Muv-Luv Alternative Strange Real   作:yagra

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M1 戦場を舞う赤いツバメ1

「――ハァッ……! ハァッ……!」

 

 息が上がる。鼓動が早くなる。

 

「――ハァッ……! ハァッ……!」

 

 目はあちこちに向けられ、焦点も合わない。

 

『――来るな……来るなぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『――やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 僚機の悲鳴が耳元で響き、装甲が貫かれ潰れる音がする。

 

「――くそっ……くそっ!!」

 

 自らの持つ銃を動かし、仲間を殺した張本人であるしわくちゃな顔に向け引き金を引く。

 顔は派手な血飛沫を撒き散らし、その身体は力なく地面に沈み込む。

 

『――こちらシュパッツ1! 至急応援を求む! これ以上は抑えきれない! 至急応援を……ぐああああああ!?』

『――隊長ォ!?』

『――よくも……よくもやりやがったなぁぁぁ!!』

 

 無線から聞こえるのは仲間の断末魔と怨嗟の声。そして自分の叫び声だけ。

 

「――嫌だ……死にたくない……」

 

 声が漏れる。恐怖と絶望に彩られた声が。

 

『――あ……うわああああ!!?』

 

 また1人死んだ。これでもう何人目だろうか? 数えることは既に止めている。

 ただ一つ言えることは、今"奴ら"に包囲され、じわりじわりと追い詰められているということだけだ。

 

『――畜生……畜生……!』

『――BETA風情がぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 歯ぎしりしているような顔の向こうに、赤い波が見える。

 6本脚で歩き、その胴体についた()であらゆるものを噛み砕く赤い波だ。

 

「――ああ……あ……」

 

 自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。きっと真っ青になっていることだろう。

 そんな顔をした自分を嘲笑うかの如く、赤い波はその数を増やしながら迫ってくる。

 

『――ま、纏わりつかれた!? いやっ!? 助けてぇぇぇ!!』

 

 赤い波は獲物を見つけた蟻のごとく群がり、仲間達を次々と飲み込んでいく。

 

『――くそっ! 操縦が利かな……うわあああああ助け』

 

 ブチッという音と共に僚機の通信が途切れる。恐らく喰われたのだろう。だが救うすべは持っていない。

 そして自分のいる場所にも、赤い人喰い蟻擬きが大挙してやってくる。

 

「――う、う、うわあああああああああああ!! 来るな来るな来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 突撃砲を撃ちまくり、次々と蟻擬きをミンチに変えていく。しかし一向に数が減らない。むしろ増えていっている気さえする。

 

『――ひぃ!? 来ないでええええ!!!』

 

 無線からは悲鳴しか聞こえてこない。恐らく自分もそう遠くないうちにそうなるのだろう。

 

「――嫌だ……こんなところで死ぬなんて嫌だ……!」

 

 必死になって銃を撃ち続ける。しかし直後、突撃砲の弾倉表示が弾切れを起こしたことを伝えてきた。予備弾倉は、ない。

 その事実が、彼の溜まりに溜まっていた感情を爆発させた。

 

「――誰かぁぁぁぁぁぁぁ!!! 誰でもいいから助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!死にたく……死にたくないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 彼は泣き叫んだ。それが無駄なことであろうと、自分に何の得にならないことであろうと、止めることはできない。死にたくない、その衝動だけが彼を突き動かしていた。

 そして醜悪な蟻共が目前に迫ってきた時だった。突如として蟻たちのいる地面が弾け飛び、一緒にいたしわくちゃ顔のタコも一瞬にして肉塊に変貌する。僚機を襲っていたそれらもどこからともなく飛んできた砲弾の餌食になり、大地に赤い染みをぶちまけた。

 

「――え?」

 

