの問いには無難に答えておく。原作知識的にはアイが生きてる間なら信頼できそうな感じだったけど、それは流石に言えないからね。
「というか、あの見た目の人によくついてったなお前」
「だって、お茶飲むだけって言ってたからさぁ。暇だったし」
「もうちょっと危機感持ってもろて……」
「――あれ? もしかして心配してくれてる?」
「当たり前だろ」
まったく、と続けようとして腕に抱き着かれた。アイさんめっちゃニマニマしとるやん……。しっかり反省してください、かわいいから許しちゃうけど。
はぁ、とため息をついて斉藤社長の方を見れば、向こうもこっちを見ていたようで目が合った。サッと目線を外されたが、今のやり取り見られてたの? 恥ずかしい……。
「ほらほら離して、見られてるから。さてさて、どんな話がでてくることやら」
「いいじゃん、見られてたってさー? ま、契約とかの話かなぁ? それにしては急な感じだけど」
「それもあるかもだけど、多分、本題は別だと思うぞ」
「むむ?」
不思議そうにこちらを見るアイ。想像が当たってたらキレるかもなぁこの子。大声出しそうになったら何とか口塞げるように準備しとこうと、斉藤社長を待ちながら思うのであった。
――参ったな。想像以上に仲が良い。良すぎるな。
態度に出さないよう注意しつつ、斉藤壱護は脳内で頭を抱えた。
昨日スカウトでいい返答を得ることができた星野アイという少女は、間違いなくビジュアルならトップクラスの持ち主だ。小柄ではあるが童顔ではなく、中学一年生だというのに大人びた顔立ちをしていた。あれならば数年後でもその容姿を維持することができる。
本来なら「はず」という言葉が最後につくものだが、今日の装いを見て間違いないと確信することができた。今の年齢ならば童顔のかわいい系の子に一歩譲る可能性はあるが、あの子が十八、二十歳になった時はその差が明確に表れているだろう。
今後を考える上で逃してはいけない絶対的なセンター候補。それが星野アイだった。
しかしと、溜息を一つつく。
昨日俺は確かに彼氏がいても構わないと言ってしまった。
正直なところ金を少し包んで別れさせてしまえばいいと軽く考えていたのだが、あの様子では難しいかもしれない。下手につついて鯛を逃がすわけにはいかないのだ。
――とは言えなぁ。
正直この話こそが今日の主題だった。揉めるのも覚悟していたからこそある程度時間を確保してきたのだが、まあこれは仕方ないだろう。
注文したコーヒーを受け取り、席へと戻る。それぞれに飲み物を渡すと、「おじさんありがとー!」「ありがとうございます」と返ってきた。
席について改めて観察してみれば、星野は中学一年生と言われれば納得できる言葉遣いや態度だった。しかし、この松田という少年はどう考えても中学生には見えない。事前に同い年という話は電話で聞いていたのだが、こうして相対してみると物腰や言葉遣い、服装から大学生くらいの雰囲気を感じる。
「あー、二人は同い年ってことでいいんだよな?」
「そうだよ。中学一年生」
「そうか……。いや、正直びっくりした。随分と大人びて見えてな」
「でしょー? 私、大人の女性だからね!」
片やふふんと胸を張り、片や苦笑いしている。同じ中学一年生だというのに扱いにくさに雲泥の差があった。さてどうするべきかと考え始めたところで、
「それで早速ですが――私に話があるとのことでしたが、どのようなご用件でしょうか?」
「ん、いや、そうだなぁ。いや、アイドルになってもらうって話だったからな。アイドルに男がいるなんて、ばれたら大問題だ。その注意喚起をと思ってたんだが」
「そうですか。私はてっきりこの場で別れてくれと言われると思っていたのですが」
隠そうとしていたことを、堂々とぶち上げられた。
――このガキ、しっかりこっちの意図を読んでやがる。
笑顔で放たれた言葉に、堪らず顔が引きつった。別に予想が難しいわけでもないが、それを誤魔化そうとしていたのに敢えて口に出すとは何とも嫌らしい。案の定、隣に座る星野の顔が笑顔から無表情へと変わっていく。
直後、ゾクリと背筋が凍った。何だあの瞳は。先ほどまでとはまるで違う、深い闇を抱えるその瞳に俺の視線は完全に奪われた。暗い過去があることは聞いていたが、まさかこんな眼ができるとは思いもよらなかった。
「ねぇ、どういうこと? 昨日、彼氏がいてもいいって言ってたよね? だから私は今日ここに来たんだけど?」
「っ!? い、いや、それはその通りなんだがな? こっちにも事情ってものが……」
「そうそう、あんまり怒るな星野。芸能活動するんだし、ましてアイドルだ。ある意味女を売る仕事と言っていい。そんな存在に男がいたら、そりゃ運営する側だって困るだろうさ」
