イメージはあっても、それを文章で表現するとなると難しく、想像以上に執筆に時間がかかってしまいました。こうやってお話を書くようになってから、改めて小説家の凄さを感じさせられますね。
まあ、こちらの気持ちや事情はあまり興味ないと思うので、本編どうぞ。
楽しんでもらえると嬉しいです。
――月曜日。早朝、午前9時。
その日、雄英高校ヒーロー科に在籍する1年生の姿は教室ではなく、学校内にある駐車場にあった。太陽の光が遠慮なく辺りを照らす中、彼らはクラスごとに分かれて整列し、それぞれの担任であるイレイザーヘッドとブラドキングの先導に従って、バスが止めてある場所へと歩みを進める。
普段なら授業を受けているはずの時間帯に、なぜ彼らはこんなところで歩いているのか。それは、今日が彼らが待ちに待った大切な日――職場体験当日――だからである。
平日と同じ時間に学校に集合して各々のコスチュームが入ったケースを受け取った後、雄英高校が所有するバスを使って最寄りの駅へと向かい、そこから各々の体験先へと向かうことになっている。終始ずっとソワソワしっぱなしな彼らの足は、少し浮足立っていた。が……歩き続けること数分。ようやく自分達の乗るバスが見えてきた時、その足は自然と止まった。
「……ハァッ!?」
思わずと言った様子で目を見開き、声を上げる一同。その原因となったのは、バスの近くに立つ一人の少年だった。
ふわふわとした白い髪に、赤い瞳。そして、小学生と間違いそうになるほど低い背丈。そこには確かに、1週間前に行われた体育祭において自分達を圧倒した普通科の少年――空閑遊真――の姿があった。
彼らが遊真の姿に気づいたように、遊真もまた、彼らに気づいたのだろう。こちらに顔を向けると、まるで挨拶をするかのように、手をヒラヒラを振っている。
「……え、嘘でしょ? 何でここに?」
「……ちょ、学校は? 授業はどうしたの?」
思わずと言った様子で、A組の生徒達の何名かから疑問の声が漏れる。
これから行われる職場体験は、雄英体育祭のような全校生徒が参加する行事とは違い、ヒーロー科の生徒にのみ実施されるものだ。他科の生徒がこの行事に参加することはまずない。
だというのに、どうして彼がここにいるのだろうか。彼らの脳内は、そのことに対する疑問でいっぱいになっていた。
当然、A組の生徒だけが驚いているわけもなく。B組の生徒達はA組の生徒達のように質問することは無かったが、その代わりにどこか羨ましそうな表情で彼のことを見つめていた。
無理もない。なにせ彼は、今回の体育祭を通して、自分達以上に現役ヒーローの注目を集めた人物。B組全体の指名数をはるかに上回る数の指名を受け取ったのだから。
……要するに、嫉妬である。
そんな彼らの反応を見たイレイザーヘッドは、遊真がこの場にいる理由を説明しだした。まるで、彼らの疑問に答えるかのように。
「こいつは今回、特例で職場体験に参加することになった。前例がないほど多くの指名を頂いたという理由でな」
その説明を聞いたヒーロー科の生徒達は全員が「なるほど」と声を上げた。納得したかのように頷く彼らをよそに、イレイザーヘッドが挨拶をするように促すと、遊真はそれに一度頷き、簡単な自己紹介を行った。
最後に「ドウゾヨロシク」といって頭を下げると、ヒーロー科の生徒達もそれに習って頭を下げる。
「よし、時間も押していることだし、そろそろ移動するぞ。我々は奥のバスに、A組は手前のバスに乗ってくれ」
と、全員の顔合わせが済んだ所でブラドキングは声を上げた。この場に集まった生徒達は元気のよい返事を行い、一人、また一人と順にバスに乗り込んでいく。
最後に、イレイザーヘッドとブラドキングの二人がそれぞれ担当する生徒が乗ったバスに乗り込んだ直後、バスは駅へと走り出した。
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こうして、A組の皆と一緒のバスに乗ったおれは最寄りの駅へとたどり着いた。駅のホームに足を踏み入れると、そこにいた人達の視線が一瞬のうちに集まるのが感じられる。
ここ最近何度も浴びてきたその視線を無視しつつ、イレイザーヘッドの先導の元、A組の後に続く形で歩みを進める。そうして駅の改札口へとたどり着いた所で、イレイザーヘッドはこちらを振り返ると、口を開いた。
「よし、コスチュームはちゃんと持ったな。本来なら公共の場での着用は厳禁なんだ。間違っても無くしたり落としたりするなよ?」
「はーい!!」
気だるそうに発せられたのは、職場体験に向かう前の最終確認の声。その問いかけに答えるかのように、A組の皆はそのコスチュームとやらが入っているであろうケースを見せつけるかのように前に出すと、ミナがクラスを代表するかのような元気の良い返事を行う。その返答をイレイザーヘッドが「伸ばすな」と言って咎めると、ミナは少し落ち込んだ様子を見せた。
そんな彼女の反応をよそに、イレイザーヘッドは話を続ける。