 目の前で起こった出来事に理解が追いつかず呆然となる。恐る恐る視界の左上にあるレーダーを確認すると、そこには4つの友軍を示す光点(ブリップ)が新たに出現していた。

 そして噴射跳躍(ブーストジャンプ)の音を響かせながら目の前に着地したのは、最新型戦術機であるEF-2000(タイフーン)だった。それもただのEF-2000(タイフーン)ではない。一般的な機体では全身が単色の塗料で塗られているところを、グレーの機体色をベースに額部、肩部の一部、ニークラッシャーを赤に、そして機体の各部分を白く塗装した特徴的なカラーリングをしている。また肩部のラウンデルには赤いツバメがあしらわれ、隊を象徴するエンブレムとなっていた。

 その内の1機が、未だ動けず立ち尽くす彼の方向を向いた。

 

『――シュパッツ隊の生き残りだな?』

「――え、あ……はい」

『――ここは我々スワロー隊が引き継ぐ。貴様は生存者を回収し撤退しろ』

「――あのスワロー隊……!? で、ですが……」

『――貴様の機体では我々の足手まといだ。さっさと行け』

「――……りょ、了解」

 

 彼はそう言われると大人しく引き下がり、生存者の捜索と回収を始めた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 生存者を回収し、噴射跳躍(ブーストジャンプ)で戦域を離脱していくF-5G(トーネードIDS)を網膜投影に映しながら、スワロー隊の1番機であるスワロー1――デトレフ・フレッジャーは静かに息を吐いた。

 周囲に友軍はいない。今回の間引き作戦では、リヨンハイヴからBETA群を誘引し、その戦力を可能な限り削ぐことが目的だ。ただしそれはハイヴから直接出てくるBETAに限った話であり、攻勢正面ではないこの戦域(エリア)はシュパッツ隊のような二線級の戦術機甲部隊しか配置されず、砲兵陣地からの支援もないほど戦術的な重要度としては低かった。

 しかしながら、今回は何らかの理由でハイヴ間を移動していたBETA群と遭遇するという事態に陥ってしまった。運悪くこの場を防衛していたのが二線級部隊だったということもあり、結果的にこのような事態を招いてしまったのである。彼らスワロー隊が救援として駆けつけなければ、この防衛線は容易に突破されていたであろうということは火を見るよりも明らかであった。

 

(ここを抜けられれば光線級吶喊(レーザーヤークト)を終えた部隊や後方陣地が危うい……。何としてもここで食い止めなければ)

 

 デトレフはCP(コマンドポスト)にいる戦域管制官が声という形で渡してくる情報に耳を傾ける。こちらに向かってきているのは連隊規模のBETA群、主力は要撃(グラップラー)級と戦車(タンク)級であり、一部突撃(デストロイヤー)級が混じっているという。光線(レーザー)級が確認されていないという事実は安心材料ではあるものの、やはり油断はできない。

 

「――スワロー1より各機」

 

 デトレフは軽く息を吸うと隊員に通信を開く。通信画面の先にいる隊員たちの顔は一様に落ち着き払い、その眼の奥には余裕が見てとれた。

 

「――BETA狩りだ」

 

 デトレフは言葉を紡ぐ。我々はBETAに対し絶対的強者であると。BETAという存在は、ただ自分たちに蹂躙されるだけのものであると。

 その言葉を聞く彼らも理解している。彼らの身体、精神、技術、そして戦術機は、BETAなどという下等な生命体とは次元が違うということを。

 

「――全て潰すぞ」

『『『――了解!!』』』

 

 彼らの返事が言うが早いか、4機のEF-2000の跳躍(ジャンプ)ユニットに炎が点り、圧倒的な推力が噴射口より生み出される。その力は18m級の戦術機の身体を浮遊させ、彼らを高度という3次元空間に送り出した。

 そんな彼らの眼窩に映るは、地を埋め尽くさんとばかりに迫りくる異形の怪物。その数は1000や2000ではきかない。だが彼らは臆さない。彼らには欧州を必ずや奪還するという信念があり、戦術機乗りとしての誇りがあるからだ。

 

「――我々の前に立つのなら、生きて帰れると思うな」

 

 その言葉と共に、4機のEF-2000はBETAの群れの中へと突っ込んでいった。

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