「むぅ、それはわかるけどさ……。って、なんで名字で呼ぶの? 名前で呼んでよ!」
「いや、仕事の話だからな? こういう時は名字で『名前で呼んでくれないならもう帰る』――もうちょっとだけ話聞いてこうな、アイ……」
松田が星野をあやしながらなんとかしろと目線で訴えてくるのを見て、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。お前が油を注いだんだろうがと言いたくなるが、どちらにせよなあなあにしておくわけにはいかない話だったのだ。割り切って思考を切り替える。
「まあ、はっきり言えば彼の言うとおりだ。確かに彼氏がいてもいいと言ったが、居ないに越したことはない。だから、これで手を打ってもらおうとしていたんだがな」
そう言って、胸ポケットから出した封筒をテーブルに置く。
ちらとこちらを見てから、星野が封筒を手に取り中を見る。取り出して確認すると驚きながら視線が戻された。
「十万円――これ、このお金で、私と別れろって言うつもりだったの?」
「そうだ。正直なところ、ここに来てからの様子を見て話すのはやめるつもりだったんだがな……」
「まあ、隠し事はない方が良いでしょう? 今後を考えれば」
鋭い視線を浴びつつ答えると、フォローが入ったので両手を上げた。まったくもってその通り、全面降伏だ。
「――悪いけど、そういう話なら私はアイドルになれない。私にとって、この人の代わりになるものなんてないから」
「ああ、こっちもそれは十分理解した。だから、そのままでいい」
「いいの? バレたら大変なことになるのに」
「確かにリスクはある。だが、今日こうして話して確信した。俺が作るグループにはお前が絶対に必要だ」
妥協にはなってしまう。だが、どうしてもこの星野アイという少女は手放せない。この子は俺の獲物だ。あんな瞳を持つ人間を絶対に他の事務所に渡すことなどできない。
「二人が関係を続けることは全面的に認める。隠す努力はしてもらうが、こちらから口を出すことは無い。だから、どうかこの話を受けてほしい」
頭を下げる。こちらが切れる手札など、最早誠実さしか残っていないのだ。それからしばらく無言の時間が続いたが、ふぅというため息が聞こえた後、星野が話し始めた。
「わかった。その条件でいいなら、いいよ。やるよアイドル」
「っ!? そうか! よかった!」
ガバっと頭を上げ、安堵の声を上げる。松田に視線を移せば頷いてきたので、二人の間で合意がなされたのだろう。これでこのスカウトは成功したと思っていい。
「いやぁ、良かった。それじゃあ早速契約の手続きに入りたいんだが……」
念のため持ってきておいた契約書をバックから取り出してテーブルに置こうとすると、そこにあったはずの封筒が無いことに気づいた。視線を上げれば松田が封筒を指で挟んでいるのが見える。
一度出したものを返してもらうつもりはない。だが、流石にその態度には苛立ちを隠せなくなる。一言言ってやろうかと思ったところで、先に松田が口を開いた。
「斉藤さん、私もアイがアイドルになるのを反対はしません。ですが、不安があります。ここに来る前に調べたのですが、苺プロダクションにはまだホームページすらない。事務的な部分はどうなっているのかと」
「あっ、確かにそうだよねぇ。会社概要のパンフレットとかももらってないし、そこらへんどうなのおじさん」
「ぐっ、それはだな……」
痛いところを突かれた。現在の苺プロの社員は俺以外に一人だけ、しかもその一人も大学を出てるとはいえ事務の専門家というわけでもなかった。そもそも商売道具となるアイドルグループのスカウトですらまだ完了していないのだ、事務に関しては疎かになっているのは否めなかった。
不味い流れになったかと様子を窺ってみるが、二人の表情にこちらを怪しむようなものは見て取れなかった。どういうことだと思っていると、再び松田が口を開く。
「事務面が不安な芸能事務所には流石にアイを所属させることはできない。だから提案があります。――斉藤さん、この十万円で私を一か月雇ってみませんか?」
何を言っているんだこいつは。
そう口に出さなくて済んだのは驚きで思考が止まっていたからだろう。だが、二人の表情を見るに冗談を言っているようには見えないし、星野がニヤニヤしているのを見ればこれが恐らく打ち合わせ通りのことであるのは理解できた。
――俺、やばいのに声かけちまったか……?
とんでもない瞳を持つ少女と、自分を事務員として雇えと言ってくる少年。異常なめぐり合わせに俺は堪らず頭を抱えるのだった。
初のオリ主とアイさん以外の視点。正直ちょっと自信がないので微妙に感じるとこあったら感想で書いてください。