「くれぐれも体験先に失礼のないように! じゃあ行け」
「「「はい!!」」」
今度は短く。それでいて威勢の良い返事をクラス全員で行うと、各々が目的地へと向かうべく移動を開始した。駅の改札口を抜けると、直ぐに目的の電車がやって来た。おれはそれに乗り込み、空いている席が無いか探してみるが、見つからなかった。仕方なしに背負っていたリュックを邪魔にならないように前へと移動させ、鉄のポールを軽く握る。
程なくして電車は動きだし、身体が後方へと引っ張られるような感覚に襲われる。その感覚に流されてしまわないよう、少しだけ足に力を込めた。
それにしても暇だ。電車が駅に着くまですることが何もない。窓の景色を眺めるのにはもう飽きたし、どうしようか。
……あ、そうだ。
「レプリカ。いつもより早いけど始めるか」
『了解した。では、まずは訓練の内容から振り返っていこう』
レプリカはそう言うと、朝に行った訓練の内容を一つ一つ読み上げていく。
退屈していたおれは、レプリカと一緒に早朝の訓練の復習をする。普段は夜中に纏めてやるが、余りにも退屈なため、朝の分は今やることにした。それに今晩は職場体験の内容を振り返るだろうし。
復習を始めてから数十分。レプリカは突然会話を打ち切ると――
『ユーマ、今すぐ衝撃に備えろ。
――短い声で、そう警告してきた。
おれはすぐさま近くの手すりを強く握りしめ、流されてしまわないよう足を強く踏ん張る。その直後、緊急停止を伝える放送が響くと同時に、甲高い金属音が鳴り響いた。停車した電車の窓に顔を近づけて前方に注目してみれば、3mくらいの背丈をした大男が赤い顔で喚き散らしながら辺りを破壊していた。……こんな朝から酔っぱらっているのだろうか。
そんなことを考えているうちに、乗組員がやって来て避難するように指示が出された。開かれた扉を通って、電車に乗っていた人達は一人、また一人と脱出していく。
おれもまた、この場から離れようと扉をくぐり抜け、敵の暴れている場所とは反対の方向へと足を勧めようとしたのだが――
「……マジで危機感が無いのな、こいつら」
道を塞ぐかのように横一列に並び、とてもワクワクした様子で敵にスマホを向けるその姿に、おれは思わず動きを止めた。この世界で初めて敵を見た時にも感じたが、本当にこの世界の人は危機感という物が足りていない。
それに、この人達の目的はそれだけではないみたいだ。
現に、何名かは暴れる敵に注意を向けながらも、何かを期待しているような目をおれの方へと向けてきた。
……どうやらこいつらは、おれがあいつと戦うことを所望しているようだ。
でもまあ、あいつが暴れたままだといつまでたってもここから動けないしなぁ。
「レプリカ、トリガー使ってもいいか?」
『待て。今回のケースは正当防衛とは言えない。今ユーマが戦ってしまえば、後で警察に連れていかれるぞ。それに、既にヒーローがこちらに向かってきている。それも、ユーマがこれから会う予定の人物だ』
ふむ。じゃあその人達に任せるか。
おれはポケットの中で握っていたトリガーから手を離し、周囲の人達から向けられる視線を無視しながら、その人物が到着するのを待つ。すると、
「チャージ満タン、出力30……
突然の衝撃波が、暴れる敵の意識を一撃で刈り取り、気絶させた。
その直後に降り立った二人の姿に、この場にいた人達は盛り上がりを見せる。先ほどまでおれの方に向けられていた視線は、既に二人の方へと向けられていた。
遅れてやってきた警察が気絶した敵を回収する傍らで、群がった人達の声に答える二人の姿を眺めていると、ネジレチャンと目があった。
「おーい、遊真くーん! こっちこっちー!!」
笑顔で手を振るその姿を見たおれは、二人の元へと歩み寄る。すると、そこで大勢の人に囲まれていたもう一人の人物。竜の爪を模したようなマスクを身に着けたクールな女性がおれの近くへ歩み寄る。
彼女の名はリューキュウ。これから1週間の間、お世話になるプロヒーローだ。
「初めまして、空閑遊真君。まさかこんな所で会えるとは思わなかったわ」
「どうも。こちらこそハジメマシテ」
暖かな微笑みと共に挨拶をするリューキュウに習って、おれも同じように挨拶をする。そのまま三人で談笑していると、電車の方から声が聞こえてきた。もう一度電車を動かすから、乗ってほしいと。
「……それじゃあ、ここでいったんお別れね。また後で会いましょう」
「リューキュウ事務所で待ってるね~!」
二人はそう言うと飛び上がり、そのまま移動を開始した。
そんな二人の背中を小さくなるまで眺めたおれは、踵を返して、電車の方へと足を運んだ。
今回のお話から、リメイク前と大きく変わります。
また、今回から遊真のヒーロー科1年生の呼び方が全員名前呼びに変わります。(今回の挨拶で自己紹介をすませた、というわけ)
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それでは、また次回。
……できれば2週間くらいで投稿できるといいなぁ。